令和の米騒動の現在
令和の米騒動は続いているが、表面的には危機的ではない。スーパーでは、26年度の新米が25年度の古米より安く並ぶ逆転が起きている。5キロの平均店頭価格は、2026年1月初旬の4416円をピークに、9月中旬には2934円まで落ちた。6週連続の下落である。
昨年、棚から米が消えた記憶は新しいのに、産地の倉庫では「もう新米が入らない」との声が出ている。現下のコメ余りを「昨年の買いだめ」や「もともと安いコメ」で片づけるらる事態ではなさそうだ。
空棚と在庫過剰は別の現象
2024年6月末の民間在庫は156万トン前後まで落ち、比較可能な統計で最低水準だった。猛暑の後遺症、インバウンド、買い急ぎが重なり、店頭は制限販売になった。
昨年夏の状況は、確かに米がないという騒動の火種だったが、2026年6月末の民間在庫は243万トンである。適正とされる180万〜200万トンを大きく超え、近年では最高水準となっている。さて、増えた中身だが、当然、集荷と卸の倉庫である。
数字の分岐点ははっきりしている。2025年産は約747万トンと、前年比ほぼ1割増の豊作だった。政府は備蓄米を約60万トン規模で放出し、備蓄そのものは適正の100万トンに対し30万トン台まで減少できる。が、需要は683万トンにとどまり、農水省が見込んだ697万〜711万トンから最大30万トン近く下振れした。高くて買わなくなった消費が、放出米と豊作米の行き先を奪ったのである。
4000円超の価格は何だったか
騒動前の5キロ2000円前後を「本来の値段」と呼ぶ向きはある。長年の生産調整が、暴落と高騰の両方を抑え込んできたからだ。
だが2025年産が出回っても価格は下がらず、年初まで4000円台が続いた。相対取引は玄米60キロで3万円超の世界が残り、店頭だけが後から落ちる。高知や愛媛の早期米概算金は前年比3割から4割安で提示され、新潟の一般コシヒカリも1万円台後半まで下がった。店頭がまだ2900円台なのに、産地ではすでに手取りが削れている。
この騒動で輸入も穴を開けた。国産高を見て枠内外の米が増え、特売の棚は国産古米と新米と輸入米が混在する。卸は高値仕入れの25年度を処分しないと倉庫が回らない。安値が安値を呼ぶのは、底値体質の復活ではない。遅れて崩れる在庫の値段である。
値崩れの先にある次の品薄
帝国データバンクによれば、2026年1月から8月に廃業や倒産で退いたコメ農家は全国32件。数としては多くない。だが高齢化とコスト高の上に、概算金の急落と在庫過剰が乗っている。過去に在庫が220万トン前後まで膨らんだ年は、相対価格が60キロ1万2000円前後まで沈んだ。肥料も燃料も高いいま、その水準は再生産の下限を割りかねない。
政府は9月、放出した備蓄のうち21万トンの買い戻しに動いた。現行方式が始まった2011年度以降で初めてである。価格の下支えと備蓄の回復が名目だが、備蓄の中身には古い年産も残る。気候リスクは消えていない。離農で作付けが減れば、次の猛暑は2024年より速く棚を空ける。
買いだめの話はわかりやすい。倉庫に入らない新米の話は、政策の振幅そのものである。不足を恐れて積み増し、余りを恐れて値段が折れ、折れた値段が作り手を減らす。この往復を止めなければ、令和の米騒動は例外ではなく、次の品薄の前史になる。
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