国勢調査の水増しは富山市だけの話ではないだろう
2025年国勢調査で、富山市は速報値を40万2133人と出した。確定値は39万9197人で、2936人減った。総務省は統計法違反の疑いで、当時の市職員を氏名不詳のまま富山県警に告発した。省として同法での告発は初めてである。
中身は単純である。調査員が現地で「住んでいない」と外した世帯を、市の集計で根拠なく戻し、調査票を作り直して人口に足した。対象は2000件を超える。複数の職員が関与した。処理時期は2025年12月から2026年1月の市側集計である。
市長はすでに「組織的に間違ったことをしていた」と認めている。「組織的」という言葉が問題の深刻さを響かせる。理由として内部から上がった説明は、住民基本台帳との開きを縮めるため、というものであり、40万人を割らないための水増しではない、と市長は否定した。しかしその数字はちょうど大台の前後で動いており、交付税の算定基礎でもあることが、闇の深さを暗示する。
そもそも、単独の職員が勝手に2000件超を処理できる作業ではない。市の集計という正規の工程の中で、調査員の判断を覆している。これを「組織的」と呼ぶ以上、指示、申し合わせ、課内の方針、これまでのやり方のいずれかがあったと見るほかない。指示も会議も方針もなく組織的、という説明は成り立たない。
市長が指示の有無を捜査に委ねたのは、その点を認めたくないからであろうが、言葉の選び方自体が、個人の逸脱では済まないことを示している。
慣例だったと見るべき理由
これは、慣例だったのではないだろうか。件数、方法、動機が一致している。現地で空とされた世帯を台帳側に寄せて戻す作業は、その場の思いつきではなく、差を埋める実務として繰り返されたと考えるのが自然である。報道機関には、空室アパートを居住ありと改ざんしていることは前回2020年調査でも同様だった、という告発も届いている。市長は前回分を否定したが、今回と同じ型の処理を否定する材料は出ていない。
国勢調査と住民基本台帳は、ずれるものだ。若い世代は転居しても住民票を動かさないことが多く、国勢調査の方が少なく出やすい。担当課から見れば、台帳より少ない数字は「足りない」ように映る。その差を補記で埋める運用が固定すれば、調査員が外した分まで戻すところまで行く。富山市で起きたのは、その慣例が規模として露出したものであろう。
他の市町村でも同じ穴がある
これは端的に言えば、組織犯罪である。税の収奪に関わるからだ。人口は交付税に直結する。大きく出れば自治体に得がある。未回答世帯は聞き取りのあと台帳で埋める仕組みになっており、現地確認を省けば水増しと同じ結果になる。2024年には、東京23区と政令市の相当数が近隣聞き取りを飛ばして台帳転記に進んでいたと報じられた。手引き違反は富山市の専売ではない。
過去に刑事事件になった例も、閾値を意識した自治体である。1970年の北海道羽幌町は約5900人を水増しした。2010年の愛知県東浦町は市制に必要な5万人を作るため調査票を足し、副町長らが有罪になった。やり方は今回と同じで、居住確認をせず台帳を見て書いた。
この差を埋めたい誘因と、台帳で補える制度が全国共通である以上、富山市だけが特殊なわけがない。発覚したのは、速報と確定の差が大きすぎて総務省が踏み込んだからである。同じ処理をして数字のずれが小さければ、外から見えない。
国勢調査は「今どこに住んでいるか」を取る調査である。住民基本台帳は「どこに登録しているか」の台帳である。後者で前者を上書きすれば、空室が人口になる。富山市はそれを組織の作業としてやった。他の自治体が同じ補記をどこまで日常にしているかは、今回の告発を機に点検しなければ分からないが、仕組みがある以上、富山市を例外扱いするのは誤りであろう。
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