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2026.10.01

ロシアで放映されるテレビドラマ『731部隊』

2025年9月に公開された中国映画『731』(海外題 Evil Unbound)があったが、ロシアでも同じ部隊名を冠したドラマが作られ、2026年10月8日から国内の配信サービスで公開される。タイトルは『731部隊』(Отряд 731)。全8話、各話約50分の歴史ドラマで、配信先は KION と PREMIER である。制作国はロシア、制作は映画会社 Triix Media、支援はインターネット発展研究所(ANO IRI)と大統領直属の国立歴史記憶センターで、「時効なし」プロジェクトの一環として位置づけられている。監督はアルメナク・ナジキヤン。キャストには日本人俳優の木下順介、中国人俳優のワン・ビン、セルビア人俳優のペタル・ゼカヴィツァらが名を連ねる。木下は、1965年10月12日、香川県高松市生まれ。2010年からモスクワ在住で、ロシア映画やドラマに日本人役で出続けている。

中国映画と名前が似ているため混同されやすいが、中身は別物である。中国側は731部隊の人体実験そのものを描いた劇場映画で、2025年9月18日前後に中国、オーストラリア、ニュージーランドで公開され、その後米国とカナダでも限定公開された。公開日は1931年の満州事変(柳条湖事件)の記念日に合わせてある。ロシアのこのドラマは、1945年の満州と、あろうことか2022年のウクライナを往復させ、過去の戦争犯罪を現在の戦争の物語に接続する配信ドラマである。海外の放送局や劇場公開の予定は発表されていない。日本で普通に視聴できる作品ではない。

公式が置いている筋

制作側の説明では「実話に基づく」とされている。国内の情報機関が生物兵器と化学兵器の脅威と闘う物語だとされ、二つの時代を舞台にする。1945年、ソ連の情報機関は731部隊の存在と、日本が対ソ生物兵器の使用を準備していることを知り、対抗作戦を始める、というのだ。現代パートでは、2022年にロシア特殊部隊がウクライナにあるアメリカの研究所を制圧し、そこではスラブ系住民を選択的に殺害できる遺伝子兵器が開発されていた、という設定が置かれる。調査の結果、その開発は731部隊の記録に基づいていた、という筋である。PREMIER の作品紹介はさらに具体的で、標的をロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人としている。

監督はロシアの報道に対し、信憑性のため歴史コンサルタントと協力したと述べる一方、実写シリーズであるためドラマ上の課題にフィクションを入れたとも認めている。外国人俳優との仕事は初めてで、現場ではすぐに打ち解けた、という制作話も添えられている。歴史考証を前面に出しつつ、物語としての脚色を自ら認めている点は、後で触れる受け取り方に関係する。

史実として残る部分

当然ながら、731部隊そのものは創作ではない。正式には、関東軍防疫給水部で、ハルビン郊外の平房を拠点に、捕虜への人体実験と細菌戦を行った。対象には中国人、朝鮮人、ソ連人(ロシア人を含む)がおり、ペスト、コレラ、炭疽、凍傷、生体解剖などが記録されている。施設内の死者は少なくとも数千人とされ、中国本土での細菌戦による被害はそれを大きく上回るとの推計もある。1945年8月、ソ連軍の満州進攻の直前に日本側は施設を破壊し、幹部の多くは本土へ撤退した。ソ連は一部の要員を捕らえ、1949年のハバロフスク裁判で裁いている。

戦後、アメリカが石井四郎らを極東国際軍事裁判で訴追せず、実験データと引き換えに免責したことも、機密解除文書で確認できる。1947年、フォート・デトリックの調査官エドウィン・ヒルは、人体実験への良心の呵責ゆえに自国では得られない情報だと書き、支払いはその価値に比べればわずかな額だったと記した。1988年のロサンゼルス・タイムズ報道では、フォート・デトリックの広報が、情報をソ連の手に渡さないための共同決定だったと認めている。マッカーサー司令部の諜報責任者チャールズ・ウィロビーのメモも、情報を諜報経路に留めることが事実上の免責だと述べている。

とはいえ、ロシア側の紹介文にある「部隊とその実験結果の支配権を米軍が完全に掌握した」は正確ではない。施設は日本側が破壊し、現地はソ連が占領した。アメリカが得たのは日本での尋問と提出資料であり、部隊そのものを接収したわけではない。石井が戦後フォート・デトリックに常駐した、という流布話も確認されていない。彼は日本で1959年に死去している。

現代パートは別の話である

さて、困惑するのは問題は、1945年ではなく、2022年との接続にある。ウクライナの研究所でスラブ人だけを殺す遺伝子兵器が見つかった、という筋は、2022年春からロシア国防省が繰り返してきた主張そのものであり、当然独立した検証はない。

実在するのは、ソ連崩壊後の病原体管理と感染症監視のための公衆衛生施設である。米国防総省は、2005年以降の生物脅威削減プログラムで、ウクライナの約46の検査・診断施設に約2億ドルを投じたと説明している。目的は炭疽菌などの保管強化と診断能力であり、生物兵器の開発ではない。米国、ウクライナ、国連はこの兵器計画の存在を否定している。

民族選択型の生物兵器についても、当然だが、科学的な裏付けがない。ありえようもないが。2022年、モスクワ大学などのロシア人生物学者は公開書簡で、この主張を明白な虚偽であり、進化的に不可能だと批判したものである。ヒトの遺伝的差は、民族単位で兵器の標的にできるほど大きくない。「スラブ人のDNA」という区分自体が科学として成立しない。オーストラリアの研究者オリバー・ジョーンズも、DNA検査で分かるのはおおよその地域的祖先であって国籍や民族ではない、と述べている。ロシア側が証拠として出した菌株リストにも、通常の疫学実験室にある菌株が含まれ、一部はロシア企業から購入されたものだった。

つまり、このドラマは、文書化された戦争犯罪を入り口にしつつ、侵攻の正当化に使われてきた未検証の物語を「実話」の枠に入れているトンデモ作品である。

なぜ今、この題名なのか

支援元を見れば、娯楽としての偶発的な企画とは言いにくい。ANO IRI はロシアのインターネット上のコンテンツ政策に関わる機関であり、国立歴史記憶センターは大統領直属である。「時効なし」は、大祖国戦争の被害と加害の記憶を国家の物語として固定するプロジェクトで、ナチス犯罪の時効否定を旗印にしながら、対象はソ連に対する加害全般へ広がっている。731部隊は、その枠に入れやすい題材である。被害者が中国人、朝鮮人、ソ連人に及び、加害者が日本であり、戦後の免責にアメリカが関与した。三つの相手を一つの物語に並べられる。

同様に、中国映画『731』も国家的な記憶政治と無縁ではなかった。公開日を満州事変に合わせ、興行成績を愛国的な記録として報じるやり方は、被害の記憶を現在の国家物語に接続している。ただし描いている中心は、施設内の実験と細菌戦という、史料と生存者証言が積み上がった過去である。ロシアのシリーズはそこから一歩踏み出し、2022年の戦場で同じ脅威が続いている、と観客に信じさせる構造になっている。題名の共通性は、史実の共有ではなく、記憶の利用法の違いを隠す。

日本人俳優を起用し、歴史コンサルタントと協力したと強調するのも、同じ効果を狙っている。画面に日本語と中国語とセルビア語が混ざれば、国内向けの政治ドラマではなく国際的な歴史劇に見える。監督の「現場ではすぐに打ち解けた」という発言は制作の美談だが、作品の政治的機能とは別である。

日本としてどう受け止めるか

日本で配信されない以上、視聴者の多くが本編を見ることはない。日本では話題にもならないのではないか。だから、それでも無視してよい、ということには、まあ、ならない。題名だけが国境を越えて回り、紹介文の一文が引用される。そのとき必要なのは、作品を見ていないことへの弁解ではなく、何が史実で何が接続なのかを分けておくことである。

当然ながら、日本人としては、731部隊の事実から目をそらす材料にしてはならない。国内の教科書や映像作品がこの部隊を十分に扱ってこなかったことは、海外のドラマや映画が「日本が隠している話」として流通する余地を広げてきた。中国映画が興行的に成功し、ロシアが同じ名前で現代戦と結びつけるのは、その空白の上に乗っている。否認や矮小化は、プロパガンダ側の「日本は今も向き合っていない」という図式を補強するだけである。ハバロフスク裁判の限界、アメリカの免責取引、日本側の戦後処理の不十分さは、相手が誰であれ残る事実である。まあ、彼らは森村誠一の『悪魔の飽食』は読んでもいないだろう。

改めて述べるまでもないが、731部隊の被害者は中国人が最も多く、朝鮮人、ソ連人、一部の連合国捕虜も含まれる。その記憶は、どの国家の情報機関の所有物でもない。中国が自国の被害として映画にし、ロシアが自国の情報機関の英雄譚に書き換えるのは、基本的にはそれぞれの国内政治の話である。日本側が取るべき態度は、どちらの物語の脇役になることでも、両方を同じ単なる「反日作品」として片づけることでもない。実験と細菌戦の事実を確認し、免責の取引をアメリカとの戦後関係の暗部として置き、民族兵器の話は根拠のない接続だと分けなくてはならない。特に、1945年の犯罪が実在することと、2022年に民族選択兵器が開発されていたことは、いくらなんでも話がつながっていない。

 

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