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2026.08.01

セウタ事件

2026年7月30日から31日にかけて、北アフリカにあるスペインの小さな飛び地に、その人口の七割に当たる人々が一気に押し寄せた。このスペイン領セウタで起きた出来事は、それだけでも異様な光景だった。約八万四千人の街に、わずか二日で五万人から六万人が流れ込んだのである。ありえない、としか思えない。被害も出た。泳いだり防波堤を回ったりして越境した人々のうち、少なくとも六十七人が命を落とした。現地は大混乱に陥り、スペイン政府は軍を派遣した。ところが驚くべきことに、大半の四万八千人以上が四十八時間以内に自らモロッコへ引き返した。「ここにいても何もない。死ぬ人が出ている。もう来ないで」とでもいうような人々のそんな声が、報道を通じて伝わった。

セウタという町

セウタはモロッコ本土に完全に囲まれたスペインの飛び地である。十五世紀から続く歴史を持ち、今もスペインの自治都市であり、よって北アフリカにあるEUの領土でもある。隣にはもう一つスペインの飛び地メリリャがあり、この二つがヨーロッパとアフリカの唯一の陸続きの国境を形成している。

事態は、しかし始めてというわけでもなかった。似たような大規模流入は2021年にも同じセウタで起きた。当時は約一万人規模だった。今回はその五倍近くに達し、しかも極めて短期間に集中した点が際立っている。

なぜそんなことが

直接のきっかけは、2026年6月29日のスペイン最高裁の判決だった。スペイン最高裁判所・行政訴訟部第5部(Sala de lo Contencioso-Administrativo, Sección Quinta)は、海を泳いでセウタやメリリャに入ろうとする移民に対して「即時送還(devolución en caliente / rechazo en frontera)」を適用できない、と判示した。すると、「海を泳いで来た移民はすぐに送還できない」とする内容が、SNSや人身売買組織を通じて拡散され、「今なら簡単に入れる」という誤解を生んだのである。モロッコ側の警備が一時的に緩んでいたようだ。が、背景には、モロッコの若者失業や将来への不安があった。

当然ながら、モロッコの若者がセウタに入ったところで、移民として良いことはほとんどない。あるわけもない。狭い街はすぐにキャパシティを超え、食べ物も寝る場所も足りず、仕事もない。本土への移動も厳しく制限されている。結局、ほとんどの人が「来た意味がなかった」と判断して戻った。

それで終わったらいいではないかと言えるのか。いくつかの点で看過できない問題を浮き彫りにしている。まず、飛び地であるがゆえの構造的な弱点だ。突然の大量流入に極めて弱く、警備コストは莫大で、毎回政治問題化する。

それと大量に押しかけなくても、これまでにも移民はいる。そして、悲劇がまっている。命を賭けて来ても得られるものは少なく、むしろ危険と失望だけが残る。人身売買組織だけが得をする構図が繰り返されている。

そもそもこうした移民はヨーロッパ全体を揺るがす影響もある。今回の事態に泡を吹いたイタリアはすぐにシェンゲン協定の一時停止を決め、フランスも国境を強化した。

飛び地なんてやめれば?

「そもそもスペインはこんなところに飛び地なんて持たなければいい」という声は自然に出てくる。だが五百年以上の歴史と、そこに住む住民の意思がある。簡単に返還できる問題ではない。セウタ危機は当面の緊急事態としては収束した。しかし飛び地という地理的矛盾、移民を煽る情報の拡散、送り出し国の社会不安といった根本的な課題は、何も解決していない。問題構造は異なるがEUの頭痛の種の「飛び地」は北側にもある。

 

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