株価7万円台でも暮らしは楽にならない
2026年6月16日、日経平均株価が取引時間中に史上初めて7万円台を付けた。画期的な出来事であることは間違いない。株高を「経済の好調を示す成果」と評価する声は多い。が、一方で、多くの人が「自分の生活は特に変わっていない」と感じているのも事実だ。このギャップはどこから来るのか。株価の上昇が家計に届きにくい構造があるのだ。
株高を押し上げているのは誰か
株価が上がる背景には、買い手がいるからだが、それが誰であるかが大きな意味を持つ。東京証券取引所のデータによると、日本株の外国人投資家による保有比率は約32%前後で、調査開始以来の高水準にある。売買代金で見ても、海外勢の取引シェアは6〜7割を占める週も珍しくない。つまり、海外勢の活動である。
他方、日本国内の個人投資家や信託銀行(年金資金など)は、全体として売り越しになる傾向が続いている。つまり、株価を押し上げている主な原動力は「海外から入ってくる資金」なのだ。そして、だから株価が上がれば、まずその利益は外国人投資家に還元される形になる。日本国内にはそこは還元されない。
加えて、日経平均を構成する企業の多くがグローバル企業である点も重要だ。半導体関連や自動車メーカーなど、売上高の半分以上を海外市場に依存する企業が指数の上昇を主導しやすい。これらの企業が好業績を上げると株価は上がりやすいが、その利益がすぐに国内の賃金や消費に波及するとは限らない。
企業利益が家計に届きにくい仕組み
他にも、企業が儲かっても、日本人の家計に直接還元されにくい理由は複数ある。まず、グローバル化の影響がある。海外売上比率が高い企業の場合、利益は現地での再投資や海外子会社への配分に回ることが多い。国内の従業員給与や設備投資に充てられる割合が相対的に小さくなりやすい。
為替の影響も大きい。円安が進むと、海外で稼いだ利益を円に換算したときに企業決算が良く見える。これは株価を押し上げる要因になる。一方で、家計にとっては輸入品(エネルギー、食料品など)の価格上昇という形で生活費を圧迫する。同じ円安でも、企業と家計で効果が逆になる。
日本企業特有の利益配分も影響する。法人企業統計などを見ると、企業は利益の一定割合を内部留保として社内に残す傾向が続いている。これは設備投資や将来の成長資金として使われるが、即座に賃金引き上げや株主還元(特に個人株主)につながる割合は限定的だ。結果として、株価が上がっても「給料が上がった実感」が薄れやすい。
とはいえ、最近は新NISAの普及により、家計の株式・投資信託保有が増えている。家計金融資産全体も過去最高を更新しており、株高の恩恵を直接受けられる層は以前より広がっている。つまり、依然として投資をしていない世帯や、資産額が小さい世帯にとっては株価上昇の恩恵が限定的なのである。かつてのバブルでも同じだったのだが。
注目すべきは株価ではないかも
株価は企業価値や市場の期待を反映する重要な指標だが、国民生活の豊かさを直接測るものではない。より重要なのは、実質賃金の動向である。つまり、日本人の生活にお金が回ってこないとどうしようもない。
では、実質賃金はどうなのか。物価上昇を考慮してみると、2025年まで数年連続でマイナス圏にあったが、2026年に入って小幅ながらプラスに転じ始めている。この動きが一時的で終わるか、持続するかが生活実感に直結する。たぶん、一時的に終わりそうだが。
雇用環境と消費の強さも日本人の生活に密着する。失業率の低さや有効求人倍率の高さはプラス材料だが、賃金上昇が物価上昇を安定的に上回るかどうか、消費が力強く回復するかどうかが鍵になる。ただ現在、募集賃金はほぼ最低賃金になりつつある。実際の募集賃金(求人票に書かれる初任給や時給)が最低賃金近辺に張り付いているケースが特に中小企業・サービス業で目立つ。構造的な人手不足があっても、「賃金全体の押し上げ」に十分つながっていないのが現状である。
日本人の生活としてそんなに先行きが明るいわけでもないが、株高自体を否定する必要もない。企業収益の改善は将来的に税収増や雇用創出につながる可能性があり、NISAを通じた家計の資産形成も長期的にプラスに働く。
それでも、株価の数字だけを「経済の成功」とみなすのは、国民の実感と乖離しやすい。政策や企業が本当に目指すべきは、株価ではなく「働いて得る収入が物価を上回り、安心して暮らせる」状態の実現なのは間違いない。株価7万円台は確かに歴史的な水準だが、それが多くの人にとって「暮らしが楽になった」と実感できる日が来るかどうかは、まだこれからの話である。たぶん、まだまだこれからの話だろう。市場の数字と生活の数字を、別々の視点で冷静に見ていく必要がある、たぶん、そう。
| 固定リンク




