バルト・ドローン危機とEUの結束
5月21日、ラトビア東部で正体不明の無人航空機(ドローン)が領空に侵入した。この事件は、バルト3国を揺るがす一連の「空の脅威」の最新事例となった。
ベラルーシ方面から進入したとみられるドローンに対し、空襲警報が発令され、NATO戦闘機が緊急発進。住民は屋内避難を余儀なくされ、列車運行停止や学校の児童待機措置まで取られた。人的被害はなかったものの、5月に入ってからの連続した警報(ラトビア5月7日・21日、リトアニア・エストニアも同週に相次ぐ)は、ウクライナ戦争の「波及効果」として欧州全体に警鐘を鳴らしている。
ロシアの電子戦によるコース逸脱が主因とされつつ、ロシア・ベラルーシ側は「バルト諸国がウクライナの攻撃拠点」との主張を強め、緊張は高まる。
欧州委員会の動向
EUのトップであるウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長の対応がが注目される。事件直前の5月20日、彼女はX(旧Twitter)で声明を発表した。
「ロシアによる我々のバルト諸国に対する公然の脅威は、完全に容認できない。 疑いの余地はない。一つの加盟国への脅威は、EU全体への脅威である。 ロシアとベラルーシは、東部国境の人々の生命と安全を脅かすドローン問題の直接の責任を負う。 欧州は結束と力で対応する。我々は、強固な集団防衛とあらゆるレベルでの準備態勢で、東部国境の安全保障を今後も強化し続ける。」
この声明は、ロシア国連大使が「バルト諸国からウクライナのドローン攻撃が発射される可能性」を示唆した直後に出されたものであり、主観的な判断と感情に彩られている。フォン・デア・ライエンは、単なる非難にとどまらず、「一国への脅威=EU全体への脅威」というEU基本原則を明確に打ち出し、責任の所在をロシア・ベラルーシに突きつけた。バルトMEP15人からの要請に応じた形だが、タイミングは極めて的確だった。
そして、事件からわずか3日後の、さらなる「その後」の動きが明らかになった。Politicoが報じたところによると、フォン・デア・ライエンは5月26日(火曜日)にリトアニアを訪問し、バルト3国首脳と直接会談する予定である。目的は「ドローン危機への対応調整と支援」。市民が地下シェルターに避難する事態が続く中、EUレベルでの情報共有、監視強化、防衛協力を具体的に進める場となる。
これは孤立した対応ではない。フォン・デア・ライエンはこれまでも「ドローンの壁(Drone Wall)」構想を提唱し、EU東部国境全体の対ドローン防衛網構築を推進してきた。今回の危機は、その加速器となっている。ラトビアではすでに国防相辞任・首相辞任という政治危機を招いたが、EU全体としては「結束」が最大の武器だというメッセージを、委員長自らが前面に押し出している。
現在、地上での捜索は続いているが、ドローンの正体や墜落地点は依然不明。ロシアのハイブリッド戦術がエスカレートする中、フォン・デア・ライエンのリトアニア訪問は、単なる視察ではなく、EUが「東部国境を守るのは自らの生存を守ること」と本気で位置づけている証左だろう。バルトの空は今、欧州全体の安全保障の最前線となっている。
| 固定リンク




