ハマスによる性的暴力
2026年5月12日、イスラエル民間委員会(Civil Commission on October 7 Crimes by Hamas Against Women and Children)が300ページに及ぶ報告書「Silenced No More: Sexual Terror Unveiled」を公表した。報告書は、2023年10月7日のハマスらによる攻撃において、性的暴力が「系統的、広範かつ不可欠な要素」であったと結論づけている。
430件の生存者・目撃者インタビュー、1万枚を超える写真・動画、公式記録を基に、ノヴァ音楽フェスティバル、キブツ、軍事基地での集団強姦、性的拷問、遺体への陵辱、家族を巻き込んだ強制性行為などを詳細に記述する。被害は女性に限らず男性にも及び、人質拘束中にも長期にわたって続けられた。これらは「痛みと苦痛を最大化する」意図的な戦略であったという。
この報告書は単なるイスラエル側の報告だがイスラエル政府のプロパガンダではない。まず、委員会自体が非政府組織であり、イスラエル政府の公式機関ではない。
創設者のコハブ・エルカヤム=レヴィ博士は、攻撃直後から独立して証拠収集に取り組み、2年間にわたって事実検証を重ねた。初期に一部のイスラエル当局者が流した過剰な情報が後に訂正された教訓を踏まえ、報告書は厳格にクロスチェックを施している。イスラエル治安当局の尋問記録は一切使用せず、攻撃者自身が撮影した動画や生存者証言、国際的な法医学的知見を優先した。
また、国連の特別代表報告(2024年)や国際刑事裁判所(ICC)検察官の判断でも、「合理的な根拠」として10月7日の性的暴力(強姦・集団強姦を含む)が認定されている。
民間委員会の成果はこれらを補完・拡大するものであり、国際法上「戦争犯罪、人道に対する犯罪、ジェノサイド行為」に該当すると明記する。証拠は安全なアーカイブに保管され、将来の訴追に資するよう設計されている。
プロパガンダとは、事実を歪曲・捏造して宣伝するものであるが、本報告書はむしろ「否定され、抹消され、忘れ去られる」被害者の苦痛を歴史に刻むための記録である。初動の混乱で一部証拠が失われたにもかかわらず、残された膨大な一次資料が物語る事実は動かさない。
当のハマスはどう言っているか
ハマスはこれまで一貫して、10月7日の攻撃および人質拘束中における性的暴力・ジェンダー暴力の存在を全面否定してきた。報告書公表後も、公式声明で「イスラエル側の捏造」「プロパガンダ」として退けている。
ハマスは自らを「抵抗運動」と位置づけ、イスラエル占領に対する正当防衛の闘いであると主張し、性的暴力など「イスラム教義に反する行為」など行っていないと繰り返す。実際、攻撃直後からハマス指導部は「民間人を標的にしていない」「女性や子どもへの暴行は捏造」との立場を取ってきた。
しかし、この否定は現実の証拠と正面から衝突する。攻撃者自身が撮影・拡散した動画には、裸にされた遺体、拘束された被害者、性的行為の最中に射殺される様子が記録されている。生存者証言も複数存在し、UN報告書もこれを「合理的な根拠あり」と認定している。
ハマスの否定は、国際世論へのアピールと自らの正当性を守るための政治的戦略であると言わざるを得ない。過去にもハマスは自らの攻撃による民間人被害を「イスラエル側の自作自演」と主張してきたが、客観的事実がこれを覆している。
この暴力をどう受けとめたらよいのか
本報告書をどう受け止めるべきか。第一に、事実として直視することである。性的暴力は戦争において古来から用いられてきた「恐怖の武器」であり、ハマスがこれを「意図的に最大化」した事実は、単なる偶発的暴走ではなく、計画的テロリズムの性格を浮き彫りにする。
被害者はすでに死亡した者も多く、生存者も深刻なトラウマを抱えている。報告書が強調するのは「沈黙を破る」ことの重要性であり、被害者の尊厳を回復し、歴史から消されることを防ぐ試みである。
第二に、バランスの取れた視点を持つことである。ガザでのパレスチナ人死者(ハマス運営保健省発表で7万2742人、UNが信頼する数字)は深刻であり、イスラエル軍の作戦がもたらした人道的危機は批判されるべきである。しかし、一方の加害事実を否定し、他方の被害を強調する二重基準は、真実の追求を阻害する。性的暴力の存在を「イスラエル寄り」と片付ける言説は、被害者を見殺しにする二次加害にほかならない。
国際社会は、両当事者の犯罪を等しく調査・追及する姿勢を貫くべきである。民間委員会の報告は、将来の国際法廷での証拠となり得る。真の平和は、加害の事実を直視し、加害者を裁くところから始まる。
イランの戦争との関わりはあるか
イランとの直接的な関わりについて、報告書自体は触れていない。10月7日の攻撃はハマスと他のパレスチナ武装組織(イスラム聖戦など)が主導・調整したものであり、イラン革命防衛軍の直接指揮を示す決定的証拠は現時点で公表されていない。しかし、イランが長年ハマスを資金・武器・訓練で支援してきた「抵抗の枢軸」の一翼である事実は周知である。イランはハマスを「代理勢力」として位置づけ、イスラエルを弱体化させる戦略の一環として間接的に関与してきた可能性は否定できない。
とはいえ、性的暴力の「系統的」実行をイランが指示した証拠はなく、この暴力はハマス独自の戦術として理解されるべきであり、イランとの「戦争」と直結させるべきではないだろう。とはいえ、10月7日攻撃がガザ戦争を誘発し、それがレバノン(ヒズボラ)、イエメン(フーシ派)、シリアなどイラン支援勢力を巻き込んだ地域全体の衝突に拡大した文脈では、無関係とは言えない。
イランはハマス攻撃を「勝利」と称賛しつつ、性的暴力については沈黙を保っている。この沈黙自体が、代理勢力の蛮行に対する道義的責任を回避する姿勢を示していると言えよう。
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