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2026.05.16

かつての紅衛兵が中国中枢になった

今から60年前、1966年5月16日。中国共産党中央政治局拡大会議で「五・一六通知」が採択された。私は9歳だった。それから私の思春期時代、中国では、文化大革命と呼ばれる伝統文化の破壊が続いていた。
最初は、中国建国の父・毛沢東が、党内実権を握る劉少奇・鄧小平ら「修正主義者」を排除し、自身の権力奪還を狙って発動した「無産階級文化大革命(文革)」の幕開けを告げる文書だった。

通知は「ブルジョア反動思想」の一掃を呼びかけ、間もなく全国の若者たちが「紅衛兵」として立ち上がる、といえば美しいが、ようするにまともな教育も受けていない子供たちだ。

毛沢東は天安門で百万単位の彼らを接見し、「造反有理」と鼓舞した。親や権威に反対することが正しいと煽ったのである。かくして、学校は閉鎖され、寺院・古書・文物は「四旧」(旧思想・旧文化・旧風俗・旧習慣)として破壊され、教師・知識人・幹部は「牛鬼蛇神」として批斗・迫害の対象となった。

紅衛兵運動は当初、毛の「革命」を支える熱狂的な力だったが、派閥抗争は武闘にエスカレートし、1968年頃には軍の介入で収拾されたものの、混乱は10年に及び、数百万人の非正常死や社会崩壊を招いた。

この運動の中心にいたのが、1950年代生まれ前後の「紅衛兵世代」である。彼らは当時10代半ばの学生・青年だった。正式な紅衛兵組織員でなくとも、周辺で活動した者を含め、文革期の青春を「革命」の名の下に過ごした。

運動終息後、多くの者が「上山下郷(知青)」として農村に送られ、過酷な労働と現実を学んだ。1980年代の改革開放で大学受験が再開され、ようやく教育機会を得た者もいたが、系統的な古典教育はほぼ欠落。代わりに毛沢東思想一色のイデオロギーが刷り込まれた。

2026年現在、この世代が中国の政治・社会権力の中枢を占めているのである。習近平国家主席(1953年生まれ)は文革開始時中学1年生で、正式紅衛兵ではなかったが、父親・習仲勲の失脚により「黒五類」として迫害を受け、7年間の農村下放を経験した。政治局常務委員や主要指導部もほぼ同世代。国有企業トップや地方幹部にもネットワークが広がる。産経新聞などが過去に指摘したように、「紅衛兵世代が今の中国を動かしている」との見方は、決して誇張ではない。

紅衛兵世代の権力掌握とその背景

彼らの台頭は、単なる世代交代ではない。文革後の鄧小平時代に「実務派」として生き残り、改革開放の波に乗って出世した者たちが、2010年代以降の習政権で頂点に立ったのである。

太子党(高級幹部子弟)のネットワークが強く、薄熙来のような積極的紅衛兵経験者も一時的に党内で影響力を発揮した。2026年の今、習政権は3期目を越え、世代交代の制度化が後退している。文革60周年を迎えた今年も、公式行事では触れられず、国内メディアは「記憶の希薄化」を進めるが、指導部のメンタリティには紅衛兵時代のDNAが色濃く残っている。そして、全体的に言えば伝統教養が薄い。習近平の自筆を見たことがあるだろうか。

この世代の共通体験は、教育の空白と暴力の記憶だ。学校教育が停止したため、儒教を含む伝統文化は「封建的残滓」として敵視された。彼ら自身が破壊の実行者だったため、無意識のうちに「伝統=不安定要因」という刷り込みが定着した。

一方で、農村下放で得た民衆との接触は、現実主義的なタフネスを生んだ。経済発展ではこのタフネスが改革開放の原動力となった側面もある。しかし、政治的には「ルールより権力」「イデオロギー優先」の体質が残り、柔軟性を欠く硬直した統治を招いている。

文革体験が刻んだ二重の遺産

文革の影響は二重性を持つ。一つは「伝統文化への断絶」である。習政権下で「中華優秀伝統文化」が大々的に喧伝される今も、それは本物の復興ではなく、党の正当性やナショナリズムのための選択的道具に過ぎない。歴史批判はタブーであり、毛沢東思想と矛盾する部分は排除される。

もう一つは、派閥闘争・裏切り・暴力の痛みから生まれた強迫観念的な「安定至上主義」だ。「二度とカオスは許さない」という執着が、監視国家、言論統制、党支配強化の原動力となっている。鄧小平時代に一時現実主義を学んだ世代だが、習時代に入り毛沢東的要素(個人権力集中、敵味方二元論、動員型統治)が再び鮮明化している。

BBCなど西側の2026年報道でも、文革60周年を機に「闘争哲学の残滓」が指摘されるが、中国国内では公式討論はほぼ封じられている。紅衛兵世代は、単なる「被害者」でも「加害者」でもない。彼らは毛の号令で動いた若者であり、同時にその犠牲者だった。その集団体験が、今日の中国を「強い党による安定」と「伝統の道具化」で支えつつ、脆さも抱え込んでいる。

60年を経て、歴史は繰り返さないが、その影は確実に現在の権力構造に刻まれている。文革を振り返ることは、現代中国の本質を理解する鍵だ。経済大国としての輝きと、政治的硬直性の裏側に、紅衛兵世代の荒廃した青春が静かに息づいている。

 

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