モームリ逮捕の「見せしめ」性と、社会罰の危うさ
退職代行サービス「モームリ」の社長夫妻が弁護士法違反の容疑で逮捕されたニュースが連日NHKで流されている。だが、なんともこれが薄気味悪い。
確かにこのニュースは、業界関係者や労働問題に詳しい人々の間で大きな波紋を呼んでいた。2025年10月の家宅捜索から3ヶ月以上経過した2026年2月の身柄逮捕というタイミングは、単なる法執行ではなく、業界全体への「見せしめ」として機能しているように見える。
このような社会罰的なアプローチは、法治主義の観点から好ましくない。なぜなら、それは恣意的な権力行使を助長し、グレーゾーンのビジネスを萎縮させる一方で、真の法解釈の進化を阻害するからである。
逮捕の過剰さと「見せしめ」の実態
事件の核心は、モームリが退職希望者を弁護士に紹介し、「賛助金」や「広告費」などの名目でキックバックを受け取っていた点にある。これが弁護士法72条(非弁周旋禁止)と27条(非弁提携禁止)に抵触した疑いである。運営者側は「弁護士が『別の名目ならOK』と提案したから大丈夫だと思った」と主張し、容疑を否認している。元従業員の証言で「違法だから外で言わないで」と口止めされていたことが強調されるが、これは業界の「あるあるスキーム」を認識した上での防衛策だった可能性が高い。実際、この名目偽装は退職代行業界で定番化しており、モームリが初めて思いついたものではない。
問題は逮捕の「過剰さ」にある。家宅捜索でメールや金銭記録などの証拠が揃っていたはずなのに、なぜ今さら身柄拘束なのか? 逃亡の恐れは低く(家族連れの経営者夫妻)、在宅起訴で十分対応可能だったはずだ。SNSでも「見せしめとしか思えない」「3ヶ月前のガサで終わってたのに、今逮捕?」という声が出てくるのも頷ける。これは江戸時代の公開処刑のように、最大手のモームリを「悪の親玉」として晒し上げ、他の業者に恐怖を植え付ける狙いが透けて見える。弁護士会側の「我慢の限界」が爆発した結果、業界のグレーゾーンを一気に締め付けるための象徴的事件として選ばれた感が強い。
社会罰としての弊害と、望ましい解決策
こうした「見せしめ」的な社会罰は、なぜ好ましくないのか? まず、不公平感が強い。「みんなやってるのに、なぜ最大手だけ?」という疑問は避けられない。もっとも、最大大手だから狙ったのだろうけど。
退職代行市場は2017年頃から急成長し、民間業者が弁護士提携を「安心の証」として売り文句にしていた。名目偽装キックバックは業界標準だったのに、過去の類似事例では注意喚起や家宅捜索止まりが多かった。モームリがメディア露出が多く、シェア7割を占めていたからこそ、狙い撃ちされた形だ。これでは、法の適用が恣意的になり、法治主義の基盤が揺らぐ。
社会的影響も好ましいとは言えない。退職代行は、ブラック企業からの逃げ道として多くの若者や労働者を救ってきたサービスだ。グレーゾーンを一掃するのは良いが、見せしめ逮捕は業界全体を萎縮させ、結果として弁護士直営や本物の労働組合型以外が壊滅する可能性が高い。これで本当に労働者の利益になるのか? むしろ、退職希望者が「交渉が必要なケース」で弁護士にアクセスしにくくなり、残業代請求や有給消化が難しくなる恐れがある。
運営者の認識レベルを考えると、この罰は過酷すぎるだろう。弁護士側から「紹介料は禁止だけど、別の名目なら3割相当を払える」と提案されたメールが存在する以上、運営者は「専門家の判断を信じた」だけかもしれない。口止めやインセンティブ指示は、違法性を認識した証拠として報じられるが、それは「弁護士の提案に乗った結果」に過ぎない。報道されているとこから伺えるのは、積極的な悪意ではなく、業界の幻想(「提携弁護士がいればセーフ」)にすがった末路である。それを「共謀の証拠」として身柄拘束するのは、江戸時代の「罪人晒し」に近い。
もちろん、モームリ逮捕は法的に妥当かもしれない。だが、NHKなどのその見せしめ報道は好ましくはない。社会罰は、恣意性を排除し、予防的な規制強化にシフトすべきである。業界のグレーゾーンを放置してきた当局や弁護士会の責任も問うべきで、逮捕劇ではなく、対話と法改正で解決を図るのが理想。退職代行のような「新しい労働支援」が萎縮しないよう、バランスの取れたアプローチが望まれる。
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