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2026.01.19

ゼレンスキーの思わせぶりな投稿が示す非対称戦の限界

ウクライナのゼレンスキー大統領が最近投稿したTelegramおよびXのメッセージは、表面上は簡潔で穏やかな内容に見える。が、実際には何を言っているのか非常にわかりにくいものであった。この投稿は、SBU(ウクライナ保安庁)の代理長官に就任したばかりのイェヴヘニー・フマーラから受け取った報告を基にまとめられたものであり、SBUがこれまでと変わらず国家と国民を守るために精力的に活動を続けていること、そしてゼレンスキーが新たにコンバット・オペレーションズ(戦闘作戦)を承認したこと、さらにSBU内部の組織変革が着実に進んでおり、それが国家全体の強化に繋がっていることを強調している。そして、最後にいつものように「Glory to Ukraine!」というスローガンで締めくくられているが、この投稿文だけを見ても、具体的な成果や今後の方向性がほとんど伝わってこないのが特徴である。

ゼレンスキー投稿の不明瞭さの理由

このような曖昧さは、決して偶然や書き手の不手際によるものではなく、完全に意図的なものである。投稿の中で触れられているのは、SBUの最近の活動成果が「期待通り」であったことや、新たな作戦の承認といった抽象的な表現だけで、肝心な場所、具体的な内容、攻撃対象、予定される時期、投入される手段といった核心的な情報は一切明かされていない。

これは戦争が続いている状況下での公式発表として、極めて典型的なスタイルと言える。もし詳細を公表してしまえば、敵側であるロシアに作戦の全貌が事前に露呈し、即座に防衛策を講じられて失敗に終わるリスクが極めて高くなるからである。そのため、ゼレンスキーはあえて情報をぼかし、国民に対して「我々はただ受け身で耐えているわけではなく、裏ではしっかりとした反撃の準備を進めている」という心理的な安心感を与えようとしている。

同時に、西側諸国に対しても「ウクライナはまだ戦えるし、支援を続ける価値がある」というアピールを続けているのである。この曖昧な表現は、単なる情報統制ではなく、心理戦・プロパガンダの一環として機能していると言える。

新しい戦闘作戦の内容

ここでゼレンスキーが承認したとされる新しいコンバット・オペレーションズとは、SBUが長年培ってきた専門分野である非対称戦の延長線上にあるものだと考えられる。非対称戦とは、軍事力で圧倒的に劣る側が、正面からの戦闘を避け、敵の弱点を突く低コスト・高効果の攻撃を繰り返す戦い方である。具体的には、ロシア領内の深部を狙った長距離ドローンによる精密攻撃、石油精製所や燃料貯蔵施設、弾薬庫、軍用航空基地への破壊工作、ロシア軍高官や重要人物に対する要人暗殺や排除工作、そしてクルスク州境界付近での小規模部隊による散発的な浸透作戦と捕虜確保などが挙げられる。

これらの作戦は、ウクライナが東部戦線でロシアの重装備と人的資源に押され続けている現状において、ロシア側に物理的・経済的・心理的な痛みを与え、戦力の一部を後方防衛に振り向けさせ、ひいては交渉のテーブルで有利な条件を引き出すための手段として位置づけられている。代表的な成功例として、2025年に実施された「スパイダーズ・ウェブ」作戦が挙げられる。この作戦では、トラックに隠した多数のドローンをロシア国内深くに運び込み、戦略爆撃機を含む40機以上の航空機を同時に損傷させるという大胆な成果を上げた。こうした作戦の立案と実行に深く関与してきたのが、今回の代理長官イェヴヘニー・フマーラであり、彼の就任はSBUの非対称戦能力をさらに強化する象徴的な人事でもある。

中期的には良い結果をもたらしていない

非対称戦は確かに短期的な視点で見れば、目に見える成果を上げやすい。ロシアの重要なインフラが炎上する映像は国際メディアで大きく取り上げられ、ウクライナ国民の士気を一時的に高め、ロシア経済に打撃を与え、時には長距離ミサイルの生産ペースを鈍化させる効果もあった。

しかし、2024年から2026年にかけてのこれまでの実績を冷静に振り返ると、中期的・戦略的な観点からは決して良い結果をもたらしていないのが現実である。最も典型的な失敗例が、2024年8月に開始されたクルスク作戦である。この作戦は、当初「東部戦線(特にドネツク方面)のロシア軍圧力を軽減し、予備戦力を引き剥がす」という明確な戦略目標を掲げて実施された。しかし、ロシア側は北朝鮮からの援軍を含む大量の予備戦力を投入したにもかかわらず、東部での攻勢を緩めることはなく、むしろ加速させた。ウクライナはこれに対抗するため、精鋭部隊と西側から供与された高価な装備を大量に投入せざるを得なくなり、結果として甚大な人的・物的損失を被ることになった。2025年の春から夏にかけて、せっかく確保した橋頭堡は次第に縮小し、最終的にほぼ崩壊した。ISW(戦争研究所)やキーウ・インディペンデントをはじめとする複数の信頼できる分析機関は、このクルスク作戦を「戦略的失敗」「限られた資源の無駄遣い」と厳しく評価している。

深部攻撃全体についても同様の問題が見られる。ロシアは初期の混乱を乗り越え、迅速に防空システムの強化、重要施設の分散配置、被害を受けた箇所の素早い修復という適応策を講じたため、ウクライナの攻撃による影響は一時的なものに留まっている。ロシアの指揮系統が崩壊するような決定的打撃には至らず、逆にウクライナ側は有限なドローンやミサイル、人員を散発的に消費し続けることで、東部正面の防御線が手薄になり、消耗戦でさらに不利な状況を招いている。こうした失敗の根本原因は、資源の極端な分散と、軍事的な最適化よりも国民や西側へのPR(広報)優先にあると言わざるを得ない。限られた戦力を「東部を死守する」か「ロシア深部で嫌がらせをする」かの二択に分けざるを得ず、どちらも中途半端になってしまう。ゼレンスキーの今回の投稿も、純粋な軍事戦略の発表というより、絶望的な状況下での希望アピールとしての性格が強い。

追い詰められた状況と今後の懸念

2026年1月現在、ウクライナは東部戦線でのジリ貧状態、エネルギーインフラの壊滅的な被害による冬の厳しいエネルギー危機、そして特にトランプ政権下でのアメリカ支援の大幅な縮小という、三重苦に追い詰められている。こうした極限状況の中で、SBUの新作戦承認は「もう失うものがない」という絶望的な抵抗の表れであり、いわゆる「窮鼠猫を噛む」の心理が色濃く出ている。短期的にロシアに痛みを与えることはできても、中期的に戦況を好転させる力はなく、むしろロシアの報復を誘発し、エスカレーションのリスクをさらに高める危険性の方が大きい。この不明瞭な投稿は、単なる一つのツイートではなく、戦争が泥沼化し、出口が見えなくなっている現状を象徴していると言える。

非対称戦は一見魅力的に映るが、全体の戦争戦略にしっかりと組み込まれない限り、点での小さな成功が面での大きな敗北を招く典型例にしかならない。戦争がこのまま長引けば、こうした散発的な「猫を噛む」行為が偶発的な大規模衝突を引き起こし、第三次世界大戦級の連鎖を生む可能性は決して低くない。まさに深刻で、避けがたい懸念材料となっている。

 

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