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2026.01.10

米国の子供の定期予防接種変更

米国疾病予防管理センター(CDC)は、2026年1月5日に子供の定期予防接種スケジュールを大幅に変更した。従来、全ての子供に推奨されていたワクチンのうち6種類を、普遍的な推奨から外したのである。これにより、対象疾患は17種類(または18種類)から11種類に減った。残る11種類は、はしか・おたふくかぜ・風疹、百日せき・破傷風・ジフテリア、ヒブ、肺炎球菌、ポリオ、水疱瘡、HPVなどである。

変更された6種類のワクチンと防ぐ病気は以下の通りである。

  • A型肝炎(Hepatitis A):食品から感染するウイルス性肝炎で、激しい吐き気・黄疸などを引き起こす。1996年以降、ワクチン導入で90%以上減少した。
  • B型肝炎(Hepatitis B):血液や体液から感染し、乳幼児期に感染すると慢性化しやすく、肝がん・肝硬変の原因となる。子供での急性症例は99%減少した。
  • ロタウイルス(Rotavirus):乳幼児の激しい下痢・嘔吐を引き起こす「冬の嘔吐症候群」。2006年導入前は毎年約7万人が入院、50人が死亡した。
  • RSV(呼吸器合胞体ウイルス):乳幼児の入院原因のトップ。毎年数万人が入院し、数百人が死亡する。80%はリスク要因がない健康な子供である。
  • 髄膜炎菌(Meningococcal disease):細菌性髄膜炎で、10%が死亡、生存者の20%に永久障害が残る。主に10代・大学生に多い。
  • インフルエンザ(Flu)COVID:どちらも呼吸器感染症で、子供でも数百人が死亡する(例:直近シーズンでインフル289人死亡)。

これらの変更は、HHS(保健福祉省)の指示で「科学的レビュー」を行い、他の先進国(特にデンマーク)のスケジュールに近づける目的で行われた。ロバート・F・ケネディ・Jr.長官(反ワクチン活動家)が主導した。変更後も、これらのワクチンは保険適用され、希望すれば無料または低額で接種できる。ただし、医師と保護者の相談(共有臨床意思決定)が必要になる。

欧州での扱い

米国での決定を欧州と比較しておこう。欧州諸国(EU/EEA)の子供予防接種スケジュールは国ごとに異なるが、共通の基本ははしか・おたふくかぜ・風疹、ジフテリア・破傷風・百日せき、ポリオ、ヒブ、肺炎球菌、HPVなどである。多くの国で14種類以上を普遍推奨しており、米国従来のスケジュールに近い。

  • デンマーク:少数派で、10種類程度のみ普遍推奨。A型肝炎、B型肝炎、ロタウイルス、RSV、髄膜炎菌、インフルエンザ、COVID、水疱瘡などは普遍推奨せず、高リスク群または相談ベースである。ロタウイルス非導入のため、毎年約1200人の乳幼児が入院している。
  • その他の欧州国:多くはB型肝炎・ロタウイルスを普遍推奨(例:ドイツ、フランス、英国)。RSVは新生児全員推奨の国が増えている。髄膜炎菌・インフルエンザも普遍または幼児対象が多い。COVIDは高リスク中心に変動する。

欧州は公衆衛生への信頼が高く、強制ではなく教育を重視する傾向がある。デンマークモデルは例外で、多くの専門家は「米国は人口規模・多様性が違うため不適切」と指摘している。

日本での扱い

さて気になるのは、日本との比較である。日本では、厚生労働省と日本小児科学会のスケジュール(2025-2026年現在、変更なし)で、定期接種(公費負担)は14種類程度である。B型肝炎、ロタウイルス、肺炎球菌、五種混合(DPT-IPV-Hib)、ヒブ、MR(はしか・風疹)、水疱瘡、日本脳炎、HPVなどが含まれる。

  • A型肝炎:任意。高リスク(海外旅行、汚染食品暴露)のみ。
  • B型肝炎:定期。生後2・3・7-8ヶ月で普遍接種。母子感染防止も重視。
  • ロタウイルス:定期。生後2ヶ月から飲むワクチンで普遍。
  • RSV:定期接種なし。高リスク(早産児など)で考慮されるのみ。
  • 髄膜炎菌:任意。高リスクのみ。
  • インフルエンザ:任意だが強く推奨。毎年幼児対象。
  • COVID:任意。年齢・製品により高リスク推奨。

日本は食品衛生・衛生環境が高いためA型肝炎は普遍不要だが、B型肝炎とロタウイルスは普遍導入しており、接種率は90%以上と高い。

これらの変更の妥当性

CDCによる今回の変更は、科学的・公衆衛生的には不適切であると見るむきが多い。理由は、対象ワクチンが過去に数百万の入院と数万の死亡を防いできた実績があるからである。例えば、A型肝炎・B型肝炎・ロタウイルスの3つだけで200万入院・9万死亡を防いだ(CDC自身データ)。これらを普遍推奨から外せば、接種率低下で再び流行・入院が増える可能性が高い。

今回、CDCはデンマークをモデルにしたが、欧州の多くは米国従来スケジュールに近く、デンマークは例外である。米国は人口が多く、衛生格差・移民が多いため、デンマークのように「入院1200人許容」は現実的でない。専門家は「子供の苦しみを増やすだけ」と強く批判している。

日本のようにB型肝炎・ロタウイルスを普遍推奨している国は成功例であるとみなせるだろう。CDCの今回の変更は保護者の選択を増やすことが名目だが、実際には情報不足の親が増え、予防効果が失われる恐れがある。公衆衛生の信頼を回復するどころか、逆効果になる可能性が高い。

 

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