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2025.12.30

令和の「丙午」はどうなるか?

丙午とは

2026年は、六十干支のひとつ「丙午(ひのえうま)」の年である。十干の「丙」(陽の火、明るく情熱的なエネルギー)と十二支の「午」(馬、行動力と自由の象徴)が組み合わさったこの干支は、60年に一度巡ってくる。

本来、丙午はポジティブなイメージを持つ。情熱的でリーダーシップがあり、目標に向かって突き進む性格を表すと言われ、男性にとっては縁起の良い年とされる場合もある。しかし、日本独特の迷信がそれを覆い隠してきた。

「丙午生まれの女性は気性が激しく、夫の命を縮める(夫を食い殺す)」という俗信である。この迷信の起源は江戸時代初期に遡る。天和3年(1683年)の八百屋お七の火あぶり事件が絡み、「丙午の年は火事が多い」「丙午の女性は激情家」と結びついたともされる。これに科学的根拠は一切なく、単なる風聞が広まったものだが、この迷信は長く続き、明治時代の1906年(前回の丙午)でも出生数が前年比約4%減少した記録がある。最も劇的な影響が出たのは1966年(昭和41年)の丙午だった。

1966年の「丙午ショック」 出生数25%減の異変

1966年の日本人出生数は約136万1000人。前年の約182万人から約46万人減少し、前年比約25%の大幅減となった。これは統計開始以来の最低記録で、合計特殊出生率も前年の2.14から1.58に急落した(翌1967年には2.23に回復)。この現象は「丙午ショック」と呼ばれ、人口ピラミッドに今も不自然に深い「へこみ」を残している。高度経済成長期の真っ只中、テレビや新幹線が普及した近代社会で、なぜこうした迷信が社会全体を揺るがしたのだろうか。

背景には、当時の家族計画政策があった。戦後ベビーブーム後、政府は「子どもの数は2人程度が適切」と多子抑制を推進していた。つまり、このころの日本は第2子以降の出産間隔を空けるよう奨励していた。若い親世代(平均初産年齢25〜26歳)はまだ余裕があり、「次の子を1年待てばいい」と計画的に出産を避けたのだ。さらに、1906年生まれの丙午女性が結婚適齢期に差別を受け、自殺者まで出たという報道が1960年代に再燃した。こうしたメディアの影響も大きく、夫婦が女児出産を恐れて産み控えや出生届の年越し調整を行ったとされる。結果、1966年生まれの世代は受験や就職で競争率が低く、「ラッキー世代」とも呼ばれる一方、女性たちは「気性が荒い」と偏見を受けやすい環境で育った。

現代は8割以上が「気にしない」

あれから60年。2026年の丙午を前に、迷信の影響はどれほどだろうか。株式会社ベビーカレンダーが2025年12月に実施したアンケート(妊娠中・育児中の20〜40代女性935人対象)で、丙午の迷信を「よく知っている」(31.2%)または「なんとなく聞いたことがある」(49.0%)と認知している人は約80%に上る。しかし、出産タイミングへの影響を尋ねると、「迷信は気にせず、自分たちの計画やタイミングを優先したい」と答えた人が76.2%。「メリットも考えられるので、あえて選びたい」が5.2%。合わせると約81%が丙午を理由に避けない姿勢を示した。家族や周囲から「2026年の出産は避けた方がいい」とアドバイスされた経験は12.4%あったが、主に実母や祖父母世代から。回答者本人たちはほとんど影響を受けていない。若い世代ほど「ただの迷信」「昔の話」と割り切っている傾向が強い。

駆け込み増加の兆候なし

すでに動向は予測できる。人間の妊娠期間を約9ヶ月、妊娠認識を3ヶ月目とすると、2026年丙午出産を避ける人は2025年春〜夏から妊娠を控えるはず。1966年のように、2025年に「駆け込み出産」の増加が起きる可能性があった。しかし、厚生労働省の人口動態統計速報(2025年10月分まで)に基づく推計では、2025年の日本人出生数は約66万7500人程度(前年2024年の68万6173人から約2.7%減)。日本総合研究所や朝日新聞の試算も同様で、過去最少更新ながら減少率は2022〜2024年の5%超から鈍化している。上半期(1〜6月)も前年同期比3.1%減と、少子化の長期トレンド通り。丙午を意識した駆け込み増加は一切確認されていない。

2026年の見通し

現状の見通しからは、2026年においては1966年の再現が起きないと見られる。3つの理由にまとめられる。まず、親世代の高齢化である。現在の初産平均年齢は31歳前後で、高齢出産リスクを強く意識する。「迷信のために1年待つ」余裕が少ない。次に、出産タイミングの多様化がある。非婚化・晩婚化が進み、計画的に避けにくい。さらに、迷信自体の希薄化も大きな要因となる。若い世代の価値観が変わり、科学的根拠のない俗信を信じない人が多数派だ。

加えて、コロナ禍後の婚姻数が下げ止まり・横ばい傾向にある。結婚から第1子出産までの平均2.8年を考慮すると、2025年後半〜2026年に出産が集中する可能性すらある。

そもそも、毎年70万人割れが続く中、丙午の影響は極めて限定的であろう。丙午の問題より、少子化の本質は経済不安、仕事と育児の両立難、社会構造が重要となる。

2026年の確定データがどうなるか注目したいが、対策すべきことは、迷信ではなく、経済支援やワークライフバランスの改善である。

 

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