中国揮毫事件?
チベットで贈られた祝賀の書
2025年8月21日、中国の習近平国家主席はチベット自治区成立60周年を記念する大規模な祝賀式典に臨んだ。式典はチベットの区都ラサの象徴、ポタラ宮の広場で盛大に挙行され、約2万人が参加した。この式典のクライマックスで、中央代表団を代表して王滬寧・全国政治協商会議主席が、習近平主席自ら筆を執った書を額装した「祝賀横額」をチベット自治区政府に贈呈した。しかし、この栄誉あるはずの揮毫が、後に中国内外で大きな衝撃と憶測を呼ぶ事件の発端となった。
露見した「小学生レベル」の書き間違い
式典で披露された習近平主席の揮毫は、一見すると力強い書に見えた。しかし、その内容は複数の初歩的な漢字の間違いを含んでおり、専門家やネットユーザーから厳しい指摘を受けることになった。
揮毫された文章
原文:共建中華民族共同体 書写美麗西蔵新篇章 熱烈慶祝西蔵自区成立60周年 二零二五年八月二十一日
訳文:中華民族の共同体を共に建設して 美しいチベットの新しい文章を書こう チベット自治区の成立60周年を熱烈に祝う
指摘された5つの重大な誤り
この短い文章の中に、実に4つの誤字と1つの文字脱落が発見されたのである。その内容は以下の通りである。
建
誤った書き方: 「走」にょうで始まる字
問題点・意味合い: 文章冒頭の基本単語「建設」で、部首を根本的に間違えている。単なる書き損じとは考えにくい構造的な誤り。
華
誤った書き方: 「艹」(草冠)の下に「平」を書き、その間に横線を一本引いたような、存在しない漢字。
問題点・意味合い: 国の根幹を示す最重要語句である**「中華」**を、存在しない漢字で記述している。国家の象徴への敬意を欠く、看過できない間違いと見なされる。
民
誤った書き方: (詳細不明)
問題点・意味合い: **「民族」**という言葉を構成する、基本的な文字。
体
誤った書き方: (詳細不明)
問題点・意味合い: **「共同体」**という重要な概念を示す文字。
治
誤った書き方: 脱落(「自治区」が「自区」になっていた)
問題点・意味合い: **「自治区」**から統治の「治」が抜け落ちている。これが「治療法がない」とも読めるため、最高指導者の健康問題が噂される中で極めて不吉な暗示となっている。
これほど多くの、しかも国家の根幹に関わる基本的な誤りは、単なる不注意では片付けられない。それは、指導者の身体に起きている、より深刻な異変の兆候ではないかという疑念を生むに十分だった。
「耆字」の可能性
この揮毫が公開されると、「本当に習主席本人が書いたのか?」という疑問が噴出した。しかし、多くの専門家は「本人が書いた可能性が非常に高い」と見ている。その理由は、「もし偽造するなら、これほど初歩的で致命的な間違いは絶対にしない」という逆説的な論理にある。では、なぜこのような間違いが起きたのか。ここで浮上したのが、習近平主席の「健康不安説」である。
一部の専門家は、これらの文字の間違いが脳梗塞の後遺症によって引き起こされた可能性を指摘している。脳梗塞を患った後、思考は正常でも、文字を書く際に以前とは異なる特徴的な書き方(崩れや間違い)が現れることがある。この現象は、専門的には「耆字(きじ)」、あるいは俗に「庚体(こうたい)」と呼ばれる。
この観点から先述の誤字を再検討すると、「建」や「華」といった単純な文字の構造的崩壊は、単なる知識不足では説明がつかず、むしろ脳機能と思考の連携に不全が生じている可能性を強く示唆する。この説が正しければ、今回の事件は単なる不注意ではなく、最高指導者の深刻な健康問題を示唆するものとなる。そして、この健康不安説を裏付けるかのように、当局は不可解な対応を取ることになった。
なぜ「印刷版」が掲げられたのか
この揮毫事件に関して最も注目すべき点は、その後のチベット当局の対応である。当局は、習近平主席が揮毫した「原本」を掲示せず、すべての誤字を活字で修正した「印刷版」を公式の場に掲げたのだ。
毛沢東や江沢民といった過去の指導者たちの書は、常に原本そのものか、その忠実な複製が掲示されるのが通例であった。指導者の直筆は権威の象徴であり、修正を加えることなどあり得ない。この前代未聞の対応は、習近平体制下における権力構造の深刻な硬直性を露呈している。下層部の役人たちは、最高指導者の書にある明らかな間違いに気づきながらも、「皇帝」の過ちを指摘することは許されない。恥ずべき事態を前に、苦肉の策として誤りを修正した印刷版で体裁を整えるしかなかったのだ。
当局が取ったこの「印刷版への差し替え」という異例の措置は、単に揮毫の誤りを隠すだけでなく、「耆字」が示唆する最高指導者の健康不安説そのものを、国家として是が非でも封じ込めたいという強い意志の表れと解釈できる。この隠蔽とも取れる対応は、逆説的に、元の揮毫に本当に看過できない問題があったことの強力な証拠となってしまった。
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