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2025.10.27

水が決める未来:AIとSMRが引き起こす核と水資源の地政学

AIインフラとSMR:需要急増の二大要因

現在進行中の人工知能の指数関数的拡大は、21世紀の国家間の戦略的駆け引きを根本的に書き換え初めている。まずもって、AI用のデータセンターは電力と水を貪欲に消費する怪物である。米国エネルギー情報局の予測では、2050年までに商業部門電力消費の20パーセントをコンピュータ分野が占める。単一の大規模施設は一日で最大500万ガロンの水を蒸発させ、これは人口五万人の町が同日に使用する量にも匹敵する。欧州では一日一万二千立方メートルを超える施設も珍しくない。

これらの数字は直接冷却水だけでなく、電力生成やサプライチェーンに組み込まれた間接的水フットプリントを含んでいるため、実際の影響はさらに大きい。冷却効率を最大化するため、サーバーはしばしば乾燥した半乾燥地域に立地される。しかしこれらの地域は気候変動による干ばつリスクが最も高い場所と重なる。デジタルインフラの拡大と地域水資源の持続可能性は構造的に対立している。

そして、AIに必要となる電力をどうするか。ここで厄介なことに、小型モジュール炉(SMR)は、従来の大型原子炉を小型化・モジュール化した次世代原子力技術が関わってくる。SMRの出力は300メガワット以下で、工場で製造し現場に輸送して組み立てるため、建設期間とコストを大幅に削減できる。しかも信頼性が高く、低排出のベースロード電源として、AIの24時間365日稼働を支える。

これが現実の問題となりつつある。米軍のJanus計画では、移動可能なマイクロリアクターを国内外の軍事施設に配備し、脆弱な民間電力網からの完全独立を目指している。これは単なるエネルギー供給策ではなく、作戦上の強靭性を確保するための核心的要素でもあるのだ。

つまり、AIとSMRは相互に依存する。AIの膨大な計算能力はSMRのような安定電源を必要とし、SMRの建設と運用はAIによる最適化を前提とする。この共犯関係は、水という共有資源をめぐる競争を指数関数的に激化させる。両者の同時拡大は、これまでエネルギーインフラの「隠れた基盤」であった水を、国家間の地政学的な係争点へと押し上げていく。

南ヨーロッパ:水をめぐる新資源戦争

風光明媚な印象の南ヨーロッパだが、すでにデジタル化の野心と水の現実が衝突する最前線でとなりつつある。欧州環境機関のデータによれば、同地域の人口の約三分の一がすでに慢性的な水ストレスに晒されている。気候変動による降雨パターンの変化と過剰な地下水採取が、この脆弱性をさらに悪化させている。さて、悪魔登場。AIデータセンターとSMRという新たな需要層が上乗せされるのである。2030年時点で、両セクターを合わせた水需要は欧州全体で年間70億から100億立方メートルに達し、これは人口二億から三億人規模のサービス需要に相当する。

スペイン北東部のアラゴン州がその、目下の問題の典型例である。米国アマゾン社は同地で三つのデータセンターを建設する計画を発表した。しかし、20メガワット規模の施設が恒久的に雇用するのは技術者三十人から五十人程度に過ぎない。だが、冷却システムは地域の貴重な水資源に深刻な圧力をかける。

地元農家は、灌漑用水の確保が脅かされるとして計画に猛反発している。環境団体は、データセンターの水使用量が農業用水を上回る可能性を指摘し、行政を提訴する動きを見せている。ギリシャのアッティカ地方も同様の危機に直面している。マイクロソフトは10億ドル規模の投資を表明し、グーグルも追随する。アテネ近郊は南東ヨーロッパのデジタルハブへと変貌しつつあるが、既存の水インフラはもはや限界に近い。

この状況では、AI技術展開の速度が政治的・規制的枠組みの適応能力を完全に凌駕する「ガバナンス・ギャップ」を露呈している。元来、水供給のストレスに悩む民主主義国家において、外国巨大テック企業と地元農業の、市民生活の間の水配分は、政治的不安定と反グローバリゼーション感情を煽る強力な触媒となる。短期的な経済効果と長期的な環境保全の間で、この国々の政治指導者は困難な判断を迫られる。新たな国家の安定そのものに関わる問題へと発展する。

米国:エネルギー支配と拒否による抑止

米国は、AIとSMRの拡大を単なる国内産業政策ではなく、国家安全保障の必須事項と位置づけている。SMRに焦点を絞ろう。

すでに米国国内の電力網は老朽化し、敵対国によるサイバー攻撃の格好の標的となっているうえ、2023年には電力網に対する物理的・サイバー攻撃の報告件数が185件にも達した。軍が管理する28万4千以上のミッションクリティカルな施設が、この脆弱な民間網に依存している米国の現実は、すでに国家安全保障上の致命的リスクである。

そうなれば、SMRの軍事施設への導入はこの脆弱性への直接的対抗策である。基地が民間電力網から独立することで、敵対国が電力網を攻撃する戦略的価値は劇的に低下する。これは「拒否による抑止」の典型である。攻撃が米軍の機能維持や報復能力を麻痺させないという明確なシグナルを敵に送ることで、そもそも攻撃を思いとどまらせる効果を持つ。Janus計画はこの戦略的ロジックを具体化するものである。移動可能なマイクロリアクターは、前方展開拠点を含む国内外の施設に配備され、作戦継続性を確保する。

国際原子力市場における米国のリーダーシップ再構築も並行して進められている。2017年以降に世界で建設が開始された原子炉五十二基のうち、四十八基が中国製またはロシア製である。この事実は、中露両国がグローバルサウスを対象に国家戦略として原子力輸出を進め、市場を席巻している現実を示している。

トランプ政権は一連の大統領令により、2050年までに国内原子力発電設備容量を四百ギガワットに引き上げる目標を掲げた。そのため、原子力規制委員会の承認プロセスを簡素化し、国産核燃料の増産を含むサプライチェーンを強化しつつある。並行して、核不拡散を原則とする123協定の締結交渉を積極化し、原子力供給国グループのガイドライン強化を図ろうとしている。AIという文脈がなくても、SMRは、米国の技術主権と国際規範形成能力を体現する戦略的資産である。

日本:技術大国が直面する水・エネルギー・ジレンマ

日本は、どうか。資源輸入依存の宿命を背負いながら、技術大国としてAIのフロンティアに挑んでいることにはなっている。政府の予測では、2030年までにデータセンターの電力需要増が国家全体の電力成長の35パーセントから50パーセントを占めるというが、1メガワット規模の小規模施設でも、年間2600万リットルの水を消費する。これがどういう意味なのか。

東京や大阪のメガシティでは、近年気候変動による異常気象が干ばつリスクを高めており、こうした水を要するAIインフラの集中需要は社会的な緊張を招く可能性がある。NTTやNECが推進する先進冷却技術はエネルギー消費を削減するが、水依存の本質的問題を解決しない。

SMR開発では、意外にも日本は世界五位の地位を占めるが、福島第一原子力発電所事故のトラウマから国内展開は極めて慎重である。代わりに海外輸出に戦略的活路を見出している。2025年2月のトランプ・石破サミットでは、米日が先進核技術の協力で合意し、アフリカのガーナでのSMR実現可能性調査を共同推進した。これは2022年に始まった米日ガーナ3カ国パートナーシップ(WECAN)を基盤とし、サミットで調査の加速と資金支援が再確認された形である。ここでは、米国務省の国際安全保障・軍縮局(ISN)が主導する多機関イニシアチブであるFIRSTプログラム(Foundational Infrastructure for Responsible Use of Small Modular Reactor Technology:小型モジュール炉技術の責任ある使用のための基盤インフラ)が中核を担う。FIRSTは、IAEA基準に基づく核安全・セキュリティ・非拡散の能力構築を提供し、対象国が自立的にSMRを導入できる基盤を整備する枠組みである。

これがインドネシアを含むアジア諸国への技術移転と人材育成を支援する。これによって日本は、中国・ロシアの低価格・高リスク輸出に対抗し、グローバルサウスでの影響力を拡大できるとしているのだ。核開発が外注化されるようなものなのである。しかも、SMR一基あたりの冷却水需要は一日五千から一万五千立方メートルに及び、水ストレス地域での展開は新たな地政学的緊張を生む。

日本の産業は、すでに米中露の三つ巴競争の狭間に置かれている。中国は、輸出市場の23パーセントを占め、半導体・AI分野で日本を追い越している。一方、米国との核同盟は不可欠であり、欧州・カナダとの規制アライメントを進める。ロシアの影響はウクライナ危機で減退したが、核燃料市場での支配は残る。

日本の未来は、再生可能エネルギーとのハイブリッド戦略が唯一の現実的選択肢である。東南アジアでのクリーンエネルギー投資と称する核開発は、中国依存脱却と地域安定に寄与する。国防面では、気候変動を国家安全保障上の脅威と位置づけ、エネルギー自給を防衛の基盤に据えている。AIハブやSMRの軍事施設併設は局地的水需要を集中させ、有事の継戦能力を左右する。かくして、水は日本の戦略的選択を制約する決定的要因である。あと必要なのは、マスコミのカバーと、どうでもいいイデオロギー議論で日本市民の政治関心を消耗させることだけである。

 

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