ロシアの「オレシュニク」配備
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2025年8月1日、射程500~5500キロメートルの地上発射型中距離弾道ミサイル「オレシュニク」の大量生産が始まり、ロシア軍に配備されたと発表した。さらに、年末までに同盟国ベラルーシへの配備方針を示した。この極超音速ミサイルはマッハ10以上の速度を誇り、モスクワやベラルーシから発射された場合、欧州の大半、さらには中東や北アフリカの一部を射程圏内に収める。ロシアは、NATOの東方拡大や米国主導のミサイル防衛システム(例:ルーマニアのAegis Ashore)を「包囲網」とみなしており、この配備は冷戦期を彷彿とさせる軍事的緊張を欧州にもたらすことになった。西側専門家は高コストながら迎撃可能と分析しているが、プーチンは「オレシュニク」が現行の防空システムで迎撃不可能と主張している。おそらくプーチンの見解が正しいだろう。
トランプのINF条約離脱とロシアの対応
日本および西側報道では「プーチン露大統領の悪魔化」が進展しているが、今回の「オレシュニク」の配備は、2019年にドナルド・トランプ米大統領が中距離核戦力(INF)全廃条約を一方的に破棄したことへの反応である。
INF条約は射程500~5500キロメートルの地上発射型ミサイルを禁止していたが、米国はロシアの9M729ミサイルが条約違反と主張し、2019年2月に義務を停止、8月に離脱した。このため、ロシアも条約を停止せざるをえなくなったが、それでもこの間、自主的な遵守を試みていた。もっとも、米国としては2014年以降、ロシアの9M729が違反と非難してはいた。
ウクライナ戦争での「オレシュニク」使用
2024年11月21日、「オレシュニク」はウクライナ東部ドニプロのピヴデンマッハ工場への攻撃で初実戦投入された経緯がある。これは、ウクライナが米国製ATACMSや英国製ストームシャドウでロシア領を攻撃したことへの報復であり、西側がレッドラインを超えたことに対する寛容な対応でもあったが、ウクライナの防空網の脆弱性を露呈しつつ、欧州支援国への心理的牽制となった。
ロシアとしては、「オレシュニク」はマッハ10で900キロメートルを15分で飛行し、迎撃不可能だったと強調した。この時点では、レッドライン違反のメッセージということもあり、ミサイルは核弾頭でなく不活性な子弾(運動エネルギー弾)を搭載し、MIRV技術で6弾頭(各6子弾、計36発)が散乱する攻撃とした。
このため、ウクライナ当局も被害が限定的と評価し、これに、破片からソビエト時代のRS-26ルベジ基盤と分析し、「革新的技術は少ない」と評価するという修辞を加えた。西側専門家も、修辞的な基調から、「オレシュニク」はTHAADやパトリオットで迎撃可能としながらも、複数弾頭への対応は高コストと指摘している。つまり、実際には複数の核弾頭が搭載された場合の対応は現実的には不可能だろう。
他地域と日本への懸念
「オレシュニク」の配備は欧州に深刻な影響を及ぼす。年末までのベラルーシ配備により、ポーランド、バルト三国、フィンランドなどが直接的脅威に晒され、NATOは防空強化を迫られる。米国はINF離脱後、アジアや欧州でのミサイル配備を模索し、ロシアに対抗する動きを加速させることになる。
「オレシュニク」の射程5500キロメートルはトルコ、イスラエル、湾岸諸国にも及び、中東の緊張を高める。日本では、北方領土や沿海州への配備で北海道・東北が射程圏内に入る可能性がある。
2025年7月、日本は熊本に長射程ミサイルを配備したが、これは主に中国・北朝鮮対応であり、ロシアの動きは間接的影響を与えるにとどまる。しかし、中露の軍事協力深化は北東アジアの新たな脅威となるだろう。
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