ウクライナに迫る政権崩壊の危機
2025年7月17日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻以来最大の政府再編を行い、スヴィリデンコ新内閣を発足させた。戦争の長期化、経済困窮、国際支援の不確実性という深刻な問題に対応しようと試みた形だが、ルステム・ウメロフの駐米大使任命失敗とその曖昧な動向は、政権の意思決定の混乱と透明性欠如を象徴することになった。この不確実性が、軍や国民の不信感を煽り、内部崩壊のリスクを高めているとも言える。日本にとって、ウクライナへの支援(120億ドル以上)は人道的な責任と国益を左右するが、政権の不安定性は支援のあり方に再考を迫るだろう。
ウクライナの危機と政権の脆弱性
ロシアとの戦争が3年以上続くウクライナは、軍事的・経済的危機に直面している。インフラの破壊、国民の戦争疲れ、経済の疲弊は、ゼレンスキー政権の基盤を揺さぶる。戒厳令の延長と選挙の重なる延期により、ゼレンスキーと首席補佐官アンドリー・イェルマークは権力を集中させ、議会や軍への統制を強化した。毎日新聞(2025年7月)は「ゼレンスキーへの権力集中加速か」と報じ、民主的統治の後退を指摘した。
この権力集中は危機対応の必要性から生じたが、軍の不満(戦略の失敗や指導力への疑問)、国民の抗議(生活苦や戦争疲れ)、政権内派閥の分裂を招く。こうしたなか、ウメロフの駐米大使任命失敗とその曖昧な処理は、政権の意思決定の不透明さを露呈した。ウメロフ一家の米国市民権疑惑や腐敗問題がXやTelegramで拡散され、国民の不信感を増幅している。経済再建の遅れや社会的不安が続けば、抗議運動や軍の反発が政権崩壊の火種となる。
新内閣の顔ぶれ
新内閣は、ウクライナの危機に対応する人事戦略を反映するが、混乱が目立つ。ユリア・スヴィリデンコ新首相(39歳)は、経済相として米国との希少鉱物取引を成功させた実績を持ち、イェルマークの忠実な支持者である。NHK(2025年7月18日)によると、ゼレンスキーは兵器生産を現在の40%から半年で50%に増強する目標を課した。デニス・シュミハリ前首相は国防相に異動したが、軍事経験の不足は軍内部の反発を招く恐れがある。オルガ・ステファニシナが駐米大使に、セルヒー・ルトビノフが駐日大使(7月21日)に任命され、日本との支援拡大を担う。
今回の組閣で深刻なのは、ウメロフの駐米大使任命が米国に拒否されたことである。米国市民権や国防省の腐敗疑惑が理由とされるが、公式説明がないまま、急遽ステファニシナに変更された。ウメロフのNSDC書記への異動(7月18日)は、和平交渉の役割縮小を意図するが、その曖昧さが政権の信頼性を損なった。軍の不満(シュミハリの指導力への疑問)、国民の不信(スキャンダルの拡散)、政権内の亀裂(イェルマークへの反発)は、内部崩壊のリスクを高めている。
外交の綱渡り
ウクライナの存続は、米国や日本の支援に依存する。トランプ政権のキース・ケロッグ特使がキエフを訪問(7月14日~16日)し、新内閣の再編や長距離ミサイル供与を調整したとされるが、ウメロフの任命失敗は米国との信頼関係の亀裂を露呈している。トランプ政権内には「ウクライナは勝てない」との認識もあると見られ、長距離ミサイル使用による軍事エスカレーションとの矛盾ある。
スヴィリデンコやステファニシナの任命は米国との関係強化を狙うが、ウメロフのNSDC異動はイスタンブールでの和平交渉の意図的遅延を反映している。
こうしたなか、新内閣は、ゼレンスキーの危機克服の賭けと見られる。スヴィリデンコの経済手腕、ルトビノフの日本との関係強化は、支援確保と経済再建の希望だが、ウメロフの動向の不確実性が政権の脆弱性を露呈した。権力集中は軍の反発(シュミハリへの不信)、国民の抗議(生活苦やスキャンダル)、政権内分裂(イェルマークへの反発)を招く。和平交渉の停滞は軍事的敗北や国民の信頼喪失を招き、政変の引き金となり得る。トランプ政権の支援縮小やロシアの攻勢が加われば、政権は一気に崩壊するリスクがある。
日本にとって、ウクライナ支援は人道的な責任とアジア太平洋の安全保障に関わる国益の問題だ。しかし、ウメロフの人事の失敗に象徴される政権の混乱は、支援の無駄遣いや対ロシア戦略の失敗リスクを高めている。国際政治学者のミアシャイマーは、ウクライへの傷を最小限するために、ウクライ側から早期停戦に動くべきだとしている。平和憲法を固辞する日本としては、平和の瞑目でウクライに外交的圧力をかけてもよいかもしれない。新内閣は、こうした外圧なく、ウクライナ市民の安全と幸福を優先し、戦争終結への道筋を描けるか、難しい局面にある。
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