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2025.07.31

日本の「クルド人問題」

 2025年7月30日、NHKは「鈴木法務大臣がトルコのエルトゥールル駐日大使と面会し、トルコ国籍の不法残留者が多いと懸念を伝え、改善への協力を求めた」と報じた。法務省によると、2024年のトルコ国籍の不法残留者は約1200人で、他の国に比べ目立つ。このニュースで注目すべきは、「クルド人」という言葉が一切出てこない点である。
 日本では、埼玉県川口市や蕨市に住むトルコ国籍のクルド人(約2000~3000人)が、不法滞在や難民申請の問題で注目されている。彼らの多くはトルコ南東部や2023年の地震被災地出身で、「迫害」を理由に難民申請を行うが、日本は難民認定が厳しく、2025年時点でクルド人の認定はほぼ皆無(2010年以降1人のみ)。その結果、仮放免や不法滞在状態のクルド人が増える。
 なぜNHKは「クルド人」と明言しないのか。理由はすぐに3つほど思いつく。第1に、外交的配慮である。トルコ政府はクルド人問題を「テロ(PKK)」と結びつけ、民族問題として扱うことに敏感である。日本が「クルド人」と名指すと、トルコとの友好関係(人的交流や経済協力)に波及する懸念がある。第2に、法務省は不法残留者を国籍(トルコ)で管理し、民族を特定しないという建前がある。第3に、国内の反外国人感情を刺激しないためだ。川口市ではクルド人への偏見や反発が報じられており、特定民族への言及はヘイトリスクを高める。トルコ大使の「日本の法令を守るよう促している」という無難な回答も、問題の核心をぼかす一因だ。

クルド人とは
 クルド人についてこのブログの視点で概括しておこう。クルド人は「国家を持たない最大の民族」(推定3000~4500万人)と呼ばれることが多く、関連国に分散居住し、トルコ(約1500万人)、イラク(約600万人)、イラン(約1000万人)、シリア(約200万人)にまたがる、通称「クルディスタン」地域に住む。インド・ヨーロッパ系の民族で、クルド語(クルマンジやソラニ方言)を話し、主にスンニ派イスラムを信仰するが、ヤジディ教やシーア派も存在する。文化的には新年祭(ノウルーズ)や伝統音楽で知られる。
 トルコでは、統計にもよるが、クルド人は人口の約18%を占める。歴史的に抑圧されてきたと見てよい。1980年代まではクルド語が禁止され、「山岳トルコ人」と呼ばれるなど民族アイデンティティまでもが否定された。
 これに反発し、1978年からはクルディスタン労働者党(PKK)は武装闘争を展開し、トルコ政府との対立で4万人以上の死者も出した。2025年5月、PKKは解散を宣言したが、クルド人の権利(言語や自治)は未解決のままである。日本のクルド人の多くは、このトルコの抑圧を逃れて来日すると見られているが、実態は不明である。
 他方、イラクでは、クルディスタン地域(KRG)が1991年以降、自治を確立し、事実上の独立国のようになっている。エルビルを首都に、独自の政府、軍(ペシュメルガ)、石油経済を持ち、トルコとも貿易で結ばれている。KRGは「国家に近い自治」を実現したが、バグダッド(イラク中央政府)との石油・予算をめぐる対立や、トルコ・イランの干渉で完全独立は困難だ。日本のクルド人問題はトルコ出身者が中心で、安定したKRGのクルド人が来日するケースは少ないのが現状である。
 こうしたクルド人の近代史だが、国家設立の夢とその挫折の繰り返しとも言える。1918年、第一次世界大戦後、ウィルソン米大統領の「民族自決」原則がクルド人の希望を高めた。1920年のセーブル条約は、オスマン帝国の解体に伴い、クルド人に「クルディスタン」自治国家を約束した。しかし、1923年のローザンヌ条約でこの約束は反故にされ、クルド人の土地はトルコ、イラク、シリア、イランに分割された。
 トルコでは、1920~30年代のクルド人反乱(デルスィムなど)が鎮圧され、数万人が殺害・強制移住となった。1984年以降、PKKの武装闘争が続き、2025年の解散まで対立は収まらなかった。
 イラクでは、1970年代にサダム・フセイン政権下でクルド人が化学兵器攻撃(ハラブジャ)を受けたが、1991年の湾岸戦争後、KRGが自治を獲得した。2003年のイラク戦争でサダム崩壊後、KRGは2005年のイラク憲法で公式な自治地域となった。2017年の独立住民投票は賛成98.98%だったが、国際社会(米国、トルコ、イラン)の反対で失敗ともいえる状態にある。
 シリアでは、2011年の内戦以降、クルド人(YPG)が北東部で「ロジャヴァ」自治を築いたが、トルコの軍事侵攻(2019年~)で不安定な状態である。イランでもクルド人の自治運動(PJAK)は弾圧されている。クルド人の歴史は、民族統一の夢と、地政学の壁による裏切りの連続であることは見て取れる。

難問としてのクルド人問題
 クルド人問題、特に国家設立や統合の展望は、事実上解決が極めて難しい。理由は4つあるだろう。第1に、地政学的な障害である。トルコ、イラン、シリア、イラクは領土を譲らず、クルド人の統一国家を認めない。特にトルコは、2025年のPKK解散後も自治を「国家分裂」とみなす。
 第2に、国際社会の不支持である。米国や欧州はKRGを支援するが、トルコ(NATO)やイラクの領土保全を優先し、クルド国家を支持しない。2017年のKRG投票の失敗がその証である。
 第3に、あまり語られていないように思えるが、クルド人内部の分裂がある。イラクのKRGはKDPとPUKで内紛し、トルコのクルド人(PKKやHDP)は左派イデオロギー、シリアのYPGはKRGと対立している。実は、ナショナリティとしての統一ビジョンが存在していない。
 第4に、経済・軍事力の不足だ。KRGは石油収入があるが、バグダッド依存や原油価格下落で財政難。トルコやシリアのクルド人はリソースが乏しい。
 こうして見ると、パレスチナ国家、シリアの安定、リビアの復興と同様、クルド人国家も「理論上は可能」だが、地政学、国際的利害、内部対立で事実上不可能といえるだろう。
 日本のクルド人問題も、トルコの抑圧を背景に難民申請や不法滞在が増えるが、KRGの安定とは無関係で、解決の糸口は見えない。PKK解散でトルコのクルド人が政治的対話に進む可能性はあるが、文化的・政治的権利の確立は遠い。

 

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2025.07.30

カムチャツカ地震

 2025年7月30日午前8時25分(日本時間)、カムチャツカ半島東南東約119キロの沖合で、マグニチュード8.8の地震が発生した。震源の深さは約20.7キロと浅く、千島カムチャツカ海溝付近で太平洋プレートがオホーツク海プレートの下に沈み込む典型的な海溝型地震である。初期の推定ではマグニチュード8.0だったが、後に8.7、そして8.8に修正された。これは1952年のカムチャツカ地震(M9.0)以来の大きな規模である。
 この地震は関連地域に津波を引き起こした。カムチャツカ地方では3~4メートル、最大5メートルの波が観測された。北方領土のセベロクリリスクでは港や水産施設が浸水し、ロシアでは空港ターミナルや幼稚園の建物に軽微な被害が生じたが、死傷者の報告は少ない。
 日本では、北海道から和歌山県の太平洋沿岸に津波警報が発令され、岩手県久慈港で1.3メートル、北海道根室市で0.8メートルの津波を観測した。最大震度2を記録したが、物的被害は報告されていない。ハワイやアラスカにも津波警報が発令され、太平洋全域で1~3メートルの津波が懸念された。この地震は、7月20日以降の同地域での活発な地震活動(M6以上が複数回)の延長線上にある。

プレートとトリガー
 カムチャツカ地震と2011年の東日本大震災(M9.0)は、太平洋プレートがオホーツク海プレート(または北米プレート)下に沈み込む環太平洋造山帯で発生した点で共通する。両者は同じプレート境界システムに属するが、震源は約2,000キロ離れ、発生時期も14年異なる。このため、地学的には、両地震の直接的なトリガー関係は考えにくい。東日本大震災が広域の応力場に変化をもたらし、カムチャツカ海溝での地震活動に間接的な影響を与えた可能性は否定できないが、明確な証拠はない。カムチャツカ地震は、7月20日のM7.4の前震を含む局所的な応力解放の結果と見られる。
 基本的に地震予測は現代の地学の限界にある。プレート運動や応力蓄積のメカニズムは複雑で、具体的な発生時期や場所を特定することはできない。千島海溝や日本海溝では、M8~9クラスの地震が数十年以内に発生する確率が数%~十数%と評価されているが、正確な予測は不可能である。
 今回のカムチャツカ地震は、環太平洋造山帯の周期的な地震活動の一環であり、今後の大地震リスクは存在する。しかし、具体的な予兆やトリガーを特定することはできない。防災準備と早期警報システムの強化が、予測不能なリスクへの対処として重要である。

同地ロシアの原潜基地
 カムチャツカ地震の震源域は、ロシア太平洋艦隊の戦略核抑止力の要であるヴィリュチンスク原潜基地に近い。ヴィリュチンスクは、ペトロパブロフスク・カムチャツキーの南約20キロ、アヴァチャ湾沿いに位置し、ボレイ級やヤセン級の核搭載潜水艦が配備されている。震源から約100~150キロの距離にあるこの基地は、津波や地震の揺れによる影響が懸念されている。津波はカムチャツカ東部で3~4メートルを記録し、アヴァチャ湾の地形が波高を増幅する可能性もある。
 そもそも同基地は地震多発地帯に位置するため、耐震設計が施されているとされるが、M8.8の規模と津波の影響で、港湾施設、潜水艦の係留設備、電源系統、または核関連施設(原子炉や核弾頭)の損傷は懸念される。
 SNSでは、地震の影響被害による放射性物質の漏洩リスクを心配する声が上がるが、ロシア当局からの公式な被害報告は現時点でない。ロシアの情報統制や基地の戦略的重要性から、被害状況が公表されない可能性も高い。余震や追加の津波リスクも考慮され、基地の運用能力や安全性の今後は不明である。

この地震による地政学的問題
 カムチャツカ地震は、原潜基地との関連もあり、地政学的な波紋を広げる可能性がある。
 ヴィリュチンスク基地は、ロシアの核抑止力と太平洋での軍事プレゼンスの要であり、もし地震や津波で基地の機能が損なわれた場合、ロシア太平洋艦隊の潜水艦運用能力が低下し、日米を中心とする西側諸国との軍事バランスに影響を与える可能性がある。特に、ボレイ級潜水艦の戦略核ミサイルは、ロシアの第二次打撃能力の中核であり、基地の損傷は戦略的安定性に影響を及ぼす。
 さらに、今回の地震と限らないが、原潜の原子炉や核弾頭の損傷による放射性物質の漏洩リスクは、日本や太平洋諸国にとって環境・安全上の懸念である。東日本大震災での福島第一原発事故の教訓から、津波による核関連施設の被害は国際的な注目を集めているのも頷ける。とはいえ、ロシアは情報統制を行うので、被害の全容が明らかにならない可能性が高く、そのことで近隣国との緊張が高まる可能性もある。また、千島列島(北方領土)での津波被害は、日露間の領有権問題を再燃させる要因ともなり得る。
 今回のカムチャツカ地震は、環太平洋の地震リスクと地政学的緊張が交錯する事例であり、予測不能な自然災害が戦略施設に及ぼす影響は、軍事バランスや環境安全保障に不確実性をもたらす。今後、ロシア当局の情報開示、国際監視機関(例:CTBTO)のデータ、または余震活動の動向に注目すべきだろう。同時に、日本を含む近隣国は、防災と外交の両面で、こうしたリスクへの備えを強化すべきというのが理想ではあるが、現実には難しいだろう。

 

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2025.07.29

ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連次席特使が2024年7月25日、国連安全保障理事会で行った演説

ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連次席特使が2024年7月25日、国連安全保障理事会で行った演説

https://www.youtube.com/watch?v=LM6euJw_E9c
https://www.america-times.com/statement-by-charge-daffaires-a-i-dmitry-polyanskiy-at-a-unsc-briefing-on-ukraine/

注:この国連安全保障理事会で行われたポリャンスキー氏の演説は、ロシア側の主張を反映しており、内容の真偽については別途検証が必要となります。ここでの掲載は、国連の場におけるロシア側の主張を検討するための資料です。


議長、ありがとうございます。

正直に申し上げますと、今回のウクライナ問題に関する会合の要請を西側諸国の同僚から聞いた際、7月初旬に私たちが受け取ったウクライナの政治囚グループからの書簡がその理由ではないかと思いました。この書簡は、ウクライナ安全保障会議議長の名のもとに、エレナ・ベリズナ、ビクラフ・ボグスラフ、ビタリ・ゴルドン、アルタム・ミトラ、アレクサンダー・ドゥビンスキー、オレ・クリニッチ、ヨスラフスコ、アレクサンダー・オレニコフ、ユーリ・ラブカといった著名な政治家、人権活動家、公務員、議員たちによって署名されたものです。この書簡をご覧いただければ、ウクライナにおける政治囚の数が数千人に上ることがお分かりいただけます。

ウクライナでは、憲法や法律が守られていません。人々は「平和を求める呼びかけ、選挙の実施、スラブ民族間の戦争への反対、宗教的・政治的信念、強制的な徴兵への批判、市民としての反対意見」を理由に投獄されています。ウクライナの政治囚たちは国連安全保障理事会に対し、「戦争開始以来、ウクライナ市民に課されたすべての違法な制裁を、憲法に反する抑圧的措置および政治的迫害として廃止する」よう訴えました。この書簡は、単なる文書ではなく、魂の叫びです。

私たちはこの書簡について当時、理事会の注意を喚起しませんでした。それは、敵がこれをいつものようにロシアのプロパガンダとして片付けようとする口実を与えないためです。2024年1月にウクライナの治安機関によって拷問を受けたアメリカ市民、ゴン・カルロ・レラの例を思い出してください。彼の人権侵害の訴えも、キエフ政権によってロシアのプロパガンダと一蹴されました。2014年以来、ウクライナ当局やその支援者への批判はすべてロシアのプロパガンダとされています。この狡猾な論理は今も機能しています。

書簡で触れられた暴力的な動員も、キエフの側ではクレムリンの作り話とされています。しかし、ウクライナ人なら誰もが知っています。ゼレンスキーの軍事徴兵機関(TCC)は、文字通り昼間に路上、ショッピングセンター、薬局、スポーツクラブで人々を拉致しています。その際、最も過酷で時には非人道的な手法が用いられています。数百、場合によっては数千の死傷者が出ている事例は、ウクライナ人全員が話題にしていますが、当局はこれを否定します。SNS上には、男性が路上で捕まり、家族から引き離され、殴打され、バスに押し込まれ、時には小さな子供を路上に残す映像が多数存在しますが、ウクライナ当局はこれを「大規模な映画の演出」と冷笑的に呼んでいます。

ウクライナ当局を信じるなら、ウクライナ人は前線に行きたがっている人々で溢れていることになります。こんな途方もない嘘を一般市民が聞かされる状況を想像できますか?しかし最近、この集団的な嘘と悪循環のシステムが崩れ始めました。トランスカルパチアのTCC職員が、45歳のハンガリー系ウクライナ人でハンガリー市民でもあるジョセフ・セバスチャンに重傷を負わせ、彼は数週間後に病院で死亡しました。彼は当初、健康上の理由で徴兵不適格とされていました。こうした事例はウクライナで数百件に及び、ゼレンスキーの強制収容所とも呼べる状況が常態化しています。ウクライナ人自身が自国をそう呼んでいます。しかし、西側諸国の同僚にはこの話題はタブーです。欧米の人権活動家は、ウクライナについて良いことしか言わないよう命令されています。

ジョセフ・セバスチャンの悲劇(ウクライナのトランスカルパチア地方で45歳のハンガリー系ウクライナ人ジョセフ・セバスチャンが、軍事徴兵機関(TCC)の強制徴兵中に重傷を負い、後に死亡した事件)は、彼がハンガリー人だったため、ゼレンスキーとその支援者にとって不都合なこととして国外で知られることになりました。ハンガリー外務省は市民の殺害に対し断固たる抗議を表明し、公式な説明を要求しました。ウクライナ当局は、動員された彼が国外逃亡を試み、自然死したと主張しましたが、明らかな事実にもかかわらず責任を拒否しました。この嘘はブダペストを満足させず、スキャンダルは今も続いています。

議長、ハンガリーがEU諸国の大多数とは異なり、ウクライナに確立された独裁に目をつぶらない原則的な立場を取っていることは良いことです。では、強制動員された他の不幸なウクライナ人のために誰が立ち上がるのでしょうか?彼らはキエフの「ふとっちょ公」の政権によって、西側の地政学的利益のために肉挽き機に投げ込まれています。例えば、最近、ハルキウ州マーフの町で、軍事徴兵機関の職員が息子を連れ去るのを阻止しようとした老女はどうなるのでしょうか。彼女は軍人のミニバスにしがみつき、動かないようにしましたが、職員に突き飛ばされ、意識を失い、道路に倒れました。この母親への侮辱的な映像はウクライナ全土を震撼させました。ゼレンスキーの側近の反応は?正しくご想像の通り、「ロシアのプロパガンダ」とされました。

ウクライナ人は、軍事徴兵機関の違法行為を正し、罰することは国内では不可能だと慣れています。まれに軍事徴兵機関の職員の職権乱用で刑事訴訟が開始されても、国家捜査局は犯罪の性質を明らかにしません。こうした状況で、戦争に行くことを拒む一般市民に何が残されているのか?道路や集落の封鎖が広がり、軍事徴兵機関を入れないようにする動きが増えています。ウクライナ人はTCC職員を、第二次世界大戦中のファシストの懲罰者になぞらえて「警察」と呼び、激しく憎んでいます。人々の憎悪と絶望は、市民がロシア軍にTCCの座標を積極的に送り、攻撃が行われると喜ぶほどに達しています。

これが、元コメディアンで自らをウクライナ全体の独裁者と想像する人物の実態です。議長、今日の会合で、西側諸国がウクライナでの迫害の激化、特に正統派キリスト教を信奉する人々への迫害についてようやく語ることを期待しました。7月2日、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ正教会のメトロポリタン・エウフリのウクライナ市民権を、彼がロシア市民であるという偽の証拠に基づいて剥奪する法令を採択しました。この聖職者はロシア市民権を否定していますが、「モスクワ総主教庁との関係を維持し、ウクライナ教会のモスクワからの独立に意図的に反対している」と非難されています。これは、宗教の自由と教会国家分離を憲法で定めた国で起こっています。中世の異端審問も、ゼレンスキー政権の一般市民への迫害や魔女狩りから多くを学べたでしょう。西側諸国は、ウクライナ当局の行為を指摘されると恥ずかしそうに目を伏せるだけです。

今日、西側諸国はキエフ公が最近行っているもう一つの魔女狩りについても沈黙しています。ゼレンスキーが、反汚職機関や彼とその側近に対する刑事事件を無視し、これらの機関を検事総長を通じて彼に服従させる法律を可決したことを知りました。現在、彼の側近は、数十億ドルの予算資金と西側援助の横領を隠すため、書類を破棄しています。暴露された証拠書類を受け取った後、ウクライナ国内外の否定的な反応に対応する形で形式的に後退したものの、西側の圧力で作られ、汚職への解毒剤とされた機関への批判が欧州の首都から聞こえています。しかし、今日ここではその声は聞こえませんでした。

リヴィウのスラヴァ丘記念施設の冒涜についても触れざるを得ません。これは、ファシズムの無数の犠牲者やナチズムと戦った人々の記憶への侮辱です。ウクライナ当局は、ソビエト連邦の不滅の功績を無視し、355人のソビエト兵士の遺骨を無慈悲に発掘しました。西側の代表や国連事務局は、ウクライナのネオナチの恥ずべき行為を非難する勇気を見つけられませんでした。これは、国連総会が毎年採択する、ナチズムの英雄化やネオナチズム、現代のレイシズムや人種差別、外国人嫌悪、不寛容を助長する行為と闘う決議に反するものです。

では、なぜ今日の会合が招集されたのか?私が述べた問題を議論するためではないとすれば、単にウクライナ問題を安全保障理事会で人工的に維持し、ガザでの虐殺と人道的大惨事の影でロシアを批判するためです。私たちは、キエフ政権の軍事インフラを破壊し、NATOが強いた戦争の条件下で必要なことを行っています。民間施設は攻撃しておらず、被害はウクライナ軍の行動によるものです。ウクライナ人はロシアの攻撃ではなく、自国の兵士を恐れています。私たちは彼らと戦わず、ウクライナを西側の反ロシア計画の犠牲としたキエフ政権と戦っています。西側の軍事支援が増えれば、私たちの攻撃も増えます。これは私たちの選択ではありません。私たちは一貫して外交によるウクライナ危機の解決を提案してきましたが、西側はそれに満足せず、ウクライナ人の手でロシアと戦おうとしています。ウクライナ人が減っても西側は気にしません。キエフの腐敗政権がゼレンスキーとその一派の保身を図り、国の未来を危険に晒すのを西側は見ず、7月31日の私たちが招集する会合で、ウクライナ紛争の外交的解決を妨げる行動、特にイスタンブールでのロシア・ウクライナ直接交渉の妨害について詳しく議論します。

ご清聴ありがとうございました。

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2025.07.28

民主主義を支える「ディープ・ステート」

 「ディープ・ステート」という言葉は、秘密裏に国家を操る不透明な勢力を連想させ、陰謀論の代名詞として広まった。しかし、このイメージは、その陰謀論的な意味合いを除いたとしても、端的に言って誤謬であるかに思われる。しかし、著名な政治学者のフランシス・フクヤマは、2023年に『Asia Pacific Journal of Public Administration』誌に掲載された論文「ディープステートの擁護」で、この用語をあえて再定義した。
 元来、トルコやエジプトで民主的統制を逃れる治安官僚や軍部のネットワークを指していたこの「ディープ・ステート」という奇妙な用語は、現在、アメリカの保守派によって、連邦政府の官僚機構を攻撃するための道具に変えられている。例えば、トランプ政権下では、FBIや司法省の職員が「ディープ・ステート」の一員として非難され、選挙で選ばれていない「裏の権力」とレッテルを貼られる。
 フクヤマはまずこれの陰謀論的な面を明確に否定した後、新たに「ディープ・ステート」という概念を、米国の行政国家は議会の監督や情報公開法の下で高い透明性を保ち、市民のニーズに応える不可欠な仕組みであると再定義した。その再定義は、単なる言葉の修正ではなく、政治的レトリックが公共の信頼を損なう現状に対抗する戦略でもある。
 トランプ支持として、現状、あたかも仮住まい的に加担する保守派からリベラル派への攻撃は、官僚機構を悪者扱いすることで、民主主義の機能そのものを弱体化させる危険性をはらんでいる。それでいいのだろうか。ここにフクヤマが注視する論点がある。彼は、通解の「ディープ・ステート」をデコンストラトすることで、ガバナンスの本質を正しく理解する土台を確認しようとする。つまり、公共の議論が陰謀論に流されず、事実に基づく対話に進むためには、「ディープ・ステート」に見える実態を市民が正確に認識する必要があるというのだ。

行政国家の不可欠な基盤としての「ディープ・ステート」
 現代の民主主義国家は、複雑化する社会課題に対応するため、専門的官僚機構に大きく依存しているし、依存せざるを得ない。フクヤマは、行政国家の専門的官僚機構が、公衆衛生、インフラ、経済規制など、市民生活を支える多様なサービスを提供する中核であると強調する。例えば米国の場合、食品医薬品局(FDA)は医薬品の安全性を厳格に審査し、連邦準備制度(FRB)は金融政策を通じて経済の安定を維持する。これらの業務は、高度な専門知識とデータ分析を要し、選挙で選ばれた政治家では対応できない。
 新型コロナウイルスのワクチン開発では、保健当局の官僚が製薬企業や研究機関と連携し、迅速な承認と配布を実現した(そのこと事態にまつわる問題はここではひとまず置くとしよう)。また、老朽化した橋梁や道路の整備も、技術者や行政専門家の計画的な管理があってこそ可能である。フクヤマは、現代政府がこうした専門知識を要する行政においては、専門的官僚機構への「権限委任」なしでは機能しないと指摘する。これらは、複雑な社会を運営するための必然であり、知識社会の欠陥とすることはできない。こうしてみると、保守派が「ディープ・ステート」と呼んで攻撃する官僚機構は、実際には国民の安全と繁栄を支える基盤である。そして、彼らの批判の中核的な論題は、専門性を軽視し、政治的統制を過度に優先する傾向ともなる。そもそも短期的な政治的利益を追求する政治家が専門領域に介入すれば、誤った政策決定や非効率が生じるリスクが高まる。知識社会における民主主義行政国家の役割を正しく評価するために、効率的かつ信頼性の高いサービスを提供する専門的官僚機構という仕組みは必要なのである。

官僚機構の防波堤としての役割
 現代の先進国家において官僚機構は、政治家の元に置かれた単なる政策の実行者ではない。フクヤマは、そこで専門的で中立的な公務員の存在こそが「民主主義の変質」に対する防波堤として機能すると主張する。ポピュリズムや政治的分極化が民主的プロセスを脅かす中、官僚は法の支配と民主的規範を守る重要な役割を担わなければならない。例えば、非自由主義的なポピュリストが選挙で勝利し、少数派を標的にする政策や、法的根拠のない命令を押し通そうとする場合、官僚は中立性を保ち、違法な要求に抵抗する必要が生じる。現在のトランプ政権下で、官僚が不適切な政策への協力を拒否し、議会や司法の監視を支えた例が報告されているが、フクヤマは、この「行政抵抗」は民主主義を守るために規範的に正当化されると示唆する。こうした役割は、「ディープ・ステート」を否定的なイメージから、民主主義の安定に貢献する存在へと転換させる。結局のところ、ポピュリズムが台頭する現代において、専門的官僚機構は、選挙で選ばれた指導者が暴走するのを防ぐ最後の砦として、ますます重要性を増している。
 しかし、ここで官僚は倫理的ジレンマに直面する。中立性と政治的服従を重視する伝統的倫理が、多数の市民の総意としての民主主義の退行を助長するリスクをも生むからである。この緊張は、官僚が単なる技術的実行者ではなく、民主的原則の守護者としての役割を果たす倫理的な要請を浮き彫りにする。

ガバナンスの弱体化とパトロネージの復活
 フクヤマは、「ディープ・ステート」を弱体化させる試みは米国政府の深刻な機能低下につながると警告している。保守派からのリベラル政治体制への攻撃は、専門的官僚機構を解体し、19世紀のパトロネージ制度への回帰を招くリスクをはらむ。
 パトロネージ制度とはは、能力や専門知識ではなく、政治的忠誠心に基づく任命を特徴とするものである。例えば、19世紀のアメリカでは、政府の職が政治的支持者に報酬として与えられ、腐敗や非効率が蔓延した。現代でも、官僚機構が弱体化すれば、医薬品の承認や経済政策が政治的圧力に左右され、市民の安全や経済の安定が脅かされる。
 フクヤマ的には、2020年のパンデミック対応では、専門家主導の迅速な意思決定が命を救ったとみて、政治的介入は混乱や遅延が生じた可能性があることになる。しかし、しかし、パンデミック対応が「ワクチン」の対応となる際は、アンソニー・ファウチにまつわるパトロネージ制度的な様相もあった。この問題は、フクヤマ自身が専門知識を欠く側面を逆説的に示している。

専門的官僚機構の価値を再確認する
 フクヤマの「ディープ・ステート」擁護論は、ポピュリズムや反体制感情が高まる現代において、専門的官僚機構の価値を再評価する緊急性を示している。再定義された「ディープ・ステート」は、民衆から乖離した専制的な力ではなく、サービス提供、技術的専門知識、民主主義の保護に不可欠な存在とされる。
 もちろん官僚機構には本来的な課題がある。例えば、過剰な介入や権限委任の不足は、非効率や硬直性を生む可能性がある。これらは構成国民から乖離した官僚機構であるEU政府のバランスを欠いた独創にも見られる。
 それでも、専門的な官僚機構は、慎重な管理と既存の監督メカニズムの活用で対処すべきであろう。議会の監視や情報公開法は、官僚の説明責任を確保する強力なツールだが、現状では十分に活用されているとはいえない。
 フクヤマの論文はアメリカに焦点を当てているが、その教訓はアジア太平洋地域を含む世界の民主主義に適用可能である。日本の厚生労働省やシンガポールの公共サービスは、概ね、専門性と中立性を基盤に国民の信頼を維持している。
 民主的制度の長期的な健全性は、行政国家における専門知識の役割を正しく理解し、擁護する能力にかかっている。ポピュリストの攻撃が今後も続くことが予想されるなか、専門的官僚機構の価値を再確認することは、透明性と説明責任を確保する実践的な努力を求める。この取り組みは、民主的ガバナンスの未来を支える鍵でもあるだろう。

 

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2025.07.27

機密解除されたオバマ政権時代の監督報告書について

記者会見書き起こし:機密解除された監督報告書について
https://www.whitehouse.gov/videos/press-secretary-karoline-leavitt-briefs-members-of-the-media-july-23-2025/
日付:2025年7月23日
話者:ホワイトハウス報道官(キャロライン)、国家情報長官トゥルシー・ギャバード、記者たち

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 過去数日間、国家情報長官トゥルシー・ギャバードは、元大統領バラク・オバマとオバマ政権の幹部たちが、2016年のトランプ大統領の選挙勝利を妨害し、アメリカ国民の民主的な意思を損なおうとしたことを示す衝撃的な新証拠を明らかにしました。
 公には平和的な政権移行に従事しているように見せかけながら、裏では、元大統領オバマは国民の間に不和をまき、トランプ大統領を妨害するために、悪質な手段を講じました。
 今日ここにいる国家情報長官が公開した新たな証拠は、オバマ政権が政治的な意図で操作された情報をでっち上げ、それがトランプ大統領に対する根拠のない中傷の正当化に使われ、彼が大統領就任の宣誓を行う前からその勝利を非合法化しようとしたことを裏付けています。
 真実は、トランプ大統領がロシアと何の関係もなかったということです。そして、ロシア共謀疑惑は、最初からアメリカ国民に対して行われた大規模な詐欺でした。
 最悪なのは、オバマがこの真実を知っていたこと、そしてこの詐欺に関与した他の腐敗した役人たち、例えば元CIA長官ジョン・ブレナン、元国家情報長官ジェームズ・クラッパー、元FBI長官ジェームズ・コミー、元FBI副長官アンドリュー・マッケイブ、その他多くの者たちもそれを知っていたことです。
 国家情報長官ギャバードの報告書は、私たちがすでに知っていたことをさらに裏付けています。共謀も腐敗もありませんでした。バラク・オバマと当時の政治的に利用された情報機関以外には。
 これはアメリカ史上最大の政治スキャンダルの一つです。そして、今日この部屋にいる一部のレガシーメディア、例えばニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの記者たちは、この詐欺を広めたことで、ばかばかしくもピューリッツァー賞を受賞しました。
 これらの賞は、受賞したジャーナリストから剥奪されるべき時がとっくに来ています。民主党や情報機関が文脈を無視した偽の情報を提供して、虚偽の政治的物語を押し進めるための政治的偽情報の拡散は、ジャーナリズムではありません。
それでは、国家情報長官トゥルシー・ギャバードに、この件についてさらに詳しく話してもらい、その後で質疑応答に移ります。トゥルシー、ありがとう。

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 ありがとうございます。こんにちは。今日、私たちは2020年9月に作成された機密解除された監督多数派スタッフ報告書を公開しました。
 今日公開する衝撃的な内容は、すべてのアメリカ人に懸念されるべきものです。これは民主党や共和党の問題ではありません。これは我々の民主共和国の完全性と、アメリカの有権者が投じた票が正当にカウントされるという信頼に関わる問題です。
 オバマ大統領と彼の国家安全保障チームが、虚偽であると知っていた情報コミュニティ評価(ICA)の作成を指示したことを示す、反論の余地のない証拠があります。
 彼らは、ロシアが2016年の選挙に介入してトランプ大統領の勝利を助けたという、作り上げられた物語を推進し、それが本当であるかのようにアメリカ国民に売りつけたことを知っていました。
 それは本当ではありませんでした。今日公開した報告書は、彼らがどのようにこれを実行したかを詳細に示しています。彼らは粗雑な情報源から結果をでっち上げ、虚偽の主張を否定する信頼できる情報や証拠を抑圧しました。彼らは情報コミュニティの伝統的な手法や基準を無視し、アメリカ国民から真実を隠しました。
そうすることで、2016年11月の選挙でドナルド・トランプを選んだアメリカ国民の意思を損なおうと共謀しました。彼らはメディアのパートナーと協力してこの嘘を広め、最終的にトランプ大統領と彼の政権の正当性を損ない、多年続くクーデターを仕掛けました。
 私たちが今日ここにいるのは、アメリカ国民に真実を知る権利があるからです。彼らには説明責任と正義を求める権利があります。
 私は、オバマ大統領が指示し、2017年1月に公開された情報コミュニティ評価の主張を調査した下院情報委員会の報告書の主要な発見について説明します。
 まず、2016年の選挙に関するプーチンの主な関心は、特定の候補者を支持することではなく、米国の民主的プロセスへの信頼を損なうことでした。
 実際、この報告書は、プーチンが選挙前にヒラリー・クリントンに関する妥協的な情報を漏らすのを控え、選挙後にモスクワがクリントンの大統領職を弱体化させるためにそれを公開する計画だったことを示しています。
 オバマ大統領が指示した2017年1月の情報コミュニティ評価では、当時のCIA長官ジョン・ブレナンと情報コミュニティが、プーチンがヒラリー・クリントンに関する最もダメージの大きい情報を彼女の勝利後まで保持していたことを示す情報を意図的に抑圧しました。
 報告書は、ロシアとプーチンが持っていたヒラリー・クリントンに関する情報について詳細に記述しています。これには、複数の米国宗教団体との秘密の会合、クリントン国務長官の選挙キャンペーンを支援する代わりに国務省から大幅な資金提供を約束した可能性のある犯罪行為が含まれます。
 また、国務省の職員がヒラリー・クリントンの大統領選挙キャンペーンを支援するために国務省の後援を示す文書もありました。
民主党全国委員会(DNC)の機密性の高いメールには、ヒラリーの「精神的な問題」、制御不能な怒り、攻撃性、陽気さの証拠が記載されており、当時のクリントン国務長官が毎日重い鎮静剤を服用していたとされる内容もありました。
 当時のCIA長官ブレナンと情報コミュニティは、プーチンがトランプに対して明確な「好意」を持っていたという、作り上げられた偽の物語を作成するために、情報を見誤り、疑わしい低品質の情報源に依存しました。
 ブレナンと情報コミュニティは、クリントン陣営が資金を提供した、信頼性が否定されたスティール・ドシエを参照して「ロシアの計画と意図」を評価し、このドシエに情報価値があると誤って示唆し、法制定者を誤解させました。
 情報コミュニティは、プーチンがトランプを支持したという評価の主要な結論に矛盾する重要な情報や信頼できる情報を排除し、選択的に引用しました。
情報コミュニティ評価は、一部のロシア情報当局が「ヒラリー・クリントンの勝利を計画していた」ことや、トランプもクリントンもロシアの利益を尊重しないと評価していた信頼できる情報を省略しました。
 金曜日に公開したODNI文書に反映されているように、2016年11月の選挙に至る数か月の間に発表された複数の情報コミュニティ評価は、ロシアが米国の選挙結果に影響を与える意図も能力もないと結論付けていました。
 2016年12月5日、FBIとODNIは下院情報委員会に選挙後の最初の機密ブリーフィングを行い、プーチンがトランプを選出しようとしたと述べたものはありませんでした。
 2016年12月8日に作成された大統領の日報は、ロシアや犯罪者が投票数に影響を与えなかったと述べていました。この文書は、公開の数時間前に「新たな指示」を理由に取り下げられました。
 2016年12月9日、国家安全保障会議が開催され、オバマ大統領の上級国家安全保障当局者、CIA長官ブレナン、オバマの国家情報長官クラッパー、スーザン・ライスらが集まりました。
 その秘密会議の後、クラッパーの補佐官が情報コミュニティに「ロシア選挙干渉に関するタスク」と題するメールを送信し、大統領の要請に基づいて新たな評価を作成するようODNIリーダーに指示しました。
 今日公開した下院情報委員会の監督報告書は、「通常の情報コミュニティ分析とは異なり、情報コミュニティ評価はオバマ大統領が直接指示した注目度の高い成果物であり、情報コミュニティの機関長を指揮し、1人の主要な起草者を含むわずか5人のアナリストで作成された」と明らかにしています。
 これは、情報コミュニティ全体の意見を反映する情報コミュニティ評価を作成する通常のプロセスではありません。
 この情報コミュニティ評価の作成は、大統領と上級政治的任命者、特に元CIA長官ジョン・ブレナンからの異常な指示を受けました。
 下院情報委員会の監督報告書はまた、同じ12月9日に、ブレナンが以前の評価の公開から差し控えられていた「基準に満たない報告」をロシアの活動について公開するよう命じたことを示しています。その情報は「長年の公開基準を満たしていない」と判断されていました。
 オバマが指示した評価で後に使用された情報の一部は、ベテランCIA職員の反対を押し切って、「不明確または知られていない情報源」からのものでした。
 情報委員会の監督報告書は、CIA長官ブレナンがオバマが指示した情報評価に異議を唱えた上級CIA職員を無視し、「プーチンがトランプを選出しようとした直接的な情報はない」と述べたと明らかにしています。
 しかし、オバマが指示した評価は2017年1月6日に公開され、「プーチンとロシア政府は、可能な限りクリントン国務長官を中傷し、彼女をトランプと不利に比較することで、大統領選出者トランプの選挙の可能性を助けようとした」と明確に述べています。
 当時ブレナンとコミーが率いるCIAとFBIはこの判断に高い確信を表明し、NSAは中程度の確信を表明しました。
 しかし、今日公開した報告書が示すように、情報コミュニティ評価は、プーチンがトランプの勝利を目的としたことを示す報告を引用していませんでした。実際はその逆です。
 スティール・ドシエに関しては、2017年1月の情報評価の作成にオバマ政権が使用した情報源の一つが、信頼性が否定され、検証されていないスティール・ドシエであったことが今わかっています。
 下院情報報告書は、「当時のCIA長官ブレナンが、ドシエがこの情報評価に一切組み込まれていないと公に主張していたことに反して」と述べています。ドシエは情報評価の本体テキストで参照され、さらに2ページの評価付属書で詳細に記載されました。
 ジョン・ブレナンは嘘をつき、オバマ大統領が指示したこの情報評価でドシエを使用したことを否定しました。彼はそれが信頼性を失った、政治的に動機づけられたでっち上げの文書であることを知っていたからです。彼はそれでも上級CIA当局者にその使用を指示しました。
 CIA職員は下院情報委員会スタッフに調査中に、「CIA長官ジョン・ブレナンはそれを削除することを拒否した」と述べ、ドシエの多くの欠点を指摘された際、「そう、でも本当っぽくないか?」と答えたとしています。
 オバマ大統領、ヒラリー・クリントン、ジョン・ブレナン、ジェームズ・クラッパー、ジェームズ・コミー、その他メディアの代弁者たちは、2017年1月の情報コミュニティ評価で作成されたこの作り上げられた物語を、まるで事実であるかのように高い確信をもって繰り返し、意図的に嘘をつきました。
 これが、下院多数派スタッフの報告書に記載されている詳細の簡単な要約であり、金曜日に公開した文書で発表した結論と同じ結論に至ります。
 これの影響は広範囲に及び、民主共和国の完全性に関わります。それは、退任する大統領が、アメリカ国民の選挙の意思を損ない、米国の次期大統領ドナルド・トランプに対する長年にわたるクーデターを仕掛けるために、情報のでっち上げを指示したことに関係します。ありがとう。

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 トゥルシー、ありがとう。このトピックについて質問を受け付けますが、ディレクターがこのトピックのために時間を割いている間だけです。彼女は後に退席します。その後は他の問題について質問を受け付けます。ディレクター・ギャバードへの質問がある方は、どうぞ。いつものように新しいメディア席から始めます。エミリー、どうぞ。

記者(エミリー):
 ありがとう。ディレクター・ギャバード、この質問はあなたへです。この新しい情報は、元大統領オバマを犯罪行為に関連させると考えますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 私たちはこれらの文書をすべて司法省とFBIに引き続き送付し、この証拠の犯罪的影響を調査します。そうです。私たちが発見し公開した証拠は、オバマ大統領がこの情報評価の製造を主導したことを直接示しています。それを確認する複数の証拠と情報があります。

記者(エッド):
 ディレクター・ギャバード、ありがとう。2つの質問ですが、まず、昨日、大統領は、元大統領がクーデターを主導したと推測しました。今見ているものに基づいて、オバマ大統領が反逆罪を犯したと考えますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 犯罪の起訴は司法省に委ねられます。私は弁護士ではありませんが、以前に述べたように、情報コミュニティが作成した複数の評価に直接矛盾する偽の、でっち上げられた情報文書を作成する意図とその後の行動を見ると、アメリカ国民と我々の共和国、そしてトランプ大統領の政権を損なおうとする長年にわたるクーデターと反逆的な陰謀としか形容できません。
 上院情報委員会はこれを数年間調査し、現在の国務長官マルコ・ルビオがメンバーだったその委員会は、超党派で政治的干渉がなかったと全会一致で同意しました。司法省も長年にわたる調査で政治的干渉がないと結論付けました。それでは、5万フィートの高さから、これら2つを反駁する新たな証拠は何かを説明してください。

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 もちろんです。国家情報長官としての私の役割は、繰り返しになりますが、この役割に就いた時に述べたように、アメリカ国民に真実を伝え、情報コミュニティが政治的に利用されないことを保証することです。ですから、私の言葉を信じてくださいとは言いません。メディアには正直なジャーナリズムを行い、アメリカ国民には私たちが公開した約200ページの文書を自分で確認してほしいとお願いします。そこには、複数の参照や例、そして今日もなおこれらの機関で働く上級情報専門家のコメントが含まれ、オバマ大統領がこの作り上げられた偽の物語を推進するために情報コミュニティ評価の作成を指示し、トランプ大統領の政権を損なおうとする長年にわたるクーデターにつながったという結論を裏付けています。
 前の2つの調査がそれを見逃したのか、隠蔽したのか、どちらだと思いますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 証拠を見てください。証拠を見れば、真実がわかります。

記者(ジョン):
 キャロライン、ディレクター・ギャバード、ありがとう。この文書は、先週の金曜日に機密解除されましたよね、間違いないですか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 はい、先週の金曜日に最初の分を公開しました。

記者(ジョン):
 トランプ大統領が米国大統領であるのはこれが初めてではありません。彼は2017年から2021年まで大統領でした。トランプ大統領の前のDNIがこれらの文書を機密解除できたはずです。なぜその時のDNIがそれを行わなかったのでしょうか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 その時に何が起こったかについては話せません。トランプの最初の政権下では複数のDNIがいました。そして、トランプ大統領は政府内で彼の政権を損なおうとした多くの課題に直面しました。それは明確に記録されています。私が話せるのは、このトランプ政権内でこれが最初に調査を開始したことの一つであり、調査の結論に基づいて結果を公開したということです。

記者(ジョン):
 2つ目の質問は、世界中の情報機関がロシアについて、米国、フランス、ドイツ、英国の選挙に影響を与えようとしたと言っていることに関連します。それに反対しますか?ロシアは選挙に影響を与えようとする悪質な主体だと考えますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 トランプ大統領が機密解除を命じ、私たちが機密解除して公開した情報に立ち返ります。その情報は、ロシアが米国の選挙に不和と混乱をまくことを意図していたことを示しており、特定の候補者を支持または反対するものとは明確に異なります。オバマが作り上げた情報文書は、ロシアがドナルド・トランプを支持し、彼が選出されるのを助けようとしたと主張しています。
 最も重要な点に戻ると、トランプ大統領の選挙の正当性を損ない、ホワイトハウスに送ることを選んだアメリカ国民の意思を損なおうとする意図です。

記者(リーガン):
 ディレクター・ギャバード、ありがとう。デイリー・コーラーのリーガン・リーです。あなたは、オバマ政権はロシアが選挙を盗んでいないことを示す2016年12月の大統領の日報を公開しなかったと述べました。トランプは当時次期大統領としてこれらのブリーフィングを受けていました。この情報がブリーフィングから除外されたのは、トランプ次期大統領に見られると困るからだと考えますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 その文書が取り下げられた理由として与えられた「新たな指示」が何であったかを具体的に示す文書はありません。ちなみにその文書は、先週の金曜日に私たちが公開するまで公開されていませんでした。ヒラリー・クリントン陣営から始まったスティール・ドシエによるロシア疑惑の物語に矛盾する情報コミュニティからの文書をトランプ大統領に見せたくなかったと推測できます。

記者(リーガン):
 もう一つ、キャロラインまたはあなたへの質問です。昨日、大統領はオバマが反逆罪を犯したと言いました。あなたやホワイトハウスは、最高裁の免責決定がオバマを訴追から保護すると考えますか?

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 大統領のこの件に関する気持ちについて話せます。彼は昨日、オーバルオフィスで皆さんと話しましたが、今朝も彼と話しました。彼は、我々の国に対してこの詐欺を犯した者たち、憲法を裏切った者たちが徹底的に調査され、責任を負うことを望んでいます。そして、これは10年間続いています。
 ディレクターが述べ、機密解除したすべての内容に基づいて、この部屋にいる皆さんはその報告書を読み、情報を確認すべきです。残念ながらそれは行われていません。この詐欺を広めた多くの人々—クラッパー、アンディ・マッケイブ、ジェームズ・コミー、その他多く—がこの部屋の主要なネットワークに雇われ、テレビで嘘と知りながらこれらの嘘をまき散らしています。
 2016年とその後の数年を振り返ると、トランプの全大統領在任期間は、民主党によって広められたこのスキャンダルに巻き込まれていました。この都市の主要な民主党当局者、つまりアダム・シフ、ヒラリー・クリントン、エリザベス・ウォーレンがテレビでアメリカ国民に「ドナルド・トランプはロシアの資産だ」と言いました。それは嘘でした。彼らは常にそれを知っていました。
 ヒラリー・クリントン自身は、トランプ大統領がプーチンの操り人形になると言いました。当時のティム・ケイン上院議員は、トランプ大統領をウラジミール・プーチンの弁護人と呼びました。アダム・シフは、「議員がアメリカ国民に『あなたが知らないことを知っている。それは機密情報で、話せない』と言うのは最悪のことだ」と言いました。そして彼は「私はそれ以上のことがあると言える。詳細には触れられないが、状況証拠以上のものがある」と述べました。
 この部屋やこの国のジャーナリストで、アダム・シフに「何を言っているの?どんな証拠があるの?」と追求した人は十分ではありませんでした。皆ただ嘘を広めました。そしてそれは弾劾につながり、国の分断につながりました。残念ながら、この部屋のメディアを聞いて多くのアメリカ人がこれらの嘘を信じました。それは完全な詐欺であり、スキャンダルであり、大統領はそれに対する説明責任を求めています。

記者(フィル):
 ディレクター・ギャバードへの質問です。元大統領オバマの報道官は今週初め、「先週公開された文書は、ロシアが2016年の選挙に影響を与えようとしたが、投票を操作できなかったという広く受け入れられた結論を否定するものではない」と声明で述べました。オバマ元大統領や議会の一部の人々が、政権が投票機のハッキングの主張と干渉の主張を混同していると批判していることに対し、どう答えますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 オバマ元大統領の事務所や、これらの文書の公開による透明性を批判する人々がアメリカ国民に不利益を与えていると思います。彼らは、アメリカ国民と我々の民主共和国に対する歴史的なスキャンダルと否定的な行動における自身の責任から目をそらそうとしています。
 その声明への答えは、私たちが公開したすべての文書に明確に記載されています。ロシアが選挙に不和をまく行動を取ったが、特定の候補者を支持または反対するものではなかったことを示しています。

記者(フィル):
 あなたは長年、政府の政治的利用に反対してきました。オバマ政権の当局者や元大統領を訴追対象とすることは、さらなる政治的利用であり、底辺への競争だという批判にどう答えますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 それは真実を求めるアメリカ国民に対する非常に失礼な攻撃だと思います。彼らは、我々の民主共和国の完全性に対する信頼と信仰を持つ権利があります。それは、オバマ大統領が嘘で満たされたこのでっち上げられた偽の情報文書を指示することで損なわれました。彼はそれが嘘であることを知っており、その後のすべての行動に使われる可能性があることを知っていました。

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 そして、フィル、私たちが見てきたその政治的利用に対して説明責任が必要だと付け加えます。トランプ大統領ほど政治的に利用された政府の被害を受けた人はいません。この政治スキャンダルだけでなく、彼の家が家宅捜索されたことを思い出してください。ですから、証拠と情報に基づいてオバマ元大統領について話すなんてどうだと非難するのは非常に不誠実だと思います。ドナルド・トランプ元大統領の家が家宅捜索され、彼が犯していない罪でマンハッタンの法廷や全国の多くの法廷に座らされ、弾劾され、起訴され、国民全体がそれを見ました。
 それが司法の政治的利用です。今、大統領が戻ってきたのは、アメリカ国民が真実を見たからです。約8000万人のアメリカ人が彼をこの職に再選し、彼は正義と説明責任が必要だと信じています。そして、彼を再選した約8000万人のアメリカ人もそれに同意していると思います。

記者(ケイトリン):
 キャロライン、ありがとう。ディレクター・ギャバードへの2つの質問です。この件について、ディレクター・ギャバード、あなたは過去の情報報告書や評価、特にエッドが指摘した2017年のものに言及しました。それは上院情報委員会のすべての共和党員、現在の国務長官マルコ・ルビオが当時の議長代理として署名し、「ロシアの共謀の証拠は見つけられなかったが、非常に懸念すべきロシアの干渉の反論の余地のない証拠を見つけた」と声明で述べています。1つ目は、彼が当時述べたその声明が間違っていると言っていますか?
 2つ目は、大統領があなたの情報評価が間違っていると言った後、あなたが大統領との関係を改善するためにこれらの文書を今公開していると考える人々に何と言いますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 まず、あなたが述べたことを訂正したい。上院情報委員会の報告書を情報コミュニティと同じものと言いましたが、上院情報委員会は国家情報長官室とは全く異なる機能を持っています。機密解除され公開された証拠と情報は反論の余地がありません。ルビオ国務長官についてはキャロラインに話してもらいます。

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 両方の質問に答えます。まず、ルビオ国務長官について。彼は2020年の上院情報委員会報告書後に声明を出し、「我々が発見したことは懸念すべきものだ。ロシアの干渉の反論の余地のない証拠を見つけた」と言いました。これは国家情報長官が皆さんに確認したように、ロシアが不信と混乱をまこうとしていたことです。
 しかし、当時ルビオ国務長官が言わなかった、民主党が言っていたことの不満は、情報コミュニティが大統領がロシアと共謀した、大統領の息子がロシアと秘密の会合を持っていたという物語を作り上げていたことです。これらは決して本当ではありませんでした。
 彼はまた、「当時、コミーが率いるFBIがスティール・ドシエの方法論や情報源を検証せずに受け入れ、依存する姿勢をとったことは非常に懸念すべき行動だった」と述べました。この部屋の多くのメディアが真実として報道したスティール・ドシエは、クリントン陣営によって資金提供され、でっち上げられたものでした。
 2つ目の質問、ケイトリン、彼女が大統領との関係を高めるためにこれを公開したと言うのは誰ですか?

記者(ケイトリン):
 大統領はイランに関して彼女を公に批判しました。彼女は間違っていると言い、私に「彼女は話していることがわからない」と言いました。それはエアフォース・ワンのカメラの前でした。

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 国家情報長官が大統領との関係を高めるために証拠を公開すると示唆しているのは、この部屋で大統領の閣僚間に不信と混乱をまこうとする人々だけで、それはうまくいっていません。
 あなたの質問に直接答えます。私は毎日米国大統領と一緒にいます。彼はギャバード長官に最大の信頼を寄せています。常にそうでしたし、今もそうです。それは大統領の約束を果たすために一つのチームとして働くすべての閣僚にも当てはまります。

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 ディレクター・ギャバードへの他の質問はありますか?その後、他の質問に移ります。クリスチャン、どうぞ。

記者(クリスチャン):
 ありがとう、ディレクター・ギャバード。すでにされた質問のフォローアップを2つ。大統領の最初の任期中の前のDNIについて言及しました。その一人が現在あなたの下で働いているジョン・ラトクリフだと思います。最初の任期中にこの情報が機密解除されなかった理由について彼と話しましたか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 彼はその職に非常に短期間いました。その時に始まった作業を私たちが引き継ぎ、完全に完了しました。私たちはこれを調査し続けています。真実が明らかになる機会を見た追加の内部告発者が今出てきています。キャロラインが言ったように、本当の説明責任を果たすためです。
 説明責任がこの重要な部分です。私たちは真実を示し、明らかにできます。民主主義の完全性への信頼を回復するためには、説明責任が必要です。

記者(クリスチャン):
 あなたは起訴を司法省に委ねると言いましたが、陰謀の時効は5年です。反逆罪以外に何を追求できる可能性がありますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 それはパム・ボンディ司法長官への素晴らしい質問だと思います。私たちはすべての証拠、すべての情報を、編集済みと未編集のバージョンを司法省とFBIに提供しています。

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 最後に一つ、チャーリー、どうぞ。

記者(チャーリー):
 ヒラリー・クリントンに関する情報の信憑性はどうですか?報告書ではDNCから得られたものだとされています。その情報を見ましたか、それともロシアが持っていたものを誇張していたと思いますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 私が目にしたのは、情報委員会が調査を通じて報告したものだけです。重要な点は、ロシアが持っていたとされる情報が情報からわかっているということです。そして重要なのは、もし彼らがオバマ大統領やジェームズ・クラッパー、ジョン・ブレナンらが言っていたように、トランプの選挙を支持するために選挙に影響を与えようとしていたなら、彼らはここで詳述した最もダメージの大きい情報を選挙前に公開してトランプの勝利を助けていたはずです。報告書に残りの詳細があります。
彼らは彼女が選挙に勝つと考えていたため、最もダメージの大きい情報を意図的に差し控え、彼女の大統領就任直前に公開してアメリカに不和と混乱をまく計画でした。

記者(チャーリー):
 ジェフリー・エプスタインについて、国内外の情報機関と何らかのつながりがあった可能性を否定できますか?

国家情報長官トゥルシー・ギャバード:
 それを示す証拠や情報は見ていません。何かそれが変わるものが私の前に出てくれば、大統領の声明を強く支持します。信頼できる証拠が出てくれば、彼はアメリカ国民に見せたいと考えています。

ホワイトハウス報道官(キャロライン):
 素晴らしい。ディレクター・ギャバード、今日の時間をありがとう。忙しい方なので、ここで退席させていただきます。ありがとう。




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2025.07.26

ゼレンスキー政権への抗議デモと反汚職機関の独立性問題

 ウクライナの首都キエフを中心に、2025年7月21日からゼレンスキー大統領とその側近に対する大規模な抗議デモが続いている。このデモは、ゼレンスキー政権が国家汚職防止庁(NABU)と汚職対策検察庁(SAP)の独立性を制限する法案(第12414号)を7月21日に可決したことが発端となったものである。この法案は、最高検察庁にNABUとSAPの捜査への広範なアクセス権や指示権限を与え、実質的にこれらの反汚職機関を政権の統制下に置くもので、政権による「権力の垂直化」や独裁化への動きとして国内外から強い批判を浴びている。デモはウクライナ全土に広がり、2014年のマイダン革命を彷彿とさせる規模と熱気を見せ、政権の不安定さを浮き彫りにしている。

NABUとSAPの設立背景と役割
 NABUは2015年、ポロシェンコ政権下で設立された反汚職機関で、汚職の防止、摘発、捜査を担当する政府の執行機関である。一方、SAPはウクライナ検察庁内に属するが、NABUの捜査や活動が法的に適切に行われているかを監督する独立機関として機能する。
 これらの機関は、米国や欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)の支援を受けて設立され、ウクライナの汚職問題に対処し、西側からの巨額の支援金の透明性を確保することを目的としている。
 特に、2014年のマイダン革命後、EUとの関係強化やビザ自由化の条件として、反汚職機関の設立が求められた経緯がある。しかし、両機関は設立以来、汚職摘発の実績が限定的で、政権や有力者への影響力が十分でないとの批判も受けてきた。それでも、2023年には最高裁長官の3百万ドルに上る収賄事件や、元国防相オレクシイ・レズニコフの捜査など、注目すべき成果を挙げていた。

チェルニシェフ氏の汚職疑惑
 抗議デモの直接的な引き金は、NABUがゼレンスキー大統領の最側近であるオレクシー・チェルニショフ(Олексій Михайлович Чернишов)氏を汚職容疑で告発したことにある。チェルニショフ氏は、2022年から2025年7月16日まで副首相兼国民統一相を務め、それ以前はウクライナ国営石油会社ナフトガスのCEOとして活躍した実業家で、ゼレンスキー大統領とは家族ぐるみの親密な関係にあり、特に両者の夫人が親しいと報じられている。チェルニショフ氏は、ゼレンスキー政権の国際的なネットワーク構築に重要な役割を果たし、西側諸国での支持拡大や、欧米に逃れたウクライナ避難民の動員を通じた政権のイメージ戦略に多額の資金を投入していたとされる。
 2025年6月中旬、NABUはナフトガス時代にチェルニショフ氏の部下だった複数の人物を不正容疑で告発し、その後、チェルニショフ氏自身も6月23日に汚職容疑で正式に告発された。この告発は、チェルニショフ氏がゼレンスキー大統領と共にオーストリアへ出張する直前に表面化したため、政権中枢に衝撃を与えた。チェルニショフ氏は逮捕を恐れて一時キエフに帰国せず、国外逃亡の噂が広がったが、ゼレンスキー大統領の保証を受けて最終的に帰国したと推測されている。チェルニショフ氏が逮捕されれば、政権内部の汚職に関する詳細が明るみに出る可能性が高く、ゼレンスキー政権にとって致命的な打撃となりかねない状況だった。

ゼレンスキー政権の強硬な対応とデモの激化
 チェルニショフ氏の告発を受け、ゼレンスキー政権はNABUとSAPへの対抗措置を迅速に講じた。7月21日、ウクライナ保安局(SBU)はNABU職員の調査を開始し、SAPの事務所を捜索した。さらに翌22日、ゼレンスキーの側近であるアンドリー・イェルマーク長官が実質的に影響力を持つウクライナ最高会議は、法案第12414号を賛成263票(全324票中)で可決した。この法案は、戦時下において最高検察庁がNABUの全事件にアクセスし、担当検察官の交代や捜査官への強制指示を可能にするもので、NABUとSAPの独立性を事実上奪う内容だった。この動きは、イェルマーク長官による権力集中化の一環と見られ、ゼレンスキー政権が反汚職機関を掌握し、チェルニショフ氏関連の捜査を封じ込めようとする意図が明らかだった。
 しかし、この法案は国内外で猛反発を招いた。キエフでは7月22日夜、約2000人の若者や退役軍人を中心とした抗議デモが発生し、「恥を知れ」「議会は寄生虫だらけ」「法案12414は1984のようだ」といったプラカードが掲げられた。
 デモはリビウ、チェルニヒウ、ハルキウ、ポルタワ、ドニプロ、オデッサなどウクライナ各地に拡大し、参加者はゼレンスキー大統領とイェルマーク長官の辞任や法案への拒否権発動を強く求めた。戦時下の集会禁止令にもかかわらずデモが続いたことは、国民の怒りの深さを示している。現地メディアは、これが2022年のロシア全面侵攻以来最大の反政府デモだと報じた。

西側諸国の強い批判と法案の行方
 NABUとSAPは西側諸国が支援する機関であり、法案第12414号はEUや米国から強い批判を浴びた。EUのフォンデアライエン欧州委員長の報道官は、法改正がウクライナの「法の支配」と反汚職の取り組みに与える影響に「深い懸念」を表明し、ウクライナ政府に説明を求めた。米国の共和党上院議員リンゼイ・グラハムらは7月24日、ゼレンスキーが署名した法案が「ウクライナの投資環境や国民・国際社会の期待に反する」との声明を発表した。ドイツの外務省やフランスの欧州担当閣僚も、ウクライナのEU統合プロセスへの悪影響を警告した。ウクライナは2022年にEU加盟候補国として承認されており、反汚職改革はEU加盟の核心的条件であるため、この法案はウクライナの欧州統合の道を大きく損なうとされた。
 国内外の圧力に直面したゼレンスキー大統領は、7月24日、採択からわずか2日で法案第12414号を事実上廃止する新法案を最高会議に提出した。この新法案は、最高検察庁のNABUへの指示権限や検察官への命令権を削除し、NABUとSAPの独立性を元の体制に戻す内容である。ゼレンスキーはこの変更について、「公平性が重要」と述べ、EUや米国などの「外国のパートナー」と協議した結果だと説明した。しかし、一部では、政権がチェルニショフ氏関連の捜査情報をNABUから確保した後、時間を稼いで法案を撤回したとの見方もできる。NABUとSAPは共同声明で、独立性を奪う法案に反対し、国民の支持に感謝を表明した。

ウクライナの汚職問題と国際的背景
 ウクライナの汚職は根深く、2024年腐敗認識指数では180カ国中105位と低い評価だが、NABUとSAP設立以来、39ポイント改善した。両機関は、最高裁長官の収賄事件や元国防相の捜査など、汚職摘発で一定の成果を挙げてきた。しかし、今回の法案騒動は、ゼレンスキー政権が反汚職機関の独立性を損なうことで、西側との信頼関係やEU統合の進展を危うくしたと広く批判されている。現地メディア『ウクライナ・プラウダ』は、法案が「欧州統合に致命的な打撃を与えた」と報じ、『ゼルカロ・ティジニャ』は「ゼレンスキーが独裁への一歩を踏み出した」と警告した。
 7月26日時点で、新法案はまだ審議・可決されておらず、正式な成立は未確認。議会での反対や政治的駆け引きにより、可決が遅れる可能性は残る。チェルニショフ氏の汚職疑惑やゼレンスキー政権の権力集中化の意図は、独立性回復後もNABUとSAPOの運用に影響を与える可能性を残す。このため、ウクライナ政権は単に西側のメンツを保つための時間を稼ぎ、実際の疑惑の隠蔽を図る課程にあるかもしれない。

今後の展望
 今回の抗議デモと法案騒動は、ゼレンスキー政権の脆弱性と独裁化に向かう徴候を浮き彫りにした。ロシアとの戦争が続く中、国内の政治的混乱はウクライナの団結を損ない、国際的な支援にも影響を与えかねない。BBCなどが伝えるデモ参加者からは「ロシアと戦うだけでなく、政府とも戦わなければならない」との声もあり、国民の不信感を象徴している。
 苦境にあるゼレンスキー政権は、以前にもまして西側との関係修復と国内の信頼回復に迫られている。NABUとSAPの独立性回復は重要だが、チェルニショフ氏の汚職疑惑や政権中枢の不透明性に対する国民の疑念は根強い。ウクライナが西側支援を受け、さらにEU統合の道を進むためには、汚職撲滅と民主的統治の強化が不可欠であり、今後の政権の対応に国内外の注目が集まる。

 

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2025.07.25

タイとカンボジアの国境衝突

 2025年7月24日から、タイとカンボジアの国境地帯で激しい武力衝突が続いている。衝突が発生した地域は、タイのウボンラーチャターニー県とスリン県、カンボジアのオッダーミエンチェイ県で、すでに少なくとも16人が死亡した。タイでは14人の民間人と1人の兵士が犠牲となり、10万人以上が避難している。カンボジアでは1人の民間人死亡が確認され、約1,500世帯が避難している。
 戦闘はロケットや砲撃を伴い、2日目に突入し、スリン県のスポーツ施設は避難所となり、子どもや高齢者が収容されている状況にある。特に1980年代のカンボジア内戦を経験した高齢者からは、今回の戦闘が過去最悪との声が上がる。
 衝突の発端についてだが、両国が互いを非難している状態であり、タイはカンボジア軍がドローンでタイ軍を監視したと主張し、カンボジアはタイ軍がクメール・ヒンドゥー寺院(タ・モアン・トム寺院)付近で両国間の合意を破ったと反論している。タイの暫定首相プムタム・ウェチャヤチャイは「戦争に向かう可能性」を警告し、事態の深刻さを強調している。衝突は、歴史的領土問題とタイの内政不安が絡み合い、ASEANや国際社会の注目を集めている。

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歴史的背景とタイの内政の文脈
 今回のこの紛争の根は、19世紀後半から20世紀初頭のフランス植民地時代に遡る。カンボジアがフランスの保護領だった時期、1907年の仏暹条約で国境が画定されたが、プレアビヒア寺院やタ・モアン・トム寺院周辺の領有権は曖昧なまま残された。1962年、国際司法裁判所(ICJ)はプレアビヒア寺院をカンボジア領と裁定したが、周辺地域の帰属は未解決の状態である。2008年と2011年の衝突では、両国で数十人が死亡し、緊張が繰り返されてきた。近くは、2025年5月、カンボジア兵が死亡する事件が起き、両国関係は過去10年で最悪の状態に陥っていた。
 現下、不安定なタイの内政は、この紛争のエスカレーションに大きく影響している。2024年8月、セター・タビシン前首相が倫理違反で失職し、2025年7月時点でパエトンタン・シナワトラ首相が汚職疑惑で停職中である。この暫定政権下では文民統制が弱まり、軍が主導権を握っている。2025年度のタイの国防予算は前年比15%増の約2,200億バーツ(約66億米ドル)に達し、軍は国境での強硬姿勢を強化している。当然というべきか、軍主導のナショナリズムも高揚し、プレアビヒア寺院を「タイの遺産」とする国民感情が軍事行動を後押ししている状況にある。
 タイは経済的には、2024年のGDP成長率が2.7%にとどまり、2025年8月からの米国による36%関税が輸出産業を圧迫している。経済不振もタイの暫定政権への不満を高め、ナショナリズムを煽ることで国内の団結を図る動きが見られる。

中国と米国の関与
 関連大国の動向も気になる。現状、中国と米国は直接的な軍事介入はないが、両国との経済的・軍事的関係を通じて紛争に影響を与えるだろう。中国はカンボジアの最大の支援国であり、2023年に供与したKS-1C地対空ミサイルや、リアム海軍基地の改修(中国海軍艦船の寄港が可能)を通じて軍事協力を強化した。また、中国はタイに対して、バンコク-昆明間の高速鉄道(総額約5,000億バーツ)などインフラ投資で影響力を拡大している。中国外務省としては今回の事態に「対話による解決」を求め、調停役の可能性を示唆するが、どちらかというとカンボジア寄りの姿勢はタイの警戒感を招いている。タイの軍や保守派は、中国の地域覇権拡大を懸念し、バランスを取るため米国との関係を重視する傾向があり、注視される。
 米国はタイと1954年のマニラ条約に基づく軍事同盟を維持し、毎年実施される「コブラゴールド」演習(参加国20カ国以上、2025年は約7,000人の兵士参加)でタイ軍を支援している。しかし、トランプ政権下の保護主義政策、特に2025年8月からの高関税はタイ経済を圧迫し、反米感情を一部で醸成。米国務省は「即時停戦と民間人保護」を求めるが、タイの内政混乱は米国の影響力を制約している。両大国の関与は、ASEANの非干渉原則や調停能力の限界を浮き彫りにし、地政学的競争が紛争を複雑化させている。その他、EU、オーストラリア、英国も和平を求めるが、直接介入は控えている。

今後の展開と日本の役割
 戦闘は収まる兆しがない。タイの内政不安とナショナリズムはさらなるエスカレーションを招くリスクが高い。軍事衝突が国境全域に拡大すれば、ASEANの経済圏(2024年の域内貿易額は約3.7兆米ドル)や観光業(タイの2024年観光収入は約400億米ドル)に打撃を与える。避難民支援は急務で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は食料や医療物資の不足を報告した。
 ASEAN議長国のマレーシア(アンウォール・イブラヒム首相)は停戦を呼びかけるが、両国の硬直した立場が障害となる。国連安保理は7月25日に協議し、カンボジアのフン・マネット首相は「タイの侵略阻止」を求めたが効果があるとは見られない。というのも、過去の紛争では、一時的な停戦が実現しても領有権問題の未解決が再燃を招いてきた。長期的な和平には、ICJやASEANを通じた領土交渉の枠組みが必要となるが、その基盤はない。
 日本はASEANのパートナーとして、停戦交渉の支援や人道支援で貢献できるはずである。1990年代のカンボジア和平プロセスで日本は資金援助やPKO派遣を行った実績があり、JICAを通じた復興支援や対話促進が有効だ。国連安保理での発言を通じ、平和的解決を後押しすべきである。ただ、現実、日本の首相の顔を浮かべてその期待を持てる人がいるだろうか。

 

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2025.07.24

エプスタイン・ファイル問題とトランプの強硬姿勢

WSJが報じたトランプの名前とエプスタイン文書の意味
 2025年7月23日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、ドナルド・トランプ大統領の名前が、故ジェフリー・エプスタインに関連する司法省の文書に複数回登場したと報じ、米国では大きな話題となっている。
 エプスタインは、性犯罪者として有罪判決を受けた実業家で、2006年のフロリダ州での捜査や2019年のニューヨークでの性的人身売買捜査で注目を集めた人物である。文書にはトランプを含む多くの著名人の名前が記載されているが、これは過去の社交的関係や接触を示すもので、犯罪行為の証拠ではない。WSJ記事でも、トランプがエプスタイン事件で不正行為を犯したと告発された事実はないと明記されている。
 トランプは1990年代から2004年までエプスタインと友人関係にあったが、その後関係は途絶えた。エプスタインの飛行記録にトランプの名前が7回ほど登場するが、これも犯罪性を示すものではない。したがって、名前が文書にあること自体は、特段問題とは言えない。問題は、この報道が政治的論争の火種となり、トランプ政権に隠蔽疑惑や党内対立を引き起こしている点にある。
 なお、日本ではエプスタイン文書についてあまり取り上げられないようなので、概略を述べておこう。エプスタイン文書(ファイル)、フロリダやニューヨークでのエプスタインの捜査に関連する大陪審記録や司法省の資料を指す。これには、交友関係、飛行記録、被害者情報などが含まれるが、多くは未公開で、フロリダ州のロビン・ローゼンバーグ判事が州の大陪審秘密保持ガイドラインを理由に公開を拒否した経緯がある。トランプは2024年の選挙戦で「ファイルを公開する」と公約したが、2025年2月の「フェーズ1」公開では新情報が少なく、さらなる公開の遅れも不用意に疑惑をふくらませることになった。

ホワイトハウスの強硬な対応
 ホワイトハウスは、WSJの7月23日の報道を「民主党とリベラルメディアによる偽ニュースの続き」と強く否定した。トランプの報道官スティーヴン・チャン氏は、これを「オバマのロシアゲートのような捏造」と批判し、FBI長官カシュ・パテル氏も「トランプを貶めるための嘘」と主張した。
 トランプ自身は、記者に「自分の名前がファイルにあると言われたか」と聞かれ、「いいえ」と否定した。パム・ボンディ司法長官は、2月のブリーフィングでトランプに、文書には彼を含む多くの人に関する伝聞情報や、公開すべきでない児童ポルノ・被害者情報が含まれていると説明したとされる。
 一方、匿名のホワイトハウス関係者は、トランプの名前が文書にあることを否定しなかったとロイターに語っている。この矛盾する対応は、政権が疑惑を払拭しようとする一方で、透明性への不信感を増幅させている。
 トランプはボンディに大陪審資料の公開を指示したが、ローゼンバーグ判事の拒否により公約は果たされていない。こうした強硬な否定姿勢は、支持層の信頼維持を優先するトランプの政治スタイルを反映しているが、隠蔽の印象を与えるリスクも孕んでいる。

真の問題は何か
 すでに述べたように、トランプの名前がエプスタイン文書にあること自体は、犯罪性の証拠がない以上、大きな問題ではない。真の問題は、つぎの3点に集約される。
 第一に、トランプ政権の文書公開公約が進まず、隠蔽疑惑が強まっていることだ。WSJの7月23日の報道は、2024年の選挙公約である「全て公開する」が果たされていない現状を浮き彫りにし、民主党やメディアから「隠蔽」の批判を招いた。フロリダ州の公開拒否や、2月の部分公開が不十分だったことが、疑惑を増幅させている。第二に、共和党内での対立だ。ナンシー・メイス、スコット・ペリー、ブライアン・ジャックの3人の共和党議員が、民主党と共同で司法省への召喚状発行に賛成したが、ジェームズ・コーマー委員長が承認を保留している。この3人という少数ながらの造反ではあるが、党内の不一致を示し、トランプの指導力に影を落とす可能性がある。第三に、外部からの攻撃が論争を過熱させている点だ。例えば、イーロン・マスク氏が6月にX上で「トランプの名前が未公開ファイルにある」と主張し、政権への批判を強めた。この発言は、マスクとトランプの政策(電気自動車補助金など)や個人的確執に起因する側面もあるだろう。
 以上、3点から見たが、これらの要素が絡み合い、エプスタイン問題は政権の信頼性や共和党の結束を揺さぶる火種となっている。

今後のシナリオ
 エプスタイン・ファイル問題の今後の展開には、以下のようなシナリオが考えられる。

シナリオ1:部分的な文書公開と沈静化
 トランプ政権が圧力に応じ、フロリダやニューヨークの裁判所で一部の文書公開を認めること。WSJの報道後、公開への期待が高まっているが、内容が限定的であれば、隠蔽疑惑は解消せず、批判が続くかもしれない。支持層は「公約履行」と受け止める可能性があるが、新情報がなければ政治的効果は限定的だ。

シナリオ2:党内対立の拡大
 3人の造反議員に続き、さらなる共和党議員が文書公開を求め、党内対立が顕著になる可能性がある。コーマー委員長が召喚状を承認すれば、司法省への圧力が高まるが、トランプの指導力への疑問が広がるリスクもある。支持層の不満が強まれば、2026年の中間選挙に影響を及ぼす可能性がある。

シナリオ3:外部批判の継続
 マスク氏のような外部の影響力ある人物が、Xや他のプラットフォームでエプスタイン問題を追及し続ける場合、政権は防御に追われる。マスク氏の主張は証拠に欠けるが、世論を刺激する力があり、支持層の一部が動揺する可能性がある。ただし、マスク自身もエプスタインとの過去の接点が指摘されており、攻撃が逆効果となるリスクもある。

シナリオ4:問題の沈静化と焦点の移動
 WSJの報道が新たな進展を欠き、経済や移民政策などの他の課題が注目を集めれば、論争は自然に収束する可能性がある。トランプの強硬姿勢が支持層の信頼を維持できれば、政権へのダメージは最小限に抑えられる。

 最後に、ギレーヌ・マクスウェルの動向も注目である。彼女が8月11日の議会証言で「真実を語る」と選択した場合、新情報が明らかになる可能性があるが、マイク・ジョンソン下院議長が彼女の信頼性を疑問視するなど、影響は未知数だ。エプスタイン・ファイル問題は、トランプの政治的判断と対応次第で、単なる反トランプ騒動のノイズで終わるか、政権の信頼を揺さぶる問題に発展するかが決まる。

 

 

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2025.07.23

『首相という存在の耐えられない曖昧さ』

「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」


2025年7月23日、午前9時30分、首相官邸
 朝の陽光が首相官邸の窓を淡く照らす。石破茂首相は、数名の記者に囲まれていた。日米関税交渉が今朝早く妥結し、対米輸出品目に関する合意が発表されたばかり。しかし、7月20日の参議院選挙で自民党が大敗し、与党が衆参両院で少数に転落した余波は収まらない。栃木、高知、茨城、愛媛の県連や中堅議員から退陣要求が噴出し、党内は不穏な空気に包まれている。
 記者の一人が質問を投げる。「首相、参院選での自民党の大敗と、今回の関税交渉妥結を受けて、ご自身の進退についてどのようにお考えですか?」
 石破は目を細め、まるで戦前の政治史を紐解くような遠い目をした。彼の癖だ。ゆっくりと、重々しく口を開く。
「選挙の結果は、国民の声であり、わたくしたち政治家にとって最も重い審判であり、真摯に受け止めるべきものであります。政治は常に国民の信頼の上に成り立つものであり、今回の参院選の結果は、わが党が国民の期待に応えられなかったことを重く受け止めるべきであります。与党の指導者ならば、その結果を真摯に受け止めねばなりません。その結果が、進退の決断となるのであれば、わたくし一人の問題ではなく、国政全体、国民生活の安定、党の将来を見据えた大局的な観点からも、熟慮すべきものと考えます。」
 「責任」「進退」という言葉が、参院選敗北の重い空気の中で、まるで退陣を匂わせる爆弾のように記者団の耳に響く。朝日新聞の記者は「進退を熟慮」とメモを取り、毎日新聞の記者はスマートフォンで編集部に速報を打つ準備を始めた。すでに別ルートで「石破は退陣せざるを得ない」との党内関係者のリークを得ていた記者たちは、この発言を「退陣意向」と結びつけるのに時間はかからなかった。

午前10時15分、官邸の廊下
 石破の側近、若手秘書官は、記者会見の映像をモニターで見直しながら額に汗を浮かべていた。「総理、あの発言、『進退を熟慮』は、メディアに『退陣を示唆』と受け取られたのではないでしょうか。すでに読売と毎日が動き出しているようです。」
 石破は落ち着き、いつものように他人事のように微笑んだ。
「問題ない。わたくしは政治家としての責任を述べただけで、選挙の結果を軽視するわけにはいかないし、国民の信頼を回復する道を模索するのがわが党の務めであり、進退云々は、国政全体の流れの中で考えるべきことであって、わたくしが記者を前に口にすべきことではない。」
 しかし秘書官の不安は的中した。官邸の外では、読売新聞と毎日新聞の記者が、首相の「進退を熟慮」という言葉を軸に、党内関係者からの「石破は関税交渉妥結で肩の荷を下ろした」「退陣のタイミング」とのリークを組み合わせ、記事を急いでまとめていた。「石破首相、退陣意向固める」「8月表明へ調整」との見出しが、編集部のデスクで飛び交い始めた。

午前11時、自民党本部
 自民党本部では、県連幹部からの電話が鳴り止まない。栃木県連の幹部が声を荒らげていた。「石破総裁の責任は明らかだ! 参院選の敗北は国民の不信任だ。退陣しかない!」同じ頃、麻生太郎最高顧問の側近が、ある記者に耳打ちしていた。「石破さんは関税交渉が片付いたことで、そろそろ身を引くタイミングを考えているんじゃないか。党のためにも、それが賢明だ。」
 このリークは、麻生の意図を超えて、記者の間で「首相が退陣を決意」と増幅された。毎日新聞の記者は、首相の朝の発言「進退を熟慮」と麻生側近の言葉を結びつけ、号外の原稿を完成させた。「石破首相、8月末までに退陣表明へ 参院選総括踏まえ」。読売新聞も「関税協議妥結で退陣へ」と号外を準備し、11時16分に街頭で配布が始まった。産経新聞も遅れて同様の号外を出し、「石破退陣へ」と報じた。

午後2時、首相と元首相たちの会談
 自民党本部の一室で、石破は麻生太郎、菅義偉、岸田文雄の3人の元首相と向き合っていた。森山裕幹事長が緊張した面持ちで同席する。麻生が重々しく口を開いた。「総裁、選挙の結果は重い。県連も若手も騒いでる。党が分裂するような事態は避けなきゃならん。どうするつもりだ?」
 石破は、いつものように遠回しに答える。「諸先輩のご意見は重く受け止めております。歴史を顧みれば、党の団結が失われたとき、国政は停滞します。参院選の総括は急がねばならず、国民の信頼回復が急務です。わたくしとしては、関税交渉の合意を着実に実行し、国民生活を守る責任を果たすことが、指導者としての務めと考えます。」
 菅が鋭い目で石破を見据えた。「石破さん、世間はすでに『退陣』で大騒ぎだ。不用意な発言が誤解されたんじゃないですか。このままじゃ党内が収まらん。はっきり否定しないと。」
 石破は何を言っているのだと嘯くように答える。「わたくしは、進退など一言ものべてありません。退陣を口にしたことは一切ございません。」
 岸田が穏やかに割って入った。「石破さん、とにかく、国民の前ではっきり続投を表明した方がいい。関税交渉の成果を前面に出して、進退の話は封じよう。党の分裂は避けたい。」

午後3時30分、記者会見
 自民党本部の記者会見場。石破は、結局自身が引き起こした混乱を鎮めるため、マイクの前に立つ。斜め上の一点を凝視し、いつもの落ち着いた口調である。わたくしに非はない。あるはずがない。
「本日、麻生最高顧問、菅副総裁、岸田前総理と会談し、わが党が直面する強い危機感を共有いたしました。党の分裂は決してあってはなりません。わたくしの出処進退については、一切、話は出ておりません。一部報道にあるような『退陣意向』なる事実は、全くございません。」

午後5時、街頭のざわめきをよそに
 官邸に戻った石破は、窓の外を見ながら考え込んだ。「今晩の夕食は何にしよう?」

 

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2025.07.22

ウクライナに迫る政権崩壊の危機

 2025年7月17日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻以来最大の政府再編を行い、スヴィリデンコ新内閣を発足させた。戦争の長期化、経済困窮、国際支援の不確実性という深刻な問題に対応しようと試みた形だが、ルステム・ウメロフの駐米大使任命失敗とその曖昧な動向は、政権の意思決定の混乱と透明性欠如を象徴することになった。この不確実性が、軍や国民の不信感を煽り、内部崩壊のリスクを高めているとも言える。日本にとって、ウクライナへの支援(120億ドル以上)は人道的な責任と国益を左右するが、政権の不安定性は支援のあり方に再考を迫るだろう。

ウクライナの危機と政権の脆弱性

 ロシアとの戦争が3年以上続くウクライナは、軍事的・経済的危機に直面している。インフラの破壊、国民の戦争疲れ、経済の疲弊は、ゼレンスキー政権の基盤を揺さぶる。戒厳令の延長と選挙の重なる延期により、ゼレンスキーと首席補佐官アンドリー・イェルマークは権力を集中させ、議会や軍への統制を強化した。毎日新聞(2025年7月)は「ゼレンスキーへの権力集中加速か」と報じ、民主的統治の後退を指摘した。

 この権力集中は危機対応の必要性から生じたが、軍の不満(戦略の失敗や指導力への疑問)、国民の抗議(生活苦や戦争疲れ)、政権内派閥の分裂を招く。こうしたなか、ウメロフの駐米大使任命失敗とその曖昧な処理は、政権の意思決定の不透明さを露呈した。ウメロフ一家の米国市民権疑惑や腐敗問題がXやTelegramで拡散され、国民の不信感を増幅している。経済再建の遅れや社会的不安が続けば、抗議運動や軍の反発が政権崩壊の火種となる。

新内閣の顔ぶれ

 新内閣は、ウクライナの危機に対応する人事戦略を反映するが、混乱が目立つ。ユリア・スヴィリデンコ新首相(39歳)は、経済相として米国との希少鉱物取引を成功させた実績を持ち、イェルマークの忠実な支持者である。NHK(2025年7月18日)によると、ゼレンスキーは兵器生産を現在の40%から半年で50%に増強する目標を課した。デニス・シュミハリ前首相は国防相に異動したが、軍事経験の不足は軍内部の反発を招く恐れがある。オルガ・ステファニシナが駐米大使に、セルヒー・ルトビノフが駐日大使(7月21日)に任命され、日本との支援拡大を担う。

 今回の組閣で深刻なのは、ウメロフの駐米大使任命が米国に拒否されたことである。米国市民権や国防省の腐敗疑惑が理由とされるが、公式説明がないまま、急遽ステファニシナに変更された。ウメロフのNSDC書記への異動(7月18日)は、和平交渉の役割縮小を意図するが、その曖昧さが政権の信頼性を損なった。軍の不満(シュミハリの指導力への疑問)、国民の不信(スキャンダルの拡散)、政権内の亀裂(イェルマークへの反発)は、内部崩壊のリスクを高めている。

外交の綱渡り

 ウクライナの存続は、米国や日本の支援に依存する。トランプ政権のキース・ケロッグ特使がキエフを訪問(7月14日~16日)し、新内閣の再編や長距離ミサイル供与を調整したとされるが、ウメロフの任命失敗は米国との信頼関係の亀裂を露呈している。トランプ政権内には「ウクライナは勝てない」との認識もあると見られ、長距離ミサイル使用による軍事エスカレーションとの矛盾ある。
 スヴィリデンコやステファニシナの任命は米国との関係強化を狙うが、ウメロフのNSDC異動はイスタンブールでの和平交渉の意図的遅延を反映している。

 こうしたなか、新内閣は、ゼレンスキーの危機克服の賭けと見られる。スヴィリデンコの経済手腕、ルトビノフの日本との関係強化は、支援確保と経済再建の希望だが、ウメロフの動向の不確実性が政権の脆弱性を露呈した。権力集中は軍の反発(シュミハリへの不信)、国民の抗議(生活苦やスキャンダル)、政権内分裂(イェルマークへの反発)を招く。和平交渉の停滞は軍事的敗北や国民の信頼喪失を招き、政変の引き金となり得る。トランプ政権の支援縮小やロシアの攻勢が加われば、政権は一気に崩壊するリスクがある。

 日本にとって、ウクライナ支援は人道的な責任とアジア太平洋の安全保障に関わる国益の問題だ。しかし、ウメロフの人事の失敗に象徴される政権の混乱は、支援の無駄遣いや対ロシア戦略の失敗リスクを高めている。国際政治学者のミアシャイマーは、ウクライへの傷を最小限するために、ウクライ側から早期停戦に動くべきだとしている。平和憲法を固辞する日本としては、平和の瞑目でウクライに外交的圧力をかけてもよいかもしれない。新内閣は、こうした外圧なく、ウクライナ市民の安全と幸福を優先し、戦争終結への道筋を描けるか、難しい局面にある。





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2025.07.21

2025年参議院選挙結果

 2025年7月20日投開票の参議院選挙は、日本の政治地図に大きな変動をもたらしたと言えるだろうか。総議席248のうち改選125議席(選挙区74、比例代表50、東京補欠1)を巡る戦いは、物価高(消費者物価指数3.1%上昇)や自民党・公明党への不信感を背景に、異例の流動性を示した。選挙区の投票率は57.91%(7月20日午後8時、NHK)と、2022年参院選(52.05%)比で5.86ポイント上昇し、2010年以来の高水準となった。この上昇は、若年層(18~29歳)の関心の高まりや、YouTube、X、TikTokなどSNSの動員力が影響した。開票結果(7月21日午前7時、NHK)では、与党(自民党・公明党)が47議席(総議席122、過半数125に残り1議席)、野党・他が77議席を獲得。事前予測では、与党過半数割れ(80~85%確率)、参政党の躍進、野党間の競争と再編の兆しを特徴としてきた。結果(自民39、公明8、立憲21、国民17、参政14、維新7、共産3、れいわ2など)と本ブログの最終予測(自民30~34、公明5~9、立憲25~28、国民16~18、参政10~15、維新6~8、共産3~5、れいわ3~5)を照合して考察する。なお、議席数2以下の政党は影響が小さいため除外する。

与党過半数割れだが自民党の底堅さ

 事前予測では、自民党・公明党の過半数割れが最大の特徴で、80~85%の確率で改選43~45議席、総議席118~120とされた。結果は47議席(自民39、公明8、総議席122)で、過半数125に残り1議席と予測に近い。
 投票率57.91%(+5.86ポイント)は、若年層や無党派層(40%未定)の参加を増やし、反与党感情を強めたが、自民党の底堅さが目立った。公明党は8議席(予想5~9、改選前7、+1)で的中し、複数人区(神奈川、愛知、福岡)の指定席を維持した(NHK、7月21日)。自民党は39議席(予想30~34、改選前54、-15)で予測を上回り、1人区(32選挙区)の接戦(11選挙区)で予想以上の勝利し(推定12~13議席)、比例で13議席(予想10~12)を獲得した。
 物価高(3.1%)や2024年衆院選過半数割れ(215議席、過半数233)への批判は影響したが、地方組織力(東北、九州)や保守層の支持が予想を上回ったといえる。投票率上昇は若年層(参政党、国民民主党へ)や女性無党派層(立憲民主党、維新へ)の動員を促したが、自民党の地方票が維持されたが、石破政権は少数与党として、2025年度予算(高校無償化、社会保険料軽減)や法案成立で野党との交渉を強いられる。

参政党の躍進とネット選挙

 参政党の躍進は予測の核心で、10~15議席(10%確率で15超)とされ、結果は14議席(改選前1、+13)で的中した。比例で推定10~11議席、選挙区(東京、愛知、福岡)で3~4議席を獲得(NHK、7月21日)した。時事(7月17日)による支持率6.9%(18~29歳で12.3%)を反映し、得票率推定8~9%(約400~450万票、投票率57.91%)で急伸した。
 投票率上昇(+5.86ポイント)は、YouTube(40万フォロワー)、X、TikTokを活用したネット選挙が若年層(18~29歳)や地方保守層(群馬、鹿児島、岡山)を動員した結果と見られる。「日本ファースト」や外国人への厳しい政策は保守層に、積極財政は低所得層(一部れいわ支持者)に響き、右派と左派の要素を併せ持つ支持構造が読み取れる。女性無党派層への訴求力の弱さも予測通りで、立憲民主党や日本維新の会に票が流れた。投票率上昇は特に若年層の参加を増やし、参政党のSNS動員(街頭演説動画、TikTokの短編)が効果を発揮。参政党の躍進は自民党の保守票(1人区で推定3~4議席喪失)や公明党の指定席(複数人区)を奪い、与党過半数割れに大きく寄与した。この成功は、2026年地方選挙や2028年衆院選での保守系野党の影響力拡大を示すだろう。

野党間の競争と再編

 野党間の競争と再編の兆しは、選挙の構造的特徴として予測された。立憲民主党は25~28議席(改選前17、+8~+11)と予想したが、21議席(+4)で下振れした。1人区(32選挙区)の接戦(11選挙区)で5~6敗北、比例で推定10~11議席(予想15~16、得票率10%程度、約500万票)と、無党派層の女性・高齢層が日本維新の会や国民民主党に分散した。
 投票率57.91%は女性無党派層(子育て支援、ジェンダー重視)の参加を増やしたが、立憲民主党の政策(保育所拡充)が予想ほど響かず、日本維新の会(女性活躍)や国民民主党(経済政策)に流れた。それでも、国民民主党(17議席)、参政党(14議席)、日本維新の会(7議席)を上回り、野党第1党を維持した。
 国民民主党は16~18議席(改選前5、+11~+13)と予想し、17議席(+12)で的中した。比例で8~9議席、選挙区(東京、愛知)で8~9議席を獲得、2024年衆院選(28議席)の勢いと経済政策(新三本の矢)が20~30代男性を惹きつけたと言えそう。投票率上昇は若年層の動員を強化し、国民民主党の比例得票(推定7~8%)を押し上げたが、参政党との票食い合い(安倍支持層、20~50代男性)は予測通りだった。
 日本維新の会は7議席(予想6~8、改選前12、-5)で的中し、大阪基盤(4議席)を維持した。日本共産党は3議席(予想3~5、改選前4、-1)で的中し、令和新選組は2議席(予想3~5、改選前3、-1)で多少下振れし、リベラル層が参政党の経済政策に流れた。
 結果として、投票率上昇は野党にとっては野党間の票分散を加速させ、保守系野党(国民民主党17、参政党14、維新7、合計38議席)の連携兆しを強める結果となり、2028年衆院選に向けた再編の可能性を示すことになった。この動向は、従来暗黙に、投票率向上がリベラル的野党を利するもとした前提を変えていくだろう。

投票率上昇の影響と予測の教訓

 投票率57.91%(+5.86ポイント)は、若年層(18~29歳、参政党12.3%)、女性無党派層(立憲民主党、維新)、リベラル層(れいわ、共産)の参加を増やし、予測の3つの特徴、つまり、与党過半数割れ、参政党の躍進、野党間の競争を強化した。
 参政党(14議席)は若年層・保守層(70~80%)の動員で的中し、国民民主党(17議席)は20~30代男性の支持で的中した。日本維新の会(7議席)、日本共産党(3議席)は予想範囲内であり、立憲民主党(21議席)は女性・高齢層の分散で下振れだった。この予想25~28議席は楽観的だっただろう。
 自民党(39議席)の底堅さは、投票率上昇が反与党感情を強めたものの、地方保守層(東北、九州)の組織力が予想を上回った。自民党についての予測外れの教訓は、1人区の接戦(自民12~13議席、立憲5~6敗北)と無党派層の分散であろう(女性が維新・国民へ、リベラル層が参政党へ)。SNS動員(参政党YouTube40万、TikTok)や自民党の地方組織力は過小評価された。最終結果(残り1議席、NHK)は、自民党の少数与党としての不安定化、保守系野党の台頭、野党再編の兆しを示すと取りたいところだが、旧来の保守・自民対リベラル野党、という構図は成立せず、2007のような野党第一党による政権交代の構図は見えてこない。むしろ、保守系野党がキャスティング・ボートを握ることで、日本の政策は、簡単にいえば、一層、支離滅裂なものになっていくだろう。



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2025.07.20

大学教育を超える学びの多様性としてのマイクロクレデンシャル

 現代社会では、大学教育以外の学びの選択肢が注目を集めている。その中でも、マイクロクレデンシャルは特定のスキルを短期間で証明する新たな教育の形として、急速に普及している。趣味や教養を深めるカルチャーセンターや市民講座とは異なり、実務的なスキル習得とキャリア支援に焦点を当てるマイクロクレデンシャルは、働き方や学び方の多様性を体現する。ここででは、マイクロクレデンシャルの本質、日本での展開、放送大学のエキスパート認証、そしてカルチャーセンターや市民講座との違いを掘り下げ、オンライン志向の強みを交えて、大学教育以外の教育の多様性を探ってみたい。

マイクロクレデンシャルとは何か

 マイクロクレデンシャルは、特定のスキルや知識を短期間で学び、それをデジタル形式の証明書やバッジで示す資格である。「micro(小さな)」と「credential(資格)」を組み合わせた言葉で、従来の学位や国家資格とは異なり、数時間から数週間で完結する集中的な学習が特徴だ。たとえば、データサイエンス、AI活用、プロジェクト管理など、現代の労働市場で求められる実践的なスキルに特化している。修了後には、LinkedInやポートフォリオで共有可能なデジタルバッジが発行され、キャリアの可視化に役立つ。
 この学びの形式は、時間や費用に制約がある社会人や、キャリアチェンジを目指す人に適している。Googleの「Digital Marketing Certificate」やIBMの「Blockchain Basics」など、グローバルなプラットフォームで提供されるコースは、職場で即活用可能なスキルを効率的に身につけられる。しかし、課題もある。企業での認知度は学位に比べ低く、提供元の品質にばらつきがある。日本では標準化が発展途上だが、マイクロクレデンシャルは大学教育の枠を超え、柔軟で実践的な学びの選択肢として注目されている。

日本でのマイクロクレデンシャルの広がり

 日本では、マイクロクレデンシャルの普及が教育機関や産業界の連携によって加速している。JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)は、プログラミングやAIなど100以上のオンライン講座を提供し、デジタルバッジの発行を推進。2023年に設立された「マイクロクレデンシャル共同WG」は、2025年7月の「日本マイクロクレデンシャル機構」設立を目指し、標準化や国際連携を進めている。経団連も、2024年9月の報告でリスキリングの柱としてマイクロクレデンシャルを位置づけ、NTTや富士通といった企業がJMOOCと共同でAIやデータ活用のコースを開発している。
 文部科学省は、産業構造の変化に対応した継続学習の必要性を認め、質保証の議論を進めるが、具体的な政策はまだ固まっていない。認知度の低さも課題で、特に中小企業ではその価値が浸透しにくい。Xの投稿では「マイクロクレデンシャルは実用的だが、企業にアピールしにくい」との声もある。それでも、オンライン中心の提供形態や低コストは、地方在住者や忙しい社会人に学びの機会を広げ、大学教育以外の多様な教育の形を築いている。

放送大学エキスパートは実務的な学びの証明

 放送大学の「科目群履修認証制度(エキスパート)」は、日本におけるマイクロクレデンシャルの先駆的な例である。2006年から始まり、心理学基礎、データサイエンス、地域貢献リーダーなど約30のプランを提供している。20単位以上の修得で認証状やデジタルバッジが発行され、履歴書への記載が可能な点で実務性を備える。特に、2021年に追加されたデータサイエンスプランは、文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」に認定され、IT業界やデータ活用のニーズに応える。
 放送大学の強みは、通信教育の柔軟性にある。テレビやオンライン講義で学び、1科目12,000円という低コストで受講可能。福祉コーディネータプランは地域ボランティアで活用でき、データサイエンスプランはキャリアアップに直結する。Xでは「頑張った証として価値がある」との声がある一方、「国家資格に比べ効力が弱い」との指摘も。プラン廃止のリスクや認知度の課題はあるが、体系的な学びと証明は、大学教育以外の選択肢として実践的な価値を持つ。

従来のカルチャーセンター・市民講座との違い

 カルチャーセンターや市民講座は、大学教育以外の学びの場として長年親しまれてきたが、マイクロクレデンシャルとは目的や効力が異なる。カルチャーセンター(例:NHK文化センター、朝日カルチャーセンター)は、語学、書道、料理、ヨガなど趣味や教養を重視し、シニア層を中心に人気。市民講座は自治体が主催し、地域の歴史やSDGs、健康をテーマに住民の交流を促進する。両者は単発から数ヶ月で、修了証が発行される場合もあるが、キャリアへの直接的な効力はほぼない。費用は数千円から数万円で、気軽に参加できる点が魅力だ。
 コロナ禍以降、両者ともオンライン化を進めている。NHK文化センターのZoom講座や、横浜市のオンラインSDGs講座は、場所を問わず受講可能だ。しかし、内容は趣味や地域交流が中心で、SNSでは「楽しいが仕事に活きない」「内容が浅い」との声が聞かれる。
 他方、マイクロクレデンシャルのオンライン志向は際立っている。JMOOCや放送大学は非同期のオンライン講義で、時間や場所に縛られず学習可能。放送大学のデータサイエンスプランは数ヶ月で完結し、職場で即活用できるスキルを証明する。こうした柔軟性は、忙しい社会人や地方在住者に新たな学びの扉を開き、大学教育以外の多様な教育の可能性を広げている。オンラインのアクセシビリティは、ライフスタイルに合わせた学びを可能にし、教育の多様性をさらに豊かにしている。

 

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2025.07.19

直前予想:2025年参議院選挙

 2025年7月20日、今日投開票される参議院選挙は、日本の政治に大きな変化をもたらす可能性を秘めている。参議院の総議席は248で、今回はその半分に近い125議席(選挙区74、比例代表50、東京選挙区補欠1)が争われる。物価高(消費者物価指数3.1%上昇、2024年統計)や自民党・公明党への不信感が選挙戦を揺らし、例年になく予測が難しい状況だ。自民党と公明党は非改選議席を75(自民55、公明20)持つが、参議院の過半数(125議席)を維持するには、今回の選挙で50議席以上が必要となる。しかし、世論調査(Jiji Press、7月17日)では自民党の支持率が20.9%、公明党が4.5%と低迷し、投票先を決めていない無党派層(有権者の約40%)の動向が注目される。投票率は55%以上と、2010年以来の高水準が予想され、特に18~29歳の若年層の関心の高まりや、YouTube、X、TikTokなどのSNSの影響力が選挙の流れを左右する。このコラムでは、選挙の3つの特徴—(1) 自民党・公明党の過半数割れ、(2) 参政党の躍進、(3) 野党間の競争と再編の兆し—を詳しく分析し、無党派層の新しい動向との関係を考察したい。

自民党・公明党の過半数割れ

 自民党と公明党が参議院の過半数を失う可能性は、今回の選挙の最も大きな特徴である。JX通信社の米重克洋氏は、過半数割れの確率を80~85%とも予測しているが、ありうる線だろう。
 自民党と公明党の改選議席は43~45議席(自民30~34、公明5~9)と見られ、非改選の75議席を加えても118~120議席で、過半数の125議席に届かない(朝日、7月15日)。この苦戦の背景には、生活必需品の値上がりによる生活不安がある。2024年の消費者物価指数は3.1%上昇し、食料品やエネルギー価格の高騰が家計を圧迫している。さらに、2024年衆議院選挙で自民党と公明党は215議席(過半数233)しか獲得できず、石破茂政権への信頼が揺らいでいる。特に、2024年3月の「ギフト券問題」など、政権のスキャンダルが有権者の不満を増幅させた。

 自民党は、32の1人区(1議席を争う選挙区)で苦戦している。世論調査では12選挙区でリード、9選挙区で野党が先行、11選挙区が接戦だ(朝日、7月15日)。たとえば、東北や九州の地方選挙区では、物価高への不満から立憲民主党や国民民主党に票が流れている。公明党も、神奈川、愛知、福岡などの複数人区(複数の議席を争う選挙区)で、従来確実だった議席を参政党や国民民主党に脅かされている。神奈川の4議席目や福岡の3議席目は、参政党の候補が公明党を猛追している。無党派層の約40%が投票先を決めていない中、若年層(18~29歳)の投票率が55%を超える見込みで、反与党感情が自民党と公明党の議席をさらに減らす。石破政権は「少数与党」として、予算案(高校無償化や社会保険料軽減)や法律の成立で野党との交渉を強いられる。Xでは、過半数割れが「ほぼ確実」との声や、自民党が30議席を切る可能性も上がっているが、あながち無理な予想とも言い難い。この状況は、2007年参院選(自民37議席の大敗)に続き、2009年の政権交代を思わせる政治の転換点となりうる。

参政党の躍進

 参政党の急激な伸びは、選挙のもう一つの特徴だ。専門家らの予測では、参政党は10~15議席を獲得し、10%の確率で15議席を超える。時事(7月17日)の調査では、支持率6.9%で、自民党(20.9%)、立憲民主党(11%)に次ぐ3位。特に18~29歳で12.3%、30代で10.3%、50代で10.2%と高い支持を集める。2022年参院選では176万票(3.33%)で1議席だったが、今回は比例で10~12議席、東京や愛知の選挙区で0~3議席が見込まれる。参政党の強みは、YouTube(登録者40万人)、X、TikTokを活用したネット選挙にある。たとえば、神谷宗幣党首の街頭演説動画や政策の短い切り抜き動画が、若年層や地方の保守層に広く拡散している。

 参政党は、元安倍政権支持層(特に群馬、鹿児島、岡山などの地方保守層)や若年層を動員。「日本ファースト」や外国人への厳しい政策(例:移民規制)は保守層に強く支持され、積極的な財政出動(国による大型支出)の主張は、低所得層や一部令和新選組の支持者に響く。この「右派と左派の要素を併せ持つキメラ的」支持構造が特徴で、保守的な価値観(伝統や文化重視)と経済的な支援策(生活支援)を組み合わせ、幅広い層に訴えている。ただし、女性無党派層への訴求力は弱いと見られ、支持は20~50代男性に偏る。無党派層の70~80%(若年層や保守層)は参政党に流れ、投票率上昇(55%超)を後押しするが、女性のマジョリティ層やリベラル層は立憲民主党や日本維新の会に投票する傾向がある。他方、参政党の躍進は、自民党の保守票や公明党の議席を奪い、過半数割れを加速するだろう。SNSで散見する予想では、8~9議席から15~20議席まで分かれる。このネット選挙と新たな支持の成功は、2026年の地方選挙や2028年の衆議院選挙でさらなる影響力を示唆する。

野党間の競争と再編の兆し

 野党間の競争と再編の兆しは、今後の日本の選挙構造の変化を暗示している。立憲民主党が28議席を割っても、野党第1党を維持する見込みはある。日本共産党や国民民主党との1人区での候補者調整に成功すればとりあえず、旧来型の与党的な位置と野党的な位置の構図となる。たとえば、東北や中国地方の1人区では、立憲民主党が野党統一候補としてリードするケースが多い。
 しかし、参政党(10~15議席)、国民民主党(21議席以上目標)、日本維新の会(6議席)、日本共産党(4議席)、令和新選組(3議席)となると、異なる支持層で票を争うだろう。立憲民主党は60代以上、国民民主党と参政党は20~50代男性、日本維新の会は大阪、日本共産党は70代以上、令和新選組は若年リベラル層を主に支持基盤とする(インタビュー)。

 参政党と国民民主党は、元安倍政権支持層や旧民主党を否定する層で支持が重なり、票の奪い合いが激しい。たとえば、国民民主党の「現役世代から豊かになろう」という経済政策(新三本の矢)は、参政党の積極財政と似ており、20~30代男性の票を分け合う。

 立憲民主党や日本共産党、令和新選組はリベラルな政策(例:子育て支援、格差是正)で高齢層や若年リベラル層を引きつけるが、この傾向は、立憲民主党のリベラル連合(日本共産党、令和新選組)との対立を深める。
 無党派層の多様性—若年層は参政党や国民民主党、女性は立憲民主党や日本維新の会、リベラル層は令和新選組や日本共産党—が競争をさらに複雑にする。なかでも参政党の躍進は、国民民主党や日本維新の会との保守系連携を促し、2028年衆議院選挙に向けた再編の兆しを生むだろう。たとえば、日本維新の会の大阪基盤(2024年衆院選で19議席)と参政党の地方保守層(群馬、鹿児島)が連合を模索する可能性がある。立憲民主党の主導力低下や、緊急事態条項(災害時の政府権限強化)を巡る憲法改正議論の加速リスクも浮上するが、従来の右派・左派の対立は薄れ、まるでパラパラ漫画を見るような感情的な訴求による不安定な政治が台頭しつつある。

無党派層の動向と3つの特徴

 無党派層の新しい動向—若年層の関心の高まり(18~29歳、投票率55%超)、女性の生活重視(子育てやジェンダー平等)、ネット選挙の加速(TikTok、Instagram)—は、3つの特徴を支える重要な要素である。若年層(18~29歳、参政党支持率12.3%)や保守層は、参政党のYouTube(40万フォロワー)やXでの発信に惹かれ、参政党の躍進を後押しする。たとえば、参政党の街頭演説動画やTikTokの短い政策動画が、若年層の反与党感情(物価高への不満)を刺激する。一方、女性無党派層は、立憲民主党の子育て支援(例:保育所の拡充)や日本維新の会の女性活躍政策(例:働き方改革)に流れ、野党間の競争を多様化する。ネット選挙の加速も、参政党や国民民主党のSNS発信(玉木雄一郎氏の経済政策ライブなど)が無党派層に影響を与えるが、立憲民主党や令和新選組も同様にネットを活用するしてはいる。

 無党派層の約40%が投票先未定の中、反与党感情は自民党・公明党の過半数割れを後押しするが、これらの動向が、参政党の躍進(若年層・保守層の70~80%を包含)と野党間の競争(女性・リベラル層の分散)に大きく含まれると、選挙全体を特徴づける独立した要素にはならない。
 選挙結果は、7月20日夜の開票速報で明らかになるが、まず、サドンデスで与党大敗と参政党躍進が示され、日本政治の不安定な方向性を示すだろう。

付記:予想議席数(改選125議席分)と改選前からの増減をリスト化。増減は改選議席(2025年改選分)のみを比較。


政党・団体
予想議席数
改選前議席(2022)
増減
自民党
30~34議席
54議席
-24~-20議席
公明党
5~9議席
7議席
-2~+2議席
立憲民主党
25~28議席
17議席
+8~+11議席
国民民主党
16~18議席
5議席
+11~+13議席
参政党
10~15議席 
1議席
+9~+14議席以上
日本維新の会
6~8議席
12議席
-6~-4議席
日本共産党
3~5議席
4議席
-1~+1議席
令和新選組
3~5議席
3議席
0~+2議席
社民党
0~1議席
0議席
0~+1議席
日本保守党
0~1議席
0議席
0~+1議席
チームみらい
0~1議席
0議席
0~+1議席
再生の道
0~1議席
0議席
0~+1議席
NHK党
0~1議席
1議席
-1~0議席

 

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2025.07.18

大学学位の飽和と「大学教育」の終焉

 2025年9月発売予定のジェフ・セリンゴの著書『夢の学校(DREAM SCHOOL)』は、現在の米国の高等教育の危機を浮き彫りにしてすでにメディアで話題になっている。そこに掲載された調査によると、大学を「良い投資」と考える家庭は2015年の85%から56%に低下し、44%が非投資的と評価する。背景には、学費高騰(2023年平均14,688ドル)、学生ローン1.7兆ドル、学位インフレ(卒業生の40%が学位不要の職に就く)がある。大学進学率は頭打ち(学部入学:男性-10.2%、女性-7.8%、2019-2021年)、代替教育(職業訓練、インターンシップ)が台頭し、Z世代の出願数は増加(1300万件、2001年の3倍)だが、アイビーリーグなどエリート校に集中する。この状況を基に、大学教育の価値、大卒比率、教養教育、修士号の必要性、AIとマイクロクレデンシャルの影響、そして人類知の「飽和点」を考察してみたい。

先進国の大学学位の飽和
 先進国では、大学教育が制度的な飽和点に達している。大卒比率は米国50%、フランス51.9%、日本56%、韓国は例外的に突出して70%(2023年、OECD)だが、概ね55~60%で頭打ちだ。
 米国では学費高騰(2023年平均14,688ドル、2030年2万ドル予測)と学生ローン1.7兆ドルが障壁となり、44%が大学を非投資的と見なす(セリンゴ調査)。学位インフレも深刻で、米国では卒業生の40%が学位不要の職に就き(2023年、米国労働省)、例外ともいえる韓国では当然だが30%が過剰教育状態にある。
 日本の18歳人口は2030年までに10%減(100万人割れ)、フランスも若年人口が5%減少し、総量の拡大は困難だ。文化的にも、大学進学は「標準」化(日本の学歴社会、フランスのバカロレア合格率91.8%)し、さらなる進学の動機が薄れている。大学のキャパシティ(米国州立大学の教員採用停滞、AAUP 2023年)やフランスの公立大学ドロップアウト率(1年次50%)も制約となる。こうした状況は、大学教育が「人類知のエンドポイント」に達した感覚を裏付ける。学位制度は、経済的・構造的限界により、拡大の余地を失いつつある。

非先進国ので拡張は遅延飽和
 非先進国では、大学教育はまだ成長段階にある。新興国(中国、インド、ブラジル)では大卒比率が急上昇し、中国は30%超(在籍者4500万人、2023年)、インドは25%(2035年までに50%目標、NEP2020)、ブラジルは22%だ。中産階級の拡大(インド5億人、2030年予測)、政府投資(中国の大学拡張)、グローバル需要(インドIIT卒業生の初任給は国内平均5倍)が牽引する。
 しかし、そこでも大学学位インフレの兆候は見られ、中国の文系卒20%が低賃金、インドの私立大学卒は就職難に直面する。低所得国(サブサハラアフリカ)では進学率が6~10%(UNESCO 2023年)と低迷し、インフラ不足(教員1人当たり学生40~50人)が障壁だ。モバイル学習(Eneza Education、500万人リーチ)や衛星ネット(Starlink)がアクセスを向上させるが、進展は緩やかだ。新興国は2040年頃に50%で飽和、低所得国は2075年以降に15~20%で遅延飽和に至るだろう。この「半世紀の遅延」は、先進国の道(学位インフレ、ROI低下)をたどる過程を示す。非先進国の成長は人類知の底上げだが、飽和が最終局面となりうる。

米国の不均質性と非先進国モデル
 こうしたなか米国に関心を戻すと、この大国は内部に「非先進国」を抱える点が特徴的だ。大卒(50%)と非大卒(50%)の間に経済的・社会的格差が存在し、低所得層や農村部(進学率30%、中退率50%)は非先進国(サブサハラ6~10%、インド農村部10%)に似る。学費高騰と学生ローンが障壁となり、アパラチア地域では高校生の30%が進学を断念(2023年、NCES)。ここでマイクロクレデンシャル(Google認定、Coursera)が台頭し、低所得層・非大卒向けに短期(6カ月)、低コスト(500ドル)の実務スキルを提供する。すでにGoogle認定は100万人受講、平均年収7万ドル、就職率70%(2023年、米国労働省)。これはインドのNIIT(6カ月でIT職、年収3倍)やケニアのMoringa School(80%就職)に類似している。AIがオンラインコース(Coursera受講者の70%が低所得層)やスキル評価(LinkedIn1億人)を強化し、ホワイトカラー職の40%が学位不要になっていく様子が見て取れる(2030年予測、WEF)。米国の「内部非先進国」は、非先進国モデル(実務的・短期教育)を適用し、学位の必要性を下げる。

AIと学位不要化
 AIもまた大学教育の価値を根本から変えるだろう。AI駆動の個別指導(Khan Academy、1億人利用)、オンライン教育(Coursera2億人、AIコース5000万人)、スキル評価(AI採点2000万人)が、学位に代わる学習を提供する。米国ではテック業界の80%がスキル重視(2035年予測、Indeed)、ホワイトカラー職の40%が学位不要に(2030年、WEF)。例として、Googleのデータアナリスト認定(6カ月)は学士号(4年、6万ドル)と同等の就職率(70%)だ。
 この傾向は非先進国でも同様で、インドのオンライン学位は900万人、ケニアのモバイル学習は2000万人にリーチ(2030年予測)。新興国ではIT職の30%が学位不要(2030年)、低所得国では実務スキル(農業、保健)が優先される。教養教育はMOOCs(Coursera哲学コース2000万人)や高校(フランスのバカロレア)にシフトし、大学はSTEMやリスキリング(米国500万人、フランス100万人、2030年)に特化する。
 こうなるとすでに旧来の意味での大学教育とも呼べなくなる。その意味でも、人類における大学教育の飽和点はもう間近であろう。

 

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2025.07.17

イスラエルによるシリア・スワイダ県空爆

 2025年7月15日、イスラエルがシリア南部スワイダ県でシリア政府軍を標的とした空爆を実施した。この事件は、シリアの不安定な情勢とイスラエルの安全保障戦略が交錯する中で発生し、地域の緊張と国際関係に新たな波紋を投じている。以下、この空爆の概要、近い背景(7月11日以降の文脈)、2024年までの経緯、イスラエルの思惑、米国との関係、戦争エスカレーションのリスク、シリアの再不安定化の懸念を整理し、近未来の展望を考察したい。

今回の事態の概要
 イスラエルは2025年7月15日、シリア南部スワイダ県でシリア政府軍の第12旅団(戦車・砲兵大隊)を標的に空爆を実施した。公式には、ドゥルーズ派への保護とシリア政府軍の進軍阻止を目的とし、ゴラン高原の安全保障を確保する意図がイスラエル政府から発表されている。この空爆は、7月16日、17日にダマスカスなどでも続き、シリア国営メディアは「混乱の扇動」と強く非難した。シリア人権監視団(SOHR)によると、7月11日から15日のスワイダ県での衝突と空爆により、死者数は250~300人に達し、これにはドゥルーズ派民間人や政府軍兵士が含まれるとのことだ。イスラエルの介入は政府軍の進軍を一時的に停止させたが、宗派対立の悪化を招き、シリアの不安定化に新たな火種を投じた。

7月11日以降のスワイダ県の衝突
 空爆の直接的な引き金は、7月11日以降のスワイダ県での宗派間対立である。7月11日、スワイダ県(ドゥルーズ派が多数を占める地域)で、ドゥルーズ派とベドウィン部族の間で誘拐事件が発生した。ドゥルーズ派の首長や女性に対する侮辱行為(口ひげを剃るなど)が報告され、宗派対立が急激に悪化したと伝えられている。続く7月12日、13日、シリア政府軍(アハメド・アル・シャラア暫定政権下)が「治安維持」を名目に進軍し、ドゥルーズ派民兵と衝突した。SOHRによると、この際、略奪、虐待、即時処刑が発生し、死傷者が増加し、ドゥルーズ派による国際介入を求める声が広がった。7月14日には、シリア政府の停戦提案をドゥルーズ派指導者ヒクマット・アル・ヒジリが拒否し、戦闘が継続した。ドゥルーズ派はクルド人勢力とも連携を強めつつあった。この緊張の高まりが、7月15日のイスラエル空爆を誘発したと見られる。イスラエルによる空爆は政府軍の進軍を阻止し、ドゥルーズ派の自治を強化することで、この地域のシリア政府の統治力をさらに弱める結果となった。

昨年来の経緯
 今回の事態の背景は昨年に遡る。2024年がシリアにとって転換点だった。2024年から2025年にかけて、シリアは政治的激変と宗派対立の悪化を経験し、イスラエルの戦略的介入が続いた。この期間の出来事は、2025年7月15日のスワイダ県空爆の基盤を形成する。
 2024年9月9日、 イスラエルはシリア中部の軍事施設を標的に空爆を実施した。シリア保健省によると、少なくとも18人が死亡。イランが支援する軍事インフラやミサイル輸送を無力化する目的で、シリアをイランの中東戦略の拠点とする動きを牽制したものである。
 同年11月14日、イスラエルはシリアの首都ダマスカスでイラン関連施設を標的に空爆した。シリア国営通信(SANA)によると、15人が死亡、16人が負傷。イランの影響力削減とシリアの軍事力抑制を目的とし、2024年で最も死傷者の多い攻撃となった。
 同年12月8日、この日、アサド政権が崩壊し、シリアは政治的空白に突入した。イスラエルは同日、シリア全土で350回以上の空爆を実施し、化学兵器研究施設やシリア海軍艦隊を破壊したが、これは、シリアの兵器が反政府勢力やイラン関連勢力に流出するのを阻止する狙いがあったとされる。ネタニヤフ首相はアサド政権崩壊を「中東の歴史的な日」と歓迎し、ゴラン高原の緩衝地帯(1974年停戦協定に基づく)にイスラエル軍を展開した。シリアの軍事力無力化とゴラン高原の安全保障強化を明確化した。ゴラン高原の重要性についてすでにこの時点で布石があった。
 2025年2月28日から3月2日、 アハメド・アル・シャラアの暫定政権下で、シリア西部ラタキア県を中心にアラウィー派への攻撃が発生した。SOHRによると、1,500人以上が死亡し、宗派対立が急激に悪化した。シャラア政権の統治力の弱さが露呈し、シリアの分断が加速した。
 さらに、同年4月28日~5月2日、 スワイダ県でドゥルーズ派と政府軍・スンニ派勢力の衝突が勃発した。発端は、預言者ムハンマドへの侮辱とされる音声データである。SOHRによると、5月までに56人以上が死亡した。イスラエルは5月2日、スワイダ県とダマスカス近郊で空爆を実施し、ドゥルーズ派保護を名目に政府軍を攻撃。ゴラン高原の安全と少数派支援を強調した。今回の事態を先行している。
 以上のような経緯からわかることは、イスラエルの一貫した戦略—ゴラン高原の安全保障、シリアの軍事力無力化、イラン影響力の排除、少数派(特にドゥルーズ派)保護—を形成である。2025年7月15日のスワイダ県空爆は、この戦略の延長線上にあり、アサド政権崩壊後のシリアの不安定な情勢を背景に実施された。

イスラエルの思惑
 イスラエルの7月15日空爆には、複数の戦略的意図が絡む。第一に、ゴラン高原の支配強化である。スワイダ県はゴラン高原に隣接し、シリア政府軍の進軍は直接的脅威となる。空爆は政府軍の軍事プレゼンスを削ぎ、1967年以来のイスラエルの戦略的優先事項であるゴラン高原の安全を確保した。第二に、ドゥルーズ派保護である。ゴラン高原やシリア南部のドゥルーズ派との関係を強化し、地域の支持を確保した。ドゥルーズ派はイスラエルにおいては軍にも所属するほどの信頼関係がある。このため、7月11日から14日のシリア政府軍による弾圧(誘拐、虐待)への反応として、イスラエルは空爆で保護をアピールした。第三に、シリアの軍事力無力化である。シャラア政権の軍事力を弱め、兵器の再編やイラン関連勢力の復活を阻止するものだ。2024年12月の大規模空爆と同様の目的を持つ。第四に、シリアの「レバノン化」の可能性である。中央権力を弱め、ドゥルーズ派やクルド人などの地域勢力の自治を助長することで、統一された脅威を排除する。シャラアのジハーディストの過去(元ヌスラ戦線)への不信が、これらの行動の背景にある。

米国との齟齬
 米国にとって今回の事態は厄介ごとになる。トランプ大統領はこれまでシリアの安定化を推進していたからだ。2025年5月14日、トランプはサウジアラビアのリヤドでシャラアと会談した。このおり、制裁解除(7月1日執行)、サウジアラビアの6000億ドル投資、カタールの支援を背景に、シリアの経済再建を支援した。また、シャラアにISIS対策とイスラエルとの関係正常化(アブラハム合意参加)を求め、ゴラン高原の非軍事化や1974年停戦協定の復活を交渉した。しかし、7月15日のイスラエル空爆は、シャラア政権の軍事力を直接攻撃し、米国の安定化政策と矛盾することになる。米国務長官マルコ・ルビオは「深い懸念」を表明し、停戦を要請した。が、イスラエルはシャラアへの不信(ジハーディストの過去)とゴラン高原の優先を理由に、トランプの制裁解除に反対している。この米国とイスラエルとの戦略のずれは、その同盟関係に緊張を生む。米国は7月17日の停戦交渉で調整を図るが、イスラエルの独自行動は米国の外交努力を複雑化している。

戦争エスカレーションは低リスク
 7月15日の空爆は、イランやヒズボラを直接標的にしないため、戦争エスカレーションのリスクは低い。イランへの空爆(例:2024年4月の大使館攻撃)と異なり、標的はシリア政府軍に限定されていることもある。シャラア政権の軍事力は弱く、イスラエルに対抗する能力が不足している(SOHR)。また、イランの関与も限定的で、報復の連鎖や中東全体の緊張拡大は見られない。米国やサウジアラビアの停戦仲介が緊張を抑制する要因ともなっている。ただし、イスラエルの継続的な空爆でシリアのシャラア政権の反発を強め、反イスラエル感情を高めれば、局地的な対立が長期化する可能性は残る。それでも、地域戦争へのエスカレーションは現時点で抑制的であると見られる。
 問題は、シリアの再不安定化を加速することだ。空爆はシャラア政権の統治力を弱め、スワイダ県のドゥルーズ派と政府軍の対立を悪化させた。ドゥルーズ派の自治強化と反イスラエル感情の高まりは、シリア内の宗派分断を助長する。2025年3月のアラウィー派虐殺や5月のドゥルーズ派衝突の再現リスクが再浮上する。
 その先には、シリアの「レバノン化」(中央権力の弱体化と宗派・地域勢力の自治強化)が進む可能性がある。シャラア政権の統治力低下は、ISISやアルカイダ系グループの再興、トルコ、ロシア、サウジアラビアなど外部勢力の介入を招く。米国の安定化政策(制裁解除、経済支援)はこれを防ぐ狙いだが、イスラエルの空爆は事態を一層悪化させるだろう。
 7月17日の米国仲介交渉の成否が、短期的な安定の鍵となる。長期的には、宗派対立の拡大、過激派の台頭、外部勢力の代理戦争となれば、シリアを中東の新たな不安定要因とする可能性が高まる。

 

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2025.07.16

ウクライナ語表記問題再考

 ウクライナとロシアの言語をめぐる問題は、単なる表記の揺れを超え、文化、歴史、政治、そしてアイデンティティの深い対立を映し出す。ここでは、ウクライナ語とロシア語の固有名詞表記、特に地名「ポクロフスク/ポクロウシク」や人名「ゼレンスキー/ゼレンシキー」を中心に、言語政策の矛盾とその背後にある構造的課題を再考してみたい。さらに、漢字文化圏の表意文字との比較を通じて、表記体系がアイデンティティ認識に与える影響も考察する。

ポクロフスクとポクロウシク

 地名「Покровськ」の日本語表記が「ポクロフスク」と「ポクロウシク」で揺れる現象は、ウクライナ語とロシア語の発音差に端を発する。ロシア語では「パクラーフスク」(Pokrovsk)、ウクライナ語では「ポクロウシク」(Pokrovs’k)に近い音となる。この違いは、東方正教会の「ポクロフ祭」(聖母の庇護)に由来する両言語共通の文化的象徴性を背景に持つ。しかし、ソ連時代にロシア語が支配的だったため、「ポクロフスク」が日本語の慣用表記として定着した。
 2022年のロシアによる全面侵攻以降、ウクライナは地名のウクライナ語表記を重視し、「キエフ」から「キーウ」への変更を国際的に推奨している。これは言語的主体性を示す試みだが、「ポクロウシク」には表記の揺れが見られることもある。この揺れは、ソ連の言語的遺産とウクライナの脱ロシア化の狭間で生じる摩擦を象徴するようだ。発音の差は単なる音声の問題ではなく、歴史的支配関係と文化的アイデンティティの対立を映し出すものと捉えるべきかも知れない。

「ゼレンスキー」表記矛盾と政治的ご都合主義
 ウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキーの姓「Зеленський」は、ウクライナ語では「ゼレンシキー」([zɛˈlɛnʲsʲkɪj]、音声的に「スィ」に近い口蓋化音 [sʲ] を含む)に近いが、国際的にはロシア語風の「ゼレンスキー」(Zelensky)が定着している。ゼレンスキー自身がこのロシア語型表記を公的に使用し続けることは、国内の言語政策と齟齬をきたさいのだろうか。ウクライナは2014年のマイダン革命以降、2019年の国家語法でロシア語を公用語から排除し、ウクライナ語を唯一の国家語とした。地名では「キーウ」や「オデーサ」を推奨する一方、人名ではロシア語風表記を維持する姿勢は、一貫性を欠くように思われる。
 この矛盾の背景には、国際社会での認知度と利便性がある。「Zelensky」は英語圏で発音しやすく、既に広く認識されている。一方、ウクライナ語の「Zelenskyi」は、綴りの複雑さやそもそも口蓋化音 [sʲ] の再現が難しいことの矛盾が露呈している。この選択は、ゼレンスキーが自身の文化的アイデンティティよりも、外交的・政治的効果を優先した「ご都合主義」とも捉えられるだろう。言語が政治の道具にされる瞬間、文化的誠実さが損なわれる危険が浮上する。

ウクライナのローマナイズ規則に残るロシア語の亡霊

 ウクライナの公式ローマナイズ規則(2010年制定)は、言語学的には不完全と言えるだろう。たとえば、「Покровськ」は「Pokrovsk」、「Зеленський」は「Zelenskyi」と転写されるが、ウクライナ語特有の口蓋化音 [sʲ](「сь」、日本語では「スィ」に近い)を示す軟音記号「ь」は転写されない。「Zelenskyi」の「s」は音声的に [sʲ] に対応するが、表記上は単なる「s」として簡略化され、口蓋化の特徴は反映されない。この規則は、ソ連時代のロシア語的転写慣習(例:-sky の使用)を色濃く残し、ウクライナ語の音声的独自性を十分に表現していない。
 この簡略化は、すでに言及したように、国際的な可読性と慣習との整合を優先した結果だ。たとえば、「Zelenskyi」や「Pokrovsk」は英語メディアやパスポートで扱いやすいが、ウクライナ語の [sʲ] や [lʲ] といった微妙な音声特徴は無視される。これは、ウクライナがロシア語からの文化的独立を目指す中で、ローマナイズ規則がロシア語的枠組みから脱却しきれていないことを示している。言語学的には、口蓋化を明示する転写(例:Zelensʲkyj)は可能だが、公式規則では採用されず、脱植民地化が未完である現実が浮き彫りになる。

漢字文化との対比

 ロシア語とウクライナ語の表記問題は、表音文字の特性に根ざす。同一の対象(例:Зеленський)が異なる発音(ゼレンスキー/ゼレンシキー)で表されると、文化的・政治的分断が強調される。「キーウ」と「キエフ」は同じ都市を指すが、表記の選択はウクライナの主権やロシアの影響力をめぐる政治的立場を象徴する。一方、漢字文化圏では、表意文字がこの分断を緩和する。「日本」は日本語で「ニホン」、中国語で「リーベン」と発音されるが、漢字という共通の意味基盤により同一性が保たれる。この視覚的・構造的安定性は、音声の差異を越えた認識の統一を可能にする。
 表音文字のアルファベット文化では、音声の違いがアイデンティティの違いとして解釈されやすく、言語政治の緊張を増幅する。ウクライナ語とロシア語の近似性(例:同じ「Покровськ」でも発音が異なる)は、表記が政治的対立の場となる要因だ。対照的に、漢字文化では音の差が意味の同一性を損なわないため、言語的対立が構造的に抑制される。この比較は、表記体系が文化や認識に与える深い影響を浮き彫りにし、言語の選択が単なる技術的問題ではなく、アイデンティティの構築に関わることを示している。

 

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2025.07.15

finalvent (著)『新しい「古典」を読む 1』発売とオンデマンド出版

 2025年7月15日、finalvent (著)『新しい「古典」を読む 1』発売になりました。つまり、私が書いた本です。すでに別記事に書いたように、10年ほど前オンライン・マガジンcakesに連載していたもので、細かい修正・編集は入っていますが、内容的には大きな変更はありません。Vol.2は、8月5日発売の予定で、今後、あとさらに2冊刊行の予定です。

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新しい「古典」を読む 1 ペーパーバック 

 kindle 版は 1,250円ですが、Kindle Unlimitedに入っているので、このサービスをご利用のかたは、その範囲で無料に読むことができます。こういうのもなんですが、できるだけ安価に幅広く読まれることを願っています。ひどく素朴に言うと、この本には、誰かにとって、とても大切メッセージになってほしいという願いがあります。
 また、同日、ペーパーバック版も発売になりました。ペーパーバック版というのは簡易製本ではあるのですが、すでに私も見本を頂いているのが、けっこう普通の本です。つまり、書店で販売されている普通の本と同じと言っていいと思います。カバーがついてないので、その点がいわゆる洋書のペーパーバックという感じですが、昨年から放送大学のエキスともカバーなしの、実際はペーパーバックになってきているので、少量書籍引接の定番・基本になっていると思います。
 つまり、これは、オンデマンド出版でもあります。オンデマンド出版というのは、ご要望があれば一冊ずつ紙の書籍にして出版するものです。私は本業では長くテクニカルライターというのをして技術書(電子交換機や半導体合成からパソコン、インタネットなど)を出版してきましたが、非販売書はとてても高価になるか、市販書では最初に最低何部売れるかが重要で、だいたい6000部くらいだったか、その水準を下回ると出版は難しとされていたものです。学術書では、下手すると500部くらいでしょうか。そのため文科省がそのぶんの埋め合わせをしたりしますが。
 ところが、オンデマンド出版なら、こうした、最低部数の足切りがありません。それこそ100部の出版からできます。売れ残り在庫を抱える(これが出版に携わる人間には悲哀です)こともありません。
 今回のこの書籍では、だいたいB6版です。ページは306ページあり、サンプルで御覧になってもわかると思いますが、いわゆる啓発書とかに見られるすかすかな本ではなく、普通に大手出版社から出ている選書くらいの文章量があります。価格は2,200円とややお高めなのですが、だいたい当量の選書と同価格帯にはなっているかと思います。
 その意味で、オンデマンド出版にご関心のあるかたは、その関心からでも、一冊ご購入していただけたらと思います。出版の世界は現在こうなっているのだというのを、以前の世界を知っている人なら驚かれると思います。


 

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2025.07.14

普洱茶と私

 中国茶に魅了されて久しい。かれこれ40年くらいか。最初は烏龍茶、特に岩茶や凍頂烏龍茶のような、親しみやすく香り高いものから飲み始めた。やがて、鳳凰単叢の華やかな果実香や龍井茶の爽やかな香ばしさ、茶葉の美しさにも心を奪われた。白毫銀針の繊細な甘み、キーマン紅茶の赤ワインのような奥深さ、東方美人の蜜のような風味にも惹かれた。さまざまな中国茶を試し、知的な好奇心を満たしながら、いつしかそれらから気に入ったものの定番の茶葉を日常的に楽しむようになっていた。が、定番に陳年茶は入れていなかった。
 一時期、陳年茶に強く惹かれたことがある。30年くらい前、沖縄で暮らしていたころだ。中国の茶商との交流もあり、年代物の陳年茶に夢中になった。古いものでは、購入時に80年ものとされる千両茶や、40年物の邦喬木大葉種、20年ものの饅頭普洱茶などを手に入れた。だが、陳年茶への熱はやがて落ち着き、茶棚の奥に眠る茶葉たちは忘れ去られていた。それが約一年前、茶棚を整理していると、その30年前に購入した普洱茶がひょっこり顔を出した。購入時からさらに30年を経て、自然に陳年化が進んだ茶葉たちである。試しに淹れてみると、なんとも形容しがたい、不思議な味わいが広がった。まるで時間そのものを飲んでいるかのような、深く複雑な風味。饅頭形の普洱茶を飲み尽くすと、もっと普洱茶を味わいたいと思った。
 そんなわけで、新たに20年ものくらいの餅茶や磚茶を購入したが、飲んでみると「まだ若い」と感じる。20年という歳月は、普洱茶の世界ではまだ「若造」に過ぎないのかもしれない。そこからさらに、生茶、熟茶、老白茶、糯香茶など、さまざまな普洱茶を試し、また陳年茶に取り憑かれてきた。以前は濃い目に淹れて、コーラのような深い色を楽しむこともあったが、最近は淡く淹れ、繊細な香りと味わいをじっくり感じるのが好みだ。
 さて、普洱茶の美味しさだが、簡単には言い表せない。「美味しい」とは即答しがたい。なんとも複雑すぎるのか、それでも心を掴まれる何かがある。ようするに、はまった、としか言いようがない。

普洱茶の種類と製法

 普洱茶には大きく分けて「生茶」と「熟茶」がある。それぞれの製法が異なり、味わいや香り、変化の過程も大きく異なる。生茶は、収穫した茶葉を軽く発酵させた後、圧縮成型し、自然に熟成させる。時間が経つにつれて、青々しい風味がまろやかになり、複雑な香りと深みが現れる。微妙に発酵していて香りが複雑だが(意外と烏龍茶に近い感じもする)、これも20年ではまだ若過ぎるみたいだ。生茶は年月をかけてゆっくりと変化を楽しむ茶なのだろう。あと、普洱茶ではないが、見た感じ似たのに老白茶というのがある。この香りと味は紅茶にちょっと似ている。
 さて普洱茶の熟茶だが、人工的に発酵を促進する「渥堆(あくたい)」という工程を経る。1970年代に確立した製法らしく、意外と歴史は古いわけではない。陳年茶の速成製法でもあったのだろう。このプロセスにより、濃厚で土のような香りと、まろやかなとも言い難いが独特の口当たりが生まれる。熟茶は、速成でもあり比較的早く飲めるというが、実際は10年以上しないとまろやかにはならない。まろやかさは、なんというか、水より飲みやすいという感じだ。
 かくして陳年茶を飲むとなんとも「時間」との対話している感じがする。同じ茶葉でも、5年、10年、20年と経つごとに、奇妙な深みが増す。年月とともに渋みが和らぎ、甘みや花のような香りが現れることもある。まるでワインやウイスキーのように熟成のようなものだろうか。私の茶棚に眠っていた千両茶は、蒋介石と一緒に台湾海峡を渡ったと茶商が言っていたが、本当ならそれは76年前。そのときにすでに珍念茶なら100年前かもしれない。人はそんなに長くは生きられない。そんな奇妙な感覚を与えてくれる。

普洱茶と日常

 普洱茶は産地や茶樹の種類、製法の違いにより、個性がある。雲南省の古樹(老茶樹)から作られるものは、力強い味わいと言われるが、ようするに若いと渋い。あと生茶は、烏龍茶ではないが、烏龍茶に似た微発酵があり花や果実を思わせる香りもある。そういえば、糯香茶というのもこの機会に飲んだが、ジャスミン・ライスのような香りがした。別のハーブによる着香というか、何煎してもその香りは残る。
 餅茶の普洱茶は、茶をほぐす過程も楽しみのひとつだ。茶葉をナイフやフォークで丁寧にほぐす。専用のナイフや崩した茶葉を散らさない四角いお盆のようなものも欲しくなってきた。
 淹れ方だが、まず洗茶をする。最近の凍頂烏龍茶や金萱茶などは洗茶不要だが、さすがに何十年ものの茶は洗茶したほうがいい。で、洗茶すると、意外とさくっと淹れられる。というか、30秒くらいだ。中国茶を説明する人たちは難しく言うが、茶の淹れ方のコツは茶を見ることだろう。淡く淹れた普洱茶は、透明感のある琥珀色で、口に含むとほのかな甘みが広がる。喉や胃に引っかかることなく、体に染みていく。
 普洱茶を飲みながら考える時間が増えた。茶の香りは「聞く」というが、まさに、瞑目して「聞く」のだ。時間の旅のようなものだ。とはいえ、私はもうあと何十年もは生きることはできない。

 

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2025.07.13

AIと学習における認知的負債

 2025年6月10日、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが主導した研究「ChatGPTを利用した脳の変化:AIアシスタントを論文作成タスクに利用する際の認知負債の蓄積 (Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task)」が公開された。この論文は、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)の長期使用が人間の認知機能、特に脳の神経接続や学習プロセスに与える影響を検証するものである。54人の参加者を対象に、4か月にわたるエッセイ執筆実験を行い、脳波計(EEG)で脳活動を測定し、自然言語処理(NLP)でエッセイを分析、インタビューで行動データを収集した。
 該当論文の査読は未完了であり、参加者数の少なさやChatGPTに限定した研究設計など限界もあるが、AIと脳の関係を定量的に示した点ですでに各方面から注目を集めている。

AIが脳の学習プロセスをどう変えるか

 人間の通常の学習過程では、脳の神経ネットワークが情報を処理し、記憶として定着させるプロセスに依存するものである。そこで論文では、参加者をChatGPTのみを使用するLLM群、従来の検索エンジンを使用する検索エンジン群、そしてツールを一切使用しない脳のみ群の3群に分け、エッセイ執筆時の脳活動をEEGで測定した。
 結果、脳の神経結合性は、外部サポートの量と明確な逆相関を示した。最も強い神経接続を示したのは脳のみ群であり、ワーキングメモリや問題解決に関わるシータ波(4-8 Hz)と、内省的注意や意味処理を支えるアルファ波(8-12 Hz)の活動が活発であった。これは、参加者が自らの知識を掘り起こし、アイデアを統合する過程で脳が深く関与していることを示す。つまり、脳は外部ツールに頼らず、自身のリソースを最大限に動員することで、より深い認知エンゲージメントを生み出す。
 次いで強かったのが検索エンジン群で、その脳活動はLLM群と脳のみ群の中間に位置した。特に、視覚情報を処理する後頭葉の活動が活発であり、これはインターネット上の情報を探し、読み、取捨選択するという認知プロセスを反映していると考えられる。
 これら二群と対照的に、LLM群は、脳波活動が顕著に弱く、神経接続も限定的であった。ChatGPTがエッセイの構成や語彙を提案することで、参加者の脳は情報の生成や統合に必要な努力を省略すると見られる。この省略は、短期的には効率を高めるが、脳の学習プロセスに重要な「認知的負荷」を軽減してしまう。認知的負荷は、学習の初期段階で脳に課される挑戦であり、これによって新しい神経回路を形成し、知識を長期記憶に定着させる鍵である。このことから論文は、LLM群がこの負荷を回避することで、脳が発達する機会を失う可能性を示唆している。簡単に言えば、AIが提供する「答えの即時性」が、脳の努力に基づく学びを置き換える瞬間を映し出している。

認知的負債という隠れたコスト
 この論文が提示する「認知的負債(cognitive debt)」という概念は、AIの長期使用がもたらす、人類への新たな問題ともいえる。これは、AIに依存することで短期的に労力を節約する代償として、長期的には自律的思考や学習能力を損なう現象を指すものだ。この負債の具体的な現れとして、記憶への定着不全がある。論文では、LLM群が書いたエッセイについて、初回セッションで参加者の83.3%が内容の引用に苦労し、正しく引用できたのはゼロだったと報告されている。つまり、AIが生成した内容は脳に深く刻まれず、自分自身の知識としては定着しにくい。この定着過程は、神経科学でいう「長期ポテンシェーション(LTP)」のように、ニューロンのシナプス結合を強化することで学習の基盤を形成過程であもるが、LLM群ではChatGPTがこの挑戦を代行することで、シナプス結合の強化が不十分になりうる。
 さらに、この負債はエッセイの「質」にも影響している。NLP分析によると、LLM群のエッセイは均質で、語彙や概念がChatGPTの提案に偏る傾向があった。対照的に、脳のみ群のエッセイでは「true happiness(真の幸福)」のような内省的な語句を多用し、多様な思考パターンを示していた。
 この「質の変化」は、論文で行われたAIと人間による評価の比較で一層際立った。AI審査官が形式的な完成度を高く評価したエッセイを、人間の教師は「魂がない(soulless)」と評し、内容や独自性のスコアを低くつけた。AIが生み出す表層的な完璧さと、人間が感じる思考の深みの間のこのギャップこそ、「認知的負債」がもたらす隠れたコスト、つまり創造性や個性の喪失を象徴しているのかもしれない。

AIと脳の共生
 AIと脳の関係は、単なる対立や代替ではないだろう。論文の4章では、それまでツールなしで執筆していた脳のみ群がChatGPTを初めて使用すると、神経ネットワークの活性化が大幅に増加した事例が挙げられている。これは、AIが学習を阻害するだけでなく、既存の知識とAIの提案を統合する過程が、脳に新たな認知的挑戦をもたらし、その柔軟性を刺激しうることを示すものだ。
 この発見は、教育現場でのAIの活用法に重要な示唆を与えるだろう。論文では提言として、まず自力で課題に取り組み、その後にAIを補助的に使うハイブリッドな戦略の可能性を示唆している。このアプローチなら、脳が初期の認知的負荷を経験して神経回路を形成した後に、AIが提供する外部視点を取り入れることができる。海を行く帆船ではないが、AIは、脳の学習を「外からの風」として機能し、新たな視点や構造を提供するが、その風に乗りすぎないよう、脳自身の航路を見失わないバランスが求められる。
 このAIと学習者知性の共生は、学習者の「所有感」をどう維持するかの問題にも直結する。論文に関する報道のインタビューの報道があったが、そこでは、LLM群の参加者がエッセイに所有感を持てず、「自分の作品ではない」と感じたと報告していた。脳の学習は、成果に対する感情的・認知的つながりを必要とするものである。教育者は、AIを「思考の補助輪」として使い、脳が自らペダルを漕ぐ機会を確保する必要があるのだろう。

脳の学びをどう守るか
 AIの普及は、教育における脳の学習特性を再考する機会を提供する。この論文は査読前の小規模研究でしかないが、それでも、AIの使用は創造的な思考を抑制し、思考をテンプレート化するリスクを伴う 懸念は提示されうる。特に、神経可塑性が高い発達段階にある若い学習者の脳にとって、AIへの過度な依存は、批判的思考や問題解決能力の基盤を弱める深刻な影響を及ぼす可能性がある 。よって、教育現場では、脳の学習特性を守るための戦略が不可欠となっていくだろう。
 その際、論文が示唆する「自力優先、AI補助」のアプローチは、脳が認知的負荷を経験する機会を確保する 。例えば、ディスカッションや手書きのメモ、ブレインストーミングなど、AIに頼らない学習活動をカリキュラムに意図的に組み込むことの重要性が挙げられる。これらは、脳のシータ波やアルファ波を活性化させ、学習の深さを高めることがすでに知られている 。
 AIの未来は、基本的に人間の脳の学習特性との調和にかかっている。この論文は、ChatGPTが脳の神経接続を弱めるリスクを示したが、同時に適切な使い方が脳の可能性を広げることも明らかにした。教育は、AIは、単なる知的生産のツールとしてではなく、脳の学びを拡張するパートナーとして再定義する時を迎えている。学習者の脳が、AIの風に乗りながらも自らの航路を切り開くために、教育者は新たな地平を模索し続ける必要があるのだが、それの前に現存の教育体制の改革が前提にはなるだろう。

 

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2025.07.12

トランプ政権下でのメディア変化

 トランプ政権の復帰以降、米国のメディア環境は劇的な変動を見せている。従来のリベラルメディアは低迷し、インテリメディアは中立化に、そして特に、Fox News Channel(以下、Fox News)が視聴率競争で圧倒的なリードを築きつつある(参照)。つまり、CNNやMSNBCといったライバルを大きく引き離しつつある。この現象は、トランプ政権の情報発信戦略と視聴者の政治的志向の変化がメディアの影響力構造に与えた影響を象徴している。

Fox Newsの視聴率独走

 2025年第2四半期、Fox Newsは総視聴者数で平均160万人の視聴者を獲得し、CNN(40.6万人)やMSNBC(59.6万人)の合計を上回った。プライムタイムではさらに顕著で、Fox Newsの平均視聴者数は260万人に達し、MSNBC(100万人)やCNN(53.8万人)を大きく引き離した。広告主が重視する25~54歳のデモグラフィック層では、Fox Newsが20.2万人を記録し、CNN(7.1万人)やMSNBC(5.7万人)を圧倒した。この数字は、Fox Newsが17四半期連続でケーブルニュースの総視聴者数トップを維持し、6四半期連続でプライムタイムでも首位を堅持していることを示す。

 Fox Newsの番組も際立った成功を収めている。「The Five」は390万人の視聴者を集め、ケーブルニュース全体で15四半期連続でトップを維持。「Jesse Watters Primetime」は340万人の視聴者と39.6万人のデモ層を獲得し、2位を記録。「Special Report with Bret Baier」は、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフとの独占インタビューで3000万人の視聴者を獲得し、そのYouTubeでの動画再生数は550万回に達した。さらに、「Hannity」「The Ingraham Angle」「Gutfeld!」といった番組は、CBSの「The Late Show with Stephen Colbert」やABCの「Jimmy Kimmel Live」といった放送局の人気番組を上回る視聴率を記録。Fox Newsはケーブルニュースの14番組がトップ15を占め、視聴者の圧倒的な支持を得ている。

トランプ政権のメディア戦略

 トランプ政権のメディア戦略は、当然、Fox Newsの視聴率上昇に大きく寄与している。トランプ大統領やJDバンス副大統領は、Fox Newsを通じて主要な政策発表や解説を行うことが多い。例えば、2025年に発表されたイランとイスラエルの完全停戦合意は、JDバンス副大統領が「Special Report」で詳細を説明し、視聴者の関心を独占した。このような独占的な情報提供は、Fox Newsを政権の主要な発信プラットフォームとして位置づけ、視聴者が同局を主要な情報源として選択する動機を高めている。

 さらにトランプ政権は、従来の主流メディア(ABC、NBC、CBSなど)に対して一貫して批判的な姿勢を取り、「フェイクニュース」として非難する一方、Fox Newsを信頼できる情報源として積極的に活用している。この戦略は、トランプの支持基盤である保守層の視聴者をFox Newsに集中させる効果を生んでいる。特に、2025年第2四半期には、米国によるイラン核施設への攻撃やローマ教皇フランシスの逝去といった大ニュースの報道で、Fox Newsは放送局をも上回る視聴率を記録した。政権のメッセージを直接視聴者に届けるパイプ役として、Fox Newsは他のメディアを圧倒している。この共生関係は、トランプ政権がメディアを介した世論形成において、Fox Newsを戦略の中核に据えていることを示している。

メディアの二極化と視聴者の分断

 トランプ政権下でのメディア環境の変化は、視聴者の政治的志向による二極化をさらに加速させている。Fox Newsは保守層を中心に圧倒的な支持を集め、総視聴時間の62%、プライムタイムの63%という驚異的なシェアを誇る。対して、CNNやMSNBCはリベラル層を主なターゲットとしているが、視聴者数の減少が顕著だ。特にMSNBCは、HGTV、Food Network、Comedy Centralといったエンタメ系チャンネルにも25~54歳層の視聴者数で抜かれるなど、影響力の低下が顕著である。この二極化は、トランプ政権の「フェイクニュース」批判と保守層のメディア不信が背景にある。

 Fox Newsの番組編成は、保守層が関心を持つトピック(移民政策、経済ナショナリズム、国際関係など)を強調し、トランプ政権の政策アジェンダと密接に連動している。例えば、「The Five」や「Hannity」は、トランプ政権の政策を肯定的に取り上げ、政権批判を行うリベラル系メディアとの対比を明確に打ち出す。このアプローチは、保守層の視聴者を惹きつけ、Fox Newsへの忠誠心を高めている。さらに、Fox NewsはソーシャルメディアやYouTubeでのコンテンツ配信にも力を入れており、若年層の保守派にもリーチを広げている。対照的に、CNNやMSNBCは視聴者層の縮小とデジタルプラットフォームでの競争力低下に直面しており、メディアの二極化が視聴者の情報消費パターンを根本的に変えている。

メディア業界の構造変化

 Fox Newsの視聴率覇権は、以上見てきたように、トランプ政権下でのメディア環境の構造変化を象徴する。今後はどうなるか。Fox CorporationのCOOは、Fox Newsの成長がトランプ政権下で持続可能であると述べているが、競争環境の低迷も見逃せない。CNNはWarner Bros. Discoveryによるネットワーク分離計画が報じられ、業界内では「涙の地平線」と揶揄されるほどの苦境に立たされている。MSNBCも視聴者数の低迷が続き、ケーブルニュース以外のエンタメ系チャンネルにすら後れを取る状況だ。このような競争相手の弱体化は、Fox Newsがシェアをさらに拡大する余地を示唆する。

 とはいえ、好事魔多しではないが、Fox Newsの成功はトランプ政権への依存度の高さに起因する部分が大きく、リスクも内包している。政権の人気や政策の成否が視聴率に直結する可能性があり、政権交代やスキャンダルが起これば視聴者離れの危険がある。また、デジタルプラットフォームの台頭により、視聴者の情報消費が多様化している中、Fox NewsはYouTubeやストリーミングでの強さを維持しているが、ソーシャルメディアのアルゴリズム変更や規制強化が影響を与える可能性も否定できない。さらに、若年層の政治的関心の変化や新たなメディアプラットフォームの登場すれば、Fox Newsの長期的な覇権に挑戦を投げかけるかもしれない。

 そのため、Fox Newsとしてもこの機会にコンテンツの多様化や新たな視聴者層の開拓に取り組んでいる。例えば、「Gutfeld!」のようなエンターテインメント性の高い番組は、従来のニュース番組とは異なる視聴者層を引きつけ、放送局の深夜番組を上回る視聴率を記録している。また、Fox Newsのデジタルプラットフォームでの成功(YouTubeでの動画再生数やソーシャルメディアでのリーチ)は、若年層への影響力を維持する鍵となっている。トランプ政権下でのメディア環境は、Fox Newsに有利な状況を作り出しているが、業界全体の変動や視聴者の嗜好変化に対応する柔軟性が、Fox Newsの将来を左右するだろう。

 余談だが、NHKは従来にABCに依存して、Fox Newsは保守系動向の参考にしかしていなかったが、とにかくFox Newsが最初の報道源になることが多く、出番が多くなった。





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2025.07.11

ウクライナの野党議員スコロホッド氏の声

 ウクライナの最高議会(ヴェルホーヴナ・ラーダ)議員アンナ・スコロホッド氏は、ゼレンスキー政権への批判的姿勢で知られる独立系議員である。元「人民の僕」党員で、現在は「未来のために」党に所属する彼女は、ウクライナの戦時下の課題を率直に語り、国民の不満を代弁する数少ない声の一つだ。2025年7月、ウクライナのオンラインメディア「Politeka Online」のインタビュー(参照)で、彼女は非常事態宣言の延長、動員の不平等、軍の課題、腐敗、人口危機、そして外交交渉の必要性について語った。ウクライナの野党的な視点から、戦争の現実と社会の分断を浮き彫りにする彼女の見解を紹介する。

背景と現在の状況

 ウクライナでは、2025年11月5日までの戒厳令と動員の延長について、来週、最高議会(ヴェルホヴナ・ラーダ)で投票が行われる可能性がある。政治学者のウラジミール・フェセンコ氏は、戦争が少なくとも2026年半ばまで続き、停戦が終結の唯一の手段であると述べているが、アンナ・スコロホッド氏は、戒厳令延長の具体的な議案はまだ確認しておらず、閣僚のローテーションに関する議論が進行中であると指摘する。戒厳令は現在2025年8月まで延長されており、8月にも議会が予定されている。ウクライナは2022年2月のロシアによる侵攻開始以来、戒厳令を繰り返し延長し、動員を継続しているが、国民の疲弊や社会の分断が顕著になっている。

戒厳令と動員に対する国民の反応

 多くのウクライナ国民は戒厳令の延長を「裏切り(ズラーダ)」と捉え、スコロホッド氏は、戦争が続く限り、戒厳令の解除で終戦が訪れるという幻想は誤りであると強調している。現状ウクライナでは、戦争の期間については、2~3年、最大5年など様々な予測が飛び交うが、正確な見通しは誰も持っていない。スコロホッド氏は、外交交渉による戦争終結を信じ、外交は専門の外交官が担うべきであると主張する。大統領府や大統領に都合の良い、外交や軍事史に無知な人物が交渉に関与することは避けるべきであると訴えている。

ウクライナの動員と軍の課題

 ウクライナにおける動員は強制的で平等性に欠け、金銭で免除されるケースが存在し、社会の分断を助長している。ローテーションや除隊の議論は最高議会で禁止されており、予備兵力の不足、前線と後方支援の人員バランスの悪さ、軍人の待遇の低さ、訓練の質の低さが問題である。優秀な司令官は部下の命を守るため追加訓練を実施するが、そうでない場合、兵士は単なる「統計」と見なされることもある。スコロホッド氏は、軍内の非効率な構造や、既存の旅団を統合せず新設することで予算を浪費する実態を批判する。これらの問題は、短時間の議論では解決できない複雑な課題である。

戦争の長期化と国民の信頼

 スコロホッド氏は、国民の軍、司令部、国家への信頼が著しく低下していると指摘する。動員は強制的に行われ、当初宣伝されたリクルーティングは実質的に存在しない。アキレス連隊のフェドレンコ司令官が「2023年に最終戦闘で戦争を終結させる」と発言したことに対し、スコロホッド氏は、10年も戦う人的資源はないと反論している。実際の損失は当局の発表よりも深刻で、墓地や赤十字への行方不明者問い合わせからその規模が伺える。国防省と軍の連携不足や、軍内の調整の欠如も大きな問題である。スコロホッド氏は、軍人の準備不足や前線の過酷な状況を、自身の知る司令官の証言に基づいて訴えている。

外交と和平交渉

 ウクライナ外務省のゲオルギー・ティヒー氏は、ウクライナがロシアとの交渉に参加するのは、平和を望まないと非難されないためだと述べたが、スコロホッド氏はこれを見せかけと批判し、ウクライナとロシア双方にとって本物の交渉ではないと指摘する。特に、2022年のイスタンブール交渉プロセスからの離脱を望む声が議会内で聞かれたことを明かし、どんな交渉の場も最大限に活用すべきだと主張する。人道的な問題(例えば、ロシアからの6,000体の遺体返還に対しウクライナ側は100体程度を返還)は、国民に否定的な影響を与えている。スコロホッド氏は、交渉がアメリカやトランプ大統領に向けたパフォーマンスである可能性も示唆する。

ウクライナ経済と社会の課題

 ウクライナの予算は赤字で、軍人の家族への支払い遅延や予算配分の不明瞭さが問題である。莫大な損失や行方不明者の増加が予算を圧迫し、借金依存が国の債務を増大させている。ダニロ・ゲトマンツェフ議員の「10代に3年で1着の服、女性に7年で2着のドレス」といった節約提案は、現実離れした政策として批判されている。スコロホッド氏は、権力者がプロフェッショナルではなく、自己の利益を優先し、戦争で儲けている実態を非難する。国民は軍支援のため10フリヴナの寄付を求められる一方、都市では無駄なインフラ整備(例えば、アスファルトの敷き直しや石畳の設置)が進む「シュールレアリスムの国」と化している。国外への出国者数は1400万人に達し、国境での出国車両の増加(例:夜中に70台)も報告されている。

議会の雰囲気と和平への展望

 最高議会では、動員や戦略の議論がタブー視され、真実を語る議員は「ロシアのために働く敵」と見なされる。スコロホッド氏が率いた徴兵問題の調査委員会の報告書は議会で審議されなかった。ゼレンスキー大統領が2022年に自ら平和交渉を禁じる決定を下し、国家安全保障会議で承認されたが、議会は停戦を支持する可能性が高いとスコロホッド氏は見る。プロフェッショナルな人材の不在が最大の問題であり、若者への期待も裏切られたと述べる。年配者はソ連崩壊時の豊かなウクライナを懐かしみ、現在の貧困(例:年金で肉を買えず鶴の骨セットを購入)を嘆く。戦争は一部の企業や個人にとって巨額の利益を生む一方、汚職や予算の不正流用が続いている。

戦争終結のレッドライン

 戦争終結の「レッドライン」について、スコロホッド氏は、個人や大統領が決めるべきではなく、国民投票で国民が決めるべきであると主張する。政治的、経済的、人口統計的な状況に基づき、国民が投票でレッドラインを定めるべきである。毎日の人的損失は計り知れず、命は無価で、取り戻すことはできない。スコロホッド氏は、固執した姿勢は許されず、命を最優先に守ることが最大の勝利であると訴える。
 以上、ウクライナ野党議員であるスコロホッド氏は、ウクライナが直面する軍事的・社会的・経済的課題を率直に語り、信頼の欠如や非効率な政策を批判している。戦争終結には本物の外交が必要であり、国民の命を守ることが最優先であるとのことだ。彼女は、国民が真実を知り、議論に参加することを促し、視聴者にコメントで意見を共有し、穏やかな一週間を過ごすよう呼びかけている。



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2025.07.10

参議院選挙と外国人労働者問題

 日本は深刻な労働力不足に直面し、外国人労働者の導入が不可欠である。厚生労働省のデータによると、2023年時点で外国人労働者数は約200万人を超え、12年連続で過去最多を更新している。特に介護、農業、建設業では外国人労働者なしでは立ち行かない状況だ。しかし、2025年の参議院選挙を控え、この問題に対する政治と社会の対応は不十分であり、潜在的な危機が潜んでいる。ここでは、政党の立場と支持率データ(NHK調査)を基に、日本人の意識、政治の姿勢、世代間の分断、そして選挙に向けた課題を分析してみたい。

外国人労働者の必要性と潜在的危機

 日本の少子高齢化と人口減少は、労働力不足を深刻化させている。共産党は「外国人労働者なしに機能しない地方産業分野がいくつもある」と指摘し、公明党は「少子高齢化の中で外国人材は一層重要」と強調する。自民党も特定技能制度を通じて労働力不足に対応する姿勢だ。介護業界では労働者の約40%が外国人、農業や建設でも依存度は高い(厚生労働省2023年推計)。参議院選挙では、この経済的依存をどう管理し、持続可能な労働市場を構築するかが争点となるべきだが、あまり明瞭な論点としてはあげられていないように見える。

 もちろんと言えることだが、拙速な受け入れは危機を招く。参政党は「社会の不安定化、国民負担の増大、賃金の押し下げ」を懸念し、れいわ新選組は「移民政策が労働者の賃金を下押しする」と反対する。これらは言葉だけ取り上げればうなずける面がある。若年層(18-29歳、30代)の非正規雇用率は約30%(総務省2023年)で、雇用競争の激化が現実的な脅威である。社会的には、保守党や参政党が挙げる治安悪化や文化摩擦のリスクも懸念されるが、実体は外国人労働者の犯罪率は日本人と同等以下(警察庁2023年)である。他方、技能実習制度の搾取問題や、OECD諸国に比べ遅れた統合政策(語学教育、差別防止)は、参議院選挙で制度改革の議論を迫られる。

高齢層の現状維持志向

 NHKの支持率調査では、自民党(現状維持)が70代で38.7%、80歳以上で43.5%と高齢層の圧倒的な支持を得ている。自民は外国人労働者の問題について「受け入れと管理の両立」を掲げ、不法滞在対策を重視するが、多文化共生や差別防止法の議論は進まない。高齢層は介護や地方産業の労働力不足を身近に感じ、現状維持を現実的と見なす。しかし、賃金低下や文化摩擦など将来の危機への準備は不十分である。参議院選挙では、高齢層の安定志向に応えつつ、長期ビジョン(例:永住権基準、統合策)を提示できるかが問われるべきだろう。

 この問題における現状維持志向は、問題の先送りとも言えるし、また問題の事実上の隠蔽化とも言える。各政党の主張においても、受け入れ人数や予算規模の具体性は乏しく、若年層の雇用不安への対応も弱い。日本の政治意識のマジョリティを占める高齢層の「特になし」(70代20.4%)は他の世代より低いものの、全体で30.1%と世論の関心不足が顕著である。参議院選挙で、自民は高齢層の支持を維持しつつ、若年層の懸念や社会的準備をどう取り込むかが課題であるべきだったが、現状の崩壊しつつある自民党では無理だった。あるいはこの問題でも前回の年金「改革」のように実際に高齢者への負担増となる改革を隠蔽化するもくろみがあるかもしれない。

回答拒否と若年層の極端な反応

 国民民主党と再生は、外国人労働者の受け入れに「回答しない」を選択する。国民民主党は「共生と日本語教育支援」を条件に挙げ、再生は「秩序ある受け入れ」を主張するが、予算や実施計画は不明である。たぶん、存在しないのだろう。国民民主党は30代で18.9%の支持を得ており、若年層の「特になし」(30代38.7%)層を取り込む戦略が成功している。しかし、この曖昧さは政治的リスクを避けるポピュリズム的手法であり、参議院選挙では具体的な政策提案が求められる。こうした無責任な政党は別の意味で潜在的なリスクを孕んでいる。

 一方、若年層は参政党(反対、30代9.9%)やれいわ(反対、30代6.3%)を支持する。参政党は「国益損失、治安悪化」を、れいわは「賃金下押し」を理由に受け入れを否定。両者は右派(国家主義)と左派(反格差)の両極だが、若年層の非正規雇用や賃金停滞への不安に訴求する。しかし、完全な受け入れ停止は労働力不足を無視し、産業停滞を招く非現実的な提案だ。参議院選挙では、これらの極端な主張が若年層の感情的反応を代弁する一方、建設的な解決策(例:国内労働力活用、賃金上昇策)の不在が問題となる。この状態は若者世代の理想的なしかし空想的な正義を求めるあまりのある種のニヒリズムのゴミ箱のように機能しているのだろう。

参議院選挙での向き合い方

 参議院選挙を控え、外国人労働者問題への真剣な構想への取り組みが急務であるべきだった。そのためには各党から情報公開を強化することが求められた。外国人労働者の経済貢献(GDP寄与率2-3%)や犯罪率(日本人と同等以下)のデータを公開し、世論の無関心(「特になし」30.1%)を減らすべきだった。しかし、現状はこれに逆行している。第二に、具体的な政策を提示する必要があった。カナダのポイント制移民制度やドイツの統合コースを参考に、予算付きの日本語教育(例:年1000億円)や差別防止法を提案するのも良かっただろう。第三に、若年層の具体的な不安解消だ。正規雇用促進(例:企業への税優遇)や最低賃金引き上げ(2025年目標1500円未達)を具体的に加速できる政策が提示されるなら、参政党・れいわといった極端な訴求を抑えることができたはずだ。第四に、世代間(高齢層:寛容、若年層:慎重)や価値観(経済 vs. 文化)の分断を埋める公開討論を開催すべきなのだが、現実的には、もはや、それが不可能になりつつある。このことは、ユーチューブやSNSでの彼らの言動から読み取れるものである。つまりは、それが問題とも言える。日本人は本質的な政治的危機に直面したとき、理想論をおいて現実をベースに検討することを言論的に回避するか、言論とは空想的な理想論を語ることになっている。



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2025.07.09

参院選2025 年代別支持率から読み解く選挙後の政治地図

若年層の政治離れが示す構造変化

 2025年7月20日投開票の参議院選挙を前に、NHKが7月7日付けで発表した年代別政党支持率が興味深い傾向を示している。最も顕著なのは若年層の政治離れである。18-29歳の「特になし」が40.4%に達し、自民党支持率はわずか10.5%と全体平均の28.1%を大幅に下回る。30代でも自民党支持率は11.7%にとどまり、若年層の既存政党への不信が鮮明になっている。

 一方、60代以上では自民党支持率が26.5%→38.7%→43.5%と年齢とともに上昇し、「特になし」も32.0%→20.4%→18.2%と減少する。この年代格差は、価値観の世代間断絶と政治参加のあり方の違いを反映している。ただし、若年層の投票率の低さを考慮すると、実際の選挙結果への影響は限定的かもしれない。しかし、若年層が実際に投票行動を起こした場合、既存の政治秩序に大きな変革をもたらす潜在力を秘めている。

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参政党躍進の背景と政治的インパクト

 今回の支持率調査で注目すべきは参政党の4.2%という数字である。これは維新の会(2.3%)や公明党(3.0%)を上回る水準で、特に30代男性では9.9%と突出している。40代でも6.7%、18-29歳でも8.8%と、30-40代の男性を中心とした強固な支持基盤を築いている。

 参政党は2019年結成の新興政党で、インターネットやSNSを活用した情報発信に力を入れている。30-40代男性の支持が高いのは、デジタルネイティブ世代でありながら社会的責任を担う年代として、既存政治への不満と新しい政治勢力への期待が結びついた結果と考えられる。

 現在は参議院で1議席しか持たない参政党だが、4.2%の支持率は比例代表での議席拡大の可能性を強く示唆している。組織的な選挙活動が功を奏せば、3-5議席の獲得も視野に入り、参議院の勢力図に少なからぬ影響を与えるだろう。

与党過半数割れの現実味

 現在の参議院では自民党114議席、公明党27議席で与党計141議席と過半数(125議席)を16議席上回っている。しかし、今回の参院選では2019年当選の124議席が改選対象となり、与党にとって厳しい選挙戦が予想される。

 支持率データを基に予測すると、自民党は高齢者層の強固な支持により一定の議席は確保するものの、若年層の支持離れと「特になし」層の多さが議席減要因となる。95-105議席程度に減少し、公明党と合わせても119-133議席で過半数割れの可能性が高い。

 過半数割れが現実となれば、参議院での法案審議が困難になり、政権運営に深刻な影響を与える。特に重要法案の成立には野党の協力が不可欠となり、政治の不安定化が懸念される。与党は国民民主党や日本維新の会との連携を模索する必要に迫られるだろう。

選挙後の政治地図と今後の展望

 参院選後の勢力図は、従来の二大政党的な構造から多党化への転換点となる可能性が高い。立憲民主党は35-45議席程度で現状維持、日本維新の会は20-25議席で微増、参政党は3-5議席で大幅増という予測である。

 特に注目すべきは参政党の躍進である。若年層を中心とした支持拡大は、既存の政治秩序に新たな変数を加える。また、国民民主党の30代での突出した支持(18.9%)も、世代交代の流れを示している。

 こうした政治の多様化は有権者の選択肢を広げる一方で、政権の安定性には課題を残す。与党過半数割れの状況下では、政策決定プロセスが複雑化し、迅速な意思決定が困難になる恐れがある。

 今回の参院選は、日本政治の世代交代と価値観の多様化を反映した結果となるだろう。若年層の政治参加のあり方と新興政党の動向が、今後の政治地図を大きく左右する重要な分岐点となる。



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2025.07.08

セール品を避ける生活が実はお得では?

 セールでの大幅な割引は消費者を引きつけるが、「セール品を買わない」という方針を10年間貫いた場合、経済的・心理的な損得はどうなるのだろうか。そこで、AIの時代。AIを活用して簡易な数理モデルを構築し、シミュレーションを通じてこの問いに答えてみた。金銭的支出に加え、満足度や後悔といった非金銭的要素を定量化し、セール派と非セール派を比較したのである。結果、セール品を避ける選択は初期の出費増を伴うが、長期的な総合的価値では優位となる可能性が示された。以下、AIシミュレーションの概要とその示唆を解説してみよう。

セール品の節約効果と隠れた代償

 セール品は通常、定価より10~30%安価に購入できる。AIを用いたモデルでは、年間消費額20万円、平均割引率20%を仮定し、10年間の総支出を計算した。セール派の支出は208万円(20万円×0.8×10年)、非セール派(定価購入)は210万円となり、表面上はセール派が2万円得する。しかし、セールには落とし穴がある。消費者行動研究によれば、セール品の約30%が「不要な購入」となり、衝動買いを誘発する。モデルでは、セール派の「無駄買い率」を30%と設定し、購入総額の3割が無駄になるシナリオを想定した。さらに、セール品は品質が劣る傾向があり、たとえば衣類の耐久年数が3年と短い。AIシミュレーションでは、この買い替え頻度の増加が節約効果を相殺し、隠れたコストとなることを確認した。これに対し、非セール派は無駄買いが少なく(無駄率5%)、経済的損失を抑えられる。

定価購入がもたらす経済的・品質的利点

 セール品を避け、定価で購入する方針は初期の支出増を伴うが、購買行動に質的な変化をもたらす。AIモデルでは、非セール派の10年総支出を210万円と計算したが、慎重な購買により無駄買いが抑制される(無駄率5%)。さらに、定価購入者は「本当に必要か」「長く使えるか」を重視し、高品質な商品を選ぶ傾向が強い。たとえば、セール品の衣類が3年で買い替えが必要なのに対し、定価の高品質な衣類は6年持つと仮定した。AIシミュレーションでは、この耐久年数の差が買い替え頻度を半減させ、長期的な支出を抑える可能性を示した。仮に、品質向上により年間消費が実質15万円に減少した場合、10年で150万円となり、セール派の208万円を大幅に下回る。AIは複数のシナリオ(耐久年数4~8年、割引率10~30%)を試算し、非セール派の経済的損失が限定的であることを裏付けた。

満足度と後悔を数値化した総合評価

 満足度と後悔を数値化したモデルはどうだろうか。心理的要素を数値化し、金銭的支出と統合した点にある。満足度(0~100点)と後悔(0~100点)を設定し、差分(満足度-後悔)を金銭価値(1点=0.5万円)に換算してみた。セール派は、安さによる喜びで満足度60点、衝動買いや品質への不満で後悔40点(差20点、効用10万円)とした。非セール派は、納得感の高い購入で満足度85点、無駄買いの少なさで後悔15点(差70点、効用35万円)である。さて、AIが計算した総合効用(-支出+効用)は、セール派が-198万円(-208+10)、非セール派が-175万円(-210+35)となり、非セール派が23万円分優位となった。さらに、AIは感度分析を実施し、満足度や後悔のスコアを±10点変動させても、非セール派の優位性が維持されるケースが多いことを確認した。この結果は、納得感の高い購入が後悔を減らし、精神的な「得」を生むことを示唆している。

購買行動の再考とAIシミュレーションの示唆

 購買行動の再考とAIシミュレーションをしてみた。簡易ながらセール品購入の経済的利点と心理的コストを定量化し、非セール派の長期的な優位性を、それなりにではあるが、明らかにしたのである。シミュレーションでは、割引率、無駄買い率、耐久年数、満足度・後悔のスコアを調整し、さまざまな消費者像を想定。たとえば、セール品の品質が定価品と同等(耐久年数6年)の場合、セール派の支出は160万円まで低下するが、無駄買い率30%により依然として非効率となる。一方、非セール派は高品質品の選択により、支出と満足感のバランスが優れている。モデルは個人差を考慮する必要があるが、満足度や後悔のスコアを自身で調整することで、個々に最適な結論を導ける。
 どうやら、セール品を避ける方針は、無駄な消費を抑え、品質と満足感を重視する者に適しているようだ。さて、こうしたモデルは必ずしも個々人の現実には当てはまらない。とはいえ、1年間「セール品を控える」実験を行い、支出や満足感の変化を記録してみるとよいかもしれない。AIを用いたシミュレーションは、こうした試行を数値的に裏付け、賢い消費スタイルの構築を支援する。自身の購買習慣を見直し、経済性と心の充実を両立させる契機となるだろう。



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2025.07.07

【『新しい「古典」を読む 1』販売のお知らせ】

 ペンネーム finalvent(ファイナルベント)で以前、オンラインマガジン Cakes (ケイクス)に連載していた評論集を書籍化・販売する運びとなりました。

finalvent (著)『新しい「古典」を読む 1』 Kindle版
2025年7月15日の販売が決定しました。
https://amazon.co.jp/dp/B0FFTNZCFN?ref_=pe_93986420_775043100

Kindle版の購入は1200円ですが、Kindle Unlimitedの対応になっているので、このサービス利用のかたであれば、その対象として無料で読むことができます。

オンデマンド対応(2000円予定)にもなっています。最近のオンデマンドの製本はとてもきれいな仕上がりなので、書籍でというかたはご検討ください。
今回が第1巻でこれから、第4巻まで続きます。販売決定は追ってお知らせします。


 もう10年も前になってしまい時の経つのは早いものだなと思います。『考える生き方』という本を55歳のおりに出版し、「なに自伝みたいな本出しているんだよ、Cake(ケイクス)に連載している評論の方を出してくれ」、と言われたことがありました。まあ、自分としては、『考える生き方』は自伝というつもりもなく、凡庸な人間が凡庸な人生を送るということはどういうことかを考えてみたいという本ですが、こちらの、Cakes連載の評論集のようなものですが、今回の書籍にあたり序文にも書いたのですが、凡庸な人間が文学や思想に取り憑かれて自分を吐露したくてたまらないという凡庸な欲望のテキストです。いやなにも卑下しているわけでも、ひねくれたこと言っているわけでもないのです。率直に言って、文学や思想、さらには読書、音楽鑑賞、そうしたものに取り憑かれている自分という奇妙な存在を描きたかったというのはあります。この二流の欲望をあますことなくぶちまけるというのがこのシリーズです。
 とはいえ、そんなもの最初から露骨に示されても、どんびき、といったものでしょう。そんなこともあって、連載初期のこのVol.1では、『100分de名著』的な読書案内的な色気もあり、まあ、これはVol.4になってもあるので、我ながら、売文屋をやっていた情けない部分が出ていますが、そういう面も否定しません。つまり、この評論は、それ自体がエンタメであるようにも企図していました。
 この本、いつかは書籍化したい。一度はオンラインマガジンに掲載したくらいだから、それほどズタボロではないだろうと思っていましたが、そんなことはありませんね。バンディット・マガジンの坂田さんからのオファーがあってまとめだすと、なかなか大変な作業でした(坂田さん、ありがとうございました)。
 先の釣り文にも書いたのですが、Kindle Unlimitedに入るようなので、このサービスを使っていらっしゃるかたには、その前提で無料で読めます。お気軽にお読みいただけたらと願っています。
 といいつつ、このオンデマンド製本がなかなかによいです。さすがにオンデマンド出版が進化したなあと思うほどです。Kindleだから電子書籍というより、オンデマンド出版の流れのなかに、電子書籍もあるという位置づけで考えたいです。なんというか、槇島の言葉が浮かびますね。


槙島「紙の本を買いなよ。電子書籍は味気ない」
チェ「そういうもんですかねぇ?」
槙島「本はね、ただ文字を読むんじゃない。自分の感覚
を調整するためのツールでもある」
チェ「調整?」
槙島「調子の悪い時に、本の内容が頭に入ってこないことがある。そういう時は、何が読書の邪魔をしているのか考える。調子が悪い時でも、スラスラと内容が入ってくる本もある。何故そうなのか考える。精神的な調律。チューニングみたいなものかな。調律する際大事なのは、紙に指で触れている感覚や、本をペラペラめくった時、瞬間的に脳の神経を刺激するものだ」

 

 

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2025.07.06

伊東市長の学歴問題から考えること

 伊東市の田久保眞紀市長の学歴詐称問題が報じられ、世間を騒がせている。この話題について、「なぜこれほどまでに騒がれるのか」という疑問を感じている者も少なくないのではないか。社会通念上、学歴詐称は問題とされるだろうが、この件について、私なりの考えを述べたい。

「除籍」と「中退」の違い、そして社会の評価

 この問題でまず想起されるのは、作家の五木寛之氏の例である。彼は早稲田大学を学費滞納から「除籍」となっていたそうだが、後に大学からの連絡もあり、後年なっても学費を納めることで「中退」扱いになった、というエピソードをエッセイで語っていた。「除籍」と「中退」は似ている面と異なる点がある。いずれにせよ、「除籍」は在籍記録が抹消されるため、学歴としては認められにくい傾向にはあるだろう。今回の田久保市長のケースも、東洋大学を「除籍」であったにもかかわらず、「卒業」と偽っていたことが問題視されている。公職選挙法上の瑕疵はないとのことだが、公的な立場にある人が社会的に学歴を偽ることは決して許されることではないが、「除籍」と記すことにはためらいものあったのだろう。

学歴以上に価値を持つ「30年以上の社会的実績」

 とはいえ、田久保市長は現在55歳で、すでに市長という要職に就いている。それなりに市民の評価もあった。それはどのようなのかについて、報道にはないが、Wikipediaによると、配達員やカフェ経営を経て市民活動家になったとあり、これが正しければ、彼女には30年以上の社会経験と実績があるということだ。学歴ももちろん重要だが、これだけの長きにわたる社会経験と、その中で培われた実績こそもまた、市長という立場においてより重要なのではないだろうか。
 一般論としても、高校卒業後、特定の大学に在籍したものの卒業に至らなかった場合、その経歴をどのように表記するかは確かに難しい点かもしれない。「東洋大学除籍」と正直に書くか、あるいは「高校卒業」を最終学歴とするか。このあたりの線引きは、個人の倫理観や社会の風潮によっても受け止め方が変わるデリケートな問題である。また、「除籍」と「中退」でも異なるものだろう。

「中退」は「失敗」ではなく新たな可能性への扉

 私自身の経験からも、「中退」に対する世間の認識と、個人の受け止め方にはギャップがあると感じている。私自身、若い頃に大学院を中退した経験がある。当時は「失敗して終わった」という感覚が強く、行き詰まってカウンセリングを受けたこともあった。その時カウンセラーから言われたのは、「中退はちゃんとした学歴ですよ。そのための手続きはしなさい」という助言であった。この助言のおかげで、私はきちんと「中退」という形で学歴を残すことができた。その後、私の人生は、大学院とは直接関係なく進んだが、62歳になって再び大学院で学び、修士号を取得することができた。この経験を通じて、「中退」は決して「失敗」ではなく、文字通り「途中で辞める」というだけのことであり、いつでも学び直し、新たな道を切り拓くことができる可能性を秘めているのだと考えるようになった。
 思い出すのだが、女優の秋吉久美子さんの例も示唆に富んでいる。彼女は女優時代は高校卒業が最終学歴であったが、個別の入学資格審査を経て早稲田大学大学院に入学し、見事に修士号を取得されている。これは特例かもしれないが、高卒であっても、学び続ける意欲があれば、大学院教育の道も開かれていることを示している。

学問へのコンプレックスがもたらしたもの

 自分の思い出話に戻すと、若い頃に大学院を中退した私は、学問やアカデミズムに対し、ある種のコンプレックスを抱えるようになった。つまり悩んでいた。しかし、そのコンプレックスが逆に、「常に学び続けなければ」というモチベーションにも繋がり、結果として社会に出てからも最新の知識を追い求める原動力となったともいえるだろう。アカデミックな学問の世界は奥深く、探求すればするほど、人類の知識の最先端に立つような、広大な地平が開ける瞬間があるものだ。それは、生きている間にその境地に辿り着けるのかという絶望と、それでもなお進み続けたいという希望が混じり合った、不思議な感覚である。つまるところ、学問をするということの意味はそこにあるのかもしれない。
 今回の伊東市長の学歴問題に戻れば、学歴の「真偽」だけでなく、社会における学歴の価値や、個人の努力と実績をどう評価すべきかについて、私たちに問いかけているように思う。田久保市長も、もし再び大学で学びたいという意欲があるならば、市長業の傍ら大学生をやり直すことだって可能である。そうした姿勢を掲げる地方政治家がいたら、私は心から応援したいと願う。



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2025.07.05

トランプは「狂人理論」を採用しているか

 ドナルド・トランプ米大統領の外交手法が、BBCをはじめとする国際メディアで「狂人理論(Madman Theory)」として注目を集めているようだ(参照)。確かに、頷けるものがある、というか、日本への関税の対応を見ていると、頷く以外はできそうにない。最近では、2025年6月、トランプはイランへの攻撃を巡り、「するかもしれない、しないかもしれない」と曖昧な発言を繰り返した後、突如として核施設への爆撃を実行した。この行動は、単なる衝動や気まぐれではなく、意図的な予測不可能性を武器にした戦略として解釈されているが、ようするに「狂人理論」に見える。他にも、カナダを「米国の51番目の州」と揶揄し、デンマークの自治領グリーンランドの併合を検討すると発言した事例や、NATOの集団防衛条項(第5条)への米国のコミットメントに疑問を投げかけた姿勢も「狂人理論」に見えて不思議ではない。これらの行動は、従来の外交の枠組みを突き破るもので、国際社会に不安と期待の両方を生み出している。ウクライナ問題に関しても、米国防長官ピート・ヘグセスが、ウクライナがロシアに占領された領土の奪還やNATO加盟は「非現実的」と発言して欧州に衝撃を与え、翌日、彼は「すべての選択肢はトランプの手中にある」と修正しものの、トランプ自身は「大体知っていた」と曖昧に答え、意図的な混乱を演出した。このような意図的にも見える一貫性の欠如が、トランプの「狂人理論」を象徴している。背景には、トランプの政策決定がニクソン時代以来最も中央集権的で、彼の性格や気質に強く依存している面もある。トランプの行動は単なる国内向けのパフォーマンスを超え、国際秩序や同盟関係に深刻な影響を及ぼしている。

「狂人理論」とは

 「狂人理論」とは、指導者が自身を予測不可能で、場合によっては非合理的な行動を取る危険な人物として演出することで、相手に譲歩を強いる外交戦略である。1968年、リチャード・ニクソン大統領がベトナム戦争中に北ベトナムに対し「ニクソンは何をするか分からない」と印象づけるよう指示したことに起源を持つ。トランプはこの理論を現代的に応用し、予測不可能性を外交の中心に据えているように見られる。2025年4月、トランプがメキシコやカナダへの関税をちらつかせた後、市場の動揺を受けて一時的に免除した事例は、典型的な「狂人理論」のありがちな展開だ。関税の混乱演出は貿易交渉の前触れとして機能し、両国から譲歩を引き出したが、完全な実施は見送られた。ゲーム理論の観点から見ると、これは「チキンゲーム」に近い。トランプは「衝突(関税戦争)」を辞さない姿勢を見せることで、相手に譲歩(貿易条件の改善)を強いる。この戦略はNATO加盟国にも効果を発揮し、英国が防衛費をGDPの2.3%から5%に引き上げるなど、劇的な政策変更を促した。しかし、戦略としてのデメリットもある。敵対国に対しては効果が限定的であることだ。ロシアのプーチン大統領はトランプの脅しに動じず、ウクライナ戦争の終結を拒否した。また、イランへの核施設攻撃は、核開発を加速させる逆効果を招く可能性がある。ゲーム理論の想起からだが、「繰り返しゲーム」の枠組みでは、相手がトランプの行動パターンを学習し、予測不可能性の効果が薄れる。イランやロシアは、トランプの「ブラフ」を見抜き、すでに長期的な戦略を優先している。さらに、予測不可能性は米国の交渉信頼性を損ない、同盟国が米国を信頼できないパートナーと見なすことになる。つまり、ゲーム理論の「信頼ゲーム」では、信頼の喪失は長期的な協力関係を崩壊させ、トランプの戦略が裏目に出る可能性がある。

トランプが「狂人理論」を実践する理由

 トランプが「狂人理論」を実践する背景には、彼のビジネス経験、政治的動機、そして地政学的危機感が絡み合っているのだろう。不動産業界での交渉では、相手を揺さぶる大胆な発言や予測不可能な行動が有利な条件を引き出す手法として有効だった。トランプはこの経験を国際舞台に持ち込み、米国の影響力を最大化しようとしていると分析する。興味深い挿話として、2017年の米韓自由貿易協定(KORUS FTA)再交渉でのエピソードがある。トランプは交渉官に「この男はいつでも協定から離脱するかもしれない」と韓国側に伝えるよう指示し、結果的に有利な条件を引き出した。このビジネス流の「揺さぶり」が、現在の外交戦略の基盤となっている。政治的動機も大きい。「MAGA(Make America Great Again)」陣営は、米国の国際的負担を減らし、中国を主要な脅威とみなす孤立主義を支持する。2025年2月のガザに関する提案では、トランプが「ガザを米国が占領し、パレスチナ人を移住させて中東のリビエラを建設する」と発言し、世界を驚かせた。この提案は、CNNの報道によると、トランプ自身がガザの破壊映像を見て思いついたもので、意図的な「狂人」演出だったわけである。ただ、そうでもない側面が見えないでもない。2025年6月のイラン攻撃は、イスラエルのネタニヤフ首相の圧力に応じた側面もあり、トランプが「ノーベル平和賞を狙うディールメーカー」と「強硬派の指導者」の間で揺れていることを示す。しかしこの二面性もまた、一周回ってトランプの「狂人理論」を複雑で予測不能なものにしている。
 ゲーム理論の「シグナリング理論」を適用すると、トランプは「強硬なタイプ」のシグナルを送り、相手を動揺させることで交渉の主導権を握ろうとしている。しかし、トランプも大統領期間の二期目に入ったが安易な見通しもないことから、単に断末魔的な理由も考えられるだろう。

狂人理論への対応策

 トランプの「狂人理論」に対処するには、戦略的な冷静さと長期的な視点が不可欠だ。同盟国は、トランプの圧力に応じつつ、過度な追従を避ける必要がある。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相が主張する欧州の運用自立は、米国依存からの脱却を目指す戦略だ。欧州は、そもそも米国並みの兵器生産や人的資源を構築するには数年を要するが、この動きは不可避なものである。ゲーム理論の「協調ゲーム」の観点から、NATOやEUの枠組みを活用し、集団的な防衛力を強化することで、トランプの「チキンゲーム」に対抗できる。また類似の例として、2025年3月のNATOサミットでの出来事がある。NATO事務総長マーク・ルッテがトランプを「イランでの果断な行動」と称賛するメッセージを送ったが、トランプはこれをリークし、ルッテを嘲笑した。このエピソードは、トランプが称賛欲求を重視する一方で、同盟国をコントロールしようとする姿勢を示す。敵対しつつある国は、トランプの行動パターンを分析し、予測不可能性の「予測可能性」を利用することが有効だ。ロシアやイランは、トランプの脅しをブラフと見なし、長期的な戦略を維持している。なかでもイランは2025年6月の攻撃後、交渉を放棄し、核開発を加速させる可能性が高い。
 国際社会全体としては、トランプの短期的な勝利を認めつつ、信頼に基づく多国間協力を強化する必要があるだろう。米国の信頼性が低下すれば、国際協調が損なわれる。ゲーム理論の「信頼ゲーム」に例えるなら、同盟国は米国との協力関係を維持しつつ、トランプの「裏切り」への備えとして自立性を高める戦略が求められている。2025年4月の関税政策の混乱は、トランプが市場の動揺を受けて方針を変更した例であり、ゲーム理論の「ベイジアン更新」を用いれば、相手はトランプの「狂人」演技を見抜き、戦略を調整する可能性がある。さて、日本の赤澤特使はどう対応するか。すでに北斗神拳「無想転生」を習得して、無に帰したように見えないでもない。

 

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2025.07.04

見た目でお値段がつく世の中

 参議院選挙の公示が始まり、街に貼られたポスターを眺めていたら、ふと引っかかる感覚があった。なにか商品広告を見ているような感じで、そして「この顔、なんかお値段ついてるな」と思った。候補者の白い歯、整ったスーツ、計算された笑顔。まるで「私、高いですよ、お得ですよ」と語る商品のようだ。コンビニの棚にならんだポテトチップスのキラキラしたパッケージを見たときと同じ、どこか作為的な「価値」の匂いがする。現代社会は、顔や容姿、雰囲気まで、なんでも「値段」で測るようになった。選挙ポスターも、個人の見た目も、商品の包装も、すべて「見た目でお値段」みたいだ。昔もそうだったか?

「お値段のついた顔」にモヤモヤ

 ポスターの候補者たちの顔は、フォトショの性能あるかもしれないけど、歯並びはよくて、髪は整って、着ているものはピシッとしている。まるで「信頼」を買うための投資のメニューだ。歯の矯正には数百万円、プロのカメラマンによる撮影にも何十万円と金がかかる。ポテトチップスの「プレミアム」な袋と同じで、見た目に金をかければ「価値」が上がるし、まあ、ポテトチップと同じで、見た目に金がかけてないと中身もたいていチープだ。が、こう思う「この笑顔、俺に買えるかな」と。まるで「あなたみたいな貧乏には私は、高すぎるよ」と突き放されているような、微妙な疎外感がある。

 SNSの時代、誰もがこのゲームに巻き込まれるのかもしれない。インスタで完璧な肌やスタイルを見せつけられ、選挙ポスターでは「成功者」の顔が並ぶ。個人だって、歯のホワイトニングやブランド服で「価値」を上げようと必死になる。だが、ほとんどの人はそんな「高級パッケージ」にはなれない。「ジェネリック品」として、量産型の自分にモヤモヤする。ユニクロを季節ごとに着こなすくらいだ。

資本主義では見た目を借金で買う

 この「見た目でお値段」の感覚は、当然資本主義の仕組みと深く結びついている。いや、資本主義は「お金がすべて」じゃない。むしろ「借金できる能力」が本質だ。資本というのは投資のことだ。つまり、借金できる能力のことだ。選挙ポスターの候補者が歯並びやスーツに金をかけるのは、「信用」を買う投資としての資本主義だろう。ポテチのキラキラしたパッケージも、「国産」とか「有機栽培」とか「手作り風」とか、言葉やデザインで信頼を「借りる」ための投資だ。個人も同じ。ブランド服やエステに金をかけて、「成功者に見える」ことで社会的な信用を得ようとする。

 この「借金で見た目を買う」ゲームは、あまり人類には向いてない気がする。なんだか疲れる。候補者のポスターを見ても、「この人、どれだけ投資が必要?」という目で見てしまう。ポテチの袋も、派手なデザインに目を奪われつつ、「中身、お値段通り」と確認する。あまりはずれない。反面、資本主義は、こうした見た目に投資しない者はジェネリック品か中古品か。「借金して高級パッケージになれるか」というようなプレッシャーはきつい。誰もが「プレミアム」を目指して走り続けることは無理。

昔の「ジェネリック品」は愛されたのに

 自分、年取ってノスタルジーはやだなと思いつつ、30年前のドラマを見る機会が増えた。懐かしというより、今見ると感慨深いんだよ。そして、当時の大女優さんの歯並びは今ほど完璧じゃない。衣装もまあ、当然古臭い。普段着ならどこか「普通の人」感が出せる。当時のポテトチップスの袋だって写真加工みたいのはなかった。世の中全体が貧乏臭かったからか、お値段がよくわからなかった。ポテチなんてじゃがいもを揚げただけだしな。選挙ポスターも、昔はもっと人間味があったのか。まあ、大半は、ぐへーキンモという感じだった気がする。プロの加工がない、ちょっと不完全な写真。それが逆に政治家だものなあと思わせた。
 「見た目が9割」とわかっていても、こんな世の中にだんだんついていけなくなる。選挙ポスターを見ても、候補者の政策や誠実さより、「お値段」を判断してしまう自分にモヤモヤする。



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2025.07.03

「積極的無関心」は現代社会を生き抜くための戦略

 現代の資本主義社会は、個人の関心を巧みに搾取する仕組みに満ちている。SNS、広告、ニュースは、感情や時間を奪い、金銭やデータと引き換えに個人の注意力を食い物にする。こうした「注意力経済」の中で、有限なリソースである関心を守るためには、意識的かつ戦略的な姿勢が必要だ。それが「積極的無関心」である。単なる無視や冷淡さではなく、自分の価値観に基づき、不要な情報や感情の搾取に「関心を持たない」ことを積極的に選ぶ生き方だ。現代社会では、関心こそが個人の最も貴重なリソースであり、これを守ることで主体的な人生を築ける。本稿では、積極的無関心の実践として、4つの指針を提示する。

同情心の制限:倫理関心の搾取を防ぐ

 現代社会では、ガザ紛争やウクライナ侵攻のような深刻な問題が日々報じられ、個人の倫理関心を刺激する。SNSやメディアは、悲劇的な映像やストーリーを通じて同情心を揺さぶり、クリックやエンゲージメントを誘う。しかし、倫理関心も有限なリソースだ。すべての問題に反応すれば、感情は枯渇し、コンパッション・ファティーグ(同情疲れ)に陥る。たとえば、ガザ紛争が注目を集めると、ウクライナへの関心が薄れる現象がその証左だ。

 積極的無関心は、こうした倫理関心の搾取に対抗する。すべての悲劇に反応するのではなく、自分の影響範囲や価値観に基づいて関心を厳選するのだ。具体的には、ニュース通知をオフにし、悲劇的な投稿をミュートする。𝕏で流れてくる「緊急支援を!」という投稿に即反応せず、「これは私の関心を必要とするか?」と一呼吸置く。重要なのは、無関心を罪悪感ではなく主体的な選択と捉えることだ。これにより、感情の消耗を防ぎ、本当に大切な問題にエネルギーを注げる。

バッシングの非加担:不毛な対立から距離を取る

 𝕏をはじめとするSNSでは、個人や企業へのバッシングが日常的に繰り広げられる。正義感を刺激する炎上トピックは、関心を搾取する強力なツールだ。たとえば、著名人の失言や企業の不祥事がトレンドになると、群衆心理が働き、多くの人が「正義」の名の下に参加する。しかし、こうしたバッシングはしばしば不毛な対立に終わり、時間や感情を浪費するだけだ。

 積極的無関心は、バッシングへの非加担を推奨する。炎上投稿を見ても、即座に「いいね」やコメントをせず、3秒待って「これは私の時間に値するか?」と問う。構造的な問題(例:企業の不正)には関心を向けつつ、個人攻撃には無視を貫く。𝕏では炎上案件をスルーし、代わりに自分の興味や身近な問題にフォーカスする。この姿勢は、関心を無駄な論争に奪われず、自分の価値観に基づく行動を優先させる。

対価される美への制限:誘惑のコストを見抜く

 広告やインフルエンサーの投稿は、美しいビジュアルや官能的な魅力、あるいは「かわいい」で関心を引きつける。豪華なライフスタイル、トレンドのファッション、魅力的な商品写真は、購買やエンゲージメントを誘う「対価される美」だ。これらは時間、金銭、データの対価を求め、個人の関心を搾取する。たとえば、𝕏で流れる華やかな広告は、購買意欲を刺激し、衝動買いや無駄なスクロールを誘発する。

 積極的無関心は、こうした美の対価に制限を設ける。まず、美的誘惑の意図を疑う。「この投稿は私の金を狙っているか?時間か?」と自問し、購買を促すコンテンツをスルーする。次に、自分の美的基準を再定義する。メディアの押し付ける美より、自分にとって自然な生活水準を優先する。実践としては、できるだけ広告をミュートし、通知をオフにし、SNSの閲覧時間を減らす。美を「見るだけ」で楽しみ、対価を払わない選択も有効だ。これにより、関心と金銭を守り、自分の価値観に基づく消費を実現する。

お得情報への無関心:自分のタイミングを貫く

 セールやクーポン、期間限定オファーは、「お得感」を武器に個人の関心を搾取する。「今買わないと損!」という緊急性は、衝動買いや時間の浪費を誘う。たとえば、「50%オフ!」の広告は、購買を促し、不要なものを買わせる罠であるのは少し考えれば誰だってわかることだ。こうしたお得情報は、経済的合理性を装いつつ、実際には時間や金銭を奪う。

 積極的無関心の鍵は、「欲しいものは欲しいときに買う」という原則だ。セールやクーポンのタイミングに流されず、自分のニーズとタイミングを優先する。たとえば、クーポンを原則使わず、必要なものだけを自分のペースで購入する。実践としては、セール情報をスルーし、「セール」「割引」といったキーワードを心の中でミュートする。衝動買いを防ぐためには、「3日ルール」(欲しいものを3日後に再評価)もいいかもしれない。お得情報の流入を減らすために、ショッピングアプリの通知をオフにする。この姿勢は、関心と金銭の無駄遣いを防ぎ、主体的な消費を可能にする。



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2025.07.02

クールビズ・28℃はどこへ行った

観測史上初の早い梅雨明けと猛暑の夏

 2025年、令和、何年になるんだっけ。まあいいや。関東地方は観測史上最も早い6月下旬の梅雨明けを迎えた(追記:まだだったらしい)。気象庁の発表によれば、関西はもう6月27日に梅雨明けが宣言され、例年より10日以上早い異例の事態となった。7月に入ると東京は連日33℃を超える猛暑に見舞われ、夜間も28℃を下回らない熱帯夜が続いている。昨年もひどかったが今年はさらに酷い。湿度70%超の蒸し暑さの中、オフィスや家庭ではエアコンがフル稼働している。そりゃね。だけど、こんな夏に、「クールビズ」や「室内を28℃にしましょう」という声は、まるで聞こえてこない。聞こえてますかね。かつて夏の風物詩だった「ノーネクタイ、ポロシャツ」のキャンペーンや、環境省の省エネ呼びかけは、メディアでもSNSでも影を潜めている感じだ。街中を見ても、スーツ姿は減り、Tシャツや吸汗速乾のシャツが当たり前になったから。でも、スーツで苦しんでいる人は見かけるなあ。苦しそう。28℃設定のエアコンで過ごす人は、今ではいるんだろうか。猛暑の現実が、クールビズの存在感を薄れさせているというのか。

クールビズはどうなっている? 政府の曖昧な態度

 調べてみたら、現状、いまだにクールビズは政府の方針として一応「生きて」いた。環境省の公式サイトを確認すると、2025年も5月1日から9月30日(一部企業は10月31日まで)をクールビズ期間とし、室内温度28℃と軽装を推奨している。ほんと。しかし、このキャンペーンが話題に上ることはほぼない。テレビや新聞で「クールビズ開始!」という報道は皆無に近く、SNSでも「クールビズってまだやってるの?」「28℃とか無理すぎ」と揶揄される。なぜか。当たり前だろう。最大の理由は、28℃設定が熱中症予防と真っ向から矛盾することだ。外気温33℃(風通しのいい木陰でだよ)、湿度70%の環境で、28℃の室内は汗だく。脳が動かない。仕事にならない。日本救急医学会は、熱中症リスクを下げるには26℃以下が望ましいと指摘している。環境省も「熱中症に注意し、柔軟に運用を」と付け加えるが、だが、不思議なことに具体的な代替温度やガイドラインは示されていない。いいなあ。この曖昧さは、日本らしい。日本文化の忘れて「見て見ぬふり」の姿勢そのものだ。過去と現在の矛盾を認めない。これだ。新型コロナのワクチンも「最初から若い人には勧めてなかった」とか言ってもOKである。いや、まともななら、さっさと指針を変えればいいのに、なんとなく話題がフェードアウトするのを待っているかのようだ。あれかな、お能の伝統かな、音も立てず消えていくとか。

クールビズの歴史と28℃推奨の背景

 クールビズは2005年、小池百合子環境相(当時)の主導で始まった。あれから、20年。え?、あれから20年? 小池百合子? そうだったなあ。地球温暖化対策と省エネを目的に、夏のオフィスで「ノーネクタイ、ノージャケット」を奨励し、エアコン設定を28℃に統一するキャンペーンがあった。今の20代はそもそも知らないかもしれない。なんだろう、画期的だった?なんか奇妙だった。とりあえずスーツ文化が根強かった日本で、インドネシア風の半袖シャツがオフィスに浸透し、おじさんはこれからやるぞ的にネクタイを外した。見てられんねえ。でも、電力消費を抑える効果もあったのか。環境省によると、2005~2010年のクールビズで、CO2排出量は累計で約200万トン削減されたという。ほんとかねえ。28℃という数字は、快適性と省エネのバランスを考慮した目安として選ばれたらしいが、科学的根拠は曖昧だ。というか、ないだろそんなもの。当時の研究では、28℃でも湿度50%以下なら快適とされたが、日本の夏の湿度(70~80%)では話が別だ。欧州とかなら、そうだろ。ここは日本だよ。ねーよ。そして、2011年の東日本大震災後は、電力危機を受けてクールビズが「スーパークールビズ」に進化した(退化ともいう)。より「カジュアル」な服装(アロハシャツやスニーカー)がOKになり、節電意識が高まった。ケチな人の正義となった。しかし、2020年代に入ると、テレワークの普及や猛暑の激化で状況は変化した。「コロナ騒ぎ」もあったしなあ。室温28℃は「非現実的」だろ。企業は独自に黙って26℃や25℃を設定するようになった。環境省の「デコ活」(脱炭素アクション)でもクールビズは継続されているが、この20年間変わらない28℃推奨は、変わらない・変われない日本だ。

28℃は熱中症のリスク

 28℃の室内設定は、猛暑の東京では熱中症リスクを高める。そもそも湿度50%ならという話なのに、湿度は言及されない。ばかみたい。2025年7月、東京都内の熱中症搬送者はすでに1万人を超え、気温30℃超の日が続く中、28℃のオフィスや家庭は当然我慢の限界だ。医学的には、湿度70%以上で28℃は体温調節が難しく、汗が蒸発しづらいため熱が体内にこもる。特に高齢者や子供は熱中症のリスクが高い。さっきも触れたが、日本気象協会のデータでは、26℃以下で湿度60%未満が熱中症予防の理想とされる。では、最適な設定はどうあるべきか。エアコンは26~27℃が現実的だ。東京電力の2025年夏の予備率(7%以上)なら、26℃設定でも電力供給は対応可能みたいだし、たぶん、きっと。扇風機やサーキュレーターも併用すれば、体感温度はさらに下がり、エアコン負荷も抑えられる(扇風機の消費電力はエアコンの1/10程度)ということだが、あまりめんどくさい話にしないほうがいい。そういえば、エアコンは最新型ほどエコなんだから、買い替えたほうがいい。服装は、綿や吸汗速乾素材が基本かな、知らん。在宅勤務ならTシャツや短パンでも問題ないかもしれない。Zoom映えを意識して上半身はキレイめというスタイルはどうなったか。水分補給は1時間にコップ1杯、塩分補給(塩飴やスポーツドリンク)も忘れずに行うとされる。これもやり過ぎな感はあるが。というか、水を飲んだら熱中症が防げるだろうけど効果は限定的だろう。オフィスでは、換気を強化し、給水スポットを設け、ピーク時間(12~15時)の節電として、照明を間引き、PCをスリープモードにする。ああ、うるさいうるさい。しかし、電力不足を回避しつつ、快適性と健康を両立できるようにはすべきだろう。ようするに環境省の指針がなくても、現場はすでにこのラインで動いている。というか、そうするしかない。



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2025.07.01

山尾志桜里氏の参院選出馬

 山尾志桜里氏(50歳)。忘れていた。が、2025年7月20日の参院選に無所属で出馬を表明した。彼女の存在そのものが政治ドラマだ。2016年2月、はてなの匿名ブログで、あたかもマッチポンプであるかのような手際の良さで「保育園落ちた日本死ね」を衆院予算委員会で取り上げ、待機児童問題をガツンと訴えて脚光を浴び、2016年の流行語大賞トップ10入り、そして、民進党の政調会長に抜擢され、「子育て世代の星!」と持ち上げられた。が、2017年に不倫疑惑が週刊誌に報じられた。それでも、「説明? しないよ!」と突っぱねた。当然である。私事にすぎない。フランスのかつての大統領ミッテランも「Et alors?(それがどうしたの?)」と答えたものだ。とはいえ、政治資金のガソリン代疑惑も重なり、2021年には政界引退したらしい。知らなかったな。忘れていたな。思い出させてくれた。2025年5月。国民民主党が「山尾さん、参院選の比例代表でどう?」と復活オファーしたのだ。流石だ。ところが、6月11日には国民民主党は「やっぱナシ!」と公認見送りとなった。わけわからん。しかし、そうなれば、山尾氏は翌12日に「じゃ、独立するわ!」と離党届を提出し、7月1日に無所属出馬を宣言した。そうこなくっちゃな。まったく、国民民主党は何を考えていたのだろう。よくわからないが「改革中道」を掲げ、参院選で16議席を狙うらしい。

山尾候補に何の問題もない

 山尾氏の出馬、なにか問題でもあるのか。 答えはズバリ、法的には何の障害もない。他も無問題。2016年の「保育園落ちた日本死ね」騒動についても、彼女が匿名ブログを国会で取り上げ、待機児童問題を訴えたことで話題になり、Xでは「子育て世代の敵」と批判する声もあったのだが、彼女自身も子育て中の母親として認可外保育園に我が子を預け、「保活の大変さ、わかるよ!」と共感を示したくらいだ。「日本死ね」の復讐劇は国会の場でこそ果たされる。
 不倫疑惑? 2017年に既婚男性との交際が報じられたが、それこそ「プライベートな話でしょ」である。法的には立候補の障害にならない。個人の倫理観については、それこそ選挙で決着つければいいだけのこと。
 政治資金問題? ガソリン代や飲食費の不透明な支出が騒がれたが、検察も選挙管理委員会も「起訴? なし!」。スルーできた。問題がないのだ。ないといったら、ない。参院選への立候補はそもそも50歳の日本国民なら誰でもOKだ。山尾氏が「無所属でガンガン行くよ!」と叫ぶのは、まるで「セブンイレブンでカップ入り蒙古タンメンを買うぞ!」と同じくらい自由な激辛の権利である。

国民民主党は不倫を掲げるといい

 国民民主党が山尾氏を公認を見送った理由は「信頼不足」らしい。ちょっと、待て、よ。玉木雄一郎代表、2024年に不倫疑惑を「Smart FLASH」に報じられ、「おおむね事実、ごめんね」と頭下げてなかったか? 愛人疑惑の女性に衆院憲法審査会でヤジを飛ばされ、国民民主党は「玉木さん、3カ月静かにしてて」と役職停止処分にした。が、そんなことに意味はない。だから代表続投だったな。
 そういう国民民主党なんだから、「不倫ウェルカム。みんなハッピー」でいいんじゃないか。玉木が不倫でセーフなら、山尾も公認でいい。みんな違ってそれでいい。みんな同じでそれでいい。みんなどうでもいい。山尾氏も記者会見で「玉木さんの不倫は許されて、私がダメなのは男女差別!」とブチ切れとか聞く(すまん不確か情報だ)。玉木氏が「不倫ごめんね」で済むなら、山尾氏も「不倫ごめんね」で公認OKだったはず。駄目というなら、国民民主党の倫理基準を「不倫は1回までセーフ、2回目アウト!」みたいなルールにするといい。

参議院は「良識の府」だから不倫も「日本死ね」も良識に

 参議院は「良識の府」と呼ばれ、品格ある議論が期待される。だが、2025年の「良識」って何? ぶっちゃけ、不倫も「日本死ね」も新しい良識ということでいいんじゃないか。あるいはそんなの騒ぐなよが良識とだとかにしてもいい。不倫疑惑だって、そもそも玉木氏も山尾氏も法的にはセーフだ。AI化が進む現在、人間の良識が変わるべきだ(意味不明なことを言ってみた)。それでも、不倫より政策を、である。そもそも参議院議員の実態はスキャンダル満載なものだ。良識というのは、昭和のころからずっと反語なのである。



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