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2024.10.26

日本の選挙においてポピュリズムは野党に向かう

 私は日本人として、かなり長期にわたって日本の政治風景を見てきて、ある種のもどかしい違和感をずっと感じている。それを、正確に言い当てたというほどではないが、Robert A. Faheyらによる2019年の論文「日本におけるポピュリズム的態度と政党支持 (Populist Attitudes and Party Preferences in Japan)」を読み、ブログとして紹介したいと思った。

日本におけるポピュリズム研究の重要性
 同論文は、日本のポピュリズムに対する理解を深める上で重要な貢献をしたと思えた。この研究は、日本におけるポピュリズムの特徴とその影響を明らかにし、政治家のレトリックと有権者の態度の間にある矛盾を探ることを目的としている。特に、自民党(自由民主党)の支持者とポピュリズム的態度のギャップに焦点を当て、日本の政治における独自のポピュリズム現象を解明しようとしている点は興味深いし、政治家のポピュリズム的行動と有権者のポピュリズム態度との間に顕著な矛盾を発見した点でも注目に値する。自民党の指導者がポピュリズム的なレトリックを使用する一方で、自民党を支持する有権者がポピュリズム尺度で低いスコアを示すという結果は、確かに従来の見解とは大きく異なっている。

調査の概要と矛盾の発見
 この研究は、2017年の日本総選挙におけるCSES(Comparative Studies of Electoral Systems)のデータと、選挙期間中のツイッター(現𝕏)上の政治的投稿を分析したものだ。調査の結果、ここが意外でもあったのだが、自民党支持者はポピュリズム的な態度が低い一方、共産党支持者のポピュリズムスコアが高いことが明らかになった。これにより、自民党支持者がポピュリズムを支持しているという従来の見解に疑問が投げかけられた。
 この矛盾を説明するため、論文では既存のポピュリズム尺度にいくつかの問題があると指摘されている。具体的には、ポピュリズムの「エリート」に対する反感が政治的エリートに限定されている点が課題であり、これによって日本の文脈ではポピュリズムの実態を正確に捉えられていない可能性があるというのだ。
 日本では、自民党が長期間政権を維持しているため、現実の自民党支持者は、安定志向からか、反政府的な感情を抱くことが少なく、むしろマスメディアや官僚といった「非政治的エリート」に対して反感を抱く傾向が強い。このため、従来の尺度では日本におけるポピュリズムの実態を十分に把握できない可能性がある。
 私などは、その見解は分析して得られたものだとしてもやや疑問に思えたののだが、そう思う私自身はすでに高齢層にあり、むしろ日本の若い世代における自民党支持については、この分析が当たっているかもしれないとも思えた。

日本とハンガリーにおけるポピュリズム現象の要因
 こうした事象は、日本が特異ではなく、ハンガリーなど他国でも同様の現象が見られることを指摘している。例えば、ハンガリーのビクトル・オルバン政権においても、ポピュリスト支持者が反エリート感情を持ちながらも与党を支持し続けるという類似のパターンが観察されている。このことから、日本のポピュリズムの特異性を強調するのではなく、ハンガリーのように与党支持者が反エリート感情を持ちながらも与党を支持し続けるという共通点を見出すことが重要であるとしている。
 日本やハンガリーでこのような現象が見られる背景には、いくつかの共通した要因が考えられる。まず、両国ともに長期間政権を維持している与党が存在し、その支持基盤が広範である点が挙げられる。このような状況では、与党支持者が「反エリート」感情を抱く対象が、政府や政治家からマスメディアや学者など、言動は目立つものの、「非政治的エリート」へと移行しやすい。
 特に、与党が長期政権を維持することで、与党支持者は既存の政治エリートを批判する立場ではなくなり、その代わりとなる「外部の敵」を作り出して反感を向ける傾向が強まる。
 さらに、ハンガリーのビクトル・オルバン政権や日本の自民党は、ともに国民の経済的不安や移民問題に対する懸念などの不安や不満を利用して、ナショナリズムや排他的なアイデンティティを強調する戦略を取っている。例えば、オルバン政権は移民の脅威を強調し、自民党は日本の文化や経済に対する外部の影響への懸念を煽ることで支持を集めている。このような戦略により、支持者はエリート批判を「敵対的な外部勢力」に向けることが促進され、与党がポピュリズム的なレトリックを使用しても、支持者自身がポピュリズム的な態度を強く示さないという矛盾が生じていると考えられる。
 この現象は、ポピュリズムが必ずしもエリート批判や民衆の声の反映という単純な枠組みで理解されるべきではないことを示している。むしろ、ポピュリズムはその国の政治的文脈や与党の立場に応じて柔軟に変化し、支持者の態度もそれに応じて変わるものであるようだ。

社会メディア分析とポピュリズムの矛盾
 同論文では、ツイッター(𝕏)上の政治的発言の分析も行い、「反日」「マスコミ」「共産主義」などの用語がそこでの自民党支持者によって頻繁に使われているとし、対してネット上の共産党支持者の投稿では、ポピュリズム的な要素はあまり見られなかった、とした。この結果は、オンライン上での自民党支持者のポピュリズム的な態度と、選挙調査における自民党支持者の非ポピュリズム的な態度とで、結果に大きなギャップがあることを示していて、日本政治の理解における新たな視点を提供している。単純に言うなら、ツイッター(𝕏)を見ていたのでは、選挙の動向は端からわかるわけもない。

その後の研究と新たな視点
 Faheyらは、この研究に続く形で、2021年には「ポピュリズム的態度の尺度が与党ポピュリストの支持を捉えられない理由 (How Populist Attitudes Scales Fail to Capture Support for Populists in Power)」という後続研究を発表している。この研究では、ポピュリズムが与党にいる場合、従来の尺度が有権者のポピュリズム態度を捉えられないことが指摘されている。与党が政権を握ると、反エリート感情が政治家から非政治的な集団(例:マスメディアや学者)へと移行することが多いためである。この指摘は、ポピュリズムの研究において、各国の文脈に合わせた柔軟な測定方法が必要であることを示している。

 

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