[書評] ソラニン新装版(浅野いにお)
『零落』と同時に発売された、11年ぶりの一編を加えた新装版『ソラニン』(参照)を読み返す前に、映画の『ソラニン』を見た。いい映画だった。そして映画としてよくできていた。俳優たちの演技もよかった。が、個人的な思いで言えば、多摩川の風景が美しかった。それは自然の美しさとは違う、ある雑然とした平凡な人に馴染むすこし汚れた生活というものの美しさで、それがこの作品とうまく調和していた。そうして風景が人々の生活のなかに潜む思いに、原作ではとても上手に、11年後に描かれた物語の前挿話としてふれている。そこに静かに感動する。じゃらーん……なんてな。
それが年月に重なり合う。いつか青春は終わるかに思える。だが青春の終わりは、それが只中にいて終わったかに見える、見渡せるような晴れの光景にはない。もっと静かにある意味ではつまらないものだ。まるで電車のなかでドアにもたれてふと目をつぶるような。その芽衣子の表情がかぎりなく哀しい。哀しみを失ってしまったような寂しさである。新装版に散らされている、一見ただのイラストのように見えるそれぞれの絵に、遠くから感じる寂しさのようなものが滲んでいる。
どうすることもできない。人は若い日の死に抗うこともできなければ、流されて生きていくことに抗うこともできない。それを幸せと呼んだり、守るものに自分の弁解を仮託もする。でもそこにはかすかな欺瞞の感覚がつきまとう。守るものを守り、あるいは、夢を叶えるかのうよに精一杯仕事をしたり、しかしそれも、ふと終わるものだ。こう言ってもいいかもしれない、青春が終わるのは、40代。
そこから先は奇妙なものが始まる。そのなかで、あの寂しさのようなものをどう抱えて生きていくのか、奇妙で滑稽な戦いと敗北が始まる。そうしたもう一つの物語のために、『ソラニン』はきちんと終わらなくてならなかったのだろう。
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