[書評]日本復興計画(大前研一)
本書「日本復興計画(大前研一)」(参照)は、一昔前の言葉でいうと緊急出版というのだろう。英語だと"hot off the press"という感じか。それだと普通に新刊というだけか。公衆に意見・思想を伝えるのは、出版としてのthe pressであった時代があった。だから、市民のその権利を守るために"Freedom of the press"が問われ、その時代は「出版の自由」と呼ばれたものだった。今でも古い時代の文書にその言葉が死語になって残っている。
![]() 日本復興計画 大前研一 |
これが本書の言葉を借りれば、こうなった。
ホリエモンや、池田信夫など、いわゆるアルファブロガーと呼ばれる人たちが、ツイッターやブログで紹介をし、あっという間に放送の評判は広まった。
かくしてそれを元に本書が出来たということらしい。
大前さんのこのユーチューブ講義が掲載されたのは3月14日のことだった。私もその日にツイッターで知って見た記憶がある。印象はというと、「ああ、私と同じこと考えてら」というものだった。その前日、震災と原発事故についてのエントリを書いたところ、よくわからないバッシングを多数いただき、私の考えというのはそんなに変なものかと疑問に思っていたので、大前さんだって同じ事、考えていたではないかと安堵したのだった。
例えば、スリーマイル事故から映画「チャイナ・シンドローム」をひいて、
まあ、あれは虚構の物語であったけれど、ウラン酸化物が摂氏二七〇〇度の超高温で溶けて火の塊になり、それが鉄をも溶かしてしまうのは事実である。そうした臨界事故、いわゆる核暴走を防ぐためにボロンを含む大量の水を注ぐ必要があるのだ。
あの時点で臨界事故の可能性を想起し防ごうというのはごく普通のことだよねと私は思った。大前さんは言及してないが、後に見たアレバの資料では、あのとき2700度には達していた。
本書にも収録されている19日の講義ではこうも言及されている。燃料被覆のジルコニウムについて。
ジルコニウムに関しては、さらに深刻な懸念もある。ウランの酸化物を入れた容器はジルコニウムで出来ていて、そのジルコニウムがボロボロになると、ウラン酸化物入りのペレットが圧力容器の底にバラバラと落ちてきてしまう。底は丸いフラスコ状になっているために、ウラン酸化物が底に溜まると、これは再臨界(核暴走)となる惧が出てくるのだ。燃料というものは、丸いかたちに集まると臨界状態になりやすく、暴走しやすい性質をもっているからだ。中性子のふるまいは、球状の場合が最も効率よく、活発になる。
これも普通にそういうことだと思っていたので、そうだよねと思ったものだった。
14日の講義の原子力の見通しについても、共感した。
民主党政権は、日本国内では二〇三〇年までに少なくとも十四基以上の原子炉の新増設を行うことと、新興国を始めとする電力需要の多い国へ原子炉を輸出していくことを宣言していたが、この段階でそれは全て終わったということだ。
まず、国内に新しい原子炉を建設することは、もう不可能だ。
そう私も思った。私が12日に「絶望的」とつぶやいてしまったのはこのことであったからだ。
次のような指摘も興味深い。
以上は私の現時点(三月十九日)での各種データからの推測だ。福島第二原発のほうは津波の被害を受けていないので、炉が停止しても非常用電源が立ち上がった。外部電源は福島第一と同じ変電所から来ているので、これは津波の前にすでに地震で落ちてしまっていたと考えられる。なぜ福島第一の非常用電源施設が使用不能になったのかは、被曝の惧れなく炉に近づけるようになってから詳しく調べれば判明するだろう。
だいたい予想は付きますがね、これは。
本書で文章の形で大前さんの当時の話を読みながら、あの時点のことをいろいろ想起した。この本は重要史料となるだろうとも思った。
かくして本書の大半は、福島原発事故の解説と原子力問題の展望が中心に描かれ、表題の「日本復興計画」についてはそれほどの言及はない。
あるいはその部分については、皮肉な意味はないつもりだが、大惨事に関わらず基本的には、いつもの大前さんの持論が書かれているに留まっている。もう20年以上もまえから変わらない、ゼロベースの日本改造論とも言える。もちろん、災害対策のための立法などの議論がまったくないわけではなく参考にはなる。
象徴的な部分としては、あるいは私もへえと思ったのは、次のような言及である。
また、子どもを私立にやるために投資して、それでペイすると思えるだろうか。幼稚園から大学まで私立に通わせると二千四十七万円。すべて国公立なら七百九十三万円(いずれも文系)。両者の差が千三百万円。子どもがふたり居たら二千六百万円。それよりも、私立にやる代わりに、親が家で子どもの勉強を見てやる時間を作る。すなわち、授業料ではなく時間で投資する方が、よほど実りは大きいのではないか。人生観や将来観を共有した親子、このほうがはるかにリターンは大きいと考えるべきだろう。だいたい、子どもは金をかければかけるほどスポイルされる。
そうかもしれないし、そうでないかもしれない。なかなか微妙な話ではある。が、時間は投資だというのは、概ねそうかもしれない。金はないが時間はあるなら、金持ちならぬ時間持ちだ、えっへんというのも悪くはないだろう。いや、それだと、大前さんの主張される日本の成長とはちと違うか。
大前さんはおそらく私と同じく、どっちかといえばリバタリアンであろう。
個人は最小経済単位だ。あるいは家族が最小の経済単位だ。政治家に頼ってはいけない。政府に頼っていてもいけない。国がなんにもしてくれないおとは、すでに明らかだ。自分自身だけが頼みの綱として覚悟を決める。そうしなければ、この日本も元気になりえず、復興もありえない。
これも概ね同意する。
ただ、私が今回の大震災・原発事故で思ったのは、大前さんの気概とはずれていて、緩和で穏健なナショナリズムというのを構築するしかないんじゃいかなということでもあった。海外から「ニッポン、がんばれ」と言われて、「うん、ニッポン、がんばる」くらいは普通に言えてもいいように思えた。助けにきた米軍とそれを支える家族の方にもっと謝意を伝えるべきだったとも思った。
それには、「ニッポン」の政府・行政にもう少しくらい、国民が信頼を置かなければいけないだろう。さて、それをどう確立するんだろうか。そのあたりに、日本復興計画の精神基盤がありそうにも思えた。それが見えるかというとよくわからないのだが。
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コメント
> だいたい予想は付きますがね、これは。
↓これのこと?
外部電源喪失 地震が原因
吉井議員追及に保安院認める
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-30/2011043004_04_0.html
投稿: 774 | 2011.05.02 11:36
えーと、大前氏の「金かけるよりは時間をかけて、親が勉強見てやれよ」というのはまさしくうちのお袋殿もそう申しております。
「パートでお金稼いで塾に通わせるよりは、親が勉強みてやれば」。
小生からしますと、それはそれでいいと思うんだが、世間の親が全部それできるとは限らない。金の卵とまではいわなくても、高卒で地方から就職しに東京に来た人、母親なら短大卒とかもいるだろう。彼らが今、子供の教科書をみてどこまで教えられるか。というのがあると思う。しかも中学受験とか、けっこう変な問題あるようだし。
それはさておき、この本はちょっと探してのぞいてみますですよ.....
投稿: とおりすがりの | 2011.05.02 23:17
麻原、オウムをも少しクリアにお願いできないでしょーか。
スンマセン。
そこしかツールがないのです。
投稿: 吉本主義者 | 2011.05.03 00:07
震災後 当然原子炉にかかわった人なら想像できなければおかしいことばかり言っているのはわかったけど それ以前の原発関連の発言を探しているのですがどこかにあるのでしょうか? 以後にいくら批判しても後出しじゃんけんに聞こえなくもない違和感があって動画を見ていてもちょっと気になるので 納得したい部分があるので この本もその傾向が見え隠れしていて残念な気もする ぜひ印税は寄付してほしいものです
投稿: | 2011.05.24 22:23