[書評]睡眠はコントロールできる(遠藤拓郎・江川 達也)
「睡眠はコントロールできる (メディアファクトリー新書)」を読んだ。二度読んだ。さらに読むかもしれない。タイトルからすると、睡眠をどうコントロールするかという点に関心を持つかもしれないが、内容はやや違っていて、著者の一人、遠藤琢郎氏による睡眠クリニックの話がメインである。つまり睡眠障害にある人の事例を挙げて解説するというもの。で、それはそうなんだが……。
![]() 睡眠はコントロールできる 遠藤拓郎、江川達也 |
読みながら思ったのだが、ツイッターにいろいろネガネガをまき散らしている某氏・某女史は、精神的な問題あるいは社会問題、ひいては日本社会の問題に悩んでいるみたいに見えるが、あれ、睡眠障害じゃねーの、とか。あー、自分は抜きにしてという話ではあるが。
その方面でもうちょっとつっこむと、各種社会問題を引き起こす精神病理な人たちも、案外睡眠クリニックできちんと立ち直れるのではないかと、そんな気になる一冊でもあった。人によってはマジ、人生が変わるかもしれん。
なので、まあ、そのあたりに琴線が触れる人は読むといいと思う。ただし、鬱オタの人は、こんなことは全部知っているぞと言い出すかもしれない程度の内容ではあるが、この本の真価、実は、そこじゃないのな。じゃあ、どこ?
この本、というか、著者の一人の遠藤氏がすごいなと思ったのは、結果的に、これ、認知療法かつ行動療法なんですよ。ご本人の自覚があるかどうかはよくわからないし、SSRIの処方やドーパミンコントロール、コルチゾールの目安といったことは、それなりに医学的な背景があり、それなりにというか、かなり専門的な対処ともいえるのだけど、読んでいくと、ほんとか? それEBMどうなんだ?みたいな疑問がぽつぽつとは浮かぶ。しかし、全体としてみると、これ認知療法かつ行動療法になっている。すごいんじゃないか。そして……
これって、実は新興宗教ではないのかという疑問がちらと湧く。もちろん、新興宗教ではない。変な教義はない。かなり医学的な議論でもある。が、どことなくそういう雰囲気があり、そこを漫画家の江川達也が微妙に嗅ぎ取っているあたりが、江川氏の本領発揮でもあり、編集のお仕事としても面白い仕上がりになっている。
いや、腐しているわけではない。面白いんだよ、本として。

構成としては、遠藤氏が見てきた睡眠障害の事例を9例にパターン化し、その事例をまず江川氏が漫画にする。水野遥も出てくる。そして遠藤氏の解説がある。特徴的なのは、どの事例にも、行動計のグラフが出ていて、各症例の行動パターン化が可視になっている。行動計というのは腕に付けた万歩計のようなもので、実際その人が24時間どう活動しているか、どう寝ているか、寝ているときに動いているかなどが記録される。
9つの事例のなかで、私がほぉと思ったのは、3つ。まず、睡眠障害が原因というよりPMS(月経前症候群)が関与している事例。これは女性にけっこうありそうだと思うし、これで人生の困難に直面している人は多いだろうと思う。自覚のある人も多いだろうけど、本書の話で、え?そうなの? と思うことで救われちゃう人も少なくないんじゃないか。
コルチゾールが高いおっさん管理職の話も面白かった。これは、小説のネタになるんじゃないかという深みすらある。それはそれとして、たしかにコルチゾールの検査というのはもっと広く実施して労働管理とかすればいいのではないかなとも思う。この件については、自分も振り返って、痛いものがあるな。
もう1点は冬季鬱病の話。これは結果から見ると間違いなく冬季鬱病なのだが、事例の女性の精神性というか対人傾向にちょっと面白い典型的なパターンがある。睡眠障害と関連しているんだろうかという疑問もわずかに。
ところで本書の形態だが、iPhoneアプリで読んだ。ちょっとした偶然で見かけたものだった。電子書籍というのだろうか。お値段はたしか115円。え?なバーゲン。理由はよくわからない。期間限定かもしれない。知らないです。
![]() 新書がベスト 小飼弾 |
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