組織的犯罪処罰法改正について
私がネットを見ている範囲では、組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)の改定案で、共謀罪を新設(犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案)する件については、この七月ごろ少し話題になったものの、八月八日の衆議院解散により廃案となり、なんとなく話題も立ち消えた感じになっていた。が、四日に閣議決定された。
ま、もういいよ、さっさと成立させたら、という空気なのかもしれない、というか、私もそれほど気に留めていなかった。昨日の朝日新聞社説”共謀罪法案 対象を絞って出し直せ”(参照)を読んで、ふーんと思ったくらいだ。とはいえ、昨日のラジオでもその話題があり、しばし反対意見を読み直してみた。
まず、今回の改正についての私の意見だが、ウィーク(気弱)に賛成というものだ。つまり、そう強い信念があって支持するというものではない。支持の理由は、この件についての法務省の説明、”組織的な犯罪の共謀罪に関するQ&A”(参照)の冒頭にもあるように、平成十二年の国連総会で、国際的な組織犯罪の防止を目的とする「国際組織犯罪防止条約」がすでに採択されている以上、日本国内の法律も早急に整備すべきだろうというものだ。つまり、これは国際社会からの日本への要請なのできちんと応えるべきだし、こういう国際的な連携には横並びというか所定の理解の水準があるだろうから、国内法だけが問題というわけでもないだろうと思っている。
とはいえ、問題があるのか。とりあえず先の朝日新聞の社説と法務省の説明と付き合わせて読み直しても、それほど問題性があるとは思えなかった。朝日新聞が指摘する一番の問題点はこういうことだろうか。
市民団体や労働組合が「自分たちも対象にされるのではないか」と心配するのは当然だろう。
それというのも、共謀罪の規定があいまいだからだ。「団体の活動として、犯罪を実行するための組織による遂行を共謀した者は懲役などに処する」。これが法案の骨子だ。団体には、限定がついていない。
法務省の説明はこうだ。
すなわち,新設する「組織的な犯罪の共謀罪」では,第一に,対象犯罪が,死刑,無期又は長期4年以上の懲役又は禁錮に当たる重大な犯罪に限定されています(したがって,例えば,殺人罪,強盗罪,監禁罪等の共謀は対象になりますが,暴行罪,脅迫罪等の共謀では,本罪は成立しません)。
第二に,①団体の活動として犯罪実行のための組織により行うことを共謀した場合,又は②団体の不正権益の獲得・維持・拡大の目的で行うことを共謀した場合に限り処罰するという厳格な組織犯罪の要件(注)が課されています(したがって,例えば,団体の活動や縄張りとは無関係に,個人的に同僚や友人と犯罪実行を合意しても,本罪は成立しません)。
第三に,処罰される「共謀」は,特定の犯罪が実行される危険性のある合意が成立した場合を意味しています(したがって,単に漠然とした相談や居酒屋で意気投合した程度では,本罪は成立しません)。
(注)組織的犯罪処罰法における組織的な殺人等の加重処罰の場合と同じ要件であり,実際の組織的犯罪処罰法の組織的な殺人等の適用事例も,①暴力団構成員等による組織的な殺傷事犯,賭博事犯,②悪徳商法のような組織的詐欺事犯及び③暴力団の縄張り獲得,維持のための業務妨害,恐喝事犯等に限られています。
比較するに一般市民には問題はないというか、メリット/デメリットを比較してメリットが高いように思われるし、日本社会でテロが勃発して被害をディスプレイし、社会ヒステリーを起こしてから泥縄式に作るよりはましではないか。
私の考えは以上だが、ネットを眺めていて、本質的なことではないが思うことはあった。ブログなのでそのあたり雑記的に書いておきたい。
ユーモアもあるのだろうけど、朝日新聞が反対しているから賛成したほうがいいや、みたいなリアクションもあるようだ。こういう傾向はある程度今後も進むのだろうなという感じがする。
ネットの世界では有名なと言っていいと思うが弁護士の小倉秀夫は今回の改正に否定的な立場であったようだが、たまたまこの件の話題を取り上げたブログ”bewaad institute@kasumigaseki(2005-07-14)”(参照)のコメント欄でこういう言及を見かけた。
小倉秀夫 (2005-07-14 08:47)
共謀共同正犯とかは、刑法の教科書に書いてあることと、実際の適用というか運用というかの感覚とが大いに齟齬しているということを、弁護士は実体験として知っているので、与党議員でも、弁護士出身議員は、共謀罪については冷ややかなのではないかと思われます(「その文言で裁判所でどこまで解釈が拡張するか」ということをまず考えるところです。)。
PCJapanは概ね2000字しか枠があたえられていないので、書ききれなかった面もあるのですが
このあたりが反対派の胸の内ということなのかもしれない。つまり、成文法とその運用の差で危惧されることがあるのだろう。だが、そうであれば、なおさらのこと、今回の法案改正についてのシステムな問題ではないということになるだろう。
Wikipediaの共謀罪(参照)の項目でも結語は、曖昧な印象を受けた。
結局、日本の市民がどの程度まで組織的犯罪の早期阻止を必要としており、どの程度まで自らも捜査の対象とされる危険を甘受する覚悟をしているのかという、政策選択の問題に行き着くともいえよう。
法律的な議論がこういう結語で締められるのに、私は違和感を感じる。が、その違和感をうまく表現できないのは、「おまえさんも国家権力にしょっぴかれる可能性はあるんだぜ、『国家の罠』でも読めや」というのがある種の脅迫感を持っているからだろうし、実際のところ、市民社会のフロントにあるべき警察のあり方にそれほど信頼がもてるものでもないからだろう。生活感としても警察が現代の市民社会を守っているという実感はない。
そうした漠然とした強権への不安と、ロンドンテロなどのテロの不安が、特異なバランスの心理作用をもたらしているのだろうし、不安と恐怖の心理ゲームがネットで増幅されるのはあまり心地よいものではない。
もしかすると、そうした増幅のゲームは不安と恐怖に寄りすがった連帯を求めているからなのではないかとも思える。しかし、あるべきは、市民社会の側で肯定的な連帯を模索することだろう。
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コメント
ブログの内容にまったく関係ない話で恐縮ですが、日本の5大紙の社説を批評する作業が軽量化されましたね。
これを機に、海外の(主にアメリカの)大きな新聞の社説、コラムも批評していただけないでしょうか。ワシントンポストとかニューヨークタイムズとか。
それらの社説も読んでおられるようですし、海外の社説の雰囲気というものが日本国内のものとどのように違うのかコメントしていただけるととても有益であるように思えます。
投稿: config | 2005.10.13 18:20
「一般の人にはそう問題はないんじゃないか」というところがミソだと思います。
戦前の治安維持法だって、だれもかれも捕まえたわけではありません。
最近、選挙のチラシを住宅の集合ポストにいれただけで逮捕・起訴されるという事件が相次ぎました。
政府にとって都合の悪いひとだけを事前につけねらって、用意周到に準備をするってことは現在でも行われています。これは違法です。
今回の法律は国際的なテロ組織に対応するとの理由で作られるわけですが、今度の法律では団体の範囲を限定しないことで、それ以外のことにも使えるようにしています。
自分では「一般のひと」と思っていても相手のほうがそう思うかは別です。公害裁判を起こした人達は最初はみんな普通の一般人だったのです。それが国や大企業を相手に裁判を争うと、企業にとってはとても迷惑なひとになるのです。
投稿: くれちゃんマン | 2005.10.15 11:48
>>くれちゃんマン
>選挙のチラシを住宅の集合ポストにいれただけで逮捕・起訴されるという事件が相次ぎました。
選挙のチラシだったっけ?実例求む
>公害裁判を起こした人達
公害裁判を起こした人が上記の逮捕者なのですか?それとも他の実例?
マジックマッシュルームなんてのがあったけど
覚醒剤って法律に直接書くとそれに似て非なるものが取り締まれない。暴取法でも微妙に成立要件に達しない組織を使って似たようなことをやっている組織が数多。
そのたびに法律を改正しなければならないのが良いのか悪いのか。日本には事後法は存在しないのですでに起きた事件は取り締まれず。
個人的には弾力的に法律を制定し国民が監視していくのが一番だと思うのですが。
投稿: サルガッソー | 2005.10.16 03:59