2025.11.17

1971年の国連決議を振り返る

1972年の記憶——中学生の違和感から始まる

1972年、私は中学生だった。あの頃、テレビのニュースはニクソン訪中や国連の動向で賑わっていた。お茶の間ではその象徴であるパンダの話題も盛り上がった。

あの夜に、国連総会で中華民国(台湾)の代表団が退席する映像が流れた。代表たちの表情は、敗北というより置き去りにされた無念さを湛えていた。世間では「これから中国が変わる」と語られたが、少年の私にさえ違和感があった。日中友好というムードと台湾の思いが、どこかぎくしゃくしていた。

50年以上経った今も、その感覚は変わらない。それに資本の論理への思索が加わった。振り返ろう。1971年10月25日の国連総会決議2758号は、賛成76、反対35、棄権17で可決された。これで、中華民国は常任理事国の席を失い、中華人民共和国が代わりに就いた。この出来事は「中国の勝利」「冷戦の転換点」と語られる。しかし、背景にある西側の思惑は中国市場支配の再編にあった。そして、法的には台湾の地位は未決のままであり、現在の中国のナラティブが正しいわけでもない。

市場アクセスが真の原動力だった

この国連決議の表向きの理由は多岐にわたる。冷戦下でのソ連包囲網、新興独立国の反植民地主義の高まり、ニクソン政権の地政学的転換である。1960年代後半、アフリカやアジアの新興国が国連加盟を急増させ、その多くが中国の援助外交に影響された。米国は「重要問題決議」で共産党中国の加盟を毎年阻止してきたが、1971年には多数派工作に失敗した。

しかし、裏側には経済的動機が潜んでいた。米国商務省の1971年機密メモは、核心を突いている。中国大陸の8億人は潜在的な巨大市場である。日本は1970年に中国輸出5.7億ドル、西ドイツ3.2億ドル、フランス2.1億ドルを記録し、前年比で急拡大していた。一方、米国は貿易禁止法でほぼゼロだ。米国企業、コカ・コーラやボーイング、GMはロビー活動を激化させた。別のNSCメモには、欧州・日本の企業が中国市場を独占すれば、米国の国益に致命的打撃になると記されている。

投票直前の裏取引も象徴的だ。サウジアラビアは中国支持に転換し、中国は石油購入を10倍にすると約束した。アフリカ諸国、タンザニアやザンビアはタンザン鉄道の無償建設、アルジェリアは石油開発権を得た。これらは反植民地主義の綺麗事ではなく、中国市場へのアクセス権をめぐる取引だった。

一連の動きを主導したヘンリー・キッシンジャーは後年、この決議を痛恨の極みと呼んだ。2011年のCNNインタビューで、彼は国連での台湾追放は望んだ結果ではなく、現実がそうさせたのだと語っている。2015年の著書『World Order』では、民主的な同盟国を国際社会から追放した苦い代償だと振り返った。

そもそも決議の手続きにも問題がある。本来、常任理事国の追放は重要問題として3分の2の賛成を要するが、単純過半数で通った。そして、決議文には「台湾」という言葉が一切ない。

米国の対中戦略180年史

米国の中国市場への執着は、19世紀に遡る。1844年の望厦条約は、アメリカ初の対中不平等条約だった。国務長官ジョン・C・カルフーンは議会に、中国の4億人はアメリカ商人のために神が用意した最大の市場であると報告した。1899年から1900年の門戸開放宣言は、列強による中国分割に反対した。表向きは公正だが、実態は欧州が植民地化すれば米国は入れないため、みんなで自由に商売させろという要求だった。

1930年代、フーバー商務長官は大統領就任前、中国を植民地にする必要はないと述べた。鉄道と銀行を握れば十分だ、と。戦後1949年の国務省白書「United States Relations with China」は、国民党敗北の責任を蒋介石に押し付けつつ、中国の市場は依然として巨大であり、いつの日か米国企業にとって開かれるだろうと結論づけた。1971年の商務省メモにも、ほぼ同じフレーズが再登場する。8億人の市場は、神が米国商人に与えた最大の贈り物だ、と。

この戦略の核心は、植民地経営を避ける点にある。植民地は行政コスト、軍事コスト、反乱鎮圧コストが膨大だ。英国は20世紀に入り、インドが赤字だと気づいた。一方、市場開放と金融支配なら、軍隊も行政も不要だ。貿易と投資のルールさえ作れば、資本は儲かる。これが米国型資本主義の究極の勝利形であり、ネオリベラリズムの原型である。

2025年のトランプ政権第二期でも、この論理は健在だ。中国封じ込めを掲げるが、本質は中国市場のグリップを握る交渉ツールである。トランプは関税を武器に脅し、2025年10月のAPECで習近平と会談した。11月5日のホワイトハウス発表によると、中国は2025年末に1200万トン、2026年から2028年まで毎年2500万トンの米国農産物購入を約束した。中国はレアアース輸出制限を1年凍結し、米国はフェンタニル関連関税を10ポイント下げ、一部Section 301措置を凍結した。中国は米国企業への報復措置を全部撤回した。

トランプは「中国は不公平な貿易で米国を食い物にしている」と繰り返すが、枯渇させる意図はない。「中国と仲良くしたい。ただ、公平にしろ」と側近に語る。鷹派のナヴァロはデカップリングを主張するが、トランプは取引型だ。市場では「TACO(Trump Always Chickens Out)」と揶揄されるほど、脅したらすぐ妥協する。つまり、トランプはチキンだ。

中国の一帯一路も、同じ市場支配の論理を逆手に取る。米国はB3Wやグローバル・インフラ・パートナーシップで対抗するが、植民地化ではなくルール作りだ。

台湾の地位は未決

中国は2758号決議を「台湾は中国の一部」と拡大解釈する。しかし、この主張には無理がある。決議文には「台湾」の言及はなく、代表権の問題に留まる。キッシンジャーは2021年のフィナンシャル・タイムズのインタビューで、台湾の最終地位は未決定だと明言した。

中華民国は台湾本島、金門、馬祖を実効支配している。中国は一度も台湾を統治したことがない。国際法の観点からはグレーゾーンだ。国連は代表権しか決めていない。台湾は13カ国とバチカンと国交を維持し、「チャイニーズ・タイペイ」としてWHOやWTOに参加する。台湾外交部は現在も、2758号は台湾の地位を決定していないと主張する。

日本政府の見解も、中国のナラティブとは異なる。日本はサンフランシスコ平和条約(1951年)で台湾を放棄したため、独自に台湾の帰属を認定できないこともある。これは国会答弁書で繰り返し確認されている。1964年の池田内閣答弁書をはじめ、2015年以降の答弁でも、台湾の領土的地位は未定だとする事実認識を維持する。日中共同声明(1972年)では中国の立場を理解・尊重するが、台湾の帰属を明示的に認めていない。これにより、日本は中国の「一つの中国」原則を全面的に支持しているわけではなく、曖昧さを残している。台湾との非公式交流、例えば日華議員懇談会は継続する。日本政府の立場は、地位未定論を事実上支えるものである。

1971年は一里塚に過ぎない

1971年の決議は中国のナラティブでは勝利とされるが、それは都合の良い解釈にすぎない。中国にはそれしかないとも言えるが、真実は資本主義の論理にある。米国は市場支配のためなら、民主主義の同盟国である台湾も切り捨ててきた。その米国の戦略は180年一貫している。領土は不要、金融と貿易のルール支配が目的だ。1971年は始まりではなく、一里塚に過ぎない。これが維持されるのだろうか?

台湾の未来は、厳密には地位未決のまま実効支配と国際参加で存続する。あの1972年のテレビ映像、台湾代表の背中を思い出す。あれから半世紀。彼らが守ったのは領土ではなく、未決の自由だったかもしれない。あの置き去りは、資本のの犠牲である。
しかし、未決のままであることは台湾の強みでもある。市場の論理が渦巻く世界で、台湾は独自の道を歩み続けてきた。今も続けている。中国のナラティブが正しいわけではない。歴史は、資本の影で動いてきた。それがこれらかは、ミアシャイマーの言う、「大国の悲劇」の舞台に変わるかもしれない。

 

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2025.11.15

ジョン・ミアシャイマーの視点:台湾有事における日米の役割

ジョン・ミアシャイマーの攻撃的現実主義

国際政治学者のジョン・ミアシャイマーは、現代国際政治学における最も影響力のある現実主義思想家の一人である。現下、台湾海峡をめぐる地政学的な緊張が日増しに高まる中、彼の理論的視座、特に「攻撃的現実主義」と称される彼の理論は、米中対立の力学と、それに伴う日本と米国の役割を理解するための極めて重要な分析ツールとなるだろう。彼の構造的な分析は、国家間の行動を善悪の二元論ではなく、権力と生存をめぐる普遍的な競争として捉えることで、今日の国際情勢を鋭く解き明かす一助ともなりうる。ここでは、ミアシャイマーの理論を分析の基軸としつつ、日米両国の最新の政策文書や戦略的転換を具体的に参照しながら、この構造的な対立の核心と、その中で最も危険な引火点とされる台湾をめぐる日米の役割をまとめてみたい。

ミアシャイマーが解説する現実主義理論の核心は、次の3つの基本原則に基づいている。

  1. 勢力均衡(バランス・オブ・パワー)への関心:国家、特に大国が主に関心を払うのは、他国との相対的なパワーバランスである。国際システムにおいて自国が弱い立場にあれば、他国に利用されるリスクが高まるため、国家は常に自らの力を最大化しようと努める。
  2. 生存の追求:国家にとって最も根本的な関心事は「生存」である。国際システムは本質的にアナーキー(無政府状態)であり、自国の安全を保障してくれる絶対的な権威は存在しない。そのため、各国は自らの生存を確実にするため、最強の国家となることを目指す。
  3. 国家を「ブラックボックス」として扱う:現実主義は、国家の国内政治体制(民主主義か独裁主義かなど)を問わない。すべての国家は、その内部構造に関わらず、生存のために権力を追求する合理的な主体、いわば「ブラックボックス」として扱われる。西側諸国で一般的な「民主主義国家は善、権威主義国家は悪」という見方とは異なり、現実主義はすべての国家が同じ動機で行動すると考える。

この理論的枠組みは、現代における最も深刻な地政学的課題である米中対立を分析する上で、極めて有効な視点を提供することになる。両国が追求する国益は、それぞれの立場から見れば完全に合理的でありながら、なぜこれが必然的に厳しい安全保障上の競争へと発展するのか、この構造的対立の力学をさらに深く掘り下げる必要がある。

米中対立の構造:大国間政治の悲劇

ジョン・ミアシャイマーの分析によれば、台湾問題は単独で存在する課題ではなく、米国と中国という二大国間のより大きな構造的対立が顕在化したものに他ならない。つまり、この対立は、特定の政策や指導者の意図によって生じたものではなく、国際システムの構造そのものから生まれる、いわば「大国間政治の悲劇」である。この構造的現実を理解することが、台湾をめぐるリスクを正しく評価する上での第一歩となる。

冷戦終結後、米国は唯一の超大国として「一極集中(ユニポーラ)」の時代を迎え、その外交政策の柱として「リベラル・ヘゲモニー(自由主義的覇権)」を追求した。その対中政策が「関与政策(エンゲージメント)」である。これは、中国の経済成長を支援し、世界貿易機関(WTO)などの国際機関に組み込むことで、中国が豊かになり、最終的には米国のような自由民主主義国家へと移行するという楽観的な期待に基づいていた。

しかし、ミアシャイマーの現実主義の視点からは、この政策は「クレイジー」だと批判される。なぜなら、米国の支援によって中国が強大化すれば、いずれアジアにおける米国の覇権に挑戦し、深刻な安全保障上の脅威となることは避けられないと予測していたからである。

実際、2015年頃から、その予測は現実のものとなった。中国が経済的にも軍事的にも巨大な力を持つに至り、ようやく米国は関与政策を放棄し、代わりに現実主義的な「封じ込め政策」へと大きく舵を切った。この転換は、オバマ政権の「アジアへのピボット」に始まり、トランプ政権が太平洋軍(PACOM)をインド太平洋軍(INDOPACOM)へと改称して打ち出した「インド太平洋戦略」を経て、バイデン政権にも引き継がれた。
これは、特定の政権の判断というよりも、中国の台頭という国際構造の変化に対する米国の必然的な反応であった。

この対立構造において、米国と中国はそれぞれ自国の視点から見て合理的な戦略を追求している。

  • 中国の目標:アジアにおける地域覇権を確立し、他国の干渉を許さない独自の「中国的モンロー主義」を築くこと。これは、かつて米国が西半球で覇権を確立したのと同じ論理であり、国家の生存と安全を最大化するための合理的な行動である。
  • 米国の目標:中国による地域覇権の確立を阻止すること。米国とその同盟国にとって、中国がアジアを支配することは、自国の安全保障と繁栄に対する直接的な脅威となる。そのため、日米豪印による「クアッド」や米英豪による「AUKUS」といった同盟の枠組みを強化し、全力でこれを阻止しようとしている。

このように、両国がそれぞれ合理的な国益を追求した結果、必然的に激しく、避けられない安全保障上の競争が生まれることとなった。この構造的対立こそが、台湾という具体的な火種を理解するための大前提となる。

台湾:最も危険な引火点

米中間の激しい安全保障競争において、ジョン・ミアシャイマーは、台湾を武力紛争に発展しうる「最も危険な引火点」と位置づけている。彼は、南シナ海をめぐる領有権問題なども米中対立の一側面であると認識しつつも、台湾問題こそが両国を戦争へと駆り立てる最大のリスクをはらんでいると警告する。

その理由は、台湾問題が両国の核心的な国益と深く結びついているからである。ミアシャイマーの現実主義理論によれば、国家は自らの生存や体制の維持といった根源的な目標が脅かされていると認識した場合、軍事的に成功する確率が低いと分かっていても、極めてリスクの高い戦略を選択しうる。

彼はその歴史的な例として、第二次世界大戦における日本の真珠湾攻撃を挙げる。当時の日本指導部は、米国との戦争に勝つ見込みが極めて低いことを認識しつつも、米国の石油禁輸措置によって国家の存亡が危機に瀕していると判断し、「万に一つの勝ち筋」に賭けてでも攻撃に踏み切らざるを得なかった。

この論理を現代の台湾情勢に当てはめると、極めて危険なシナリオが浮かび上がることになる。特に、ミアシャイマーが懸念するのは、台湾が米国の軍事的な保護を確信して独立を宣言し、それによって中国が国内の政治的正統性を失い、国家の統一という核心的利益が脅かされる状況である。

これによってもたらされる結果だが、中国指導部は、たとえ軍事的なリスクやコストが極めて高く、そのうえ敗北する可能性があったとしても、台湾への武力侵攻に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれることになる。

この中国という国家理念の存亡が試されるシナリオでは、台湾、米国、中国の三者が、それぞれ自らの政治的計算に基づいて行動した結果として、意図せずして破滅的な戦争へと突き進んでしまう可能性がある。

加えて、その前段階的な問題でもあるが、尖閣諸島(中国名:釣魚台)をめぐる問題も同様に、中国に危険な決断を促しかねない火種であり、台湾沿岸から200キロメートルも離れていない地理的近接性は、この二つの問題の連動性をさらに高めている。

このように、台湾問題は、単なる軍事バランスの問題ではなく、各国の政治的認識が複雑に絡み合う、極めて不安定で危険な火種なのである。このリスクを管理する上で、米国と日本という二つの主要な関係国がどのような役割を担うのかが重要な論点となる。

米国の役割:現状維持と中国封じ込め

ジョン・ミアシャイマーの現実主義的視点からは、今日の米国の対中・対台湾戦略の目標は明確である。それは、中国の地域覇権確立を阻止し、台湾海峡における現状を維持することにある。この目標は、イデオロギーや価値観ではなく、純粋に米国の国益と勢力均衡の観点から導き出されたものである。

手段として、バイデン政権は、レトリックは自由主義的(民主主義・人権)であるものの、実際の行動は「現実政治(リアルポリティーク)」と「封じ込め」に徹してきた。具体例として、日米豪印による「クアッド」(Quad)や米英豪による「AUKUS」などの同盟枠組みの強化が挙げられる(The White House, 2021; Australian Government, 2021)。軍事面では、台湾への水陸両用作戦が極めて困難であることを認識しつつ、米国とその同盟国は中国の能力に対抗するため「多大な努力(great lengths)を払う」とミアシャイマーは述べる。なお、これは日本を名指しで強調したものではなく、同盟国全体への一般的な言及である。

しかし、ミアシャイマーは、やむを得ない米国の対中政策転換ではありながらも、強い警告を発している。米国は、台湾や尖閣諸島をめぐって中国を不必要に追い詰め、紛争の引き金となりかねない行動を避けるべきであり、そのため、「極めて慎重」でなければならないと言うのだ。もし中国が「軍事行動以外に選択肢がない」と感じる状況に追い込まれれば、真珠湾攻撃と同様、リスクを度外視した破滅的な決断を促しかねない。

日本の役割:米国の主要同盟国としての関与

起こりうる台湾有事を想定した米国の対中封じ込め戦略についての分析で、ミアシャイマーは、日本を不可欠かつ極めて重要な役割を担う主要同盟国として位置づけている。東アジアの地政学的な要衝に位置する日本は、米国の戦略を支える基盤であり、その関与なくして中国への効果的な抑止は成り立たない。

ミアシャイマーは、特に台湾をめぐるシナリオにおいて、米国と共に中国に対抗するための軍事能力を構築するために「多大な努力(great lengths)を払う」主要なパートナーとして、同盟国全体を挙げている。その中でも、日本は地理的・軍事的に決定的な重要性を持っている。

この「多大な努力」は、単なる言葉ではなく、日本の具体的な政策転換に裏打ちされているものである。2022年12月に閣議決定された日本の新たな国家安全保障戦略(NSS)は、第二次世界大戦後で最も野心的な安全保障計画とされ、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置づけ、ロシアや北朝鮮とは異なる次元の脅威として扱っている(内閣府, 2022)。

この戦略文書は、米国との「完全な連携」を謳い、防衛費の大幅な増額を約束するだけでなく、新たな同盟関係の模索にも言及している。インド、オーストラリア、韓国、さらには英国やEUといった、価値観を共有する国々との安全保障協力を積極的に推進しており、その具体例として、2023年1月に英国と締結した、自衛隊と英国軍の相互派遣を可能にする歴史的な防衛協定が挙げられる。

さらに、台湾の安全保障は日本の国益と直接的に結びついている点も重要である。日本の安全保障論では、台湾は日本のシーレーン(海上交通路)を防衛し、中国の軍事的圧力を緩和する重要な地政学的要素として極めて重要視されている。また、尖閣諸島(中国名:釣魚台)は台湾沿岸からわずか約110~170kmの距離に位置し、この地理的近接性は、台湾有事が日本の領土保全に直結する可能性を示唆している。

結論:避けられない安全保障競争の悲劇

ジョン・ミアシャイマーの現実主義的なレンズを通して台湾情勢を分析すると、そこには一つの冷徹な結論が浮かび上がる。

台湾をめぐる緊張は、特定の指導者の過ちやイデオロギーの対立によって生じたものではなく、国際システムの構造そのものから生まれる、避けられない安全保障競争の悲劇的な帰結である。

彼の視点に立てば、この競争に関わる全ての主要な関係国、すなわち覇権の維持を目指す米国、地域覇権を追求する中国、そして米国の主要な同盟国として自国の安全を確保しようとする日本は、それぞれが自国の生存と国益という観点から、完全に合理的で理にかなった戦略を追求している。中国がアジアで独自のモンロー主義を確立しようとするのも、米国と日本がそれを阻止しようとするのも、それぞれの立場から見れば必然的な行動なのである。

ここにこそ、ミアシャイマーが「大国間政治の悲劇(the tragedy of great power politics)」と呼ぶものの本質がある。悪意や誤算がなくとも、合理的な国家が、それぞれ自らの安全を追求するだけで、必然的に他国との間に深刻な不信と恐怖を生み出し、激しく危険な競争へと駆り立てられてしまうのである。そしてその競争は、台湾という最も危険な引火点をめぐって、常に戦争という深刻なリスクをはらみ続けることになる。

 

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