中国の構造的問題
中国の国際的立場を、中国国内側の視点から改めて検討すると、同国はかなり厳しい状況に置かれていることが浮かび上がる。ただし、これを単純に「中国弱体論」として提示すれば、中国バッシングと受け取られかねないため、議論の枠組みには慎重さが求められるだろう。
中国は本来、好戦的な国家ではない。その安全保障上の関心は、自国領域の軍事的防衛とエネルギー安全保障に集中している。しかし、これらの関心を具体的な軍事・経済活動として対外的に適切に伝えるコミュニケーションがうまく機能していない。結果として、中国の行動は周辺国や西側諸国に脅威として映りやすい構造が生まれている。
「生けるゾンビ」としての国家
中国国家の構造的な問題は、社会(身体)と政府(頭脳)の乖離にある。中国社会そのものは必ずしも不健全ではないが、この巨大な「ゴーレム」あるいは「フランケンシュタイン」のような国家を統制する政府=頭脳は、すでに十分に機能していない。いわば「身体は生きているが頭脳が死んでいる」状態であり、頭脳が身体を実効的に支配できていない。生きているように見せかける欲に苦慮しつづけているし、それが大きな破綻を来してもいない。
現在、習近平政権が推進する反腐敗キャンペーンや権力集中は、この「神経系」を上意下達で再構築しようとする試みと理解できる。しかし、これほどの規模の国家で中央集権的統制を貫徹することは、極めて高度に成熟した社会の上にしか成り立たず、現実にはほぼ不可能であろう。無理に統制しようとすれば、かえって「ちぐはぐ」な政策の齟齬を生むことになる。
西側秩序との調和は挫折
冷戦終結後の中国の構造的問題に対する、西側社会からの一つの回答は、西側諸国の国際秩序と調和的な関係を築くことであった。日米が中国に期待してきたのはまさにこの方向であり、米国は特に「中国が経済発展すれば自然と自由主義的秩序に組み込まれるだろう」という関与政策(エンゲージメント)の前提に立っていた。ロシアについても同様に、欧州へのエネルギー供給を通じた融和路線が想定されていた。
しかし、この構想の背後には米国の一極主義・大国主義が隠れていた。さらに意外な展開として、中小国の寄せ集めに見えたEUが帝国的な意思を持ち始め、ロシアに対して敵対的な姿勢を強めた。追い詰められたロシアはBRICSや中国、さらには北朝鮮との連携を深めざるを得なくなり、国際秩序は本来意図されていなかった対立構造へと陥った。
この点については、NATOの東方拡大やEUの東方パートナーシップ政策がロシアの安全保障上の懸念を刺激したという地政学的文脈も踏まえる必要がある。2014年のウクライナ危機以降、ロシアの西側離れは加速し、中露接近の構造的背景となった。
大国間調和の限界
国際関係論において、大国間の経済的には調和は可能であるが、現実の国家レベルでは大国特有の安全保障上の競争意識(国家元首の利害・威信)が不可避的に生じる。ジョン・ミアシャイマーが『大国政治の悲劇(The Tragedy of Great Power Politics)』で論じたように、国際システムのアナーキーな構造のもとでは、大国はたとえ現状維持を望んでいても、相互の安全保障上の不安から権力拡大を追求せざるを得ない。これは世界構造上、避けがたい問題であり、単なる政策の善し悪しに還元できない。
ミアシャイマーのこの「攻撃的リアリズム」の立場からすれば、中国の台頭は米中間の構造的対立を不可避とする。一方で、リベラル制度主義の立場からは、経済的相互依存や国際制度を通じた協調の余地が強調される。
現実の国際政治は、この両者の緊張関係のなかで展開しており、いずれか一方の理論だけでは説明しきれない複合的な状況にあるが、そこで機能すべき国家間のコミュニケーションが機能していない。
小結
中国が直面する困難は、単なる経済的減速や外交上の失敗ではなく、巨大国家の統治構造そのものに由来する。特に、安全保障上の根本的な弱点(マラッカ・ジレンマ)を抱えていることによる。
同時に、中国をめぐる国際環境も、米国の一極主義、EUの帝国的傾向、ロシアの追い詰められた連携行動といった複合的要因によって、調和的解決が困難な方向へ進んでいる。
この問題は特定の指導者の資質や政策選択を超えた、国際システムの構造的制約に根ざしており、「解決が本質的に困難な構造問題」として向き合う必要がある。
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