参議院選挙と外国人労働者問題
日本は深刻な労働力不足に直面し、外国人労働者の導入が不可欠である。厚生労働省のデータによると、2023年時点で外国人労働者数は約200万人を超え、12年連続で過去最多を更新している。特に介護、農業、建設業では外国人労働者なしでは立ち行かない状況だ。しかし、2025年の参議院選挙を控え、この問題に対する政治と社会の対応は不十分であり、潜在的な危機が潜んでいる。ここでは、政党の立場と支持率データ(NHK調査)を基に、日本人の意識、政治の姿勢、世代間の分断、そして選挙に向けた課題を分析してみたい。
外国人労働者の必要性と潜在的危機
日本の少子高齢化と人口減少は、労働力不足を深刻化させている。共産党は「外国人労働者なしに機能しない地方産業分野がいくつもある」と指摘し、公明党は「少子高齢化の中で外国人材は一層重要」と強調する。自民党も特定技能制度を通じて労働力不足に対応する姿勢だ。介護業界では労働者の約40%が外国人、農業や建設でも依存度は高い(厚生労働省2023年推計)。参議院選挙では、この経済的依存をどう管理し、持続可能な労働市場を構築するかが争点となるべきだが、あまり明瞭な論点としてはあげられていないように見える。
もちろんと言えることだが、拙速な受け入れは危機を招く。参政党は「社会の不安定化、国民負担の増大、賃金の押し下げ」を懸念し、れいわ新選組は「移民政策が労働者の賃金を下押しする」と反対する。これらは言葉だけ取り上げればうなずける面がある。若年層(18-29歳、30代)の非正規雇用率は約30%(総務省2023年)で、雇用競争の激化が現実的な脅威である。社会的には、保守党や参政党が挙げる治安悪化や文化摩擦のリスクも懸念されるが、実体は外国人労働者の犯罪率は日本人と同等以下(警察庁2023年)である。他方、技能実習制度の搾取問題や、OECD諸国に比べ遅れた統合政策(語学教育、差別防止)は、参議院選挙で制度改革の議論を迫られる。
高齢層の現状維持志向
NHKの支持率調査では、自民党(現状維持)が70代で38.7%、80歳以上で43.5%と高齢層の圧倒的な支持を得ている。自民は外国人労働者の問題について「受け入れと管理の両立」を掲げ、不法滞在対策を重視するが、多文化共生や差別防止法の議論は進まない。高齢層は介護や地方産業の労働力不足を身近に感じ、現状維持を現実的と見なす。しかし、賃金低下や文化摩擦など将来の危機への準備は不十分である。参議院選挙では、高齢層の安定志向に応えつつ、長期ビジョン(例:永住権基準、統合策)を提示できるかが問われるべきだろう。
この問題における現状維持志向は、問題の先送りとも言えるし、また問題の事実上の隠蔽化とも言える。各政党の主張においても、受け入れ人数や予算規模の具体性は乏しく、若年層の雇用不安への対応も弱い。日本の政治意識のマジョリティを占める高齢層の「特になし」(70代20.4%)は他の世代より低いものの、全体で30.1%と世論の関心不足が顕著である。参議院選挙で、自民は高齢層の支持を維持しつつ、若年層の懸念や社会的準備をどう取り込むかが課題であるべきだったが、現状の崩壊しつつある自民党では無理だった。あるいはこの問題でも前回の年金「改革」のように実際に高齢者への負担増となる改革を隠蔽化するもくろみがあるかもしれない。
回答拒否と若年層の極端な反応
国民民主党と再生は、外国人労働者の受け入れに「回答しない」を選択する。国民民主党は「共生と日本語教育支援」を条件に挙げ、再生は「秩序ある受け入れ」を主張するが、予算や実施計画は不明である。たぶん、存在しないのだろう。国民民主党は30代で18.9%の支持を得ており、若年層の「特になし」(30代38.7%)層を取り込む戦略が成功している。しかし、この曖昧さは政治的リスクを避けるポピュリズム的手法であり、参議院選挙では具体的な政策提案が求められる。こうした無責任な政党は別の意味で潜在的なリスクを孕んでいる。
一方、若年層は参政党(反対、30代9.9%)やれいわ(反対、30代6.3%)を支持する。参政党は「国益損失、治安悪化」を、れいわは「賃金下押し」を理由に受け入れを否定。両者は右派(国家主義)と左派(反格差)の両極だが、若年層の非正規雇用や賃金停滞への不安に訴求する。しかし、完全な受け入れ停止は労働力不足を無視し、産業停滞を招く非現実的な提案だ。参議院選挙では、これらの極端な主張が若年層の感情的反応を代弁する一方、建設的な解決策(例:国内労働力活用、賃金上昇策)の不在が問題となる。この状態は若者世代の理想的なしかし空想的な正義を求めるあまりのある種のニヒリズムのゴミ箱のように機能しているのだろう。
参議院選挙での向き合い方
参議院選挙を控え、外国人労働者問題への真剣な構想への取り組みが急務であるべきだった。そのためには各党から情報公開を強化することが求められた。外国人労働者の経済貢献(GDP寄与率2-3%)や犯罪率(日本人と同等以下)のデータを公開し、世論の無関心(「特になし」30.1%)を減らすべきだった。しかし、現状はこれに逆行している。第二に、具体的な政策を提示する必要があった。カナダのポイント制移民制度やドイツの統合コースを参考に、予算付きの日本語教育(例:年1000億円)や差別防止法を提案するのも良かっただろう。第三に、若年層の具体的な不安解消だ。正規雇用促進(例:企業への税優遇)や最低賃金引き上げ(2025年目標1500円未達)を具体的に加速できる政策が提示されるなら、参政党・れいわといった極端な訴求を抑えることができたはずだ。第四に、世代間(高齢層:寛容、若年層:慎重)や価値観(経済 vs. 文化)の分断を埋める公開討論を開催すべきなのだが、現実的には、もはや、それが不可能になりつつある。このことは、ユーチューブやSNSでの彼らの言動から読み取れるものである。つまりは、それが問題とも言える。日本人は本質的な政治的危機に直面したとき、理想論をおいて現実をベースに検討することを言論的に回避するか、言論とは空想的な理想論を語ることになっている。
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