ゼレンスキーの末路をド・ゴールと李承晩と比較する
ウクライナ戦争は2025年の春と夏のロシアの攻勢により、ウクライナにとって壊滅的な局面を迎えている。ロシア軍はドンバス地域のコンスタンティノフカやポクロフスクを包囲し、スムイやニプロペトロウシクでの進軍を加速した。ウクライナ軍は防空ミサイル、装甲車両、ドローン、人員の不足に直面し、キエフの防空はほぼ崩壊している。この危機的状況下で、ゼレンスキーは権力維持、西側からの資金確保、ロシア領内での非対称戦を通じた抵抗継続を目指している。彼の末路として、亡命大統領としての抵抗、国内での抑圧強化、国際的孤立という三つのシナリオが考えられるが、これらは歴史的な亡命指導者であるシャルル・ド・ゴールや李承晩の経験とどの程度似ているのだろうか。
シナリオ1:亡命大統領として抵抗の象徴となる
ゼレンスキーの末路の第一のシナリオは、ウクライナが軍事的に崩壊した後、亡命先で「抵抗の大統領」として活動を続けることである。彼はロシア領内での非対称戦(テロ攻撃や破壊工作)を指揮し、西側からの資金と支持を得て、パリやロンドン、マイアミなどを拠点にメディアや講演を通じて反ロシアの象徴として存在感を今後も維持することである。このシナリオは、第二次世界大戦中のシャルル・ド・ゴールの亡命指導者としての役割と一見類似している。ド・ゴールは1940年、ナチス・ドイツのフランス占領後、ロンドンに亡命し、自由フランスを組織しt。BBCを通じてラジオ演説を行い、フランス国民に抵抗を呼びかけ、連合国との連携を通じてフランスの解放に貢献した。彼は軍人としての威信と明確な国家ビジョンを持ち、亡命中もフランスの正統な指導者としての地位を確立した。
ゼレンスキーの場合、ド・ゴールと共通するのは、亡命先でのメディア活用と抵抗の象徴としての役割である。ゼレンスキーは元コメディアンであり、現代的なメディア戦略に長けている。彼の政権は脚本家やプロデューサーで構成され、国際社会への訴求力は強い。ド・ゴールがラジオで国民を鼓舞したように、ゼレンスキーは講演やテレビ出演を通じてウクライナの「悲劇」を訴え、西側の支持を集める可能性がある。しかし、相違点も顕著である。ド・ゴールは連合国の勝利という明確な展望の下で活動し、フランスの解放という具体的な目標を持っていたが、ゼレンスキーの非対称戦はロシアを根本的に弱体化させる見込みが低く、むしろ国際法違反や報復のリスクを高める。また、ド・ゴールは軍事的・政治的リーダーとしての正統性を国内で広く認められていたが、ゼレンスキーの国内支持は戦況悪化で揺らいでおり、亡命後の正当性が課題となる。そもそも、ド・ゴールの亡命は連合国の強力な支援に支えられたが、ゼレンスキーの場合は西側の支援縮小リスクが高く、亡命後の基盤が、十分な金銭的な蓄積が達成されなければ不安定であろう。
シナリオ2:国内での権力維持と抑圧の強化
ゼレンスキーの末路の第二のシナリオは、ウクライナ崩壊まで権力を維持し、国内の反対勢力を抑圧する戦略である。戦況悪化に伴い、軍や国民の不満が高まる中、彼は治安機関や情報機関を動員し、暴力的な弾圧で体制を今後も維持することだ。この点は、韓国の初代大統領李承晩の晩年に類似している。李承晩は1948年から1960年まで大統領を務め、韓国戦争(1950-1953年)や冷戦下の反共政策を通じて権力を固めたが、晩年には不正選挙や言論統制、反対派への弾圧を強化した。1960年の学生デモ(4・19革命)により失脚し、ハワイへ亡命せざるをえなくなった。李承晩は権力維持のため、軍や警察を使い、国内の反対勢力を徹底的に抑え込んだが、国民の不満が爆発し、政権は崩壊したのである。
ゼレンスキーの状況は、李承晩と比べていくつかの類似点がある。両者とも外部の脅威(ロシア、北朝鮮)を理由に強権的な統治を正当化し、西側(特に米国)の支援に依存している。ゼレンスキーは戒厳令下で言論統制を強化し、軍内部や国民の不満を一層露骨に抑え込む可能性が高い。また、両者とも腐敗が政権の特徴であり、ゼレンスキーの側近たちが西側からの資金を私的利益に流用する点は、李承晩政権の汚職と似ている。しかし、相違点もある。李承晩は冷戦の枠組みで米国の強固な支持を受けていて、一見状況の構成が似ているようだが、トランプ米政権樹立以降は、ゼレンスキーの西側支援は経済的疲弊や政治的対立で現在大きく揺らいでいる。また、李承晩の失脚は国内の民衆蜂起によるものだったが、ゼレンスキーの場合は軍事崩壊やロシアの進軍が主な脅威であり、国内反発がクーデターや裏切りに発展する可能性が高い。ゼレンスキーの個人的なメディア活用能力は李承晩をはるかに上回るが、ロシアが誘導しつつあるウクライナ国内の混乱が深刻化すれば、支持基盤の崩壊は李承晩同様に加速するかもしれない。
シナリオ3:国際的孤立と失脚
第三のシナリオは、ゼレンスキーが国内外の支持を失い、国際的に孤立し失脚する可能性である。西側の支援縮小やロシア領内での攻撃のエスカレーションが国際法違反と見なされれば、彼の信用は一層失墜する。ロシアの報復が欧州地域でもエスカレートすれば、ゼレンスキーは期待されていた盾の役割を果たさず、孤立し、歴史の表舞台から消えるかもしれない。このシナリオは、ド・ゴールや李承晩とは大きく異なる。ド・ゴールは亡命中もフランスの正統な指導者として認められ、解放後に復権した。李承晩は失脚後のハワイ亡命で政治的影響力をほぼ失い、静かな余生を送った。ゼレンスキーの場合、国際的孤立が進めば、李承晩のような隠遁生活でありながら、ロシアお得意の報復対象となるリスクがある。
ド・ゴールとの違いは、なによりゼレンスキーの戦いに明確な勝利の見込みがない点だ。ド・ゴールの抵抗は連合国の勝利に裏打ちされていたが、ゼレンスキーの非対称戦はロシアを弱体化させる可能性が低く、国際的批判を招く恐れがある。李承晩との違いは、ゼレンスキーの国際的露出度の高さである。彼のメディア戦略は強力だが、西側の支援がなければ、見捨てられた舞台俳優のような孤立は避けられない。なお、トランプ政権やイスラエルの国際法軽視がゼレンスキーの戦略に影響を与える可能性があるが、これが逆効果となり、さらに孤立を加速させるリスクも存在する。
こうして見ると、ゼレンスキーの末路は、当然といえば当然だが、ド・ゴールの成功した亡命指導者像や李承晩の失脚と亡命のいずれとも完全には一致しない。ド・ゴールの正統性や勝利の展望はゼレンスキーには欠け、李承晩の強権政治は類似するが、ウクライナの軍事崩壊という特殊な状況が異なる結果を生む可能性がある。ゼレンスキーのメディア能力と西側依存は彼のいまだに強みではあるが、戦況悪化と国際環境の変化がその運命を大きく左右することになるだろう。不運なことに、この運命はほぼ機械仕掛けのように進展している。
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