« 映画『キリストの民。私たちの時代』ウクライナ正教会の危機 | トップページ | トランプ第二期政権の中東政策 »

2025.06.02

20代の習慣が60歳の心と体を決める

20代の習慣が60歳の心と体を決める

 健康は一夜にして作られるものではないというのは常識ではある。毎日の小さな選択が、積み重なって未来の心と体を形作るに違いない。しかし、エビデンスは?と問われると、意外にわからないものだ。が、フィンランドの研究者たちが、30年以上にわたり同じ人々を追跡した結果、喫煙、過度な飲酒、運動不足が20代から影響を及ぼし、36歳で早くも健康の分岐点となることが明らかになった(Kekäläinen et al., 2025)。つまり、科学的な調査でわかってきた。しかも、40歳を過ぎても生活習慣を変えれば、健康は大きく改善する可能性もありそうだ。

30年間の追跡が明らかにした健康の真実

 世界の死亡原因の74%を占める非感染性疾患(心臓病、がん、糖尿病など)は、喫煙、過度な飲酒、運動不足といった予防可能な行動に大きく影響される(Kekäläinen et al., 2025)。フィンランドのユヴァスキュラ縦断研究(JYLS)は、1959年生まれの約300人を27歳(1986年)から61歳(2021年)まで追跡し、これらの行動が精神的・身体的健康に及ぼす影響を調べた。この研究の強みは、30年という長期追跡にある。従来の研究は中年期(40歳以降)に焦点を当て、20年程度の追跡が一般的だったが、本研究は20代からの行動を捉え、健康の「時間的蓄積」の影響を明らかにした。
 研究では、喫煙(喫煙者/非喫煙者)、過度な飲酒(年間純アルコール摂取量が女性7000g、男性10000g以上)、運動不足(週1回未満の運動)を「危険行動」と定義。参加者の健康状態を、抑うつ症状、心理的幸福感、自己評価健康、代謝リスク因子(血圧、ウエスト周囲径、トリグリセリド、HDLコレステロール、血糖値)で評価した。データは、27歳、36歳、42歳、50歳、61歳の5時点で収集され、性別と教育を調整した分析が行われた。

危険行動が心と体に及ぼす影響

 研究の結果、危険行動の数とその継続期間が、健康に深刻な影響を及ぼすことがわかった。現時点での危険行動が多いほど、抑うつ症状が増加(B=0.10, p=0.032)、心理的幸福感が低下(B=-0.10, p=0.010)、自己評価健康が低下(B=-0.45, p<0.001)、代謝リスク因子が増加(B=0.53, p=0.013)する。さらに、危険行動が長期間続く(時間的蓄積)と影響はより強く、抑うつ症状(B=0.38, p<0.001)、心理的幸福感(B=-0.15, p=0.046)、自己評価健康(B=-0.82, p<0.001)、代謝リスク因子(B=1.49, p<0.001)に顕著な悪影響がみられた。
 興味深いのは、行動ごとの影響の違いだ。喫煙は抑うつ症状(B=0.15)と心理的幸福感(B=-0.08)に強い影響を与え、精神的健康を特に損なう。過度な飲酒は抑うつ症状(B=0.21)、自己評価健康(B=-0.62)、代謝リスク因子(B=1.03)に影響し、運動不足は自己評価健康(B=-0.31)と代謝リスク因子(B=0.89)に悪影響を及ぼす。これらの影響は36歳時点で既に顕著であり、若年期の習慣が中年期以降の健康を決定づける。
 つまり、喫煙、過度な飲酒、運動不足が心と体に悪影響を及ぼす。こうした習慣が多いほど、気分が落ち込み、幸福感が減り、健康感が低下、心臓病や糖尿病のリスクが増す。長期間続けると影響はさらに強くなり、なかでも喫煙は心、飲酒と運動不足は体に特に影響する。こうした影響は36歳で顕著になる。

20代から始める健康習慣の重要性

 この研究は、20代での行動が健康の基盤を築くことを強調する。健康行動は幼少期から形成され、20代で確立される傾向がある。例えば、喫煙や飲酒の開始年齢が中年期の習慣に影響し、27歳時点での運動不足が後の代謝リスクを高める。36歳で危険行動の影響が顕著になるため、20代での予防が重要になる。
 この研究の希望的なメッセージは、40歳を過ぎても生活習慣の改善が健康を向上させることだ。論文は、危険行動の蓄積を防げば、抑うつ症状や代謝リスクが減少し、自己評価健康が向上すると示している。例えば、40代で運動を始めれば、心臓病や糖尿病のリスクが低下する。50代で禁煙に成功すれば、精神的幸福感が向上する可能性がある。

Kekäläinen, T., et al. (2025). Cumulative associations between health behaviours, mental well-being, and health over 30 years. Annals of Medicine, 57(1), 2479233. DOI: 10.1080/07853890.2025.2479233



|

« 映画『キリストの民。私たちの時代』ウクライナ正教会の危機 | トップページ | トランプ第二期政権の中東政策 »