ハーグNATO首脳会議の風向き変化
2025年6月24日から25日にかけて、オランダのハーグで開催されたNATO首脳会議は、ウクライナとその指導者ウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対するNATOの姿勢に顕著な変化が見られた歴史的な転換点となった。これまでの会議では、ロシアとの戦争を続けるウクライナに対し、NATOは一貫して強い支持を表明し、ゼレンスキー氏は中心的な役割を担ってきた。しかし、今回の会議では、ゼレンスキー氏の参加が制限され、ウクライナのNATO加盟に関する議論が公式に取り上げられなかった。この変化は、NATO内の優先順位の再編、加盟国間の分裂、そして新たな国際情勢の影響を如実に反映している。
ゼレンスキー大統領の限定的な参加
ハーグのNATO首脳会議において、ゼレンスキー大統領の参加は極めて限定的であった。過去のNATO首脳会議では、ウクライナはNATO・ウクライナ会合を通じて積極的に議論に参加し、ゼレンスキー氏は首脳たちと肩を並べて公式プログラムに出席していた。今回はNATO・ウクライナ会合そのものが取りやめとなり、ゼレンスキー氏は6月25日の本会合に招待されなかった。6月24日のオランダ国王主催の祝賀晩餐会には出席したものの、主要な首脳たちとは異なり、ホールの隅に配置されたテーブルとなった。この目に見える物理的な隔離はゼレンスキー氏が会議の中心から外されたことを象徴した。
変化の背景には、いくつかの要因がある。まず、2025年に再選されたドナルド・トランプ米大統領の影響は大きい。トランプ氏は今回の会議で、NATO加盟国の防衛費増額を最優先課題とし、ウクライナのNATO加盟には消極的な姿勢を明確に示していた。会議での公式宣言にウクライナの加盟に関する言及が一切なかったことは、トランプ政権の政策がNATOの議題設定に強く反映された結果と考えられる。さらに、米国、トルコ、スロバキア、ハンガリーといった加盟国が、ゼレンスキー氏との同席を望まなかったともされていた。これらの国々は、ウクライナ支援やロシアとの関係を巡る独自の立場を持ち、NATO内でのウクライナの優先度低下に影響を与えつつある。ゼレンスキー氏自身、事前に「出席は最終段階で決定する」と不透明な姿勢を示していたが、会議での限定的な役割は事前に理解していたのだろう。
晩餐会と写真撮影に見るウクライナの孤立
会議中の具体的な出来事は、NATOとの関係におけるウクライナの扱いの変化をさらに浮き彫りにした。オランダ国王主催の祝賀晩餐会で、すでに言及したが、ゼレンスキー氏は他のNATO首脳と同席せず、ホールの隅に設けられた別のテーブルに着席した。この配置は、ゼレンスキー氏が主要な議論の場から物理的に離されたことを示すが、加えて、会議の全体写真撮影セレモニーでも、ゼレンスキー氏はトランプ大統領から明確に離れた位置に配置された。これまでウクライナに迎合的であった西側メディアですら、この配置が意図的であったと報じ、トランプ氏とゼレンスキー氏の間に政治的・個人的な距離感が存在することを示唆した。
これらの出来事は、単なる形式的な配置の問題を超え、ウクライナのNATO内での地位低下を目に見える形で象徴するものであった。2023年や2024年の首脳会議では、ゼレンスキー氏は欧米の首脳たちと積極的に握手を交わし、ウクライナ支援の象徴として脚光を浴びていたが、今回の会議では、ゼレンスキー氏が脇に追いやられ、主要な首脳たちとの同等な対話の機会も制限されていた。
トランプ氏との会談と限定的な外交的関与
ゼレンスキー氏の会議での扱いが後退したが、完全な孤立には至らなかったとも言える。会議期間中、ゼレンスキー氏はトランプ大統領と「長く実質的な会談」を持ったとされた。トランプ氏はゼレンスキー氏を彼がいつもそうするように、まず「いい人」と呼んだ。会談後に両者の対話が続いたとも報じられている。また、NATO事務総長のマーク・ルッテと共同記者会見を行ったことも、ウクライナが依然としてNATOとの対話の窓口をまだ維持していることを示した。
とはいえ、これらの会談の具体的な成果は不明である。トランプ氏はウクライナ支援に慎重な姿勢を示しており、過去の両者の関係(2019年の弾劾問題や2025年2月のホワイトハウス会談での緊張)を考慮すると、会談がウクライナにとって実質的な支援の約束につながった可能性はなかっただろう。むしろ、トランプ氏が自身のNATO政策(欧州は欧州で責任を持て)を強調する場として会談を利用し、ウクライナのNATO加盟や追加支援の議論を避けた。
ウクライナの地位低下と地政学的意味
今回のハーグNATO首脳会議でのウクライナの扱いは、国際社会におけるウクライナの地位が目に見えるかたちで低下したことを示唆する。公式宣言でウクライナのNATO加盟が取り上げられなかったことは、NATOがウクライナの加盟がもはや当面の検討事項ですらないことを明確に示すものだ。西側報道は、「ロシアとの戦争が長期化する中、NATO加盟国の間で「ウクライナ疲れ」が広がり、支援の継続に対する熱意が薄れている可能性がある」といった修辞がまだ維持されているが、実態は、ウクライナの事実上の敗北をどのように対処するかという現実の浮上であり、ハンガリーやトルコのような国々の消極的な姿勢はすでにその文脈に置かれている。
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