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2025.06.16

イラン・イスラエル紛争の現実と展望

 2025年6月16日現在、イスラエルとイランの軍事衝突は激化し、情報戦の渦中で真実を見極めるのが困難である。そこで、イラン側の主張から事実性の高い部分を参考に、イスラエルの具体的な行動を評価し、戦争の展望を探ってみたい。さらに、西側メディアの報道とのギャップを、情報戦とプロパガンダの視点から具体的に分析する。特に、イスラエルの行動が「プロービング(試探)」の可能性を含む点に焦点を当てたい。

イラン・イスラエル紛争の事実性の解明

 2025年6月12日、イスラエルはイランの核施設(ナタンズ、フォルドゥ)、ミサイル基地(ホルモズガン州)、石油精製所(アバダン)、革命防衛隊(IRGC)関連施設を標的に大規模な空爆を開始した。F-35戦闘機、F-15、ドローン(ヘルメス900)、スタンドオフ兵器(Popeyeミサイル)を使用し、6月15日時点で攻撃は断続的に継続している。イランは報復として、6月13日からイスラエルのネバティム空軍基地やラモン基地、テルアビブ近郊のモサド施設に弾道ミサイル(Kheibar Shekan、射程1450km)、ドローン(Shahed-136)を発射した。テヘランは6月15日朝に一時静穏だが、双方の攻撃は収まらず、戦争は長期化の兆しを見せる。
 事実性の高い情報として、イランの重要施設の地下化が確認される。フォルドゥ核濃縮施設は地下80mに位置し、ナタンズも2020年代初頭の攻撃(Stuxnetによる爆発)後、地下施設を拡張している。ミサイル基地は「ミサイル都市」として、ケルマン州やホルモズガン州に地下トンネル網を構築した(IRGC映像、2022年)。これらは通常爆弾(JDAM、GBU-31)では破壊困難で、イランの報復能力(第二撃)を保証する非対称戦術である。
 防空システムはロシア製S-300や国産Bavar-373で、ドローンや巡航ミサイルを一部迎撃。2019年の米軍Global Hawk撃墜や2023年のイスラエルドローン迎撃が実績としてあるが、F-35のステルス性は突破され、地上施設(レーダー、石油タンク)に損傷している。
 イランの報復はネバティム基地の滑走路に軽微な損傷を与えた(IDF発表、2023年類似事例)が、イスラエルのArrow-3防空システムで70~90%迎撃(CSIS、2024年)とのこと。国際社会では、中国(外務省声明、2025年6月13日)とロシア(RT、2025年6月14日)がイスラエルを「主権侵害」と非難し、南アフリカやインドネシアも国連総会で批判(2023年ガザ決議の延長)している。欧米は「エスカレーション停止」を求めるが、米国はイスラエル支援が基調にある。イランはインターネットを制限し、情報統制で被害を過小報告しており、これらは衛星画像、IAEA報告、シンクタンク分析で裏付けられる。

イスラエルの行動の評価

 イスラエルの攻撃は、軍事的・政治的・情報収集的な目的を持つ。特に、攻撃の一部が「プロービング(試探)」である可能性が高い。これは、防空網や反応をテストし、将来の大規模攻撃に備える戦略だ。具体的な行動と評価は以下の通り。
 まず、軍事目的として、核プログラムの抑制とイラン軍の弱体化を狙う。ナタンズの地上施設(遠心分離機組み立て工場)は2025年6月13日の攻撃で損傷したようだ。IAEA(2024年推定)によると、濃縮能力が一時的に10~20%低下した。石油精製所(アバダン)やIRGCのレーダーサイト(テヘラン近郊)も破壊され、補給や指揮統制に影響していると見られる。これらはイランの作戦能力を削ぐが、フォルドゥやミサイル基地の地下施設は無傷(IAEA、2025年推定)であろう。
 プロービングとして、イスラエルは意図的に多様な兵器(ドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイル)を投入し、イランのS-300やBavar-373の反応を観察し、レーダー位置(例:イスファハン周辺)や迎撃率を把握し、将来の侵入経路を特定している。2023年のイスファハン攻撃でも同様の試探が確認されている。
 ネタニヤフ首相はイスラエル国内政治向けに「イランの核脅威を排除する」と国民に訴えることで、脆弱な存立基盤に支持を固める意図はあるだろう。
 外交的には、ヒズボラやハマスへの攻撃で弱体化したイランの代理勢力を牽制し、サウジアラビアやUAEとの連携を強化したいところだ。対イランとしては、心理戦的に、「イラン本土を自由に攻撃可能」と示し、IRGC指導部にプレッシャーを与えるているつもりだろう。
 しかし、限界も明確である。地下施設の耐久性により、イランの核・ミサイル能力は維持され、イランの報復はネバティム基地の格納庫やテルアビブのレーダーに軽微な損傷である。民間人被害は国際批判を招き、国連総会で非難決議案が浮上している。プロービングの成功は今後の情報収集に寄与するが、軍事的決着には遠く、ゆえに消耗戦が予期されている。

戦争の展望

 短期的(数週間~1か月)には、イスラエルとイランの相互攻撃が続く。イスラエルはナタンズやIRGCの訓練施設を追加攻撃する。イランはKheibar ShekanやShahed-136でラモン基地やハイファのインフラを標的している。双方の防空網によって攻撃の7~8割が無効化されるが、民間人死傷者(例:テヘランで10人、テルアビブで5人、Guardian、2025年6月15日)は増加するだろう。
 核エスカレーションは意外と低い。イスラエルがバンカーバスター(GBU-57)を用いる可能性は囁かれるが、IAEAや米国の圧力で抑制されている。米国が直接介入すれば、イランはペルシャ湾の米軍基地(バーレーン、カタール)を攻撃するだろう。米国はArrow-3ミサイル提供や情報支援に留まる公算である。
 中期的(数か月~1年)には、消耗戦が主軸となるだろう。イスラエルの攻撃はイランの石油輸出(日量200万バレル、2024年)を10~15%削減(仮にBloomberg、2025年6月)する。イランは迎撃ミサイル(Sayyad-3)の消費で財政負担増(SIPRI推定、2024年)となる。
 イランの報復はイスラエルの防空コスト(1発5000万円、CSIS)を増大させるが、決定的打撃は困難であろう。停戦にはイスラエルの後退が必要だが、ネタニヤフの強硬姿勢とイランの報復継続で妥協は遠い。国連総会は非難決議を可決する可能性が、米国の拒否権で実効性はなし。いつものことだ。
 長期的(1年以上)には、イスラエルの地域主導権が強化される可能性がある。サウジアラビアやUAEとの経済・安全保障協力が進む。イランの核プログラムは遅延するが、地下施設で再構築されるだろう。BRICS(主に中国・ロシア)からの支援(ドローン技術や経済援助)でイランは孤立を回避するだろう。原油価格は10~20%上昇で、グローバル経済に影響する。

西側プロパガンダとのギャップ

 西側メディア(BBC、CNN、Reuters)は、イスラエルの攻撃を「精密で効果的」と報じ、ナタンズやミサイル基地に「壊滅的打撃」と誇張(例:NY Times、2025年6月14日)し、イランの報復は「失敗」「民間被害」と矮小化し、テルアビブの死傷者を強調する。地下施設の耐久性やイランの報復能力(ネバティム基地の損傷)は背景扱いとなり、核開発やヒズボラ支援が紛争の原因とされ、「イラン=脅威」の枠組みが支配的である。
 このギャップは情報戦の産物にすぎない。西側は米国・イスラエルの情報機関や衛星画像(Maxar)に依存しているだけだ。速報性を優先し、イスラエルの「全機無事」を検証なく報じたのは滑稽である。イランの情報統制は内部情報の入手を阻み、地下施設の無傷が軽視されている。
 歴史的バイアス(1979年革命、1980年代人質事件)がイランの「テロ国家」のイメージを強化し、防衛戦略(地下化の合理性)や過去の西側介入(1953年クーデター)への不信は無視される。Al JazeeraやPress TVでは、イランの報復成功やBRICSの支持が強調されるが、西側では報じられにくい。
 

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