バイデン政権下のオートペン問題
バイデン政権下のオートペンの使用をトランプ大統領は「アメリカ史上最大のスキャンダル」と呼び、積極的な調査を指示ししている。 この発言は、元バイデン政権高官ニーラ・タンデン氏の議会証言によって火に油を注がれた。
6月23日、タンデン氏は下院監視委員会で5時間にわたり証言し、バイデン大統領の署名を代行するオートペン使用を指示する権限を持っていたが、最終承認者が誰だったのか知らなかったと述べたのである。この不透明極まりないプロセスは、ホワイトハウスの意思決定に対する米国民の疑念を増幅させている。
ところで日本では馴染みのないオートペンだが、これは大統領の署名を機械的に再現する装置であり、恩赦や公式文書に使用される。過去の政権でも使用例は多い。オバマ政権下では、2011年の国防権限法の署名にオートペンが用いられ、議論を呼んだものだが、その承認プロセスは比較的明確だった。
対して、バイデン政権下では、タンデン氏が意思決定メモを側近に送り、承認済みで返送される仕組みだったのだが、その間の手続きは不明瞭である。トランプはこれを「違法」と主張し、特にバイデン氏の恩赦が無効である可能性を強調してきた。 彼は「誰がオートペンを操作したのか?それは大統領ではない」と述べ、側近による権限簒奪を疑っている。とはいえ、オートペン使用自体には法的には問題ない。トランプ自身も在任中にオートペンを使用していた。 それでも、トランプ支持者は「バイデンの署名は無効ではないか」との疑惑の声を増幅し、議論が過熱してきている。
バイデンの健康疑惑と共和党の調査
タンデン氏の証言は、バイデン大統領の健康状態にも光を当てることになる。彼女は2021年から2023年の在任中、大統領の健康や職務遂行能力について、ホワイトハウス内で誰とも議論しなかったと証言した。 特に、2024年夏の討論会でのバイデン氏のパフォーマンスは、言葉遣いや反応の遅さが批判され、健康状態への疑念を高めた。
タンデン氏としては「隠蔽は絶対になかった」と記者に強調したが、バイデンとの直接接触が限られていた事実は、疑惑を深める要因である。トランプはこの疑惑を積極的に追及し、バイデンの側近が認知能力低下を隠し、オートペンで権限を不当に行使したと主張し、「バイデンは何をしていたのか分かっていなかった」と述べ、恩赦や執行命令の有効性を疑問視している。
共和党主導の下院監視委員会は、今回のタンデン氏に加え、元ホワイトハウス医師ケビン・オコナー氏や、ジル・バイデン元ファーストレディの上級顧問アンソニー・バーナル氏らの証言を求めている。トランプ政権は執行特権を解除し、司法省を通じた調査も開始した。 この調査は、2024年選挙後の共和党の攻勢と連動する。
大統領の権限と側近の役割
バイデンのオートペン問題と高齢化による健康疑惑は、ホワイトハウスにおける側近の影響力の大きさをも浮き彫りにする。タンデン氏が最終承認者を知らなかった事実は、側近が大統領の権限をどの程度代行していたかにも疑念の光を無け書ける。もちろん、歴代政権でも側近の役割は大きかった。オバマ政権のラーム・エマニュエル首席補佐官は強力な影響力を持ち、第一期のトランプ政権でも側近が政策を左右した。その際、トランプ自身も、オートペンを使用していたにもかかわらず、バイデン政権の使用を「違法」と批判するのは、オートペンそのものが問題だからではない。ホワイトハウスの意思決定プロセスの公開性や説明責任をどう確保するかが問われているのである。
要するに、大統領の権限はどこまで側近に委ねられるべきかという単純な疑問に単純な答えが与えられていない。
| 固定リンク