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2025.06.06

日本人口減少と地価の未来

 昨日の日本の出生率低下のニュースは衝撃的であるべきだったが、こうした事態に私たちは慣れつつある。事実から妥当な予測を確認しておきたい。2024年、日本の出生数は68万6061人と、統計開始以来初めて70万人を下回った。合計特殊出生率(TFR)は1.15で過去最低を更新し、婚姻数も48万9000組(2023年)と30年前の6割に落ち込んでいる。この数字は、国立社会保障・人口問題研究所の予測(2039年に68万人)より15年早く、人口減少の加速を物語る。特に東京(TFR0.96)や東北(1.0)は深刻で、沖縄(1.54)を除く地方でも低下が進む。
 2035年までには出生数は55~60万人、子育て世帯(0~14歳人口)は1400万人から1100~1200万人へ1.5~2割減ると予測される。政府の出産費無償化(2026年予定)や児童手当拡充は減少率を年2~3%に抑える可能性があるが、婚姻数の低迷や若者の経済不安(非正規雇用30%)、結婚・出産の価値観変化を考えると、急回復は難しい。
 この人口減少は地域差が顕著であり、問題はそこにあると言える。東京23区は外国人住民56万人(2023年、年10%増)や単身者需要で転入超過(年2万人)が続き、福岡市もIT産業や観光で人口微増(年0.5%)している。一方、岡山市や広島市は年1~2%減、過疎地の秋田県大館市や島根県隠岐郡は年3~5%減で、2035年には30~40%減の地域も出てくる。過疎地では学校閉鎖(例:丹波篠山市2016年閉校)や産科医院の半減(島根県、10年で20→10)、バス路線撤退(地方で30%減)が進み、生活インフラの縮小が深刻化している。
 全国平均の人口減少(年1%)は、こうした過疎地の危機を隠す「平均のトリック」を生みやすい。東京や福岡の安定が平均値を押し上げる一方、秋田や島根の過疎地は人口密度100人/km²未満、空き家率30~40%に達し、居住困難な地域が市町村の20~30%で発生しつつある。

平均値が隠す地域差

 人口減少は地価に直接影響する。全国平均で子育て世帯の1.5~2割減は、住宅需要(特に戸建て)を同程度縮小させ、地価に1.5~2割の下落圧力を与える。しかし、この平均値という存在そのものが地域差の深刻さを覆い隠す。2023年の公示地価は全国で1.4%上昇したが、東京23区は5.2%上昇、福岡4.5%上昇に対し、秋田県は5%下落、島根県隠岐郡は40%下落と落差が大きい。東京23区の新築マンションは平均1.2億円(2024年、10%上昇)と高騰し、外国人投資(購入額20%増)や単身者需要で賃貸市場も堅調だ。福岡や大阪は企業誘致(例:熊本TSMC進出)やリニア開通(2027年予定)で地価が3~5%上昇。岡山市や広島市の中心部は商業施設や大学周辺で地価維持だが、郊外は15~20%下落、過疎地の秋田や島根離島は30~40%下落で売却が困難だ。
 平均のトリックは投資や政策の誤解を招きやすい。我々は「日本」を論じることが好き過ぎるが、これはえてして平均のトリックに陥る。当たり前といえば当たり前なのだが、全国地価1.4%上昇に惑わされて過疎地で投資すると損失リスクが高い。例えば、秋田県大館市は2035年人口4.5万人(35%減)、地価30%下落、空き家率25%、病院縮小が進む。島根県隠岐郡は人口0.8万人(40%減)、地価40%下落、フェリー便数削減(週5→3)で生活が困難になる。岡山市郊外も空き家率20%、地価15%下落、バス路線縮小(1日10便→5便)と、居住に適さない地域が現れている。現状、全国の市町村の40%(約700)が過疎地域で、2035年には50%超がインフラ縮小で居住困難になる可能性がある。一方、観光地(京都、沖縄)はインバウンド需要で地価上昇、物流需要(郊外倉庫)も下支え要因であある。

投資と社会変化

 私たちはまた「悲観論」も大好きだ。が、人口減少の地価への影響を緩和する要因もある。円安(2025年6月、1ドル150円前後)と日銀の低金利は外国人投資を刺激し、2024年の不動産購入額は20%増となる。東京23区のマンションや沖縄の民泊物件は投資対象として人気である。テレワーク普及は郊外戸建て需要を微増させ、2024年の住宅着工統計で戸建ては1.5%増である。特に東京多摩地区や福岡郊外は需要が回復している。高齢化によるシニア向け住宅(都市賃貸、コンパクト戸建て)需要も増え、広島や札幌の中心部で賃貸市場が安定している。地方創生政策(年間3兆円)や企業誘致(例:福岡のIT、熊本の半導体)は、特定エリアの地価を支える。2026年の出産費無償化や児童手当拡充は出生数減少を年2~3%に抑える可能性があるが、効果は間接的で、住宅需要の大幅回復は期待できない。
 移民の議論はタッチーだが、現実的には都市部の支えとなっている。2023年の外国人住民290万人は2035年で400~500万人に増える見込みで、東京や大阪の賃貸需要を下支えする。しかし、永住者は少なく、戸建て購入への影響は限定的である。過疎地では移民流入がほぼなく、地価下落を止める力はない。観光地や物流需要は例外で、京都の民泊や熊本の物流施設は地価を押し上げる。こうした要因は、地域差をさらに拡大させる。都市部や観光地は安定するが、過疎地の危機は深まる。

エリアとタイミングの戦略

 地価の下落リスクと地域差に対応するには、当然だが、戦略的な判断が欠かせないのだが、この「戦略的な判断」といった石破首相が好きそうな言葉はナンセンスになりやすい。とはいえ、現状から見ていくと、東京23区や福岡の中心部は投資・賃貸需要で地価が安定し、マンション価格は高止まり(1.2億円)している。売却を急ぐ必要はなく、投資家は都心マンションや民泊物件で機会を狙える。岡山市や広島市の中心部は商業施設や大学周辺で地価維持、賃貸需要も堅調だが、郊外は2025~2028年に市場価格~15%安で売却を検討すべきとなるだろう。過疎地の秋田や島根離島は地価30~40%下落、空き家率30~40%で売却が困難。早期売却(市場価格~20%安)か、賃貸転用(民泊、シェアハウス)、また農業活用を模索することになる。観光地(沖縄、甲府)や物流需要エリア(郊外倉庫)は投資機会が豊富だである。
 要するに、日本の問題を見るとき日本で概括せず、地域ごとのデータを見ることが鍵だ。公示地価(例:秋田5%下落、島根離島40%下落)、人口動態(過疎地3~5%減)、空き家率(地方20~40%)を基に判断することになる。地方自治体は過疎地のインフラ維持(医療、交通)や空き家活用(移住促進、民泊)を急ぐべきだろう、仕方がない。不動産所有者は、過疎地での早期行動、都市部での投資最適化でリスクを抑え、機会を活かせるかもしれない。日本の人口減少は避けられないが、地域差を見極め、つまり、地域を実際的には整理整頓して、2025~2028年の「戦略的対応」で影響を最小化するしかない。



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