消費税で1誤差が出た話
先日、セブン-イレブンで雑誌『通販生活』を買った。以前は購読していたが、なんとなく買わなくなって久しい。まだあるんだという思いと、表紙に白黒写真で移っている、谷川俊太郎、永六輔、小室等の対談風景が懐かしかった。「あれから20年」tもあり、小室は存命だった。へーと思った。まあ、買うことにした。
改めて表紙を見ると、「2025年初夏 5・6月号 350円」と比較的目立つように表紙の右上に書かれている。まあ、もともとカタログだしなあ、安いよねと思って、レジで支払いを済ませ、受け取ったレシートを何気なく見ると、違和感があった。本体価格318円に消費税31円が加わり、合計は349円である。表紙に書いてあった350円と1円足りないのだ。他にもグミとか買ったので支払った金額に実感がなかったが、これ、単体で現金で買うと、1円おつりが来るのかと思った。
まあ、たかが1円のズレだが、妙に気になってしまった。これは、あれだな、消費税の問題だな。10%になって端数がなくなったかと思ったが、まあ、実売価格のほうに合わせようとすると、複雑になるだろうなあ。ちょっと調べてみた。
消費税の端数処理の曖昧さ
このズレの原因は、消費税法の端数処理規定にある。消費税法施行令第29条によれば、消費税の計算で生じる円未満の端数は「切り捨て」「切り上げ」「四捨五入」のいずれでもよいとされている。つまり、企業が自由に処理方法を選べるのだ。セブン-イレブンの場合、レシートから「切り捨て」を採用している。本体価格318円に消費税10%をかけると31.8円となり、これを切り捨てて31円。合計349円だ。
これが本体価格319円なら、消費税31.9円を切り捨てて31円、合計は350円ぴったりになる。表紙の350円と一致する。これで世界は安定する。プーチン大統領も30日停戦案の了承するかもしれない。まあ、そうはいかないものなのだ。つまり、すべての店舗が「切り捨て」方式を採用しているわけではないのだろう。もし「四捨五入」や「切り上げ」を採用する店舗で『通販生活』が売られた場合、本体価格319円に消費税31.9円が切り上げて32円になり、合計351円になってしまう。表紙に「350円」と書いてあるのに351円で売られるのは、『通販生活』にとって困った事態だろう。クレームは入るだろうな。人は自分に正義があると思うとどんな悪でもやってのける存在である。『通販生活』としてもそうした面で信頼感を損なうリスクは避けたいだろう。まあ、『通販生活』と限らず、出版社としてはこういう場合は、どんな店舗でも350円を超えないよう、318円に設定することで安全を確保しているのだろう。
ついでに318円という数字を見ていて価格戦略や業界慣習も絡んでいるかもしれないなあと思った。318円は「割安感」を与えるかもしれないし、「8」という数字は『通販生活』を購入する中国人好みには違いない。どうでもいいけど、この手のギャグをたまにAIが理解するか試してみると、まだ、無理っぽいね。《「中国人好み」という表現をステレオタイプと感じる読者もいるかもしれません(ただし、悪意のない軽いジョークとして受け取られる可能性が高いです)。》とか答えたけど、これって、意図的なユーモアではないな。ハロルド・W・ルークラフトになるまでは、まだまだだ。
さて、この消費税の曖昧さは、消費税が導入された1989年から存在する。僕が31歳のときだ。首相は竹下登だ。能の翁面を失敗したような顔だったかな。当時の国会ではたしか、企業に柔軟性を与えるべきとか統一ルールを設けなかった。3%の計算が複雑過ぎた。だから、1989年の消費税導入時には面白い現象が話題になった。3個で100とかのもので、本体価格33円とすると、商品を3つ買う場合、まとめて買うと税込101円になるが、3回に分けて買うと99円で済むとかだったかな。たまにコンビニが暇だとやって記憶があるが、具体的な事例をもう忘れてしまった。まあ、この例だと、税率3%で計算すると、まとめて買うと税額2.97円が切り捨てで2円になるが、個別に買うと0.99円が毎回0円に切り捨てられ、税金がかからなくなる。結果、2円得する、だったか。「3回に分けて買うと1円得する」ケースは話題でもあったな。当時の消費者にとっては、消費税へちょっとした抵抗だったのかもしれないが、店側には迷惑だったな。
たかが1円、されど1円
『通販生活』で生じる1円のズレは小さな問題に思えるが、実はそうではない。日本経済の規模は大きいからね。経済産業省によると、日本の小売市場は年間約300兆円で、仮にだが、1%の取引で1円のズレが生じると、300億円もの金額になる。コンビニ業界に絞っても影響は大きい。セブン-イレブンだけで年間約5兆円の売上があるとされるが、仮に0.1%の取引で1円のズレが生じると、年間5億円もの差が出る計算だ。たかが1円、されど1円だ、この言い方、昭和臭いな。
もちろん、消費者心理にも影響する、かな? 同じ商品が店舗や支払い方法で1円違うことがある。たとえば、現金では349円なのに、電子決済だと350円になるケースが消費者庁の調査で報告されているらしい。2024年の消費者アンケート(日本消費者協会)では、約3割が「値札とレシートの金額が違うことに不信感を抱いた」と回答しているとのことだ。値札どおりじゃないと不信感を抱く人も少なくないのかもしれない。まあ、でも、そもそも最近、1円玉見なくなったな。僕ですら、電子マネーばっかりだしね。
とはいえ、デジタル決済でも関連の矛盾は生じる。1円のズレでポイント還元が受けられないトラブルも発生しているのだそうだ。あるキャッシュレス決済では「税込100円ごとに1ポイント還元」というキャンペーンがあったが、99円と計算された商品はポイント対象外になったという苦情が消費者センターに寄せられているとか。まあ、これこそが、「DX化」というものなんじゃないか。しらんけど。
当然だが、企業間取引では深刻になりうる。2023年に始まったインボイス制度で、消費税額の明示が義務化されたが、端数処理の違いが問題になりうる。ある中小企業は、税額が1円ずれたことで税務署と揉めた事例もあるらしい。税務署側は「四捨五入すべき」と主張したが、企業は「切り捨て」を採用しており、結果的に過少申告とされたとか。まあ、すまん、AIのハルシネーションみたいに真偽は不明だ。税理士会が2024年に発表した報告書では、インボイス導入後に「端数処理の違いによる税額ズレ」が税務調査で指摘されるケースが増加していると指摘されている。
解決は、まあ、難しいだろう
消費税の端数における法の曖昧さは、調べてみたら、消費者団体や税理士会からも問題視されているようだ。インボイス制度導入後はさらに税額のズレ問題が顕在化し、企業と税務署の間でトラブルが増えた。ある運送会社は「切り捨て」で税額を計算していたが、取引先が「四捨五入」を採用しており、なんかごちゃごちゃあって、税務調査で指摘され、追加納税を求められたという。消費者としては、値札とレシートのズレに納得がいかない気持ちもわかる。
問題は問題だが、国税庁は統一的なルールを作らない方針だ。理由は、もちろん、いくらでもつけられる。企業側の負担軽減にある。もしルールを統一すれば、全国の会計システムやPOS端末の調整が必要で、膨大なコストがかかるとかね。経済産業省の試算では、POSシステムの改修だけで1店舗あたり約50万円、全国で数兆円規模の費用がかかるとされているとか。まあ、そももそも、官僚様たちって、制度を改革する気がないときでも、弁明の説明はご熱心に残業してまでして仕上げるけど、あの情熱というのはなんなんだろう。自虐?
消費税については、海外と比較すると、当然だけど、日本の制度の曖昧さが際立つ。EUのVAT(付加価値税)では、端数処理を「四捨五入」に統一しており、ズレによる混乱は少ない。たとえば、ドイツでは税額計算のルールが国レベルで標準化され、消費者も企業も計算結果が一致する。一方、アメリカのSales Taxは州ごとにルールが異なり、たとえばカリフォルニア州では「切り上げ」、ニューヨーク州では「四捨五入」とバラバラだ。日本の「企業ごとの選択制」と似た課題を抱えているが、アメリカでは州単位での調整が進む動きもある。日本も見習うべき点があるだろうか。ないな。
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