「Sell America」だそうだ
ウォール街で「Sell America(アメリカを売れ)」という言葉がトレンドになっているようだ。投資家が米国債、ドル、株式といった米国資産を売却する動きが加速し、市場に不安が広がる。5月21日、米財務省の200億ドル債券オークションでは需要が低迷し、30年物米国債の利回りが5%を超えた。ムーディーズによる米国の信用格付け引き下げも追い打ちをかけ、投資家の間で米国への信頼が揺らいでいる。このフレーズは、かつて「世界最強の経済大国」とされた米国から投資家が距離を置く現象を象徴するが、なぜこのような動きが起きているのか。
そういえば、「Buy America」
「Sell America(アメリカを売れ)」は、「Buy America(アメリカを買え)」のスローガンを逆手に取った表現だ。「Buy America」は米国製品の購入や国内産業の支援を訴える言葉で、トランプ政権(2017年~2021年、2025年~)で広く知られるようになったが、その起源は半世紀前に遡る。1970年代のオイルショックや日本製品の台頭で米国の製造業が苦境に立った際、労働組合や企業がこの「Buy American」を掲げ、国産品の消費を呼びかけたものだった。1980年代には「Buy American Act」(1933年制定)の強化が議論され、政府調達での国産優先が推進された。そういえば、投資の文脈では、ウォーレン・バフェットが2008年の金融危機時に「Buy American. I Am.」と題したニューヨーク・タイムズの論説で、米国経済の長期的な強さを信じ、株式投資を奨励したことで注目された。バフェットは、短期的な危機にもかかわらず、米国の企業や経済の回復力を強調し、投資家に自信を植え付けた。あのとき、実際、買っておけばよかった。
トランプ政権は、このスローガンを「Buy American, Hire American」として政治的に再利用している。関税や貿易保護主義を通じて国内産業を保護し、雇用創出を目指した。というわけで、「Sell America」はこの信頼の対極にある。投資家が米国資産を売却する動きは、「Buy America」の楽観的なメッセージとは正反対で、経済的不確実性への皮肉とも受け取れる。
なぜ「Sell America」なのか
今回の「Sell America」の背景には複数の要因がある。まず、米国の国家赤字が2兆ドルに迫り、財政の持続可能性が問題視されている。ムーディーズは2025年に米国の信用格付けを「Aaa」から引き下げ、トランプ政権の税減免政策が歳入を減らし赤字を悪化させたと指摘。トランプの関税政策も市場の不安を増幅している。125%の高関税案が中国や他国に課される可能性が浮上し、欧州中央銀行は「関税の頻繁な変更がグローバル金融システムにリスクをもたらす」と警告した。貿易摩擦やインフレ圧力への懸念は、投資家の米国資産への信頼を揺さぶる。さらに、30年物米国債の利回りが5%を超えたことは、投資家が「安全資産」としての米国債を敬遠している証拠にもなる。市場では、S&P500先物が1.2%下落し、ドル指数(.DXY)も下落傾向にある。こうした要因が重なり、投資家は米国を「リスクの高い投資先」と見なし、売却に走っている、ということだが、投機というのは乱があってこその設けの場なので、そもそもが胡散臭い面がある。
とはいえ何が起きているのか
とはいえ、市場では具体的な動きが顕著になってきた。なるほど米国債の売却が進み、5月21日のオークションでは需要低迷により財務省が予想以上の利回りを支払った。投資家は米国債を避け、金などの安全資産にシフトしている。ドル指数の下落も続き、ドル安が進行中だ。「トランプの関税と減税がドル離れを加速させた」とか呟かれる。株式市場も影響を受ける。S&P500先物が下落するなど、「教科書的な『Sell America』セッション」と評される一方で、このトレンドが一時的なものか、長期的な構造変化かは議論が分かれているの現状だ。アナリストの一部は、赤字や関税の影響が続き、投資家の慎重姿勢が強まると予測しているが、他方、米国の経済基盤の強さを理由に、過剰な悲観論は時期尚早とする見方もある。
これは日本に影響する?
もちのろん、蔦屋重三郎にございます。「Sell America」は日本にも影響を及ぼす。まず、ドル安が進めば円高圧力が高まり、2025年5月23日時点の1ドル=150円前後の為替が変動する可能性がある。円高は輸出企業、特に自動車や電機産業に打撃を与える。米国市場への依存度が高い企業は収益悪化のリスクに直面する。
米国債の利回り上昇は、日本の機関投資家の保有する米国債の価値を下げる。債券価格の下落はポートフォリオに損失をもたらし、日本の金融機関に影響する。米国の経済的不確実性がグローバル市場の不安定化を招けば、日経平均も連動安の可能性がある一方で、投資家が米国資産から離れる。すると、日本国債や円が「安全資産」として注目されるチャンスもある。
とはいえ、トランプの関税が日本にも向けられると、貿易摩擦が悪化し、経済全体にマイナスになる。生活面では、米国発のインフレが輸入物価を押し上げ、食料品やエネルギー価格の上昇につながる。日本は米国の動向を注視し、経済政策の柔軟な対応が求められるというか、日本も「Sell America」の機運が高まる。隣の国のように。
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