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2025.04.23

着色料を巡る日米欧の動き

 昨日、トランプ政権は米国で合成着色料の使用を禁止すると発表した。米国の駄菓子とえいば、グミの鮮やかな赤やキラキラした青、鮮烈なピンク。健康への影響が気になるところだろう。だが、どうも問題は米国と限らないようだ。日本のスーパーやコンビニでも使われる着色料が含まれている。このトランプ政権の動きをきっかけに、食品の色を巡る日米欧の状況考えてみる。

トランプ政権が合成着色料をなくす理由

 2025年4月22日、ワシントンD.C.の記者会見で、トランプ政権の保健福祉長官ロバート・F・ケネディ・ジュニアはこう言った。「米国の子どもたちは、有害な化学物質に囲まれている」と。食品医薬品局(FDA)とともに、石油から作られる合成着色料を食品からなくす計画を発表したのである。
 対象は、朝食用シリアルやグミ、スポーツドリンクに使われる6つの着色料である。赤を鮮やかにする食用赤色40号、黄色を輝かせる食用黄色4号と5号、青をきれいに見せる食用青色1号と2号、緑を際立たせる食用緑色3号だ。日本の食品業界的には「ひとけた台の着色料」である。というと、日本ではどうか。がんのリスクが指摘された食用赤色3号は米国では2025年1月にすでに禁止済みだが、日本ではこれは以前から禁止されていた、おっと、これは私の勘違いだった。
 さて、なぜ、これらの着色料が問題なのか。まあ、安全性の問題はそれなりに研究が積み重なっている。赤色3号は動物実験で甲状腺のがんを起こし、危険視された。肥満や糖尿病、腸のトラブルとの関連も議論されている。英国研究では、赤色40号や黄色4号が子どもの集中力や落ち着きに影響する可能性がある。いずれにせよ、これらの着色料は、米国の食品市場で90%を占め、子どもが大好きなカラフルな菓子や飲料に欠かせない。今回の米国での禁止は米国の食品メーカーや貿易にそれなりの変化を起こすだろう。
 こうしたトランプ政権の動きには、第二期の特徴も見られる。トランプは「常識革命」を掲げ、複雑なルールより国民の感覚を大切にしようとしている。「欧州で禁止の化学物質が米国でOKなのは変だ」と訴え、親たちの心配に寄り添う(ちなみに着色料は欧州でも今後問題となるだろう)。「Make America Healthy Again(MAHA)」というスローガンは、子どもを守るメッセージとしてまで認知しようとしているのかもしれない。ケネディの影響も大きい。彼は化学物質の規制に熱心で、「石油由来の着色料は自分ら食べてくれ」とメーカーに噛みついたりする。トランプの第一期(2017~2021年)はビジネス優先で環境規制を緩めたが、第二期ではケネディの健康志向が新しい流れを作るかもしれない。

日本と欧州の状況

 着色料の件で、欧州と日本のルールを比べてみると、意外かもしれないが、置いて行かれるリスクがある。欧州連合(EU)は、食品の安全に厳しい。欧州食品安全機関(EFSA)が着色料を一つずつチェックしている。米国で問題の緑色3号は、データが足りないからEUでは使えないとされ、赤色3号も、がんの心配から、チェリーの砂糖漬けみたいな特殊な場合以外は禁止となっている。だが、こうした「ひとけた」以外となると欧州も甘い。赤色40号、黄色4号、黄色5号、青色2号は認可されている。2007年のイギリス研究で子どもの行動への影響が指摘されて以来、パッケージに「子どもの集中力や落ち着きに影響する可能性がある(XXX may have an adverse effect on activity and attention in children.)」との内容を書くルールはあるが禁止に至ってはいない。ノルウェーやドイツなどは、もっと厳しく禁止する場合もあるにはるが、全体として欧州では、青色1号はリスクが低いとされ、飲料や菓子に普通に使われる。EUは、自然な着色料としてパプリカやビートルートに移る動きを応援し、イギリスではグミを自然な色にしようと雰囲気をもり立ててはいる。
 日本はどうか。消費者庁は、米国で禁止されることになる6種類と赤色3号を全部認可している。赤色40号はスポーツドリンクやグミ、黄色4号はたくあんやカレー粉、青色1号はブルーハワイ、赤色3号は紅生姜やかまぼこに使われている。緑色3号や青色2号はほとんど見かけないが、日本のルール上は問題ない。国際的な基準(JECFA)をもとにこれらは安全とされ、食べる量も基準をかなり下回っているのであまり問題化していない。赤色40号の安全な量は体重1kgあたり7mgだが、日本人の平均は0.05mg以下。EUみたいな警告表示はないし、禁止の動きもゆっくりだ。ショートニングがいまだ日本で認可され、御用学者はこれが科学的だと言っている惨状と同じ構造である。平均で議論すべきではなく、偏差で議論しないどこが科学的なんだろうか。
 こうしたことから、この着色料禁止の差は、日本やEUが遅れるリスクにつながる。米国が子ども向け食品から着色料をなくし、EUが警告表示で情報を開示する中、日本の「安全だから大丈夫」は心もとないことになる。日本の食品メーカーは、米国やEU向けの輸出で、自然な着色料に変えないのでシフトを考慮する必要がある。そして、遅ればせながら消費者庁は赤色3号の見直しを始めたけど、もっと早く動く必要があった。

日本の着色料文化

 日本の食卓は、色で季節を味わうと言われる。桜餅の淡いピンク、抹茶ケーキの深い緑、紅生姜の鮮やかな赤など。これらの色は、天然の着色料が支えることが多い。クチナシはたくあんや和菓子を黄色に、紅麹はかまぼこを赤く、ビートルートはグミをキラキラに、スピルリナは飲料を青くする。ウコンはカレーを金色に、アントシアニンは紫芋ラテを赤紫に、クロロフィルは抹茶スイーツを緑に、という具合だ。コンビニやスーパーで、こうした自然な色は「無添加」「安心」の印象で並んでいる。天然着色料は合成着色料の3倍使われているらしい。
 この「自然志向」が日本の食文化の特色だ。和食は、旬の食材の色を大切にし、見た目で季節を届ける、いや、そうではない、「自然志向」という欺瞞が日本の食文化の特徴なのである。日本の消費者は、合成着色料を「化学的」の呪文や「体に悪そう」という風評で敬遠する。だが、天然着色料の「安全」というイメージは、間違ってもいないが、信仰にすぎない。着色料の紅麹が騒ぎになって微妙な立場になったが、製造過程も天然であるということは天然の問題が発生しうる。スピルリナは、藍藻から作られるが、欧州では神経に影響する物質が混じるケースが報告されたことがある。ウコンは、健康にいいと言われるが、クルクミン以外の成分の機能はよくわかっていない。アントシアニンや紅花は、天然ゆえにまれにアレルギーを起こす。天然着色料といわれるが、濃縮や大量生産での安全データは見直しの余地がある。天然着色料は「自然」と呼ばれても、化学的な処理で作られる。クチナシは酵素や溶剤で色を取り出し、工場で加工される。

これからどうする?
 トランプ政権の動きで、遅ればせながら、日本も着色料のルールを見直したいものだ。赤色3号は論外だろう。赤色40号や黄色4号は、欧州を見習って警告をパッケージに書くべきか。
 もちろん、騒ぎすぎる必要はない。日本の合成着色料は現状の使用量ならリスクはかなり低いのは確かだ。ただ、それは要するに、リスクの問題であり、たぶん、食という生き方の問題でもあるだろう。



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