欧州の人口動態は冷温停止的な安定へ
昨日、Modern Diplomacyのウェブサイトで、欧州連合(EU)における自然人口減少に関する記事を目にした。出生数が死亡数を下回り、移民を除いた人口が縮小しているという主張である。本当だろうか。半信半疑で、Eurostatや国連の人口データ(UN DESA)を参照し、自身で調査してみた。同記事は基本的に問題提起に留まり、具体的な数値や展望は簡潔だったので、その指摘が事実かどうかを確かめる必要を感じたのだった。
小康状態で移民も本質的解決に至らず
調査の結果、EU-27の自然人口減少は確かに進行していることが確認された。Eurostat(EUROPOP2023)によると、2023年から2024年にかけて、EUの自然人口変化(出生数から死亡数を引いた値)は年間約40万人のマイナスである。出生数は約370万人、死亡数は約480万人で、総出生率(TFR)は1.5と、人口置換水準(2.1)を大きく下回る。2021年のピーク(-55万人)から2022年(-45万人)、2023年(-40万人)と減少幅は縮小し、一時的な小康状態にある。しかし、この改善は主にCOVID-19パンデミック後の死亡数正常化によるもので、構造的な低出生率(フランス1.8、イタリア1.2など)や高齢化(65歳以上21%)は解消されていない。
今後の展望の予測もあったので、見た。これも厳しい。Eurostatの予測では、2050年までに自然人口変化は年間-55万人に悪化、人口は4億人(2024年の4.47億人から-10%)、2100年には2.95億人(-34%)に縮小する。移民を考慮した場合、年間100-150万人の純移民で2050年まで人口は4.4-4.5億人を維持可能だが、移民の出生率(1世TFR 2.6、2世で1.5-1.8)はEU平均に近づき、自然人口変化のマイナス(-40~-55万人)を根本的に解消しない。移民比率は8.9%(2023年)から10-12%(2050年)に緩やかに上昇するが、Pew Research(2017年)によれば、イスラム教徒の割合も4.5%から9-12%にとどまる。たまに冗談のように言われる、欧州の非欧州的文化変革は非現実的であるようだ。
問題の本質的な解決には、TFRの大幅上昇(例:2.0)や高齢化対策(例:健康寿命延伸)が必要だが、現状の政策(例:フランスの家族支援)では限定的な効果しか期待できない。
EUとロシアの共通の運命
EUをこのまま放置すれば、一種の「冷温停止」状態に陥る。低出生率と高齢化により、労働力人口は2050年までに1.80億人(-19%)、老齢依存率は59.7%に達する。経済停滞、社会保障の危機(年金・医療費負担増)、地方衰退(例:イタリアの農村縮小)が進行し、社会の活力が凍結したかのような状態になる。雑駁な見通しではあるが、ロシアも同様の運命をたどる。Rosstat(2023年)によると、ロシアの自然人口変化は-50万人/年(TFR 1.4-1.5、65歳以上17%)で、EUと同等かやや悪い。UN DESAの予測では、2050年までに人口は1.2-1.3億人(-12~-18%)、自然人口変化は-50~-70万人に悪化する。ロシア特有の健康問題(男性平均寿命68歳、アルコール関連死)や経済制約(制裁、紛争)が、EUより厳しい「冷温停止」を予感させるくらいである。両地域は、出生率低迷と高齢化という構造的課題で、凍結された未来を共有している。
ウクライナ戦争の限定的な影響
すると奇妙な未来像が描ける。ウクライナ戦争(2022年~)は、地政学や経済で「歴史的転機」と見なされるが、人口動態の視点では、EUとロシアの「冷温停止」には大きな変化をもたらさないのだ。EUでは、ウクライナ難民(100-150万人、総人口の0.2-0.3%)が移民比率をわずかに押し上げる(8.9%→9-9.5%)が、TFRへの影響(1.5→1.51程度)は微小である。経済的圧迫(インフレ7-8%、2023年)がTFRを微減(1.5→1.4-1.5)させる可能性はあるが、元々の低出生率が支配的なので劇的悪化もない。ロシアでは、戦争の人的損失(10-30万人、0.1-0.2%)と若年流出(30-50万人)が出生数(130万→128万)や労働力を圧迫するが、TFR 1.4-1.5の低迷は戦争前からの課題である。移民比率(EU 10-12%、ロシア7-10%、2050年)も大きく変わらず、両地域の人口動態は「冷温停止」の枠内で揺れるに留まる。ウクライナ戦争は地政学的波紋を広げるが、欧州とロシアの人口の凍結の未来を覆す力はない。
Modern Diplomacyにある記事のように、EU-27の自然人口減少は、なるほど現実かつ深刻な課題である。2021年以降の小康状態は、パンデミック後の正常化にすぎず、2050年(-55万人/年、人口4億人)、2100年(-34%)への縮小は避けられない。移民は一時的な緩和策だが、低出生率(TFR 1.5)と高齢化(65歳以上51%)の本質的問題を解決しない。
そして、ロシアをこれに加えても同様の「冷温停止」に直面する。意外なことに、ウクライナ戦争は両地域の人口動態には表層的な影響しか与えない。EUとロシアは、凍結された活力の中で、労働力縮小や社会保障の危機に、「仲良く」直面することになる。どうしたらいいか。机上の空論は簡単だ。出生率向上(例:TFR 2.0)、高齢者労働促進、戦略的移民活用が必要である。だが、そんな対応ができないから、現在があるというのがもっとも重要な認識だろう。
| 固定リンク