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2025.04.24

NHK報道「トランプ大統領 ゼレンスキー大統領の発言“和平交渉に有害”」の批判的検証

 2025年4月24日、NHKは次のように報道した (参照)。
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トランプ大統領 ゼレンスキー大統領の発言“和平交渉に有害” 2025年4月24日 6時01分

ウクライナ情勢をめぐる和平交渉について、アメリカのトランプ大統領は、ゼレンスキー大統領がロシアによるクリミアの占領は認めないと強調していることについて、「和平交渉において非常に有害だ」として、交渉に速やかに応じるよう強く求めました。

アメリカのメディアは、トランプ政権がウクライナ情勢をめぐって、ロシアによる南部クリミアの一方的な併合をアメリカが承認することなどを含む和平案をウクライナに提示したと報じています。

一方で、ゼレンスキー大統領は22日の記者会見で、ロシアによるクリミアの占領は認めないと強調しました。

これについて、アメリカのトランプ大統領は23日、SNSの投稿で「こうした発言は和平交渉において非常に有害だ」とした上で「クリミアは議論のポイントではない。誰もゼレンスキー大統領にクリミアをロシア領として認めるよう求めていない」と投稿しました。

その上で「ゼレンスキー大統領のような挑発的な発言こそが、この戦争を終結させることを困難にしている」として、ゼレンスキー大統領の姿勢を批判しました。

一方でトランプ大統領は、和平交渉は合意に近づいているとして「『手持ちのカードのない男』は今こそ決着をつけるべきだ」として、ゼレンスキー大統領に交渉に速やかに応じるよう強く求めました。

ゼレンスキー大統領 トランプ大統領1期目の国務長官声明投稿 ゼレンスキー大統領は23日、SNSにメッセージとともに、トランプ大統領の1期目となる2018年に、ロシアによるクリミアの一方的な併合を認めないとする、当時のアメリカのポンペイオ国務長官が出した声明文を投稿しました。

そして「われわれのパートナー、とくにアメリカがみずからの強い決定に従って行動することを、絶対的に確信している」と訴えました。

また、ウクライナの大統領府は23日、ロンドンを訪れたイエルマク大統領府長官らが、アメリカのトランプ政権でウクライナ特使を務めるケロッグ氏と会談したと発表しました。

この中で、直ちに無条件で完全な停戦を行うことが公正で永続的な平和を目指す交渉を始める第一歩にならなければならないという、ウクライナの立場を伝えたということです。

その上でイエルマク長官は、いかなる条件のもとでもウクライナは交渉の間、自国の主権と領土の一体性の基礎となる原則的な立場を守り抜くと強調したとしています。


 NHKの報道映像では、トランプ大統領によるTruth Socialの発言の一部が映し出されているが全文ではない。そこで以下に全文を翻訳する。


ウクライナの大統領、ヴォロディミル・ゼレンスキーは、ウォール・ストリート・ジャーナルの一面で、「ウクライナはクリミアの占領を法的に認めない。ここでは話すことは何もない」と豪語しています。この発言は、ロシアとの和平交渉にとって非常に有害です。なぜなら、クリミアはバラク・フセイン・オバマ大統領の下で何年も前に失われ、もはや議論の対象ですらないからです。誰もゼレンスキーにクリミアをロシア領として認めるよう求めていませんが、もし彼がクリミアを欲しがるなら、なぜ11年前にロシアに一発の銃弾も撃たずに引き渡されたときに戦わなかったのでしょうか?その地域には、「オバマの引き渡し」以前から何年も、ロシアの主要な潜水艦基地が存在していました。ゼレンスキーのような扇動的な発言が、この戦争を解決することを非常に難しくしています。彼には自慢できるものは何もありません!ウクライナの状況は深刻です。彼は和平を選ぶか、またはあと3年間戦って国全体を失うかのどちらかです。私はロシアとは何の関係もありませんが、平均して週に5000人のロシアとウクライナの兵士を救いたいという強い思いがあります。彼らは何の理由もなく死んでいます。ゼレンスキーが今日した発言は、「殺戮の場」を長引かせるだけで、誰もそれを望んでいません!我々は合意に非常に近づいていますが、「手札がない」この人は、今こそ、ようやくそれを成し遂げるべきです。私が大統領であれば決して始まらなかったであろうこの完全かつ徹底的な混乱から、ウクライナとロシアを助け出す手助けができることを楽しみにしています!


 では、批判的検証を行う。
 NHKの報道は、トランプ大統領がゼレンスキー大統領のクリミア非承認発言を「和平交渉に有害」と批判し、速やかな交渉を求めた点を主に伝えている。しかし、トランプの発言に含まれる戦争終結へのリアリズム、命の重みを訴える情熱、歴史的文脈は大幅に省略されている。 以下が、NHKが報道しなかったトランプの発言の主要な内容である。つまり、NHK報道での欠落部分である。

オバマ政権への批判とクリミアの歴史的文脈の欠落

トランプの発言:「クリミアはバラク・フセイン・オバマ大統領の下で何年も前に失われたものであり、もはや議論の対象ではない」「なぜ11年前にロシアに一発の銃弾も撃たずに引き渡されたときに戦わなかったのか」「その地域には、『オバマの引き渡し』以前から長年、ロシアの主要な潜水艦基地が存在していた」

NHKの対応:オバマ政権への批判やクリミア併合(2014年)の歴史的背景は一切触れられていない。トランプが「クリミアは議論のポイントではない」と述べた部分のみ引用され、なぜそのように主張するかの文脈(オバマ政権の対応やロシアの既得権益)は省略されている。

戦争の人的コストに関する具体的訴えの欠落

トランプの発言:「平均して週に5000人のロシアとウクライナの兵士を救いたい」「彼らは何の理由もなく死んでいる」「ゼレンスキーのような扇動的な発言が、この戦争を解決することを非常に難しくしている」

NHKの対応:トランプがゼレンスキーの発言を「和平交渉において非常に有害」と批判した点は伝えるが、「週5000人の命を救う」という具体的な数字や、「何の理由もなく死んでいる」という戦争の無意味さを訴える強い表現は完全に省略されている。トランプの戦争終結への緊急性は薄められ、単なるゼレンスキー批判に矮小化されている。

戦争の無意味さと和平の緊急性の欠落

トランプの発言:「ウクライナの状況は深刻である。彼は和平を選ぶか、またはあと3年間戦って国全体を失うかのどちらかである」「ゼレンスキーの発言は『殺戮の場』を長引かせるだけで、誰もそれを望んでいない」「我々は合意に非常に近づいている」「私が大統領であれば決して始まらなかったであろうこの完全かつ徹底的な混乱から、ウクライナとロシアを助け出す手助けができることを楽しみにしている」

NHKの対応:「和平交渉は合意に近づいている」「『手持ちのカードのない男』は今こそ決着をつけるべき」という部分は一部引用されるが、「あと3年間戦って国全体を失う」「殺戮の場を長引かせる」「私が大統領なら始まらなかった」という戦争の無意味さや和平の緊急性を訴える表現は省略されている。「合意に近づいている」という希望も、具体性や背景なしに簡略化されている。

ゼレンスキーへの感情的批判と挑発的トーンの欠落

トランプの発言:「ゼレンスキーのような扇動的な発言」「彼には自慢できるものは何もない」「『手札がない』この人は、今こそ、ようやくそれを成し遂げるべき」

NHKの対応:「ゼレンスキーのような挑発的な発言こそが、この戦争を終結させることを困難にしている」と一部引用するが、「自慢できるものは何もない」「手札がない」というゼレンスキーへの感情的な攻撃や、トランプの挑発的なトーンは大幅にソフト化されている。トランプの「ゼレンスキーが戦争を長引かせる」という強い非難は、「交渉に応じろ」という無難な要求に薄められている。

 

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