米国の学位事情と日本の違い
昨日、米国の公共ラジオNPRの記事を読んで、ちょっと驚いた。2025年4月9日付けの「学位を持たない米国人は依然として大学の価値を信じている、新たな調査が示す」という記事だ。ルミナ財団とギャラップが18~59歳の約14,000人を対象に調査した結果、学士号を「非常に」または「極めて」価値あるものと考える人が米国で70%、準学士号でも55%に上ったという。
この数字に私は、「意外だな」と思った。「そんなの当たり前だろう」という思いはベースにあるが、米国では近年、大学の高額な学費や学生ローンの問題がよく話題に上っていて、「学位なんてなくても成功できる」という声も聞こえてくる。そうした状況で変わったのかと思っていたが、それでも学位を持たない人たちは「やっぱり大学って大事」と感じているのか、と思いを新たにしたのだった。
この記事では、22歳のソフィア・ラディオスという女性が登場するけど、彼女は準学士号から学士号を目指していて、その理由を「刑事司法の仕事で昇進したいから」と語っている。確かに、学位がキャリアの鍵になるケースはあると納得しつつ、記事を読みながら、米国の大学制度について私も知らないことが多くなったなと気づいた。 まず、この記事で印象的だったのは価値と現実のギャップだ。4年制大学の授業料を「公正な価格」と感じる人はわずか18%、2年制の準学士号でも40%にとどまる。つまり、「価値はあるけど高すぎる」という矛盾というか問題が浮かんでいる。この調査、実はけっこう深刻なテーマとして、米国社会の教育観が背景にありそうだ。
米国の学位ってこうなっている
NPRの記事を読んで、米国の学位体系が気になったわけだが、僕は、米国の田舎の大学とそっくりみたいな三鷹の大学を出たので、なんとなくこうしたことは知っているつもりでいただけど、準学士号については知らないことがあった。いや、知人にその学位の人がいるからまったく知らなかったわけでもなかったが、米国の高等教育は、日本と違って大学までのステップがもう一段階ある感じのようだ。あと、通信制でも各種の学位が取れる。というわけで、準学士号から博士号まで、ざっと紹介してみる。
準学士号(Associate degree)
2年制のコミュニティカレッジで取れる学位で、約2年、60クレジットくらい。文系のAAや理系のAS、実践的なAASがある。NPRの調査で55%が価値ありと答えたのも、手軽さと実用性が理由らしい。たとえば、看護やITのスキルを学んで就職したり、学士号に編入する人も多い。
学士号(Bachelor’s degree)
4年制大学のメインで、約4年、120クレジット。BA、BS、BBA、BFAなど種類が豊富だ。NPRでは70%が価値を見出していて、米国では仕事の入り口として必須視されることが多い。通信制でも取れるから、働きながら学ぶ人も増えている。
修士号(Master’s degree)
大学院で1~2年、30~60クレジットで取得。MA、MS、MBA、MFAなど専門性を深める学位だ。NPRには直接出てこないけど、昇進や研究職で求められることが多い。余談だが、私は現在MFAに挑戦中です。
博士号(Doctoral degree/Ph.D)
研究の頂点で、3~7年かかる。Ph.Dが一般的で、教育系のEd.Dや看護系のDNPもある。通信制でも一部取れるけど、研究ベースだから対面要素は欠かせない。
日本の学位と違う面もある
日本と米国と比べると、学位の仕組みも生徒の分布もけっこう違う。日本だと、学位はシンプルに「学士」「修士」「博士」の3段階がメイン。四年制大学で4年学んで「学士」を取るのが標準だ。でも、米国の準学士号に相当する「短期大学士」は短大で2年学んで取れるけど、最近は激減してる。文部科学省のデータによると、短大は約300校で、全大学生のわずか3%しかいない。私の周りでもまあ短大なんてほとんど聞かない。そういえば、恩師と言っていいたかな、沖縄にいたころ原喜美先生に、「子どもが4人もいまして」と言うと、それはとても素晴らしいことよ、と褒めていただいたが、あのころ先生はキリ短を四年制にするの苦労されていたな。
それで、まあ、米国では準学士号が盛況というわけだ。生徒数は学部生全体の30%、約480万人もいる。コミュニティカレッジが全米に1275校あって、地元密着で低コストだからこんなに多いのだろう。米国だと、ソフィアさんみたいに、準学士号を取ってから4年制大学に編入して学士号を目指す人もざらにいて、日本の短大が衰退してるのとは対照的だ。
ちなみに、アソシエイトって日本の専門学校と同じじゃないか?とも思った。確かに、2年で看護やITを学んで就職する点は似てる。専門学校も約2800校あって、60万人が調理師や美容師を目指してるから、職業志向はそっくりだ、が、米国のアソシエイトは教養科目があって、学士号に編入できる柔軟性が大きい。
ここでちょっと脱線するけど、オックスフォード大学の場合、学士号を取得した人が7年くらい経つと「Master of Arts (MA)」に昇格できる制度があるって聞いたことがある人もいるだろう。私も昔、「え、1年くらいで勝手にMAがもらえるの?」なんて勘違いしたことがある。でも、実際は入学から21学期後に申請して手数料を払う名誉的なものだ。この「名誉MA」については僕のように誤解してる人、いるんじゃないだろうか。米国でもこんな特殊な例はないそうだ。
米国の学位はすごく高い
米国の学位のコスト、高いのは知っていたが、改めて調べ直すと、「こんなに高いのか!」と想像以上だった。NPRの記事が深刻なトーンになるのも納得した。
まず、準学士号。通信制だと年間$3,000~$6,000(約45万円~90万円、1ドル150円換算)、総額で約$19,800(約297万円)くらい。学士号はもっとだ。州立大学だと在州で4年約$46,440(約696万円)、州外なら約$123,120(約1846万円)。私立や生活費込みだとさらに跳ね上がり、$28,000~$60,000(約420万~900万円)は控えめな目安に過ぎない。修士号は1~2年で$15,000~$48,000(約225万~720万円)、博士号は$30,000~$100,000(約450万~1500万円)。日本の私立大学院が2年で200万円なのに、びっくりだ。
この高コストが就職にどう影響するかも大きい。米国労働統計局によると、学士号持ちの平均年収は約$67,000(約1000万円)、準学士号でも約$50,000(約750万円)で、高校卒の$40,000(約600万円)より高い。でも、就職では「学士号が最低条件」の求人も多く、ソフィアさんみたいに学士号まで目指す人が多いのも競争力の差が理由だろう。学生ローンの平均負債$30,000(約450万円)が重くのしかかる。
NPR記事にあった調査では、学位に価値を信じる人が多い(学士号70%、準学士号55%)けど、価格を「公正」と感じる人は4年制で18%、2年制で40%しかいない。米国の学生ローン残高は1.6兆ドル(約240兆円)を超え、「学位は大事だけど、手が届かない」の現実があるんだろう。
日本だと、国立大学の学士号が4年で約216万円、私立でも400万円くらい。通信制の放送大学なら、年間数万円から20万円程度で学べ、卒業まで約76万円と安価だ。
| 固定リンク