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2025.04.05

トランプの関税政策の未来

 2025年4月3日、ドナルド・トランプ米大統領が打ち出した各国への関税政策が大きな波紋を呼んでいる。日本には24%の相互関税と自動車への25%追加関税、中国には34%、EUには20%、英国には10%と、国ごとに異なる税率が示された。特に日本では、自動車産業への影響が懸念され、「景気後退の引き金になりかねない」と警鐘を鳴らす向きが多い。識者の間でも悲観論というか不安論とでもいう雰囲気に引き摺られて、先行きが見えにくい。しかし、この関税は単なる経済施策を超えて、誰もが想定することだが、トランプの交渉術や政治的意図が複雑に絡んでいる。ここでは、「段階的に関税が変動する可能性」と「米国への跳ね返りリスクと日本の対応」という視点から考察してみたい。

関税の段階的シナリオ

 トランプの関税政策には、過去の経緯から見えるパターンがある。2018~2020年の第一次政権では、中国に25%の関税を課しつつ、交渉の末に10%程度に引き下げた例がある。今回も、日本への24%は上限として提示されたが、トランプ政権はあと一期しかなく、この任期4年(2029年1月まで)の中で現実化されるとなると、早期にかつ単純なステップで段階的に調整される可能性が高い。そのプロセスを基本的に二段階で考えてみたい。

第一段階(2025~2026年):24%から20%へ

 初年度、トランプは強硬な姿勢を崩せないだろう。日本に具体的な譲歩を求め、関税を交渉のレバレッジとして使うと見られる。例えば、まず農産物市場の開放が焦点に浮上している。米国農務省のデータでは、日本は年間7.7万トンの米輸入枠を設けているが、米国側はこれを10万トン以上に拡大するよう求めていると報じられている。日本の米農家にとっては厳しい話だが、こうした譲歩は関税緩和の条件になり得る。また、在日米軍の駐留経費も議論の俎上に載る。ここが本丸かもしれない。現在の駐留経費は年間約2000億円だが、2500億円程度への増額が現実的なラインとして浮かんでいるがそれで済むだろうか。自動車への25%追加関税については、日本側が必死に「猶予」を求める交渉を進めることになる。こうした動きを経て、2026年頃に相互関税が彼の指標では20%くらいに下がるシナリオが想定される。実際には20%でもめちゃくちゃな数字なのでその読み取りは難しい。それでも日本側が譲歩すれば、トランプは「交渉で成果を上げた」とアピールし、次の段階に進むだろう。

第二段階(2027~2028年):20%から15%へ

 任期後半に入ると、トランプは経済の安定や支持率維持に目を向けざるをえなくなる。ここで日本がさらに協力姿勢を示すことが鍵となる。例えば、米国での投資拡大だ。トヨタは現在、対米輸出の約50%を現地生産で賄っているが、これを60%に引き上げる計画が進行中とされる。ホンダも同様に、インディアナ州の工場拡張を検討していると伝えられている。こうした動きは、米国での雇用創出をアピールしたいトランプにとって魅力的な提案になる。防衛費もさらに3000億円規模を超えて増額される可能性がある。自動車関税についてはなんとか10%程度に落ち着く交渉がここで決着するかもしれない。過去の例を見ても、2019年の日米貿易協定でトランプは自動車関税をゼロに据え置いた実績がないわけではない。日本車のニーズは高く短期では覆しにくい。今回も、完全適用を避けて15%から10%で安定する流れは十分考えられる。
 こうした二段階の展開は、トランプが短期的な成果と長期的な調整を両立させようとする姿勢を反映している。あと残り4年という限られた任期が、こうした単純で段階的な動きを促す一因とも言えるだろう。

バランスが問われる

 関税政策はトランプの「米国ファースト」を掲げる強気な一手に見えるが、昨日の株価低落のように、実は米国自身にも跳ね返るリスクが潜んでいる。同時に、それは日本には適応のチャンスでもある。そのバランスを掘り下げてみよう。

米国への跳ね返りとしてインフレとサプライチェーンの混乱
 関税が輸入品の価格を押し上げれば、米国の消費者に直接的な影響が出る。例えば、日本車に25%の関税が課されれば、トヨタの人気SUV「RAV4」の価格が約1万ドル上昇するとの試算がある。米国の一般家庭にとって、自動車や家電の値上がりは家計を直撃する問題である。これがインフレを加速させ、連邦準備制度が利上げに踏み切れば、経済成長が鈍化する恐れもある。第一次政権でも、関税による物価上昇が消費者から不満を招いた例がある。今回は規模が大きいだけに、その反動も無視できない。
 サプライチェーンの混乱も深刻である。日本やEUが関税を避けるため、生産拠点を米国以外に移す動きが加速すれば、米国経済への依存度が下がる。ベトナムではすでに日本企業の工場進出が目立ち、2024年の投資額は前年比30%増というデータもある。インドも製造業の成長が著しく、トヨタは現地生産能力を倍増させたばかりだ。こうした「代替供給地」の台頭は、トランプが目指す「米国内への工場回帰」と逆行する動きである。日本は取らないだろうが、他国から対米報復関税の余波も見逃せない。中国が米国産大豆を締め出し、日本が米国産牛肉の輸入を減らせば、トランプの支持基盤である農家や企業が打撃を受ける。

リスクが顕在化した場合のシナリオ
 第一段階でインフレが目立ち始めれば、2026年の中間選挙で共和党が苦戦する可能性がある。第二段階で経済が低迷すれば、トランプの支持率は落ち込み、「アメリカ・ファースト」が空振りに終わる。第一次政権では、関税による混乱を収束させるため、最終的に交渉で妥協した経緯がある。今回も、強硬策が裏目に出れば、関税を緩和せざるを得ない状況に追い込まれる可能性は否定できない。

打撃をチャンスに変える
 日本にとっては、しかし、この馬鹿げた関税が新たな道を開くきっかけにもなり得るかもしれない。短期的な打撃は避けられないが、米国依存を減らし、アジア市場を強化する戦略が模索されることになるからだ。東南アジア(ASEAN)やインドは経済成長が続き、消費市場としても魅力的である。トヨタはインドでの生産拡大を進めており、2025年には年間40万台規模を目指す計画がある。ホンダもタイでの部品生産を増強中だ。こうした動きは、関税による米国市場のリスクを分散させる一手になる。
 トランプが求めるように米国での現地生産を増やす選択肢もある。トヨタや日産はすでに米国に大規模な工場を持ち、雇用創出に貢献している。これをさらに拡大すれば、トランプの求める「成果」に応えつつ、日本企業の足場を固められる。過去の例では、2017年にトヨタが米国で100億ドルの投資を発表し、トランプから称賛されたことがあった。

不確実な未来

 トランプのこの呆れた関税政策は、いずれにせよ日本にとって試練であり、同時に米国にとっても不可解な賭けだ。段階的に関税が下がる可能性はあるが、インフレやサプライチェーンの混乱がバランスを崩せば、トランプの目論見が裏目に出る。日本は農産物や防衛、自動車の分野で譲歩を迫られつつも、適応力で乗り越える道を探っている。だが、不確実性は高い。トランプに再戦はなく、マッドマン戦略がいつしか自棄糞のさらなる強硬策にならないともいえない。最悪はバンス大統領だろうか。次の政権が関税を維持するのか、見直すのか。

 

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