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2025.03.04

時速30キロ規制

 まあ来年の話だ。2026年9月から始まる「センターラインのない道路の最高速度30キロ規制」だが、どうもしっくりこない。歩行者安全のため、と言われれば「まあ、いいことだよね」と頷きたくなる。でも、腑に落ちない。千葉県八街市の飲酒運転事故をきっかけに挙げるけど、逆に、それ(飲酒運転問題)が速度30キロ規制と何の関係あるのか、疑問だ。しかも、なぜ今このタイミングで? しかも国会議論ではなくて、閣議決定でサクッと決めたのか?
 探りをいれると、「国際基準」の影がちらつく。EUでは30キロ推奨があり、これが日本に影響したのか。調べてみると、何か変だ。思ったほど単純ではない。

EUの30キロ旋風の影響?
 EUでは「Vision Zero」(2050年までに交通事故死ゼロ)という壮大な目標のもと、都市部での30キロ規制が、なんというか花盛りといういう感じだ。European Transport Safety Council(ETSC)の2024年10月25日記事によると、イタリアのボローニャは今年初めに全市で30キロを導入し、たった6ヶ月で事故11%減、死亡者33%減とのこと。すばらしい。ウェールズも20マイル/h(約32キロ)で事故25%減と、目に見える成果を上げてる。ETSCは「欧州委員会も30キロの効果を認めてる」と胸を張る。確かに説得力はある。
 で、日本はどうか。警察庁の「令和6年版交通安全白書」(2024年6月)を見てみると、「諸外国の速度管理事例を参考に」としっかり書いてある。特に「欧州の都市部での30キロ制限が事故減少に効果的」と紹介。2020年の「Stockholm Declaration」も絡んでくる。これは国連主催の道路安全閣僚会議で採択された文書で、「都市部の速度を30キロにすれば歩行者死亡リスクが減る」と各国に呼びかけたものだ。日本は警察庁幹部を送り込んで宣言を支持してる。つまり、EUの成功事例や国際的な「30キロ推奨」の影響が今回の30キロ規制だと言える。

「だから一律規制」には飛躍がある
 とはいえ、さて、日本が「EUを見習って30キロにした」と直結するかというと、そこが微妙な感じだ。白書では「ゾーン30の拡大や速度見直しを進める」とは書いてるけど、「だから全国一律にしろ」とは誰も言ってない。NHKの2024年7月23日報道でも「国際安全基準への対応が背景」と一文あるけど、具体的に「EUがこう言ったから」は出てこない。朝日新聞(2023年5月31日)では警察庁が「海外事例を参考に」とポロッと言ってるだけ。影響はあっただろうけど、「EUの命令で!」みたいな強い圧力の証拠はゼロだ。なぜなんだろう? 書けばいいのに(ユーベルの声で)。
 そもそも、EUの30キロは都市部が中心だ。ボローニャみたいに歩行者優先の街づくりとセットでやってる。で、日本ではどうだろう? 全国87万キロの「小さな道」を一律30キロにするって言うけど、農村の田んぼ道と東京の住宅街じゃ事情が違いすぎる。EUでの規制の成功は歩道整備や自転車レーンがあってこそなのに、日本の生活道路は狭くてそんなインフラもない場所ばかりが実態だ。これは、「国際基準に合わせた」っていうより、「形だけ真似した」感が否めない。

八街市事故と国際潮流は見せかけ?
 この改正のきっかけとして挙げられる八街市の飲酒運転事故(2021年)で、確かに痛ましい事件だけど、原因は飲酒運転で、そもそも速度の話題ではない。警察庁が「歩行者安全のため」と言うなら、アルコール検知義務化や通学路のガードレールの方が筋なのに、なぜか「速度30キロ」が解決策として出てくる。というか、これがあまりにシュールなんでこの話題に私が関心を持ったという「効果」はあるのだけど。
 そして、ここに国際基準が絡む。「交通安全をアピールしつつ、EUのトレンドに乗っかる」っていう二兎を追ったシナリオなのだろうか、警視庁は。考えてみれば、2020年のストックホルム宣言で「30キロがいいよ」と言われ、EU都市で成果が上がり続けてるタイミングで、八街市事故から3年後の2024年に閣議決定した。なんだろう、この流れ。「国際的なお墨付き」を借りて、手っ取り早く規制を押し込んだ感がある。財政的に標識を全国に立てられないから「一律でいいよね」と政令で済ませたのも、妙に都合がいい。そして、ジャーナリズム的に疑問の声が出てこない?

誰かが得するか
 この規制、ちょっと陰謀論めくけど、誰が喜ぶか考えてみよう。ETSCが推す速度監視装置や、カーナビの警告機能が導入されれば、ハイテク企業は儲かる。物流やバスは遅延で困るだろうけど、警察庁は「安全のため」と予算増が狙える。政府は「SDGsに貢献してるよ」と国際舞台で胸張れる。野党も「交通安全反対」とは言えないから黙ってる。国会を通さず閣議決定で済ませたのも、「議論すると面倒だから」で片付けられる。なんですか、これ(滝昇の声で)。

この違和感
 EUの30キロ推奨が日本に影響を与えたのはわかるが、それが「全国一律規制」の理由かと聞かれれば、わからない。というか、日本の道路のことなんも考えてない感が漂う。警察庁は「国際潮流に合わせる」と言いつつ、地域の実情より手軽さを優先したか。EU規制の成功は素晴らしいかもしれないが、日本の生活道路にそのまま当てはめるのは、どうなんだ。というか、議論の形跡みたいのが見つからない。市民としては、「本当に安全になるの?」「誰が決めたの?」モヤモヤが残るんじゃないのか。
 ETSCの報告書や警察庁の資料をさらに漁れば何か出てくるかもしれない。が、今のところは、国際基準は参考にしただろうけど、このやり方は「見せかけの適応」に近い。なんか問題が出てから、どうしてこうなるの?(欣ちゃんの声で)とかなりそう。

 

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