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2025.03.05

トランプ政権の中国観変更

 トランプ米政権が中国を「中華人民共和国」と呼ばず、「中国共産党(CCP)」を前面に押し出す動きを見せている。米国務省が2025年3月に打ち出した新指針では、さらに習近平を「国家主席」ではなく「共産党総書記」と位置づけ、CCPと中国人民を明確に区別するものとなった。表面的には言葉の変更に過ぎないが、その裏には米国の対中戦略の変化が潜む。この動きは何か、そしてなぜ今なのか。

中国関連の名称変更

 2025年3月3日、米国政府系メディアVOAが報じた内部文書によると、米国務省は中国関連の用語について新たな指針を打ち出した(参照)。これまで「中華人民共和国(PRC)」と呼ばれていた中国は、公式ウェブサイトのファクトシートで単に「中国(China)」と記載され、政府の行動については「中国共産党(CCP)」が使われる。また、これと同時に、習近平は「国家主席(President)」ではなく「共産党総書記(General Secretary)」と呼ばれることになる。この変更は、トランプ大統領が第2期政権として2025年1月20日に就任し、対中強硬派のマルコ・ルビオ国務長官が主導する中で進められた。

CCPと中国人民の区別

 米国務省の指針は、CCPと中国人民を分けて扱うことを明確にしている。VOA報道によれば、「中国(Chinese)」という形容詞を否定的な文脈で使わず、例えば「中国の悪意ある行動」を「CCPの悪意ある行動」と表現するよう指示されている。これは、米国が中国人民やその文化への敵意を避け、責任をCCPに集中させる意図を示している。背景には、トランプ第1期(2017~2021年)後期から続く戦略がある。当時、マイク・ポンペオ元国務長官は「CCPは中国人民を代表しない」と繰り返し、対中政策が人民への攻撃ではないと強調していた。
 関連情報として、米国は近年、中国内部の不満を意識した発信を増やしている。2020年代の香港デモや新疆ウイグル問題では、米国務省がCCPの抑圧を批判しつつ、現地住民への支持を表明。新指針はこの路線を公式化し、CCPへの圧力を強めつつ、中国人民との対話を維持する姿勢を明確にした。さらに、この分離戦略は中国国内の分断を意識している可能性もある。経済成長の鈍化や若者の失業率上昇(2024年時点で約20%)が続く中、米国が「CCPが問題」と訴えることで、国民の不満を党に向けさせる狙いも考えられる。

習近平の扱いの変化

 特に注目すべきは、習近平の呼称の変化だ。新指針では、習を「国家主席」ではなく「共産党総書記」と呼ぶよう定められている。これは、CCPが国家の上に立つ構造を強調し、習の権力が党に由来することを示す。VOA記事は、これがポンペオ時代の慣行を踏襲すると指摘するが、第2期トランプ政権では公式指針として全大使館・領事館に適用される点で異なる。 事実として、バイデン政権(2021~2025年)では習を「国家主席」と呼び、中国との「責任ある関係管理」を優先していた。これに対し、2025年3月時点の米国務省は、習を党の指導者に限定し、国家のリーダーとしての正当性を認めない立場を鮮明にしている。例えば、2月13日のファクトシート更新では、「CCPが国際機関を操る」と記述され、習はその執行者として「総書記」扱いだ。この変化は、習への個人的批判を強め、彼の国際的地位に挑戦する意図を持つ。米国が習を「国家元首」と見なすのを避ける姿勢は、公式にその地位を否定する段階にはないが、今後の外交実務でさらに明確になる可能性がある。中国外務省はこれを「冷戦思考」と非難し、3月3日に抗議を表明した。
 中国側では、この米側の呼称変更が国内統治に微妙な影響を及ぼす可能性もある。習は2012年以来、国家主席としてではなく党総書記として権力を集中させてきたが、国際社会で「総書記」と強調されると、党内の権力争いや国民の反発を刺激するリスクがある。

米中対立の新段階

 この名称変更の指針は、トランプ第2期政権の対中戦略の一部でもある。就任初日に26件、1か月で約70件の大統領令を発令し、中国製品への10%追加関税や投資制限を導入した。また、日本(石破茂首相の2月訪米)やインドとの首脳会談で同盟強化を進め、中国包囲網を再構築している。米国務省の呼称変更は、これらと連動し、CCPを経済・外交両面で孤立化させる動きと一致する。背景には、米国の対中認識の変化がある。バイデン時代は「投資・連携・競争」の枠組みで競争を管理したが、トランプ政権は対立を前提にCCPを「敵」と定義した。CSISのブライアン・ハート氏はVOA報道で「新政権のトーン設定」と述べたが、関税や技術規制(例: 半導体輸出制限の強化)と合わせ、対中圧力が加速している。さらに、ロシアとの関係改善も中露分断を狙った地政学的戦略の兆候とも考えられる。
 今後この動向は、国際社会に影響するだろう。この指針が同盟国に波及すれば、中国の国連での発言力やWTOでの貿易交渉に影を落とす可能性がある。例えば、日本や欧州が同様に「CCP」を強調し始めれば、中国の国際的孤立が深まる。一方で、中国は「一帯一路」参加国との結束を強め、対抗軸を構築する動きを加速させるだろう。
 中国側では、CCPへの敵視が国民の愛国心を刺激する一方、習の権威に微妙な圧力を加えるかもしれない。長期的に見れば、台湾問題や南シナ海での緊張、技術競争の激化がこの戦略でどう展開するかが焦点となる。例えば、米国が台湾への支援を「CCPへの対抗」と位置づければ、軍事的衝突リスクも高まる。この変化は、米中関係が新たな段階に入ったことを示す。ウクライナに「マイダン革命」を仕込んだヴィクトリア・ヌーランドなどのネオコンはトランプ政権で一旦影を潜めたふうでもあるが、彼らはロシアだけでなく中国も敵視して「代理戦争」の種を仕込む懸念もあり、操作された反中ムードは日本の安全保障上も留意が必要になる。



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