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2025.02.06

『クローズアップ現代』「ロシア “死の経済“の実態」批判

 2025年2月5の『クローズアップ現代』が報じた「ロシア “死の経済“の実態」は、ロシア経済が戦争によって回り、戦場での死が経済の一部として組み込まれているという視点を示したものであった。貧困層が高額な報酬に惹かれて戦場に向かい、戦死することで遺族が多額の補償を受け取るという構図が描かれ、「戦争経済がロシア社会を蝕んでいる」と批判していた。確かに、ロシア経済の軍事依存度が高まり、戦争が国家財政に大きな影響を与えていることは事実であろう。しかし、本「戦争によって経済が回る」構造をロシアだけに限定し、まるで特殊な異常事態であるかのように扱っている点には、どうしてもプロパガンダ臭を感じた。
 同番組ではロシア経済が制裁によって疲弊しているかのような印象を与えるが、実際にはロシアはBRICSを中心とした非西側諸国との経済連携を強化し、その恩恵を受けている。たとえば、ロシアの対中国貿易は2023年には約2400億ドルに達し、前年より約30%増加している。インドもロシア産原油の輸入を急増させており、2022年には前年比約16倍となった。また、トルコやアラブ諸国を通じた貿易ルートの確立により、西側制裁の影響を軽減している。これらの動きを考慮すれば、「ロシア経済は行き詰まる」とする予測はすでに誤りの可能性が高い。
 また番組では、ロシアが戦争経済に依存していると批判しているが、その一方で、西側諸国もロシアの資源に依存し続けているという欺瞞がある。たとえば、2023年時点で英国はロシア産エネルギーを依然として購入しており、ロシア産LNGの輸入額は前年より約50%増加した。フランスもロシアの液化天然ガス(LNG)の最大の買い手であり、2023年の輸入量は約64億立方メートルに達している。こうした事実は、西側がロシアを経済的に封じ込めると主張しながらも、裏ではその資源に依存していることを示している。このような構造を考えれば、「ロシアは戦争経済でしか生き残れない」とする主張は単純化されすぎており、西側の「ロシア叩き」がいかに偽善的であるかが浮き彫りになる。
 そもそも番組では、ロシアの戦争経済ばかりを問題視しているが、米国が行うウクライナ支援もまた、国内の軍需産業を潤す仕組みになっている。実際、ウクライナ向けの軍事支援として発表された資金の大半は、米国内の軍需企業を経由している。たとえば、2022年から2023年にかけて米国がウクライナに提供した約750億ドルの軍事支援のうち、多くはロッキード・マーチン、レイセオン、ノースロップ・グラマンといった米国の軍需企業に発注された。また、米国防総省の支援金の多くは、米国内での兵器生産や防衛産業の雇用維持に使われている。さらに、日本を含む西側諸国からの資金援助も、直接ウクライナに届くわけではなく、米国や欧州の軍需産業を通じて提供されている。この構造を考えれば、ロシアの戦争経済を批判する一方で、米国の軍需産業が戦争を通じて利益を得ている現実を無視するのは、どうなんだろうか。
 番組の構成法自体にも不公正を感じた。登場した経済学者ウラジスラフ・イノゼムツェフ氏は、長年にわたりプーチン政権を批判し続けるウクライナ寄りの専門家として知られている。彼の主張は一貫してロシア経済の脆弱性を指摘し、「いずれ崩壊する」とするものである。しかし、こうした視点だけが報道され、ロシア側の経済学者や中立的な専門家の意見は一切取り上げられていない。ジャーナリズムにおいては、異なる立場の専門家の意見をバランスよく取り入れることが求められる。しかし、クライナ寄りの専門家の見解のみを採用し、それを唯一の「正しい分析」として提示しているようでは、視聴者に一方的な印象を与える偏った報道となってしまう。
 NHKが本来、議論すべきだったことは、「戦争経済そのものの是非」であろう。特定の国だけを槍玉に挙げることではない。ウクライナ戦争が長引く中で、西側諸国もまた戦争経済の恩恵を受けていること、また、なによりも対露制裁で失敗している現実を直視し、冷静な分析を行うべきである。『クローズアップ現代』の今後の報道が、単なるプロパガンダに終わらず、より多角的な視点を取り入れることを期待したい。

 

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