トランプ・石破初会談
日本時間今朝未明に行われたトランプ・石破初会談は、表面的には円滑に進み、日米関係の強化が演出された。懸念された大失態もなかったという点では成功裏に終わったのだが、それは同時に、事前に裏方が上手にトランプ米大統領をpleaseしておいたということで、常識的に考えても、裏で満足したトランプ大統領の条件が大きな課題であることは明らかであろう。
表面的な成功の要因
表面的な成功に見える要因について、簡単にまとめておこう。まず、貿易摩擦や防衛費増額の圧力が表立っていないからである。トランプ大統領は会談で「日本は米国の最良のパートナーの一つ」と評価し、貿易摩擦や防衛費負担の増額要求をこの場では直接的には突きつけなかった。これにより、日本側は「米国との関係を安定させた」と見せることができ、日米関係が順調であるとの印象を国内外に与えたが、その部分ではトランプ大統領の交渉を要すことはなかったということである。この点について会談から見えるのは、石破首相は「1兆ドル規模の対米投資」を発表し、日米経済関係の強化を演出したことだ。また、日本のLNG(液化天然ガス)輸入の拡大も決まり、アメリカのエネルギー市場との連携が深まることをアピールした。これらによって、トランプ政権は「アメリカにとって有益な対談だった」と認識し、日米関係が良好であるとのメッセージを発信したわけである。さらに石破首相は「日本の防衛力を根本的に強化する」と表明し、トランプ大統領も日本の防衛費増額を高く評価し、「日米同盟は強固である」との印象を与え、アジア地域に対する対外的なメッセージとしても機能した。
LNGを巡るディール
課題という側面で見えづらかった面をまとめておこう。まず、LNG購入の強制によるエネルギー安全保障への影響がある。ウクライナ戦争前ではあるが、2021年度の日本のLNG輸入量は約7,216万トンであり、主な輸入先はオーストラリア(約38.3%)、マレーシア(約13.4%)、カタール(約6.7%)、ロシア(約8.8%)、アメリカ(約6.2%)であった。今回の合意により、アメリカのシェアが20〜30%に増加する可能性もあるだろう。
アメリカのLNGは環境的にも問題のあるシェールガス由来であり、長距離輸送コストがかかるため、アジア市場価格よりも割高になる可能性が高い。2023年のLNGスポット価格は全体的に変動が大きかったが、アジア市場向けの価格は30ドル/MMBtuを超える水準から17ドル/MMBtu程度まで大幅に下落したと報告されている。具体的な供給国別の価格データは公表されていないが、既存のデータや市場動向を踏まえると。アメリカ産LNGは市場平均価格の上限に近い15〜17ドル/MMBtuと推定される。アメリカのLNGはシェールガス由来であり、輸送コストが加算されるため、アジア市場では比較的高価になる傾向がある。カタール産LNGは日本の2024年8月の平均LNG輸入価格が12.09ドル/MMBtuであったことを踏まえると、11〜13ドル/MMBtuの範囲にあった可能性が高い。ロシア産LNGは2024年8月の日本向け価格が11.77ドル/MMBtuであったことから、2023年は9〜11ドル/MMBtuの範囲に収まっていた可能性がある。オーストラリア産LNGの2023年の価格データは公表されていないが、日本の平均LNG輸入価格や過去の市場動向を考慮すると、10〜12ドル/MMBtu程度であったと推定される。日本の平均LNG輸入価格は、2024年8月時点で12.09ドル/MMBtuであることから、2023年は12〜14ドル/MMBtuの範囲で推移していた可能性が高い。
今後、アメリカ産LNGを優先的に購入すれば、1MMBtuあたり3〜5ドルの割高なエネルギーを購入することになり、日本の電気・ガス料金の上昇を招くことになる。これはまた、対露関係が順調であれば増加していたはずのロシアからのLNG輸入を減らし、調達コストの上昇も招く。アメリカに依存することはエネルギー源の多極化で問題でもある。アメリカのLNG供給が不安定になった場合、日本はエネルギー危機に陥る。
「見えない防衛費増額」
次の論点は、「見えない防衛費増額」のリスクである。2022年の日本の防衛費はGDP比約1%(5.4兆円)であり、2023年にはGDP比2%(約11兆円)へ増額する計画が決定されていた。しかし今回の対談では、防衛費のさらなる増額が「水面下で求められている可能性」が高い。2023年の防衛予算の内訳を見ると、FMS契約額を基にした推計では約3兆円(30%)がアメリカ製の武器・装備品の購入に充てられた。今回の会談後、日本はさらなる装備品の購入を求められる、防衛費が今後のGDP比2.5〜3%(13〜15兆円)規模まで拡大する可能性はあるだろう。日本の財政赤字は拡大し、増税や社会保障の削減という形になるかもしれないが、トランプ大統領の考えではこれらはそもそも日本国民が支払うべきコストであるという論法だろう。
「1兆ドルの対米投資」
笑顔で1兆ドルの投資規模と石破氏は語ったが、1兆ドル(約150兆円)の投資は、日本の対米投資額の約1.5倍に相当し、過去最大の規模である。この資金の調達方法が明確でなく、日本国内の投資や社会保障を圧迫する可能性がある。2023年の日本の国債発行残高は1,200兆円に達し、財政赤字が深刻化している。1兆ドルの投資が「日本の年金基金」や「国民の税金」を原資にする場合、国民負担が直接的に増大するだろう。
こうした問題は、小出しに国政に反映されるだろうが、トランプ大統領の任期が4年であるのに対して、石破茂首相の任期はおそらく2年を超えることはなく、今回の会談の「成功」のツケを彼が支払うこともないだろう。
【付録】
記者会見Q&Aセッション
記者: 大統領、日本の軍事拡大はどのくらい続くとお考えですか?また、軍事費の増加は中国と北朝鮮への抑止力として効果的だと思われますか?
トランプ大統領: 私は、我々の軍隊が最強であることを望んでいるし、日本が防衛費を増やすことに異論はない。なぜなら、それはアメリカ製品を購入することになるからだ—"Made in the USA"だ。我々は、私の最初の任期中に軍隊を再建し、素晴らしい仕事を成し遂げた。日本が強い軍隊を持つことは、地域の安定に貢献することになると考えている。
記者: 大統領、石破首相についてどのような印象をお持ちですか?また、日本に対する関税を課す予定はありますか?
トランプ大統領: 私は石破首相が素晴らしいリーダーになると信じている。彼のことは以前から知っており、安倍晋三も彼を非常に高く評価していた。関税については、我々は相互主義的な貿易政策を目指している。もし日本が我々に高い関税を課すなら、我々も同じように対応する。近いうちに何らかの発表をすることになるだろう。
記者: 石破首相、今回がトランプ大統領との初めての会談でしたが、どのような印象を持たれましたか?信頼関係を築くことはできましたか?
石破首相: 今回が直接お会いするのは初めてだが、私は以前から大統領のことを見てきた。テレビでは強い個性をお持ちだが、実際にお会いすると、誠実で決断力のある方だと感じた。我々の国は、地域の安定を維持する責任を果たさねばならない。
記者: 日本の防衛費増額についてですが、これはアメリカからの圧力によるものですか?
石破首相: いいえ、これは日本が日本のために決定したことだ。当然ながら、アメリカと連携はするが、最終的な責任は日本にある。
記者: 日米の貿易赤字に関して、日本は1兆ドルの対米投資を予定しています。この構想について、トランプ大統領は支持しましたか?
石破首相: はい、我々はこの投資を相互利益のあるものと捉えている。これは単なるアメリカ企業の買収ではなく、例えばU.S. Steelのような産業の強化に向けた投資だ。日本の技術が高品質な生産を可能にし、両国にとって有益なものとなるだろう。
記者: 大統領、北朝鮮に関してですが、金正恩氏との直接対話を再開する予定はありますか?
トランプ大統領: 私は金正恩氏と良好な関係を築いていた。それが戦争を防いだと考えている。もし対話が平和維持に役立つのであれば、私はそれを受け入れるつもりだ。日本もこのアプローチを評価している。なぜなら、日本と北朝鮮の関係は非常に難しいものだからだ。
記者: 石破首相、もしアメリカが日本の輸入品に関税を課した場合、日本は報復措置をとりますか?
石破首相: それは仮定の質問なので、コメントは控える。
トランプ大統領: それは素晴らしい回答だ![笑い] 皆さん、ありがとう。
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