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2025.02.12

アルミ産業とギニア

 2025年2月、トランプ大統領は、輸入品アルミニウムに対する25%の関税を課すという発表を行った。国内産業の保護を掲げたこの措置は、米国のアルミ精錬業者を支援する狙いがあるとされるが、その影響は、広範囲に及ぶ波紋を広げることになるだろう。世界市場の価格変動、主要貿易国との摩擦の拡大、さらには遠くアフリカの地、ボーキサイト産出国であるギニアにまで、その波は直接・間接的に押し寄せていく。アルミニウムは、我々の生活の隅々にまで浸透している。それは単なる金属ではなく、現代のインフラ、産業、そして国家戦略と密接に結びついた、いわば「戦略物資」である。この関税という名の「石」が、アルミ市場という「湖」に何を引き起こすのか。

アルミ市場の構造

 世界のアルミニウム生産量は、2024年時点で約6,500万トンに達する。これは2010年の4,000万トンから約62.5%増加という、驚異的な伸び率である。背景には、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー設備の需要拡大という、現代社会を象徴するトレンドがある。しかし、この「アルミの宴」は、特定の国々に偏って催されているのが現状だ。

  • アルミニウム主要生産国(2023年推定):
    1. 中国: 世界の生産量の約60%を占める圧倒的な存在。
    2. インド: 近年生産量を急速に伸ばしている。
    3. ロシア: 世界有数のアルミニウム生産国。
    4. カナダ: 水力発電を利用したアルミニウム精錬が盛ん。
    5. オーストラリア: ボーキサイト資源も豊富。
  • ボーキサイト主要産出国(2023年推定):
    1. オーストラリア: 世界最大のボーキサイト生産国。
    2. ギニア: 世界最大の埋蔵量を誇り、生産量も世界第2位。
    3. 中国: 国内のアルミニウム需要を賄うため、ボーキサイトも大量に生産。
    4. ブラジル: アマゾン地域に豊富なボーキサイト資源を持つ。
    5. インドネシア: 近年、輸出規制を強化する動きも見られる。
  • 主要な輸出国: カナダ、ロシア、インド、UAE
  • 主要な輸入国: 米国、EU、日本

 米国は、年間約550万トンのアルミニウムを消費する巨大市場だが、その約70%を輸入に頼っている。国内生産は1990年代から急激に縮小し、2017年時点の米国内アルミ生産能力は290万トンだったが、2024年には220万トンにまで減少している。トランプ政権は、この輸入依存という「アキレス腱」を克服するため、関税という名の「盾」を構えることにした。その背後には、大きく分けて3つの狙いが想定される。

  1. 米国内産業の保護:
    関税によって安価な輸入アルミニウムを抑制し、国内の精錬業者を支援する。これは、いわば「国内産業育成」という名の伝統的な政策だ。2018年にもトランプはアルミ関税を導入したが、例外措置が多かったため、その効果は限定的だった。しかし、2025年の措置では、その「盾」に穴はなく、すべての輸入アルミに25%の関税が適用される。
  2. 中国の影響排除:
    中国のアルミ輸出量は、2023年時点で570万トンに達し、10年前の約2倍という、まさに「爆発的」な増加を見せている。中国は、補助金政策という「魔法の杖」を使い、世界市場に安価なアルミを供給。これが価格競争を激化させ、米国内生産を圧迫していた。関税措置は、この「中国の魔法」を封じ込め、市場のバランスを取り戻そうとする試みと言える。
  3. 国家安全保障:
    軍需産業において、アルミニウムは航空機や装甲車などに不可欠な素材だ。その供給が海外に依存しすぎると、有事の際に調達が困難になるリスクがある。これは、国家の安全保障に関わる、まさに「死活問題」である。

関税がもたらす影響

 関税という「衝撃波」は、アルミ市場に様々な影響を及ぼしている。

  1. アルミ価格の変動:
    関税の発表後、アルミニウムのLME(ロンドン金属取引所)価格は上昇。2024年末時点のアルミ価格は1トンあたり約2,541ドルだったが、2025年2月12日には2,658ドルまで上昇している。この間の上昇率は約4.6%であり、市場の需給バランスや供給不足の懸念が影響した可能性がある。
    • 米国自動車産業: 1台あたりのコストが平均200ドル増加すると見積もられている。これは、自動車価格の上昇、ひいては消費者の負担増につながる可能性がある。
    • 建設資材、食品包装、航空産業: これらの産業も、コスト増加という「重荷」を背負うことになる。
  2. 主要輸出国の対応:
    関税は、主要輸出国にも大きな影響を与える。
    • カナダ(米国アルミ輸入の40%): 最大の被害国となり、米国向けの輸出が激減する可能性がある。カナダ政府は、報復関税という「反撃」を検討中だ。
    • ロシア(米国向け輸出:約4%): ウクライナ侵攻による制裁ですでに米国市場から排除されており、関税の影響は限定的。
    • 中国: 直接的な影響は小さいが、世界市場での価格競争が激化する可能性は否定できない。そして、この「波紋」は、ボーキサイト産出国であるギニアの経済にも及ぶ。

ギニアという見えざる犠牲者

 ギニアは、世界最大のボーキサイト埋蔵量を誇る、いわば「ボーキサイトの王国」である。確認されている埋蔵量は約74億トン(2024年)。2023年のギニアのボーキサイト生産量は1億800万トンで、世界の約25%を占める。その主要輸出先は中国(60%)であり、EU、インド、UAEと続く。ギニアにとって、ボーキサイトは経済の生命線だ。しかし、その「生命線」は、トランプ関税という遠い国での決定によって、不測の事態にさらされるかもしれない。一見すると、米国の関税は中国のアルミニウム輸出を抑制し、ギニア産ボーキサイトの需要を高める可能性があるように思える。しかし、現実はそれほど単純ではない。中国への過度な依存は、ギニア経済を中国経済の変動に脆弱にし、価格操作のリスクも高める。
 現状ギニアのボーキサイト採掘は、現在世界のメディアの偏向もあってあまり注目されないが、すでに大規模な森林破壊、水質汚染、土地の劣化を引き起こしている。年間7,000~10,000ヘクタールもの森林が失われ、河川の約30%が鉱山開発の影響を受けているという報告もある。採掘権をめぐる汚職や政治対立も、ギニア社会を不安定化させている。資源収入が適切に管理されず、一部の権力者や企業によって私物化されることで、社会の不平等は拡大し、紛争のリスクを高めている。現在な国際社会は基本的にアフリカの問題を事実上無視しているので、これが私たちの視界に入る頃にはおそらく絶望的な事態が進展してからのことだろう。



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