ウクライナを排除した米露和平交渉
2025年2月18日、サウジアラビアの首都リヤドで、米国とロシアの政府代表団による直接交渉が行われた。表向きの議題はウクライナ戦争の終結に向けた「和平交渉」だったが、最も重要な当事者であると主張するウクライナは交渉の場から排除された。この決定は、戦争の膠着状態と欧米の支援疲れを背景に、米露が現実的な解決策を模索し始めたことを示している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「我々抜きで和平を決めることはあり得ない」と強く反発したが、トランプ米大統領は「ウクライナは3年間も交渉の場にいたのだから、もっと早く戦争を終わらせることができたはずだ」と批判した。ロシアのプーチン大統領も、「ゼレンスキー大統領はもはや正当な指導者ではない」とみなし、ウクライナの新たな選挙を和平の前提条件として提示した。これに対し、ウクライナ政府は「戦時下での選挙は現実的でない」と反論し、ロシアの要求を拒否してきたが、米国もこの点ではロシアと同意見にあり、大統領選が実施されない状況に不信感を抱いている。
サウジアラビアが交渉の舞台となった背景
交渉の舞台としてサウジアラビアが選ばれたのは、その地政学的な立場が要因である。同国はロシアとOPEC+を通じたエネルギー協力関係を持つ一方で、米国とも安全保障面で強固な関係を維持している。このバランスが、中立的な交渉の場としての適性を高めた。また、ウクライナがクルスク州侵攻を計画する直前、ロシアとウクライナの間では「エネルギー施設への相互攻撃を控える合意」が検討されていたとされ、サウジアラビアはその調整役を務めた経緯がある。このような背景から、リヤドが交渉の舞台として選ばれたのは自然な流れだった。加えて、サウジアラビアの関与はエネルギー価格の安定化にもつながるため、米露双方にとって合理的な選択だったと言えるだろう。さらに言えば、この問題に口を出したがっている大国気取りのインドやブラジルを封じ、問題を実際には複雑化するトルコを排除したいという思惑もあっただろう。
ウクライナを排除した和平交渉の現実性
今回の交渉で最も注目されたのは、ウクライナが交渉のテーブルから排除された点である。ゼレンスキー政権はこれに強く反発し、「当事国抜きの和平は受け入れられない」と主張したが、ウクライナがこれまで和平の機会をことごとく拒否してきた点も見逃せない。ウクライナは戦争開始以来、「完全勝利」以外の選択肢を認めず、戦況は膠着状態に陥り、人的・経済的損失が拡大した。
米国と欧州諸国の一部は、ウクライナへの支援継続が政治的・経済的に困難になりつつあることをすでに認識している。戦争継続のための資金や軍事物資の提供が限界を迎える中、和平交渉を進める現実的な方法を模索する必要が生じた。そのため、「交渉を妨害し続けるゼレンスキーを排除し、米露で直接交渉を進める」という判断は、戦争終結に向けた一つの合理的な選択肢とされた。
ミンスク合意の崩壊と欧州の誤算
今回の米露交渉は、2014年と2015年に締結されたミンスク合意の破綻を受けた新たな和平プロセスともいえる。ミンスク合意は、ウクライナ東部ドンバス地域の戦闘停止と特別自治権の付与を目的としていたが、ロシア側からすれば、ウクライナ政府はこれを完全に履行しなかった。欧米諸国はウクライナを支援し続け、ロシアとの対話を拒み続けた。特に、ドイツのメルケル元首相が「ミンスク合意はウクライナの軍備増強のための猶予期間だった」と認めたことで、ロシア側の不信感は決定的となった。欧州諸国が和平交渉を単なる時間稼ぎとし、ロシア封じ込めの戦略に利用したことが、現在の対立を深めた要因となった。これによりロシアは、ウクライナとの直接交渉ではなく、米国との対話を優先する方針に転換した。
欧州の対応とNATOの亀裂
米露主導の「和平交渉」は、欧州諸国にも大きな衝撃を与えた。2月19日、フランスのパリで首脳会合が開かれたが、各国の対応は分かれた。イギリスのスターマー首相は、ウクライナの安全保障のためには米国の支援が不可欠であり、場合によっては英軍の派遣も辞さない構えを見せた。対照的に、ドイツのショルツ首相は現時点での部隊派遣は時期尚早との慎重な姿勢を崩さず、ポーランドのトゥスク首相は軍を派遣する予定はないと明言した。イタリアのメローニ首相は、欧州の部隊派遣は最も複雑で、最も効果が低いと懐疑的な見方を示した。
トランプ前大統領のNATOに対する姿勢が、この亀裂の要因となっているとも見られる。彼は以前から「欧州はNATOの防衛費をもっと負担すべきだ」と主張しており、今回の交渉を機に、NATOの役割を縮小し、米露が主導する新たな安全保障枠組みを構築しようとしているのではないかとの疑念が広がっている。そもそもNATOは冷戦時代の遺物であり、イラク戦争以降、その目的が曖昧であり、その存続のために冷戦時代のソ連の代替としてロシアを選び直したという懐メロ趣向かもしれない。
ウクライナの未来は誰が決めるのか
ウクライナを蚊帳の外に置いた米露の和平交渉は、多くの問題を孕んでいるのは当然だろう。しかし、「ウクライナの未来を決めるのは米露でも欧州でもなく、ウクライナ国民自身である」というレトリックが問題を複雑にしてきた。そもそもウクライナ国民自身の意思が明瞭になるには、大統領選を実施するのは前提条件である。ウクライナ国民の意思が提示できない状態だからこそ国外流出が続いているともいえる。そもそもウクライナはマイダン革命以前から、国民の意思が統合できるような国家ではなかった。国際社会は、建前としては、「ウクライナの主権と領土保全を尊重し、国民が自らの意思で未来を選択できるよう支援を続けるべきである」が、それは基本的には正しいとしても、もともとクリミア半島はロシアの認識ではソ連時代の経緯を踏まえたうえでウクライナとの友好関係で委託されたものであり、ウクライナ側から敵視されるに至ったことで、軍港としての保全とこの地のロシア系国民を保全する必要が生じていた。
| 固定リンク