対露制裁のジレンマ
対露制裁は本当に「効いている」のか。今更のようにこの問いが浮上してきているのは、欧州連合(EU)が対ロシア制裁を虚しく更新してきた事実に加え、この制裁に関連するドイツにおいて、政治家ザーラ・ワーゲンクネヒト(ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟=理性と公正のために)が「制裁はEU自身の経済を弱体化させている」と警鐘を鳴らしていることがある。
2月12日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はスーダンのアリ・ユセフ・シャリフ外相との会談後の記者会見で、「EUはすでに16回目の対露制裁を準備しているが、その経済的結果は悲惨なものになっている」と指摘した。また、「制裁は世界の貿易・経済関係を発展させる助けにはならない」とも述べた。さらに、欧州の経済悪化の要因として「ロシア産ガス価格の急上昇」を挙げ、「かつてロシアのエネルギーがEU経済を支えていた」と強調した。特にドイツの産業界は、ロシアからの安価なエネルギー供給を基盤としていたが、制裁によって競争力が低下している。
ワーゲンクネヒトは、ラブロフの発言を直接受けたわけではないが、この事態を「EUの自傷行為」と評し、ガス価格の上昇が食品価格の高騰を招き、企業の競争力を損なっていると指摘した。制裁の目的がロシア経済への圧力であるとすれば、その代償を払っているのはEU市民なのではないかということだ。
EU内の分裂
ロシア産ガスへの依存からの脱却を目指したEUのエネルギー政策は、理想と現実の間で揺れ動いている。ノルウェーや米国のLNG(液化天然ガス)輸入を増やす試みは続いているが、コスト面ではロシア産よりも高価であり、安定供給の面でも問題を抱えている。フランスやオランダでは、再生可能エネルギーの導入を加速させる政策が進められているものの、短期間でロシア産エネルギーの穴を埋めることは難しい。ドイツでは、脱原発政策と重なり、代替エネルギー源の確保が大きな課題となっている。
EUがエネルギー戦略を転換する中で、最も苦しんでいるのは産業界と一般市民である。製造業のエネルギーコスト増加は、企業の利益率を圧迫し、雇用の不安定化を招く。市民にとっては、電気代やガス代の高騰が家計を直撃し、生活の質が低下している。これらが累積し、EU内では16回目の制裁を巡って対立が生じている。スロバキアは、ロシア産ガスに関する制裁に対して反対の立場を取っている。これは、スロバキアがEUの制裁パッケージ全体に異議を唱えているわけではなく、エネルギー供給の安定性を考慮した「部分的な拒否」に過ぎない。加盟国の足並みが揃わない現状は、EUが制裁を拡大するたびに国内経済への影響を巡る議論が強まっていることを示している。
地政学的シフト
対露制裁は短期的な圧力としては機能することが多いが、16回も更新される中で、EUの経済構造自体が変容しつつある。ロシアとの経済関係が希薄になる一方で、EUは米国や中国との新たな関係構築を模索している。しかし、これが必ずしもEUにとって有利に働くとは限らない。
米国はLNGの供給を通じてEUとの経済的結びつきを強めているが、その価格はロシア産に比べて高く、結果的に欧州経済の競争力を低下させる要因となっている。中国に関しては、EUの制裁方針とは異なり、ロシアと経済協力を深めており、結果としてEUはエネルギー政策でも貿易政策でも孤立するリスクを抱えている。
EUは、2月12日、14日に常任代表レベル(EU加盟国の大使クラス)の会合を開き、16回目の制裁についての協議を行った。この制裁には、ロシア産アルミニウムおよびLNGの輸出制限が含まれており、1月15日に報道されていた内容が正式に議論される形となる。EUの外交政策責任者であるカヤ・カラスは、制裁をさらに6カ月延長する方針を1月27日に発表しており、制裁の発効日は2月22日とされている。カラスはまた、ロシアがEU制裁を「違法」と批判している点について、「制裁は国際法に則った正当な措置であり、ロシアの主張は誤りである」と一蹴している。
ロシア側は、この制裁継続を「違法」と非難しつつも、中国やインドを中心とした貿易ルートを拡大し、欧州との経済的結びつきを徐々に薄めている。結果として、EUはロシア経済に打撃を与えるどころか、ロシアを西側経済圏から脱却させる方向へと押しやっている可能性があり、制裁の成果をめぐる議論は今後も続くが、少なくとも欧州経済にとっての「勝利」とは言い難い状況が続いている。
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