潜在的衝突通知
2013年、ロシア・チェリャビンスク州を襲った隕石爆発は、突如として地球に降りかかる自然の猛威を我々に知らしめた出来事であった。現在でもYouTubeの動画でその異様な脅威を見ることができるが、当時、1,500人以上が負傷し、数千の建物が破壊された。この被害は、不思議なこともあるものだといった単なる偶然の災厄ではなく、地球に潜む脅威の存在を示す前兆である。というのは、現代において、2024 YR4という新たな天体が、2032年の地球衝突の可能性を示唆しており、国際社会において大きな警戒感が広がっているからだ。
2024 YR4 は2024年12月27日に、チリのコキンボ州で行われた小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS-CHL) による観測から発見された。最新の解析結果では、この天体が地球に衝突する確率は1.6%であるとされ、国際小惑星警戒ネットワーク(IAWN)は史上初の「潜在的衝突通知」を発出した。1.6%なら大したことはないだろうと安心するか、それとも低確率でも起きた場合の被害を想定するかは、原発事故を想起すべきだろう。また、今回の通知は、単なる確率数字上の警告にとどまらず、科学技術の進展と国際協力の必要性を浮き彫りにするものである点も興味深い。
今回の「潜在的衝突通知」を出したIAWNは、2013年に設立された、地球近傍の小惑星の動向を監視するための国際的ネットワークである。今回の警告は、これまでの警告とは一線を画しており、2024 YR4の衝突リスクが初めて数値化された点において特に意義がある。通知の発出は、今後の観測体制の強化や防衛対策の議論を促す契機となり、各国の宇宙機関が連携を強化するための重要なステップとなるだろう。このタイプの地球存亡が関わる危機はむしろ今後の人類の課題だからだ。
また、NASAのCNEOSと欧州宇宙機関(ESA)が共同で実施した軌道解析によれば、従来推定されていた衝突確率1.3%が最新のデータにより1.6%に上昇している点も注目されている。これは、観測技術の向上と新たなデータの反映によるものであり、天体の軌道における微小なズレが将来のリスクに大きな影響を及ぼすことを示している。専門家の間では、「数日以内に確率がゼロになる可能性もある」とする見解がある一方、現時点では依然として楽観視できない状況である。
2024 YR4の規模の推定だが、直径は40~90メートルとされ、2013年のチェリャビンスク隕石(17~20メートル)の約2~5倍に相当するとされている。この規模の天体が放出するエネルギーは、8~10メガトンのTNTに匹敵し、ヒロシマ原爆の約500倍と計算される。もしこの天体が仮に都市部に衝突した場合、衝撃波や火災、インフラの寸断などにより、被害は壊滅的な規模に達する。海に落下した場合でも、局所的な大津波が発生するリスクが懸念される。
都市と海のリスク
IAWNの通知によると、東太平洋、南米北部、大西洋、アフリカ、アラビア海、南アジアなどが影響圏内に含まれるとされる。これらの地域では、陸上および海上の双方で大規模な被害が予想され、特に人口密集地や主要なインフラが集中する都市部は、衝突の際に甚大な被害を受ける可能性が高い。このため、事前のリスク評価と対策の徹底が急務である。
都市部に直接衝突した場合、衝撃波による建物の倒壊、火災の発生、交通網の寸断などにより、都市機能は一瞬にして麻痺する危険性がある。加えて、地質条件や都市の密集度が影響を与え、被害はさらに拡大するおそれがある。このようなシナリオを踏まえ、各都市における防災計画の見直しと強化は避けて通れない課題である。
海上に衝突した場合は、10メガトン級のエネルギーが海水に伝わり、津波を誘発するリスクが存在する。過去の核実験において大規模な津波が発生しなかった例もあるが、衝突地点の海底地形や落下角度などの要因により、局所的に甚大な津波が発生する可能性は否定できない。従って、海上の衝突に対しても入念なリスク評価と対策が必要である。
NASAは現状、ハリケーンの進路予測と同様の手法を応用して小惑星の軌道予測に挑んでいる。しかし、軌道上のわずかな誤差が未来の位置を大きく変動させるため、正確な予測は極めて困難である。今後の観測によって、衝突確率が再評価されることは確実であり、短期間でのデータ収集が急務であるといえる。現状、次回の十分な観測が可能な期間は4月までであり、もし十分なデータが得られなければ、次の観測機会は2028年まで訪れないという厳しい現実がある。NASA、ESA、IAWNなど各機関は、時間との戦いの中で迅速かつ緻密な対策を講じる必要がある。こうした国際協力の枠組みの強化こそが、地球防衛において極めて重要な要素である。
なお、小惑星の軌道変更技術は可能だろうか。2022年に成功を収めたDARTミッションは、小惑星の軌道変更技術の実用化に向けた重要な成果であったが、2024 YR4のような大規模な天体に対してこの技術が適用可能かどうかは、依然として多くの課題を孕んでいる。簡単に言えば、現状の人類では不可能だろう。
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