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2025.01.20

Z世代は他の世代よりも5年早い退職を望む

 「Z世代は他の世代よりも5年早い退職を望む」。これが、2023年に発表されたLogica Researchの調査の結論である。具体的には、米国のZ世代の平均退職希望年齢は61歳であり、全世代の平均66歳や、ベビーブーマー世代の68歳と比較して5年以上も早い。この結果は単なる統計にとどまらず、現代社会における若者たちの価値観や生き方の大きな変化を反映していることは明らかだ。いったい、Z世代はどのような理由でこのような早期退職志向を持つのだろうか。
 Z世代、つまり1997年以降に生まれた28歳以下の世代は、「デジタルネイティブ」として知られている。この世代は、幼少期からスマートフォンやインターネットに囲まれて育ち、情報へのアクセスが容易であることが特徴だ。こうした背景から、Z世代は従来の世代とは異なる価値観が形成された。例えば、「仕事は人生のすべてではない」とする考え方がそれに該当する。彼らは、キャリアよりも個人の幸福や自己実現を優先する傾向が強い。また、仕事を単なる生計手段と捉えるのではなく、自分の価値観やライフスタイルに合ったものとして選び取ることを重視する。
 この価値観の変化には、厳しくなる一方の経済環境も影響している。例えば、学生ローンの重圧や住宅価格の高騰、不安定な雇用環境といった要因が、Z世代にとって避けられない現実的な重課となっている。調査によれば、Z世代の26%が財務ストレスを理由に仕事のパフォーマンスが低下した経験を持つという。このストレスの原因として最も多いのはインフレーション(54%)、次いで支出管理の困難さ(36%)や親世代への経済支援(30%)が挙げられている。これらの課題が、早期退職への志向を加速させる一因となっている。
 またZ世代の特徴としては、テクノロジーを活用することにも積極的であることが挙げられる。彼らの49%がAIツールを用いた財務計画を前向きに捉えており、これは他の世代と比較しても高い割合だ。これにより、効率的な資産運用や働き方の選択肢を広げている。こうしたデジタルツールの活用は、Z世代の柔軟性を象徴しているといえる。

Z世代の価値観の変化
 Z世代の平均退職希望年齢は61歳であり、全世代平均の66歳や、ベビーブーマー世代の68歳と比較して5年以上も早い。この数値は、単なる世代間の嗜好の違いを超えて、働き方や人生設計における価値観の大きな変化を象徴している。
 Z世代が早期退職を目指す理由はなぜだろうか。ひとつ想定されるのは、先にも触れたが厳しい経済環境が挙げられる。住宅価格の高騰や学生ローンの負担、不安定な雇用環境が、彼らの将来設計において大きな課題となっていることだ。こうした重課は、長期的な職業人生を想定するよりも、できるだけ早く経済的自由を得て、人生の別の側面を追求することを目標とする傾向に結びつきやすい。
 次に注目すべきは、そもそもZ世代が「仕事より人生」を優先する新しい価値観を持っている点だ。調査によれば、Z世代の86%が福利厚生のために給与の一部を放棄する意向を示しており、特に柔軟な勤務形態を選ぶために76%が給与削減を受け入れるとしている。このような選択は、彼らが生活の質やメンタルヘルスを重視していることを示しており、仕事を単なる収入源として捉えるのではなく、人生全体の一部として統合的に考える傾向を反映している。さらに、Z世代の価値観は他世代との比較でも際立っている。たとえば、ミレニアル世代では74%、X世代では60%、ベビーブーマー世代では50%が給与削減を容認するのに対し、Z世代のこの割合は最も高い。このデータからも、Z世代の特徴的な価値観の転換が読み取れる。これまでの世代は安定した収入や地位を重視してきたが、Z世代はそれらを犠牲にしてでも、柔軟性やウェルビーイングを優先する。
 このような価値観の変化は、Z世代が抱える現実的な課題と理想主義的な志向の間に存在する微妙なバランスを物語っている。早期退職を望む一方で、現実には99%がその実現において何らかの障壁を感じているというデータがそれを象徴している。このギャップは、経済的なプレッシャーと彼らの理想との間で生じる矛盾を示していると言える。

新しい金融支援モデル
 Z世代の特徴的な価値観や働き方を支える大きな要素のひとつが、テクノロジーである。彼らはAIツールやデジタル技術を活用して、効率的かつ柔軟な財務管理やキャリア設計を追求している。
 Z世代のテクノロジー活用の傾向を具体的に見ていこう。調査によれば、Z世代の49%がAIツールを活用して財務計画を立てることに前向きであり、この割合は他世代を上回る。他の世代では、ミレニアル世代が66%、X世代が48%、ベビーブーマー世代が12%と、世代間で大きな差がある。このデータから、Z世代がデジタル技術への親和性が高いことは明らかだ。彼らはポートフォリオの最適化や退職資金計画のシミュレーション、投資戦略の自動化などを実現するツールを積極的に利用している。
 とはいえ、Z世代はテクノロジーに完全に依存しているわけではない。調査では、97%が人的アドバイザーへの信頼を示しており、AIと人間の専門家を併用するハイブリッド型支援を理想としていることが分かる。具体的には、AIが提供する即時性や効率性を活用しつつ、人的アドバイザーによる柔軟で個別化されたアドバイスを求めている。このようなアプローチは、Z世代が多様な選択肢を取り入れることで最適な意思決定を行う姿勢を反映していると同時に、優等生的に先生の指導に従う傾向も示している。
 Z世代の情報収集スタイルにも注目する必要がある。彼らは家族や友人といった伝統的な情報源(52%)と、ソーシャルメディアなどのデジタル情報源(28%)を組み合わせて意思決定を行う傾向がある。このように、複数の情報源を活用して最適な選択肢を見つける能力は、デジタルネイティブならではの強みといえる反面、ソーシャルメディアなどのデジタル情報源は不確かな情報であり、こうした不確か情報をもとに意思決定を行いやすい。
 Z世代の金融リテラシーに関する課題も関連する。調査では、48%が投資選択に不安を感じており、83%が個別化されたアドバイスを希望していることが明らかになった。この背景には、教育機会の不足や複雑な金融商品への理解不足がある。これに対応するため、カスタマイズ可能なサポートツールや実践的な金融教育の重要性がますます高まっている。
 財務ストレスへの対策も重要なテーマである。Z世代の26%が財務ストレスによる仕事のパフォーマンス低下を経験しており、これに対応する柔軟な福利厚生や経済的ウェルビーイングを重視した支援が求められている。たとえば、雇用主はAIツールや人的サポートを組み合わせた包括的な支援策を提供することで、Z世代のストレス軽減に寄与することができるが、皮肉にいえば、そうしたソリューションを提示するビジネスに安易に引っかかりやすい。

日本では
 米国のZ世代の退職志向や働き方の変化は、世界的な現象ではあるが、日本では日本独自の若い世代の課題や展望も浮かび上がっている。特に、フィンテックの普及や財務リテラシーの向上において、日本は他の先進国と比べて遅れをとっている。米国や欧州では、Z世代がテクノロジーを活用して財務管理を行う傾向が顕著であり、調査でもZ世代の49%がAIツールを用いた財務計画に前向きであることが示されているが、日本ではこうしたデジタルツールの普及が他国ほど進んでおらず、金融機関や企業のサポート体制も十分ではない。日本のZ世代がAIやフィンテックを活用する機会を増やすためには、サービスの簡素化や教育の充実が必要である。また、財務リテラシーの課題もある。日本では、若年層を対象とした金融教育が不足しており、特にZ世代にとって投資や資産形成の知識は限られている。米国のZ世代の48%が投資選択に不安を抱えているという調査結果からも、このギャップが明らかである。さらに、83%が個別化されたアドバイスを求めているにもかかわらず、実際にそれを受ける機会が限られている。
 また、一時的な傾向かもしれないが、日本のZ世代に特有の特徴として、副業志向の高まりが挙げられる。近年の調査では、副業を希望する若年層が増加しており、これには柔軟な働き方を求めるZ世代の価値観が反映されている反面、職業観の不安定性がある。所属している企業に依存せずに複数の収入源を持つことで、経済的な安定と自己実現を両立しようとするのだろうが、その現実的な効果はあまり算定されていない。
 日本のZ世代に限らないが、日本では「就職氷河期」という言葉が暗に前提としているように、安定した就職が人生の基礎という考えが基本的に定着しており、その基盤には天引きの税制から納税者の市民意識が形成されない国家的な仕組みがあり、これが日本のZ世代を米国などの先進国のZ世代と大きく切り分けているのだろう。

 

 

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