NHKもレーティング化を
NHKの大河ドラマ『べらぼう』の初回は、歴史の悲劇的な側面を描くために視覚的インパクトの強い演出を採用していたが、その中で女郎の遺体が裸体のまま俯けであれ、地面に乱雑に積み重ねられているシーンがあり、これが表現として適切なのか過剰な演出なのか、ツイッターなどでは議論を呼んでいた。この描写は、江戸時代の死体処理の慣習として、番組での歴史考証を踏まえたものなのだろうか。自分の時代劇などを見てきた感覚から考えると、必ずしも正確とは言えないのではないかとも思えた。遺体は土葬前とはいえ、裸体であれば筵でもかけ並べられていたのではないだろうか。それを乱雑に積み重ねるという演出は、ホロコーストのイメージを連想させ、視聴者に強烈な衝撃を与える。時代考証に反していないとしても、筵をかけた遺体の描写で十分に悲惨さを伝えられたのではなかったか。
NHKは公共放送として、全世代が安心して視聴できる環境を提供する使命を担っている一方で表現の自由を尊重し、歴史の悲劇を伝える責任も負っているのだろう。基本として、BPO(放送倫理・番組向上機構)のガイドラインに従い番組制作を行っているのだろうが、その評価となると「放送後」にまとめて行われるため、問題が視聴者に指摘されてからの対応となる。だが、今回の話題のシーンのようなシーンでは放送前に第三者機関による倫理評価を導入すべきだったのではないだろうか。もちろん、過度な事前規制は制作者の創作意欲を削ぎ、表現そのものを萎縮させるリスクもあるが、視覚的インパクトに頼りすぎた描写が視聴者に誤解を与えたり、作品全体への批判につながったりもする。公共放送は「万人に開かれたメディア」であるため、特定の層だけでなく多様な価値観を持つ視聴者層への配慮が求められるだろうから、物語の一部で悲惨な出来事を示す場合も、「具体的な見せ方」への慎重な判断が必要だろう。今回の裸の遺体を並べたシーンは、その臨界点に来たようにも思えた。
NHKは国内だけでなく、海外からも注目を集める放送局である。裸体が出ることが期待されているようなHBOのドラマでもない、というところで、そういえば、BBCのドラマでも裸体描写やあるし、残酷シーンもあると思い出したが、表向きレーティングはないもののそれなりの告示はあるようだ。NHKの大河ドラマ『べらぼう』を子どもと家族で見ていて、突然あのシーンに出くわすようなことはないだろう。
視聴年齢制限の課題
NHKのような公共放送が抱える問題は、ストリーミング配信作品にも共通する。が、制作時にレーティングされていない作品でも配信の際はレーティングされる。こうした点アニメ化された『ダンダダン』はうまく管理されている作品の部類だろう。海外の主要プラットフォームでは概ねR16+指定が適用されており、視聴者に対して適切な年齢制限が設けられている。これにより、未成年者が容易に過激な描写に触れないよう一定の配慮がなされている。とアニメ『ダンダダン』を例にしたのは、第1話の女子高校生が下着姿で宇宙人に拘束されるシーンが海外で話題となったからだ。国内ではユーモアと恐怖を融合したシチュエーションとして自然に受け入れられているが、海外では「女性の性的対象化」への監視的な視聴者がいる。こうした批判がお約束になりつつある現在、レーティングが適用してあれば、一定の対策が講じられていることになる。視聴者が作品の内容を事前に把握し、自己判断で視聴を選べるシステムは、作品が国際的な批判を浴びるリスクを軽減する手段となり得る。
日本国内では、ストリーミング配信サービスごとに年齢推奨の基準が異なっており、統一されたルールは存在しないようだが、映画業界の映倫(映画倫理機構)が「R15+」や「R18+」といった段階的な視聴制限を設けているのを参考に、作品冒頭での注意喚起を徹底し、保護者が子どもに適した視聴を判断できる体制を整えるている。
「キャンセルカルチャー」の予防
エンタメ業界が抱える現在の課題のひとつは、作品が「キャンセル」されるリスクである。キャンセルカルチャーは、倫理的・社会的に不適切と見なされた作品や人物を排除する運動でSNSを通じて拡散されやすい。一つの描写をきっかけに作品全体が問題視され、配信停止に発展することもある。日本のアニメやドラマは海外市場にも進出しているが、この点で批判の対象となり、炎上するリスクも高まっている。アニメ『ダンダダン』のような作品は、国内ではジャンプ系の「ユーモア重視のアクション作品」として評価される一方、海外ではPC反動のような動向にもあり、特定のシーンについて定番的に「問題あり」の声があがる。が、この作品について言えば、昨今の行き過ぎたPCを背景に、その反省的な評価も多いのも特徴と言えそうだ。
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