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2025.01.15

イーロン・マスク氏のホワイトハウス進出

 𝕏(ツイッター)を買収したことでSNSに影響力を持ち、テスラおよびスペースXのCEOであるイーロン・マスク氏が、ホワイトハウス複合施設内にオフィスを構える予定であると、2025年1月14日に報じられた。この動きは、新設された「政府効率化部門(Department of Government Efficiency、略称DOGE)」のリーダーを務めるためである。この部門は、トランプ次期政権による行政改革の中核を担い、政府の無駄を削減し、効率的な運営を目指す委員会であり、特筆すべきは、連邦予算から最大2兆ドルを削減することを目標としているのに、正式な連邦政府機関ではないという点で異例の組織であることだ。
 マスク氏のオフィスは、ホワイトハウス西棟に隣接するアイゼンハワー行政庁舎に設置される見通しである。この建物は、政府高官が執務する歴史的かつ象徴的な施設であり、「権力の中枢」に極めて近いことを意味する。民間の人物がこの施設内にオフィスを持つのは極めて異例であり、大統領への物理的な近さはマスク氏が非公式な「側近」として政策形成に大きく関与する可能性を示唆している。つまり、アイゼンハワー行政庁舎にオフィスを設けることで、マスク氏の技術リーダーとしての視点がホワイトハウスの意思決定に影響を及ぼす体制が整うことになる。
 CES 2025の講演で、マスク氏は「2兆ドル削減は最善の結果だが、現実的には1兆ドルが限界だろう」と語り、現実的な姿勢を示している。しかし、オフィスの設置場所が示す権力の象徴性は、利益相反や透明性に関する批判を招いている。特に、マスク氏の企業が政府との契約を多数抱えている中で、特別政府職員としての地位が与えられた場合、財務開示義務が免除される点はジャーナリズムでは問題視されている。

政府効率化部門(DOGE)
 マスク氏による政府効率化部門(DOGE)の設立は、行政改革の歴史の中でも革新的な取り組みであり、政府支出削減に対する国民の期待を受け、連邦予算から最大2兆ドルを削減するという目標は大きな注目を集めている。しかし、実際に2兆ドルを削減することは困難を伴うともされ、マスク氏自身も1兆ドルの削減が現実的だと語っている。
 マスク氏と共同でDOGEを率いるヴィヴェック・ラマスワミ氏も、行政手続きを効率化し、重複するプログラムの廃止を含む改革案を提案している。しかし現実的には、政府組織内部の抵抗や官僚的な障壁は根強く、これらを乗り越えるためには長期的な視点と大胆な改革が必要だろう。DOGEのスタッフはすでに50名ほどがスペースXのワシントンD.C.オフィスで活動を開始しており、今後は100名規模に拡大する予定である。しかし、こうした官民融合の形態は「非公式組織が政府改革に深く関与してよいのか」という疑問も投げかけている。

政治的反応
 マスク氏のDOGE主導に対しては、その革新性に賛同する声がある一方、倫理的な懸念も高まっている。マスク氏がトランプ氏の2024年選挙キャンペーンに多額の寄付を行った事実は、公正な政策決定を行えるのかという疑問をすでに生じさせている。2024年11月19日には、マスク氏がトランプ氏と共にスペースXの試験飛行を見守る場面も報じられており、このエピソードは両者の密接な関係を象徴していた。また、マスク氏の役割が「非公式」であることも、透明性に関する批判を強めている。DOGEの会議内容が公表されない場合、市民は政府活動への不信感を募らせる恐れがある。こうした点でトランプ政権内部でも意見は分かれており、トランプ氏の元側近スティーブ・バノン氏は、マスク氏の影響力を公然と批判している。「本物の悪党だ」とまで公言している。
 1月下旬にはAI技術や起業家精神に関する会合が予定されており、マスク氏は他の技術リーダーたちとともに政府高官と議論する場に立つ予定であるが、このような官民連携の場は、新たな統治モデルとして期待されている反面、彼が政府機能にどれだけ影響を与えるかについての最初の事例として注視する必要があるだろう。アイゼンハワー行政庁舎という象徴的な場所で進行する改革は、とんでもない局面へと導く危険性も秘めている。

 

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