ウクライナとCIAの秘密同盟
米国時間1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に就任した。トランプ新政権は、ウクライナへの支援を縮小し、短期間でウクライナを「勝利」に導くことを公言してきた。実際にはそう短期に終結させることはできないにしても、バイデン政権とは異なる動向となるだろう。このような政治的な機運を察してか、米国大手報道機関ABCニュース「CIAとウクライナ諜報機関の深い協力関係」(参照)、ウクライナ戦争の驚くべき裏面を報じた。その内容は、CIAとウクライナ情報機関の秘密同盟が、ロシアの侵攻を防ぐためにどのように機能していたかを明らかにするものだった。多様な読み方ができるだろうが、ここでは簡単にまとめておきたい。
2014年、現ウクライナ政権の言うところの「尊厳の革命」と呼ばれる大規模な抗議活動を経て、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領が国外に逃亡し、親欧米派の新政権が、まるで「クーデター」と呼んでもよさそうな塩梅で誕生した。これに危機感を覚えたロシアはクリミアを併合し、ウクライナ新政権からすればだが、さらにウクライナ東部で親ロシア派の分離主義者を支援して「戦争」を開始した。この対応にウクライナの情報機関が動こうとしたがら、旧来のウクライナの情報機関は、旧ソ連時代の影響を強く受けており、ロシアの浸透が懸念されていた。特に、ウクライナの軍事情報機関(HUR)は、ロシアとの歴史的なつながりが深く、信頼性に疑問が持たれていたので、そこでこの機会に「刷新」が図れることになった。刷新ポイントは米国CIAとの連携強化である。
2015年、ウクライナ軍情報機関(HUR)の長、ヴァレリー・コンドラチュク将軍は、米国を訪問し、CIAとの協力を求めるための大胆な行動を取った。彼はロシアの機密文書を、米国側に信頼を得るための驚くべき贈り物として用意していた。ABCニュースによれば、コンドラチュク将軍は「これが私たちの未来だ」いうプレゼンテーションで、ウクライナが西側諸国との協力を望んでいることを示した。予期されたように、コンドラチュク将軍が持参したロシアの機密文書は、米国側に大きな衝撃を与えた。この機密文書には、ロシアの軍事計画や兵器の設計図などが含まれており、米国にとっては極めて貴重な情報だったからだ。しかし、当初CIAは、ウクライナの情報機関にはロシアが深く影響していることを懸念し、協力に慎重だった。が、コンドラチュク将軍の大胆な行動や提供された情報の信頼性が確認されるにつれ、CIAはウクライナとの協力を本格化させた。ABCニュースによれば、CIAはウクライナの情報機関に数百万ドルを投資し、将校の訓練や装備の提供、ロシア国境沿いの秘密基地の建設を支援した。
この協力関係は、2016年からさらに深化した。CIAは、ウクライナの将校たちを欧州某国に招き、諜報技術や戦闘訓練を提供した。この訓練プログラムは「オペレーション・ゴールドフィッシュ」と呼ばれ、ウクライナ将校たちはロシア語を流暢に話し、ロシア人として振る舞う技術を学んだ。これにより、彼らはロシア国内や占領地域で諜報活動を行うことが可能になった。ある訓練参加者は、『私たちはロシア人として潜入し、重要な情報を収集することができた』と語っている。
かくして、2022年2月。ロシアは「突然」ウクライナに対する全面侵攻を開始した。この時を待ちかねたかのように、CIAとウクライナの秘密同盟がその真価を発揮することとなった。CIAが提供した情報が、ウクライナ軍がロシアの進撃を阻止するために極めて重要な役割を果たすというわけである。特に、CIAが訓練したウクライナ特殊部隊は、ロシア軍の後方で破壊工作を行い、ロシアの補給線を寸断するなど、戦局に大きな影響を与えた。
ABCニュースによれば、CIAはウクライナに標的情報を提供し、ロシア軍の動きをリアルタイムで把握することを可能にした。これにより、ウクライナ軍は当初、ロシアの攻撃を効果的に防ぐことができた。ある元米国政府高官は、「CIAの支援がなければ、ウクライナはこれほどまでに抵抗できなかったかもしれない」と語っている。
しかし、CIAとウクライナの協力には常にリスクが伴うものだった。米国政府は、ロシアを刺激することを懸念し、CIAの活動に制限を設けていた。特に、ウクライナがロシア国内で破壊工作を行うことは、この時点では許可しなかった。ABCニュースによれば、オバマ政権やバイデン政権は、ウクライナがロシア国内で行う破壊工作を禁止し、協力関係を情報収集に限定していたらしい。つまりそれがなければ実行してという含みであろう。当然この制限は、ウクライナ側にとっては不満の種だった。コンドラチュク将軍は、ロシアがウクライナに対する全面侵攻を準備していると確信しており、事前に破壊工作を行うことで侵攻を阻止できると考えていた。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナがCIAやNATOの影響下にあると主張し、侵攻を正当化してきたが、ウクライナ側はこれをロシアのプロパガンダと一蹴している。コンドラチュク将軍は、CIAとの協力はウクライナの自立と防衛を強化するためのものであり、ロシアの侵略を防ぐための手段だったと述べている。まあ、双方の言い分を聞いても、それ以上にはならないものだ。
こうした、CIAとウクライナの協力関係は、国際的な情報戦争の一端を垣間見せてくれる。日本も、近隣諸国との緊張関係の中で、情報機関の役割や国際協力の重要性を再認識する必要があるのかもしれないが、それには、かつてのウクライナが決め手としたような贈り物が必要なのかもしれない。岸田総理が退陣した現在、もみじ饅頭というわけにもいかないだろうが。
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