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2025.01.19

ピート・ヘグセス氏に米国国防長官が務まるか?

 トランプ次期大統領は国防長官にピート・ヘグセス氏を名指ししているが現状ではまだ不明瞭な段階にあり、その不明瞭さがある種の軍事的な空白を産まないか懸念される。
 ヘグセス氏はイラクとアフガニスタンでの従軍経験を持つ元陸軍州兵であり、保守派のFOXニュースの司会者としても知られている。この事実上の指名は、新政権が掲げる「アメリカ第一主義」を象徴するものであり、軍事政策の中心に愛国主義と防衛力の強化を据える意図がうかがえ、特に、ヘグセス氏の軍事経験とメディアでの知名度を活用し、国内世論を味方につける戦略が想定される。しかしいまだリベラル派の怨恨感の残るメディアでは、彼の過去の発言やスキャンダルの話題を盛り上げている。女性兵士や多様性政策に否定的な発言が批判を招いているほか、性的暴行疑惑に関する過去の報道も再び注目されている。それらを置くとしても、ヘグセス氏の指名は共和党内でも意見が分かれており、保守派の一部からは支持を得ているものの、中道派や批判的な議員からの反発が続いている。こうした状況が、彼の承認の行方をより不透明にし、上院での承認プロセスは容易ではないかもしれないという空気が漂いつつある。問題は誰が国防長官であれ、その承認が遅れる場合、国防総省では指導体制の空白が生じる。特に政権交代時には迅速な軍事指針の政策決定が求められるため、こうした間抜けな空白が生じるとすると米国の安全保障政策の実行に大きな支障を来し、世界全体も不安定状態になる。

ヘグセス氏のビジョンと
 それでも現状、ヘグセス氏が国防長官にもっとも有望視されている。そこで彼の政策ビジョンだが、特に目立ったことはなく、軍事力の近代化と戦闘準備の強化を軸に据えたものである。彼は国防総省のデジタルおよびAIインフラの整備を推進し、戦場での技術革新を促進する方針も明確にしている。こうした取り組みは、戦争の現代化に対応するものであり、情報戦やサイバーセキュリティの分野での優位性確保を目指しているとは言えるが、実際のところこれと言って特筆すべきことでもない。また、彼の掲げる「能力主義」に基づいた改革とやらは、軍内部の効率性向上を狙ったものであるが、これが既存の多様性政策と衝突する可能性が高い。彼が女性兵士やマイノリティの役割に否定的な姿勢を取れば、多様性政策の後退が懸念されていると騒ぎになるだろう。軍内部にも「目覚めた将軍たち」と呼ばれる多様性推進派は存在し、そこで不用意な対立が生じれば、軍内部での意見対立や士気低下が深刻化するかもしれない。彼の改革が軍事文化の大幅な再編を伴うならば、外部からの批判を呼ぶ要因にもなり得る。西側同盟国との関係において米軍が多様性を軽視する姿勢を見せることは、国際的な協力体制にも影響を及ぼしうる。安全保障政策の関連部分であるはずの課題で効果的な改革を進めるためには、修辞と実態の調整が求められる。が、率直なところ、彼はこうした実務には無能ではないか。

国防総省の指導体制
 米国の国防長官は民間人が務めることが原則とされており、これが米国の安全保障政策の特徴である。この承認プロセスが遅延すれば、暫定的に軍司令官がその役割を担うことになり、形式的にではあるが文民統制の原則が懸念視される。そのような事態は、基本的に既存路線をたどるため軍事的な安定は維持できるとしても、中期的には米軍への信頼を低下させる要因となりうる。また結果的に新たな軍事政策における意思決定が遅れることで、インド太平洋地域での同盟国との協力体制や、中国の脅威への対応に支障を来すだろう。そもそも国防総省の指導体制が不安定であると認識されることは、敵対国に誤ったメッセージを送るリスクを伴う。

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